常に最悪を
「隊長の話も聞かせてください」
「え?俺も?」
「私たちのことは話したので次は隊長が」
「そうだな・・・・・」
と言われてもそこまで壮絶な人生を送ってはいない。平凡、よりも少し歪んだ日々を過ごしていたのは間違いないが。
「俺は学生だった。普通に学校行って、帰ってきたら妹と交代で夕飯作ってた。あとは遊んでたな」
まさに平凡、よくある高校生らしい日常だ。無論ここだけ見ればの話である。実際は学校が女子校だったりと色々あるわけだが。
「学校・・・隊長は貴族の生まれなんですか?」
ルネが話に食いついてくる。
「貴族か。多分違う、と思う」
この世界では学校に行っていたら貴族というなのだろうか。
確かに街の子どもたちは学校らしい学校には行っていない。でも近くの施設みたいなところで勉強はしているらしい。貴族とかちょっとした金持ちはもっと立派な建物で勉強しているのかもしれないな。
「私たちは学校に行ったことがないので羨ましいです」
そうか。この二人は学校に行くことさえできなかったのか。
「学校なんてろくなもんじゃないさ。楽しいのは休み時間だけで他はずっと勉強するだけ。例え楽しくてもつまんなくてもな」
「それでも羨ましいです」
「そうか」
その時背後から何かの音がした。俺らはすぐに立ち上がって戦闘態勢をとる。色々あって忘れていたがここは敵地の中だ。いつ襲われるかわかったもんじゃない。
また何かが移動した音。音の位置がさっき聞こえた位置よりも離れている。移動速度が速すぎる。移動音はさっきから点々と聞こえてこそいるが右から左へ、左から右へ移動する音が聞こえない
。なんというかA地点からB地点まで歩いて移動しているのではなくまるで瞬間移動しているかのような、そんな動きの音。
周りは暗く何がいるのかはわからない。俺は薪の一本を火から取り出して音の聞こえた方に投げた。だがそこには何もいない。だが泥濘んでいる地面に足跡が残っていた。炎でわずかに見えるその足跡はどう見ても肉食獣の足跡。ライオンのものに近いように見えるがライオンの足跡とは少し違うような気がする。
それにライオンにしては跳躍距離が長いような気もする。だがキメラなら何ができても不思議ではないのも事実だ。
「2人とも少し下がれ」
2人を後ろに下げるのはいいがどうする?敵が何なのか確認できないため下手に動くわけにもいかない。だがこのままだと状況は一向に変わらない。多少無理をしてでもやるしかない。俺はその暗闇に一歩近づく。反応はない。
俺はもう一歩見えない死に近づく。何かがゆっくりと近づく足音がかすかに聞こえる。そして何かが飛んだ音がした。身の危険を感じ俺はとっさに体をそらす。
それと同時に黒い何かが暗闇から飛んできた。それはそのまま俺たちの背後の壁を走ってまた暗闇の中に姿を隠した。すべてが一瞬のことだったが俺は敵の姿をわずかにだが見ることができた。
黒い四足歩行型。大きさは今まで見てきたライオンベースのキメラよりも少し小さかった気がする。俺の知らないタイプだ。俺は素早く乾かしていた自分の服を着た。こんな時に危険なことだとは思ったが半裸のまま戦うわけにはいかなかった。
相手は速い。もし致命傷を追わせただけで逃げられたら絶対に仲間のキメラに知らせるに決まってる。そうなったらこっちがやられてしまう。だから確実に仕留めないと。俺は両手にアーマーを装着した。今回はちゃんとアーマーを忘れずに持ってきたぞ。しかも手足以外の部位も全部だ。
俺はさっきと同じようにまた暗闇に近づく。
「危険です!」
ルネが止めようとする。
「大丈夫、次で確実に倒す」
俺はそう言って松明とナイフを握るとゆっくり前へ進む。ぬっとりとした泥の感覚が足の裏から伝わる。
ここでの戦闘はやはりよくないな。戦ってる最中に足を取られそうだ。かなり前に出ているはずだが敵が来ない。このままだと暗闇に完全に取り残される。来い、早く来い。わずかな足音が一定間隔で右から左へと移動していくのがわかる。いいぞ、そのまま来い、俺を殺すために噛み付いてこい。
足音が消えた次の瞬間目の前にやつの顔が見えた。来たっ!よっしゃ。俺は躱すこともなく松明を手放すとそのまま左腕を前に出した。そしてそれにキメラが噛み付いた。それで俺の腕が食いちぎられる、ということはない。確かにものすごい力で噛み付いている。普通の鎧では形が歪むか、そもそも鎧として機能しないかもしれない。
だがさすがは魔改造済みの鎧だ。形が歪むことすらない。今のところこの魔改造鎧を歪ませることができるのはユウナだけか。改めて考えるとあいつのパワーを恐ろしく感じる。
「舌噛まないようにしっかり噛み付いとけ!」
俺は持っていたナイフでキメラの首を刺した。ナイフが深く刺さる感覚。確実に致命傷だ。出血と呼吸困難でもう限界のはず。
キメラは力を失ってその場に倒れた。
「どっと疲れたぜ」
だがこのキメラをこのままにはしておけない。見たことないタイプだ。少しくらいは調べないとな。俺は死んだキメラを抱えて焚き火のところに戻った。キメラを見た二人は一瞬警戒したが
「安心しろ、もう死んでる」
そう言うと疲れたと言わんばかりにその場に座り込んだ。
俺は早速そのキメラについて調べた。と言っても解剖したりとかはしない。外見はチーター?なのか?いや、それにしてはなんか違うな。・・・・・わかった。こいつヒョウか何かだろ。この顔の形がピンクパンサーっぽいもん。そんな推理で大丈夫か?無論全然大丈夫ではない。でもクロヒョウっているしチーターにしては顔が大きいように見えるから多分ヒョウで合っていると思う。
そりゃあどおりで姿が見えないはずだ。暗闇に潜むなら黒色のキメラを潜ませておく。当然だな。ちなみに夜道で1番目立つのは黄色だ。それはさておきこんな奴がいるとなると夜もまともに眠れないな。まあ寝るには寝るが。
「とりあえず寝るか」
「「この状況でっ!?」」
「確かに近くにまだ他のキメラがいるかもしれないが、奴らが来るのを待っているのはさすがに気疲れするだろ?なら寝て体力を回復させた方がいいってことさ。俺が見てるからお前ら先に寝ていいぞ」
「それなら隊長が先に」
「夜は大人の楽しみタイムなのさ。だから先に寝な」
実際はお楽しみタイムと言うにはジュースもなければ遊戯もないので程遠いものではあるが。
「子ども扱いしてます?」
「子ども扱いというか俺から見れば2人とも妹みたいなもん、
なのかな・・・?」
自分でもよくわからないが2人といると自分の妹と過ごしているような感覚がする。違うのは妹の人数が1人だったのが双子になったということくらいだ。誰かの世話をついつい焼いてしまうのが兄と姉そして父と母と爺婆の宿命である。
「妹、兄」
レネがどこか嬉しそうにつぶやく。
「妹、兄」
ルネが明らかに不機嫌そうにつぶやく。
わぁー同じ言葉なのに表情1つでここまで意味が変わるなんて日本語(?)って複雑ダナー。
「私が妹、ついに妹という立場に!」
「姉さんの上に兄、増えるの?」
よくわからんが妹になれることを喜ぶ姉と、これ以上自分よりも上の人間が増えることに不満を抱く妹。こんな悲しい姉妹がこの世にあるだろうか。
「まあなんだ、俺が勝手にそう思ってるだけだから気にするな」
「はい、お兄様!」
「レネ今の俺の話聞いてた?」
「はい・・・お兄様」
「ルネ頼むからそんなこの世の終わりみたいな目で俺をお兄様と呼ばないでくれ。泣くぞ」
こんなことをしている間に休める時間が減っていっているんだぞ。
「そら寝ろ寝ろー」
「ではお先に失礼します隊長」
「おやすみなさいお兄様」
「お願いだからその呼び方やめて?」
不安を残したまま二人は眠りについてしまった。さて、俺はどうしようか。やることもないし鎧の改良でもやっておくか。二人は寝てるし静かにな。俺は手、足、腕、胴、兜をそれぞれそっと置いた。さて改良したい点は少なくはない。だがそれをすべて直せるわけでもない。耐久性はユウナの一撃に耐えられることから
ところ悪くない。個人的にはもっといろいろなギミックをつけたい。今のところこの鎧には大した機能はついていない。
以前エンシェントオーバーロードを倒しに出かけた時ユウナに渡した『赤神龍の鎧』の籠手のことを覚えているだろうか。あれは装備を解除すると指輪になるという便利な仕様がある。俺もあれに習ってこの鎧に
指輪になる機能をつけた。これでもう鎧を忘れてくるという醜態を晒さなくても済む。
だがこの鎧にはそれしか機能が付いていないのだ。どうせなら万能の鎧を作りたい。だがどうにもいい素材がなかったりする。素材がなければこれ以上の改造はできない。今の鎧は簡単に言えば改造レベル1なのだ。
何でも魔改造できる神器ヘファイストスハンマーで叩くだけでどんなものも改造レベル1にはできる。
だがレベル2以降は何かしら素材がないとレベルアップはできない。
最近はキメラ騒動のせいで冒険にも出られないから強いモンスターから素材を手に入れることもできない。
どうしたもんか、このままじゃいつまで経っても頑丈なだけの特徴のない鎧になってしまう。
「キメラさえ出なけれなぁ」
俺は隅の方で冷たくなったキメラの死体を見た。なあ、お前らはどこから来たんだよ。何しに来たんだよ。
ぼんやりとそんなことを思う。・・・・・ん?ちょっと待てよ。強いモンスターの素材だと?
「いるじゃん、ため息が出るくらい」
どうして思いつかなかったんだろうか。強力なモンスターならいるじゃないか。しかも駆除の指令が出ているようなちょうどいい奴が。俺はキメラの死体に近寄って使えそうな部位をいくつかはぎ取った。そしてそれをハンマーの力を使って鎧に組み込んだ。見た目は変わらないが機能は確実に増えている。これだ、キメラを倒すことはこの鎧を強くすることにつながる。倒したキメラの使えそうな部位は出来るだけ剥ぎ取って
鎧に取り込もう。
よぅし、そういうことなら少しやる気が出てきたぞ。
朝、ささっと朝食を済ませ目的地である研究所へと向かう。自分たちの正確な現在位置はわかっていないが川が北から南へと伸びているため目的地の方角に進んでいることには間違いない。あとは一体どのあたりまで流されたのかということだけだ。
地図は幸いにもルネの持っていたものがまだ使えた。
えーと俺らは今どのあたりにいるのだろうか。周辺には目立つようなものもなし。だが俺が流された時間的にはそこまで流されていないはずだ。だから向かうべき方角は変わらず南で合っていると思う。
「行くぞ南だ」
「「了解」」
俺たちは歩きだした。互いに喋ることはない。敵に自分たちの場所をバラすわけにはいかないからだ。隠れる場所は多くないが一体どこに隠れているのかわかったもんじゃない。
昨夜襲ってきたキメラは暗闇に紛れてやってきた。朝、どうしてアイツの足音が少なかったのだろうかと思い、地面を見たところ地面には広い間隔で足跡がついていた。おそらくジャンプしながら移動することで足音を立てる回数を減らしていたんだろう。
やはりキメラをただの動物と考えないほうがいい。頭が良すぎる。だがその知識だって元から持っているはずはない。キメラに知識を植え付けている、もしくは指示を出している奴がいる。そいつが黒幕のはずだ。
「私たち以外の足音が聞こえます」
いつから足音が増えていたのかはわからない。気がついたら増えていた。数は1、2匹くらいだろうか。
俺らの足音に合わせて別の足音が聞こえる。昨日自分たちの仲間が数体やられたというのに何故また少数で攻めようとしているんだ。アイツらは馬鹿じゃない。それは昨夜の、そして今までの戦いでも証明されている。もっと大多数で攻めてくれば俺だってタダじゃすまないことくらいわかるはずだ。キメラの数からしてこっちの研究所はハズレか?
「倒しますか?」
「いや、危険だけど少し様子を見たい。アイツらの考えが読めない。警戒しつつ気が付いてないふりをしろ」
俺は小声で二人に指示を出す。俺たちの隙を狙っているのか?だがそれは今まで何度も失敗しているのだからいい加減わかるはず。・・・もしかして、仲間たちとの連携が取れていない?キメラ同士は種類に関係なく絶対に連絡を取り合っている。ならば仲間が同じような方法でやられたことだって知っているはず。
これも何かの作戦か。だがこれでは何の意味もない、仲間を減らしているだけだ。何がしたいのか全く分からん。
歩きながらキメラに警戒しつつ、奴らの目的について考える。一体何故少数で襲ってくる?何の意味もない負け戦だぞ?命令している奴が馬鹿の可能性もあるが戦略のプロじゃなくたって意味がないことくらいはわかるはず。わからん、負けるとわかっている戦いに何故・・・・・。その時頭の中の電球がピカッと光った。
「負けることを想定した戦い、いや、むしろ負けるのが目的か?」
だがそうだとして一体何だというんだ。失敗を繰り返す・・・・・成長する・・・!
何度も、そして微細に違う状況を作り出してキメラと俺らを戦わせる。すると次はどうすればいいのか学習する。だが肝心なのは学習するのが死んだキメラではないということ。
「二人とも、さっきの岩場まで戻るぞ!」
「えっ!何でですか!?」
「走りながら説明する。急げ!」
俺たちは回れ右してさっきいた岩場に向かう。
「隊長っ!どういうことです!?」
「なんでキメラがこんな戦い方をしているのか考えたんだ。これはあくまで俺の予想で、ありえないような考えなんだけど」
もし本当に俺の予想が正しければ、本当に最悪の事態だ。さっきも言った通りありえないようなことだ。だが一度そう思ってしまったせいで「もしかしたら」という不安が俺の頭をよぎるのだ。ありえない、ありえないんだ。何度自分に言い聞かせてもまるで意味がない。
「アイツら試行錯誤してるのかもしれない」




