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研究所へ

「試行錯誤ってどういうことなんです!?」


「そのままの意味だ。何度も失敗して学習するんだ」


「それと戻るのとどう関係が?」


「行けばわかる」

俺たちはさっきいた岩場まで戻ってきた。火の消えた黒い焚き火の跡、出発前と大して変わらぬ現場。ただし一部を除いてはだが。奥の方にあったはずのキメラの死体がない。


「なんてこったい」

俺は一人つぶやいた。事態は確実に良くない方向へと向かっているようだった。回収した死体を何に使うのかはわからない。だがどうせロクなことではない。

「これって一体・・・」


「他に俺らのことを終始見てたキメラがいたんだ」

俺たちとキメラの戦いを最後まで観察する役割のキメラ。戦わずにずっと俺らを見ていたんだ。きっと今もどこかで見られているのだろう。前からその存在を少し疑っていたがこれで明らかになった。基本的に現場で作戦を立てるのも、部隊がそれぞれ別行動をしていても無意味ということか。こちらの動きは完全に把握されているうえに力の差は俺を除けばあちらが上、頭の回転の速さでもこちらが劣っているため圧倒的に不利な状況に立たされているということになる。


「面倒なことになったな」

だがこのまま負けで終わるほど俺の諦めは良くない。こんな不利な状況でもどうにか打開策は見つけるつもりだ。監視下にある現状の脱出方法、死体の回収の意味、分からないことはいろいろあるが今はただ前に進むことしかできない。例えそれが暗闇だとしても進むしかないんだ。




俺たちはまた研究所へと向かっていた。こうしている今もどこかで見られているのだろうか。そう思うと落ち着かない。次はどうやって俺たちに奇襲をかけるつもりなんだろうか。奴らがどこにいるかわからない以上前後左右に上下と警戒するところは多い。

キメラはどこからでも襲ってこれるからな。


「キメラの死体が失くなってたこと、どう思います?」

退屈にでもなったのかレネが口を開いた。


「正直さっぱりわからん。あの死体に回収するだけの価値はないと思うんだが。食料にするとかか?」

いろんな種類のいるキメラ同士の捕食を共食いと表現するべきなのか迷うところだが実際、共食いなど起こるのだろうか。草食動物型のキメラの死体を肉食型が食う可能性は十分にある。だが今回の場合死んだのは肉食型でしかも死んでから結構時間が経ってる。そんなものをわざわざ食おうとする奴がいるとは思えない。


「・・・・・仲間を放っておけなかったとか?」

ルネが口元に手を当てながら言う。

「というと?」


「仲間の死体をそのままにしたくなくてちゃんと弔いたかった。なんて、ありえないですけど」


「弔い、ね」


「そうとも言いきれないぞ。あいつらは何かと連携を取っている。キメラなりに多少は仲間意識があるのかもしれない」

連携を取っていることから多少は仲間意識があるということ、そしてキメラたちの頭の良さからして人間のように死体であっても仲間をそのままにできないという意思があっても不思議はない。

弔いという可能性も捨て切れないな。結局いくら考えたところでわからないものはわからないということか。


ちょうど、大きな岩の横を通り過ぎようとしたときだった。本当にたまたま岩を見た時に運よく気が付いた。それは誰もがまったく予想もしていなかったものだ。


「こいつは・・・・・?」




レイジたちが岩の横を通る数分前、目的地の研究所にて。


「ここが研究所か」


「ええ、隊長たちはまだ到着していないようですが」

ウェイブ、アリシア、エルシア、カーリーの4人は研究所に到着した。道中2、3度キメラに襲われたが4人いたということもあり怪我をすることもなかった。だが4人からすればそんなことはどうでもいい、今心配なのは分かれた3人が無事にここまでたどり着けるのかということだ。あの時は勢いでレイジの言葉を信じてしまったが今になって心配がぶり返してきた。


あと数時間後には到着するだろうか、それとも明日だろうか。

誰も表には出さないが皆心の中では不安な気持ちでいっぱいだった。


だがそんな心配の暇もこの危険地帯の中では命取りになる。


ガチャンッとガラスを割ったような音が研究所から響いた。


「今の聞こえたか?」

ウェイブのその言葉に全員が頷く。

「隊長たちでしょうか、それとも」


「わからないな、だが」


「行くしかないね」

全員の意思が合致した。どのみちここにいても物事は進まない。

もしレイジたちがここに来たときのために部隊がここにいたという印を残しておく。


「よし、研究所に入るぞ」

そうして暗殺部隊は研究所へと足を踏み入れた。

両開きの扉を押して一歩踏み出す。敵は確認できない。扉が閉まるとともに研究所内が暗くなる。窓から差し込む光だけが研究所を照らしてくれている。報告では何年も前に放棄された施設とあったとおり中は埃っぽい。カビ臭さもあるし、天井のあちこちに蜘蛛の巣が張ってある。


とても今でも使われているようには見えない。


(ここはハズレかもな)


そう思ってもそのまま帰ることはできない。例えキメラに関係ない施設だったとしても物音が聞こえたのは事実だし、もしかしたらキメラに関する情報も少しは手に入るかもしれないからだ。

4人は固まって研究所の中を歩く。本当は二手に分かれたいところだがただでさえ少人数なのにここから更に人数を減らすのはリスクが大きすぎる。この調子で広い研究所を調べるのは時間がかかるだろうがそれでも今は安全面を優先したほうがいい。ここは巨大なバケモノの腹の中、それくらい危険な場所なのだ。


音を立てないようにゆっくりと移動し研究所内を探索する。

この研究所は二階建てで部屋がいくつもある。見た目は研究所というよりも館、といったほうが合っているのかもしれない。

レイジがいれば「これゲームで見たことある!」とかリアクションしてくれるだろう。


「特に何もなし、か」


研究所内を一通り調べたがキメラに出会うこともなければ役に立ちそうなものもなかった。やっぱりここはハズレだったようだ。


「ねえ、暗いし暖炉に火入れてもいい?」

カーリーが広場にあった蜘蛛の巣だらけの暖炉を指さしながら聞く。気がつけば外からの光がなくなっていた。割れた窓から空を見ると青かった空は黒い雲に埋め尽くされて今にも荒れそうだった。


「一雨きそうですね」


「危険だが他に雨を凌げるところもない。雨が止むまではここにいるしかない」


「最悪だなおい」


「じゃあ火つけるねー、と思ったら薪ないや。ま、そのへんの椅子とかでいっか」

そこそこ深刻な場面なのにも関わらず気楽なのが一人いるがそれについてツッコむ者はいない。


「それにしても敵に出会わなかったな」


「ああ、さっき確かに物音がした。それは私たち全員が確認している」


「それなのに蓋を開けてみれば、ですね」

聞き間違いなどではなく物音は確かに聞こえた。研究所内には何かがいたはずだ。それなのに、いざ入ってみれば中には何もいない。すれ違った可能性もなくはないがそれにしては気配がなさすぎる。とても妙だ。まるで手品で鳩を消してしまうかのように中にいた何かが消えてしまった。だが消えた、で解決できるほど

事態は軽くない。中にいたのがレイジたちならば入れ違いになる前に合流しなければならないし、キメラならばこんなところで休んでいるわけにもいかなくなってくる。


「あ、やっべー壁に穴開けちゃったよ」


「もう使われてないんだから別に問題ないだろ」


「それもそうか。ってあれ?」


「どうかしましたか?」


「壁の中に空洞がある」


「「「空洞?」」」

穴の開いた壁を見ると確かに広くはないが空間がある。よく見ると下の方に正方形に線が引かれている。どうやら正方形の小さな隠し扉らしい。更に奥まで覗き込むとすぐそこに梯子と思われる物もあった。


「地下への隠し通路か。どうする?」


「どうするも何も」


「行くしかありませんね」


「それじゃ地下への冒険に出発」

4人は小さな隠し扉を通って地下へと降りていった。魔法で作った光源で辺りを照らしながら地下を進む。地下は地上の館の中とは違い装飾品のようなものは1つもなかった。あるのは研究内容についての張り紙だったり、何かの実験道具や生き物の標本だったりとまるでお化け屋敷のようなところだった。


そして何よりも4人が注目したのはその構造。それぞれのスペースをガラスの壁とドアで区切っているということだった。


「どうやら地上よりも地下での秘密の研究に力を入れていたようですね。こんな構造の研究所は見たことがありません」


「ああ、しかもかなり危険な研究をしていたようだぞ」

アリシアは机に置かれていたボロボロの紙を見ながら言った。

そこにはかつて違法取引されていた薬の製造方法、効果、改善点などが事細かに書かれていた。


「こっちにはクイーンプラントの人工孵化について書かれる」


クイーンプラントは第一級危険生物として登録されている凶悪なモンスターだ。クイーンプラントは小国程度なら単体で壊滅させる事ができるほどの力を持っているらしく大昔に一体のクイーンプラントが大陸の一部を丸々飲み込んだという話もある。そんなものが孵化すれば間違いなくこの国は長期に渡って戦場に、最悪の場合国そのものが滅ぶだろう。


「こりゃ、当たりかもね」

書類の束を漁りながらカーリーが呑気に言う。そのとおりかもしれない、全員がそう思っていた。薬、モンスター様々な危険物について研究しているということはその同類であるキメラについての文書も何処かにあるはずだ。


「みーつけたっ」

しばらく探してキメラとラベルの貼られた引き出しを見つけた。

全員が引き出しの前に集まる。


「開けるよー」

ゆっくりと引き出しを開ける。ようやくキメラについての情報が手に入る。情報が手に入れば戦況は多少なりともこちらに傾くだろう。


「ない、だと!?」


だが引き出しの中には何もなかった。


「持ち去られたあとか」


「どうやら敵はキメラについての情報だけは死守したいようですね」


直後、背後から物音。ガラスを踏む音と何かが地面を這いずる音がする。考えるまでもない、奴ら(キメラ)だ。


「ついてねーよ本当に。俺らも、俺に出会ったお前らも」

戦闘はすぐに始まった。敵は4匹。四足歩行型が2、猿のような見た目のが1、蛇のようなのが1。ちょうど1対1にもち込める状況だった。魔力の糸が敵を締め上げ四肢を切断し、大剣が真っ二つに切り裂き、短剣が血飛沫を作り、()()が悲痛な叫びを上げさせる。まさに地獄と表現すべきだろう。一切の慈悲がない殺しのプロによる一方的な戦い。いや、虐殺と言ったほうが適切なのかもしれない。


「毎回思うんだがお前のそれって何してるんだ?」

ウェイブは目の前のドロドロに溶けたキメラを見ながらカーリーに聞いた。


「うーん詳しく説明しても絶対に理解できないだろうから、超極端にいうと、()()()()()()かな」


「おいおい、それって」


その時、正面奥の通路から言葉にできない、黒板を引っ掻いたように高く不快な音が鳴り響いた。

今までと明らかに違う何かがこちらに近づいていた。背筋が凍るようなこの感覚はあの奇妙な鳴き声のせいでそうなったのか、それとも本能が危機を感じているのか。それすらわからない。


が、最悪はそれでは終わらない。正面奥の通路とは別に左右のドアからも何かが来ている。


「糸を張れ!」


「もうやってる‼だがこれは、こんなことは、ありえない・・・あるはずがない」

エルシアは信じられないといった顔で静かにつぶやく。


「私の糸は、一体、何に触れたんだ・・・・?」

糸は鳴き声が聞こえた時点で奥の狭い通路に3か所仕掛けた。魔力で編まれたこの糸、『薔薇よ私のために咲け(ローズ・マリオネット)』は鋼鉄をも切断しキメラさえも捕らえることができるほど丈夫だ。この不可視の糸を通過すること巻かれることは確実な死を意味している。糸は確実に何かに触れた。だがその感触は明らかに今まで倒してきた敵とは違った。


「どうしたの?らしくないよ」

心配になったカーリーがエルシアの顔を見つめる。


「1番奥に仕掛けた糸は確実に何かを切った。普通ならそれで終わるはずだが、2番目の糸にも何かが触れた。この意味がわかるか?最初の糸を通過したということは今頃全身がバラバラになっている。生きているはずがないんだ。それなのに2番目の糸にも反応があった。矛盾を生むようで悪いが相手は()()()()()()()()()()()()


「・・・意味わかんねえよ」

ウェイブが吐き捨てるように言う。


「生きてはいるが生き物として定義しづらいもの、としか言えない。っ!!3番目を通過!もうすぐ姿が見えるはずだ」


その言葉に全員が正面通路の方を見て身構える。暗い通路をペチャ、グチャと音を立てて歩いてくる。そしてついに暗い通路から姿を表したそれはその場にいた全員の恐怖心を掻き立てるには十分過ぎる容姿だった。


「何なの・・・こいつは」


それは人型だった。だが人間のように骨格はないように見える。

体は何でできているのだろうか、泥のように茶色く、そして水分を多く含んでいて今にも崩れてしまいそうだ。顔と思われるものはない。だが全身に眼球と口のような穴がついていて眼球はあちこちをギョロギョロと見ているし、口のようなところからは僅かにうめき声のようなものが聞こえる。


不気味な泥人形といったところだろうか。


「どおりでエルシアの糸で死なないわけだ。野郎、体が泥で出来てやがる」


そんな恐怖を感じる沈黙の中で左右のドアをブチ破ろうとそれぞれ何かがドアを叩く音が響く。


絶望が更に大きくなっていく瞬間であった。


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