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まあそんな日しかないよね

家のベッドとは良いものだ。疲れ切った体を優しく包んでくれる。だがそれは普通の場合である。この俺、坂下レイジの場合は普通ではない。何だこの部屋は、牢獄か!?俺は今日も一日労働を終えた囚人なのか!?自分の精神が未だに崩壊していないことに自分でも驚きだわ。


家がこんなんだろうと明日も何かあるんでしょう?もうやってられないですよ本当に。何で昼だろうが夜だろうが吊るしてあるランタンに火をつけなきゃいけないんだ。


家に帰ってきた俺はひとり静かにベッドの上で口を尖らせていた。癒やしだ、癒やしが欲しい。ペット的な、もしくは「ご飯にする?お風呂にする?それとも、」みたいに俺を優しく出迎えてくれるナニかが必要だ。こんな甘いイベントが一切無い転生者ライフなんて嫌だ。


そういえば路地裏に大人のお店が新しくオープンしたとか聞いたな。だがそれはいいのか?学生的に、青春的に、何より法律的に。

そのお店に行ってしまったが最後全てが終わりを迎えるんじゃなかろうか。そういえばエリザベートが何かご褒美くれるとかなんとか言ってたっけ。明日頼んでみるか。


そんなわけで次の日エリザベートの部屋に来た。

「癒やしが欲しいです」


「何の話?」

部屋に入ってきて早々「癒やしが欲しい」などと言われればそんな反応になるのも無理はない。

「もしかして新手のセクハラ?」


「いや、そうではなく日々の生活で俺はとても頑張っているはずなのにどうしてこうも報われないのかと。せめて大きなものでなくとも1日頑張った俺を癒やすものはないのかと」


「結婚でもしたら?」


「キャッキャウフフできるとしてもそもそも相手がいない」

自分で言っていてなんて悲しいんだろうか。でもしょうがないよねモテないんだから。・・・・・滅べよ、リア充。


「癒やしねぇ・・・」

エリザベートはそう呟きながら天井を見る。まあひとくちに癒やしと言われてもいろいろあるので難しい話ではあるのだが。

「休暇でも取る?」


「休暇なんてないんや」

休暇だろうが何だろうがキメラが出ちゃえば一緒である。休暇を取るためにはキメラを全滅させなきゃいけなくて、キメラを全滅させるために黒幕を倒さなきゃいけなくて、更に黒幕倒すために残りの研究所を調査しないといけなくて、調査するには周りのキメラ倒さないといけないという長ーい道のりがあるのである。


「それはそうと次の任務だけど」


「あれ?もうなかったことになってる?」


「そっちでも研究所を調べてほしいの」


「はあ」

ついさっきまで癒しの話をしていたのに「それはそうと」の一言でその話題をなかったことにできるとか

お前すごいよまぢで。俺の中では結構真剣に話してたのに。しかも毎日大変だから癒しが欲しいって言ったのにそのまま仕事の話に持っていけるあたり勇敢すぎやしないだろうか。


「はい、じゃあここだからよろしく」


そういって丸印の付いた地図を渡してきた。研究所の位置は、ええっと、こう行ってこう行ってさらにここを進んで行くと。・・・・・すごい遠いな。途中で中継地点があるから野宿はないとはいえだるい、休暇だなんだと話していたのにこの疲れるのが目に見える遠さと調査時の苦労。やっぱり休暇なんてなかったんや。


逆らったところでねじ伏せられるのはわかっているので黙っていつもの会議室へと向かう。

ドアを開ければもはや見慣れたメンバーがいつものように退屈そうに座っていた。


「お待ちかねの新しい任務だ」


俺は皆に任務の内容を話した。内容を話している時点では特に何の表情を見せることもなく黙って聞いていたのだが地図を見せると一斉に「おえぇああ」とやる気を抜き取られたみたいにダルンダルンになってしまった。ルネとレネは『たれぱんだ』かってくらい全身から力が抜けてるしウェイブはたれとか以上に今にも溶けてしまうんじゃないかと思うくらい無気力である。


「はいはーい、だるいのわかるけど早速行こうか。上の人を怒らせると大変なことになるからねー」


かくして暗殺部隊は普段からの疲労とだるさを詰め込んで(夢やら希望やらを詰め込む空きはなかった)遥か南の地、枯れ木の森に向かうのであった。




「え?隊長、馬に乗れないのか?」


「乗馬の経験はない」


これからまさに出発しようという時に「馬に乗れない」などととんでもないことをぬかす大馬鹿野郎が1人いた。でもしょうがないよね、普通の生活の中で馬に乗ることとか無いし。俺は悪くない、悪いのは馬に頼るこの世界だ。


「・・・・・」

6人が無言で顔を見合わせる。


「「「「「「じゃんけんぽん」」」」」」

お前ら困ったらすぐにじゃんけんするのやめなさい。


「ふふふウェイブ今後出ししましたね?もう一回です」


「え?してないけど」


「しましたね?」


「・・・はい」


ただのじゃんけんとは思えないくらいやり方が汚い。負けそうになったら圧をかけて自分の有利な方へと事を運ぶ。他にも「お姉さん前も負けたからなぁ」などと理由をつけて負けをなかったことにしたり、「いや俺上司恐怖症だから」などと見え透いた嘘(おそらく半分本当)を付き始めたりと皆なかなか負けを認めようとしない。


もういいおうちかえる!!(帰れないけど)


そこまでして俺という存在を避けたいのか。俺が何をしたっていうんだ。こういう何かしら俺に優しくないものが行く先ざきにあるから癒やしを求めているのにそれすら無いってこの世界はどんだけ俺に厳しいの!?


「隊長私の後ろに乗れ」


「神?」


「貧乏くじを引いただけだ」


「そこまではっきり言わなくても・・・」

ホントごめんね!!(半ギレ)バイクか自転車があれば俺の方が優位に立てるのに。心の中でいろいろ叫びながら俺はエルシアの後ろに乗る。


「っ!抱き着くな!」


「ええっ!?」

乗れと言ったり抱き着くなと言ったり扱いがひどいな。俺にどうしろってんだい。


「流石にそれはつらいんだが」


「・・・変なところ触るなよ」


「心配すんな俺も命が惜しい」

俺もそんな下らんことで生命的にも社会的にも死にたくはない。


それから馬に揺られていた数時間俺はただただ『無』であった。何も考えず何も感じず、そして俺の体は変なところは触らないように静止していた。今の俺ならスケッチのモデルを完璧にやり切れるんじゃないかとすら思うほどに。


「着いたぞ」


「・・・・・」


「隊長?」

返事がないのでエルシアが振り返る。

「・・・・・」

すぐ後ろには死んだような表情の俺が乗っているという恐怖演出。

「生きてるよな?」

心配になり生存確認を取り始めた。

「・・・・・」


「生きてるよな!?」


「ヌアッ!!ここは誰だ!?お前は何処!?俺はくぁwせdrftgyふじこlp!?」

ここでようやく俺の意識が戻った。あと少し意識が戻るのが遅かったら俺は恐らく人間の踏み込んではいけない領域にたどり着くところだった。


「あ、着いたのか」

2つ目の中継地点に到着。1つ目はどうやら俺の意識が死んでいる間に到着し、休憩をはさんで出発したらしい。その部分に関してまったく記憶がない自分のぼんやり感に自分で呆れてしまう。ていうか気が付けば夕方、俺は今日という日を文字通りすべて無意識で過ごしていたようだ。


ふいに鼻先に冷たい感覚。そらを見ると雲が多くなってきている。雨が降ろうとしているか。

その日の夜は雨の音しか聞こえないくらい超大降りでした。目的地である枯れ木の森はもう目の前だ。




「んーまあそうなるよね」

枯れ木の森についた俺たちを待っていたのは巨大なモンスターでも凶悪なキメラでもなく、大雨のせいでドロドロになった地面とじめじめ、激流の川であった。おまけに天候が怪しいときたのでもう気分は最悪である。枯れ木の森はもともと地形があまり平坦ではないので馬での移動は難しい。そのためここからの移動はどうあがいても徒歩である。


唯一の救いは中継地点でブーツをもらったことだろうか。これがなかったら今頃俺の大事なスニーカーがドロドロになっていた。ヌタヌタじめじめの森を無言で歩き続ける。周囲には生き物はいない。ここは木こそ生えてはいるが名前通り枯れ木、地面にも背の高い草などは生えていないため隠れる場所はほとんどない。


ここはハズレか?そうであるなら今すぐ引き返したい。


「足跡を発見」

足跡あるやないかーい。フラグ回収早すぎだよ!「ここはハズレか?」からの足跡発見までの時間僅か5秒だからね?この足跡が野生動物なのかキメラなのかわからないがハズレであれ当たりであれ調べに行かなければいけなくなってしまった。


「上にキメラ!」

展開が速い!木の上に一体と空を飛んでる奴が一体。飛んでる奴は珍しく鳥のキメラだ。次の瞬間鳥型が羽を仰いだ。するとさっきまで無風だったのに強風がこっちに向かって吹いた。

「わっ!」


「きゃっ」

その強風にルネとレネが吹っ飛んだ。体の軽い2人はそのまま吹っ飛び激流の中に落ちた。


「ヤバいっ‼」

その時2人が川に落ちたことに気を取られていた俺は木の上の一体と鳥型の以外にもう一匹が木の裏に隠れていることに気が付かなかった。木の裏に隠れていた四足歩行型のキメラが俺に思いっきり突進すると俺の体は宙に浮きそのまま後ろへと吹っ飛んでいった。ものすごい勢いで吹っ飛びながらも突進してきたキメラに

投げナイフを4本投げつけた。投げナイフは足と顔にそれぞれ刺さりキメラはそのまま絶命した。


俺は吹っ飛んだ体をどうにもできずそのまま激流の中に落ちた。


「隊長!」

流されそうになりながらも必死にドロドロの地面に指をかける。

「ウェイブ!引き上げろ!」


「俺のことはいい!お前らは研究所に行け!そこで合流s」

そこで水分を大量に含んでいた地面は崩れ、俺は激流に飲まれた。




「これからどうする?」


「どうするも何も隊長も言ってたろ、俺ら研究所に向かう」


「だがあの激流に飲まれて生きているとは思えないが」

そう思うのは当然のことだった。レイジは確かに研究所で合流と言いかけていた。だが残された自分たちはともかく川に流された3人が研究所まで行けるとは思えない。だがその場の全員が研究所に行くしかないとも思った。あの状況で冷静に撤退や救助以外の指示を出したのには何か意味がある。レイジにはあの状況から脱する何かしらの手段があるのだと。


「まあ今は何をするにも目の前の敵を片付けてからだ」


「じゃあ空飛んでるのは私がやるよ」

カーリーはそう言って手で銃の形を作ると上空を旋回しているキメラに照準を合わせた。そしてただ一言子供が銃のおもちゃを使って遊ぶ時のように言った。


「バーン!」

それと同時に指先からビー玉程度の大きさの魔力弾が高速で発射された。それはただまっすぐにキメラに向かって飛んでいきその体を貫いた。キメラはそのまま力を失い地上へと落下した。


「相変わらずとんでもない速さの魔力弾だな」

ウェイブは半分関心半分呆れみたいな口調で言った。


「貫通力あるけど威力は低いんだよねー」

(ま、()()()()()()()()()()から当然なんだけど)


カーリーはぼんやりと心の中でそうつぶやいた。


果たして暗殺部隊の7人は研究所にたどり着き合流することができるのだろうか。この先で奇跡が起きるのか

それとも無慈悲な未来が待っているのかそれはまだ誰にもわからない。






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