信じて戦え
どこだ!?アイツらどこに行ったんだ!?森の中を駆け回って探しているが何故か見つからない。方向は間違っていないはず。もしかしてと思い森の外にも行ってみたが姿はなし。嫌な汗が出てきた。みんな既に殺られたのか?いや、それらしき痕跡は無かった。
6人もいるのだから殺られたならどこかに必ず大きな痕跡があるはずだ。
消えた。としか言えない。アイツらがいるとしたらどこだ。
ここに来る前に腰のポーチに突っ込んでおいた地図を見る。近くで何かありそうな所は・・・・・。洞窟、か。そう言えば襲われた冒険者も洞窟から出てきたところを襲われたんだっけ。
行ってみる価値はあるな。ここから東、コンパスを確認してまた森の中を走る。しばらく走り続けているといくつかのキメラの死体を見つけた。バラバラにされていたり、潰されていたりと同じものはない。ここで6人が戦ったのだ。死体はまだ温かい。
近くに6人がいるはずだ。
更に進んで行くと洞窟の入り口がありそこで奇妙なものを見つけた。蜘蛛の死骸だ。それも家に出てくるような小さなものではない。人間の胴体くらいの大きさの蜘蛛。しかも1匹ではない2、4、7、9もっとある。死骸を調べてみるとキメラっぽくはない。見た目はただのでかい蜘蛛だ。
糸を吐きながら死んでるな。傷からして暗殺部隊がやったものだろう。地面にも粘着物が付いているな。他にも何か引きずった跡がある。跡はそのまま洞窟の中へと続いている。連れて行かれたのか!?入り口に駆け寄ってみると大きく、そして汚く急いで書いたようなバツ印がある。確定だ。みんなはこの中にいる。
ランタンに火を付けて中へ入る。入り口は人ひとり分程度の幅しかない。ここじゃ狭すぎて長剣は使えないな。何かいい物は・・・これなんかでいいか。取り出したのは黒いナイフ。薄さはカッターの刃3枚分ほどで刃渡り10センチほどの小さなナイフ。これはお得意の神器ではなくただのナイフだ。ただし市販のナイフをヘファイストスハンマーを使ってこの形にしているためそこら辺のナイフよりは切れる。
しばらく細い道が続く。明かりがあるとはいえ目の前は真っ暗で何も見えない。今は静かな空間ではあるがこの静かな空間に何かが息を潜めているのかもしれないと思うとゾッとする。いつ目の前から蜘蛛が飛んできてもおかしくはない。こんな狭い場所で無数の蜘蛛に襲われたら対処できないかもしれない。慎重に進まないと。
歩き続けてようやく道幅が少し広くなった。広くなったとはいえ幅は人が2人なんとか並んで歩けるようになったレベル。未だに長剣は使えない。蜘蛛もヤバいがそれよりも蜘蛛以外の普通の敵が出てきた時の方がヤバい。俺が認識できている短剣の神器は今のところ『支配者の短剣』だけ。他の神器はリーチが長めの武器ばかりで狭い空間では使えない。今俺の使える武器は間違いなく今までより圧倒的に少ない。
ある種危機的状況なのかもしれない。いや今までの中で一番の危機と断定してもいい。今まで気が付かなかったが俺は神器を使うことが能力だから狭いところではその能力を100パーセント発揮できない。短剣しか使用できない狭い場所、全ての神器を把握していないという情報の不足、急な状況の変化それが俺の能力の弱点。強い分デメリットも多くどれも致命的だ。
まあそのデメリットを補うこともできるといえばできるのだがそのデメリットを補うにはまた別のデメリットを負うことになる。ミイラ取りがミイラに、というやつだ。万能ではない。
自分の足音とは違う別の物音。カチカチとカサカサと音を立てて何かが動いている。音が小さいため遠いのか近いのかわからない。目の前か、それとも後ろかも音の響きやすい洞窟ではよくわからなくなる。
ランタンの中の炎が静かに揺れる。そして突如、無数の蜘蛛が俺目掛けて飛んできた。この狭く足場の悪い空間でそれを躱す手段はない。蜘蛛が体に張り付き俺はその場に倒れた。まずい、このままだと食い尽くされる!!
持っているナイフを使おうにも手に付いている蜘蛛が邪魔でまともに使えない。右手に張り付いている蜘蛛が噛みついた。噛みつきながら肉を引きちぎろうとしている。それと同時に頭の中の
『メーティアスの赤書』と『羽ペン』が毒を検知し、警告している。
体の方はまだ大丈夫そうだが毒の方は自動解毒が追いつかなくなってきている。早く蜘蛛を引き剥がさないと。
「この野郎、見てろ」
次の瞬間俺の体がストロボを焚いたかのように光った。その一瞬の光で体にまとわりついていた蜘蛛が死んだ。元から生きていなくて本当はよくできた玩具なんじゃないかと思うくらい蜘蛛たちは力を失い、ピクリとも動かない。文字通りの即死である。
それは天使にのみ許された禁忌の力。無慈悲の救済。この世界の神話の中で救済の光、浄化の光と呼ばれるその光は猛毒の光。浴びれば体は力を失い、心臓は動くことを忘れ、魂は融解し消える。
「あ、危なかった」
俺は立ち上がろうとしてバランスを崩し壁に寄りかかる。毒がまだ完全に抜けていないがそれはすぐに良くなる。問題は毒なんかより無慈悲の救済による反動だ。
無慈悲の救済は強力だがその分消費する魔力量は多く体力もかなり削れてしまう。
そのうえデメリットとしては相手に密着するほどの距離でないと効果がない。一撃必殺ではあるが、外せば自分が弱体化する諸刃の剣だ。
「早くみんなのところに」
息を切らしながら洞窟を進む。皆はもうすぐそこのはずだ。今のところ
最悪な状況だった。レイジと分かれてすぐにキメラと遭遇、戦ってこれを倒したは良いものの見たことない蜘蛛のモンスターに横から襲われた。戦おうにも相手の吐く糸が頑丈すぎる上にくっつくとなかなか取れない。為す術がなく糸に巻かれ洞窟の奥の巣に連れて来られてしまった。6人とも今のところ無事である。全員糸に巻かれて宙吊りの状態だった。
「ルネ、糸は切れそう?」
「ダメ姉さん、火属性の魔法を使わないと切れない」
火属性の魔法を使えないわけではない。ただ現状では使うことができないのだ。今火属性の魔法を使えば自分の体に燃え移りまる焦げ、それにこの糸が燃えるのかもよくわかっていない。宙吊りにされている位置は少し高いがそこは問題ないだろう。
「ウェイブ蜘蛛の習性について何かわかりますか?」
アシリアがウェイブに聞く。
「そうだなぁ。蜘蛛は獲物を食うときに糸でぐるぐる巻にしたあと牙で体に穴を開けてそこに消化液を流し込むらしいぞ。小さい獲物なら噛み砕くこともあるが」
「それってつまり?」
カーリーがいつも通りの口調で聞く。
「そろそろまずいってことだ」
エルシアがそれに答える。こんな時でも誰1人として焦りを見せないのは今までの仕事による賜物か。
「・・・隊長はこの事に気づいているのだろうか」
皆が黙る。二手に分かれた時点で当然お互いのことはわからない。もしかしたら向こうも同じような目に遭っていてすでに死んでいるかもしれないし、自分達のことを探しているかもしれない。6人ともこのキメラ達の作戦に関しては気づかなくても仕方ないと思っていた。
所詮獣と侮っていたがその頭脳は獣のそれを遥かに超えている。
舐めてかかるべきではなかった。
「気づいてるよ、多分」
カーリーは静かに言った。
「皆もわかってるでしょ?初めて会った時」
「ああ、わかってるよ」
初めてレイジを見たとき全員が感じた。比べ物にならないほどの圧倒的な実力の差を。戦ったところで勝てないというよりも戦う前から勝負は決していると言っていいほどの絶望を。
「明らかに俺達より潜ってきた修羅場の数が多い感じだったよな」
「ええ、あれは戦いをよく知る人の目です」
「「信じて待て、さすれば救われん」」
「なんだそれは?」
「昔ある人から聞いた言葉」
「なるほど、いい言葉だ。そして言葉通り救いが来たようだ」
「あーもうっ!邪魔だ!!」
目の前の蜘蛛を蹴り飛ばす。サッカーボールみたいに蜘蛛が飛んでいく。ようやく広い場所に出ることができた。これでやっとこちゃんとした神器を使うことができる。武器を変えて蜘蛛を切る。あ〜めっちゃ楽だわ。この敵を安全に倒せるこの距離感、
最高だね。
「おーい、たいちょー」
見ると6人とも宙吊りにされている。笑っちゃいけない場面なのだがこうキレイに並んで吊るされてるのを見ると笑ってしまいそうになる。だがとにかく無事でよかった。
「よーし降ろすぞ」
俺はどこからともなく黒いナイフ指と指で挟んで6本出した。そしてそれをそれぞれの糸に投げると糸は簡単に切れて皆が地面に着地した。格好良く決まった。どこからともなくナイフ出して投げる。アニメとかで見るこの演出を1回やってみたかったんだ。
「んじゃ脱出すんぞ」
出口の方は・・・蜘蛛が気持ち悪いくらいたくさんいるね。
なるほど強制戦闘イベントですかそうですか。まあいいや、数は多いが一体一体は大して強くない。今後コイツラと出会わないためにもここで数を減らしておいたほうがいいか。
「絶滅させる前にコイツらが何というモンスターなのか誰か教えてくれ」
「こんなモンスターは知らない。キメラなんじゃないか?」
「マジか」
見たところ何かと何かの合成中という感じではなかったはずだが見た目で判断するなってことか。確かにそこそこ強かったしキメラたちの誘導ポイントのことを考えると辻褄が合う。
「なら逃がすわけにも逃げるわけにもいかないな。ここで全滅させるぞ」
「「「「「「了解‼」」」」」」
そこからは正直早かった。蜘蛛を切って、潰して、焼いてただ倒すだけだった。だが早かったのはそれだけであった。いくら倒しても数が減らない。倒しても倒しても次々出てくる。本当に総数が減っているのかも怪しい。
奥の方にこんなに隠れているのか?それとも外からこっちに集まってきているのか?一番最悪なのは俺たちが倒す速さよりも早くコイツらが増えていること。蜘蛛の繁殖については全く知らないがもし、もしものすごい速度で生まれているんだとしたらそれはまさに絶望。切り抜けることはできる。希望はある。
だがその希望は小さすぎてここにいる7人全員が掴むことはできない。
「上だ!上にデカい蜘蛛!」
言われて上を見ると暗闇に黄色く光る4つの目、目のサイズからしてかなりデカいことだけがわかる。
「トーチ!」
上に向けて放たれた魔法の光球で照らされ洞窟内の全貌が明らかになった。上には5メートルはある巨大な蜘蛛。洞窟の天井には無数の穴、あたり一面は蜘蛛の巣だらけ。ここは巣の近くではなく正に巣、ど真ん中だった。天井の穴からは何匹もの蜘蛛が出てきている。
そりゃ減らねーわ。穴から無限に出てくるし、そもそもここ親玉の部屋じゃん。親玉守るためにいっぱい来るから減るはずがねえわ。あの穴にバルサンつっこみてーな。(バルサン使ったことないけど)
状況はすでに最悪だがやるべきことは決まった。雑魚の方はいくら潰しても全然減らないがあの親玉さえ潰せれば勝機はある。
「親玉は俺がやる、皆は周りの小さいのを何とかしてくれ」
「わかった!」
さて早速で申し訳ないがどうしよう。俺がやると言っておいて本当に申し訳ないがどうやって倒せばいいのかわからん。攻撃を当てるには当然敵のところまで行かなきゃいけないわけだ、都合のいいことにこの場所はドーム状なので本気で壁走りすれば近づけないことはないだろう。問題はその後だ。攻撃を当てたとして地面に着地は不可避、また壁を走らなければいけない。いちいちそんなことをしていたらいずれこっちがやられてしまう。
せめて壁にくっつける面白い神器があればなぁと思うがないんですわ。だって神はそんなの無くても困らないんだもん。どうせ簡単に空とか飛んじゃうんだもん。
今の俺にせいぜいできるのは神器を壁に刺してそれを足場にして壁を登ったり神器を伝って移動することくらいだ。無論これも駄目。動きが遅くなって戦いにならない。
だがそんな万事休すな場面の中、救いの光が舞い降りた。
突然出口に密集していた蜘蛛が潰れた。それも1匹ではなくそこにいた全ての蜘蛛がだ。その場にいた全員がそれに驚いた。だが俺か驚いたのはそこではない。見えない力で押しつぶされたようなこの死に方に見覚えがある。そんなことより驚いたのはアイツがここにいるということだ。
「何者もG.Vから逃れる事はできない」
コツコツとヒールの足音が洞窟に響く。大量の蜘蛛の死骸の向こうから現れたのは予想通り見慣れたあの女だった。
「何でここに?」
「偶然よ。それにしてもひどい場所ね帰ろうかしら」
「待って!見捨てないで!?」
本気で帰りそうになっているユウナを半分泣きそうになりながらしがみついて引き止める。
「お願いだから力貸してください。俺の重力の向き変えてくれるだけでいいから!!」
「あーもう、わかったから離れて!!あとそんな泣きそうな目で見ないで!冗談だからっ!!」
「姫姉様!!」
さて漫才はこの辺にしてそろそろ真面目にいこう。
重力の向きが変わり上が下に、下が上に変わった。
体の感覚はいつも通りだが周囲はなんとも不思議な光景だ。
皆が逆さまに立っている。まあ実際は俺が逆さまに立っているのだが。
「さてと、覚悟はいいか?」
目の前の巨大な蜘蛛にそう問いかける。理解しているのかどうかは知らない。というかそんな事はどうでもいい。理解していようがしていなかろうがやることは変わらないのだから。
「「俺/私はできてる」」
何も変わっていないはずなのに何故だろうか。あれほど大きく見えた蜘蛛がユウナといると小さく、弱く見える。それほど戦力的にユウナという転生者の存在は大きいのだろうか。
全てはあっという間の出来事だった。普段の何倍もの重力がその体に掛かり動けなくなったところを俺が細かくバラバラにしただけ。呆気ない。いや、本気の転生者2人をただデカイだけの蜘蛛が1匹で相手をしたのだから当然の結果だ。
「汚物は消毒だー」
そう言って俺は洞窟の入り口に両手の手のひらから炎を出した。洞窟内全てが炎で埋め尽くされる。中の蜘蛛もまだ孵化していない蜘蛛もこの地獄から生き延びることはない。
「疲れたー」
全ての力を使った俺はどっかりその場に座り込む。いつの間にかもう夕方。洞窟にいたのは数分程度の感覚だったが実際には何時間も経っていたのか。
「そういえばお前の言ってたG.Vだっけ?あれは何なんだ?」
「あれは重力と重力で相手をサンドイッチする技なの。それでハイタッチのハイファイブと重力のGをかけたってだけよ」
「なるほど」
やっぱりコイツの能力チートだよ。そんなの逃げれないじゃん。
そもそも重力操作ってもう攻撃の防ぎようがないし。
最強じゃん。俺はこの日、この瞬間この風見ユウナという女だけは敵に回さないようにしようと改めて思った。
数分後。エリザベートの執務室にて。
「以上が報告ということでいいのね?」
「ああ」
「そう、ご苦労さま。それでどうだった?あの部隊は」
「皆強いし頭も良さそうだし文句ない」
夕日に真っ赤に照らされた部屋の中でレイジとエリザベートは静かに言葉を交わしていた。
「そっちは何か進展あったか?」
「ええ、少しずつだけど確実にキメラを作った黒幕の居場所を絞っていってる」
机の上に置かれた地図にはいくつかのバツ印。
「このバツ印には何があったんだ?」
「今は使われてない研究所よ。この地図の研究所のどれかにいるはず」
地図についているバツ印は3つ。そして研究所を示す赤い点は残り11個。残り11箇所の研究所のどれかにキメラを作った黒幕がいる。黒幕との接触の時はそう遠い話ではない。




