覚悟はあるか?
突き刺さったそこから痛みと熱が広がっていく。
「ダメだろ?油断しちゃ」
ああ、そうだ。コイツら問題児だった。忘れちゃ、油断しちゃダメだったんだ。コイツらは人1人殺したところで特に何か感じるわけでもないんだ。何が起こっても不思議じゃなかった。
刺されているのに俺は冷静だった。だがいつもより頭の回転が早い。きっと焦ってはいるけど思考を放棄はしていないんだろう。
そして1つの感情が湧いたぞ。今のはちょっとイラッと来た。たまにはちょっとだけ怒ってもいいよな。
「ああ、そうだな」
ウェイブは少し驚いたようだがもうそんなことは関係ない。
俺は少しだけ力を入れてウェイブの顔面に1発食らわせた。
ウェイブは吹っ飛んで壁に叩きつけられた。
「さすがに今のはちょっとイラッと来た。てめぇ覚悟できてんだろうな?」
俺は腹に刺さった短剣を引き抜きながら言う。ウェイブの方に歩きながら引き抜いた短剣を投げつけるとそれはウェイブの顔のすぐ横に突き刺さった。たまにはこれくらいやらないとな。ただビビってるだけの男じゃないんでね。
俺はウェイブの胸倉を掴んで持ち上げた。
「怒らせたついでにいい事を教えてやる。お前はさっき油断するなと言ったな。その言葉そっくりそのままお前にもくれてやる。この世界には短剣で刺さされた程度じゃ死なない奴らがいんだよ。覚えとけ」
それだけ言って俺は手を放した。まったく、二度とごめんだねこんな風に力を使うのは。
殴られたウェイブはノックダウン、当然と言えば当然か。今頃奴は脳震盪を起こしているはずだから視界はグワングワン、今は立つことすらできないはずだ。出会い頭にこれとは全くついてない人生だな。俺はその場を後にした。ここにいたってしょうがないし、何より今はここにいたいとは思わない。
ドアを開けてすぐのところでエリザベートが壁に寄りかかって俺を待っていた。
「何かあった?」
「別に、ちょっと歓迎されて盛り上がっちまっただけさ」
「そう」
血の色は服の色的にとても見えづらいが刺されたところは穴が空いていたから何が起こったのかエリザベートもわかっていただろうが敢えてそれには触れずにスルーしてくれた。
今回の件で痛いほど、というよりも痛みとともにわかった。
これは俺が思っていたよりも大きな仕事になる。全くの素人が猛獣に乗るのにも等しい困難さであると言える。一度握った猛獣の繋がれた鎖を手放すことは許されない。俺にできること、そしてやるべきことはこの鎖をしっかり掴んで放さないこと。猛獣に振り回されるのではない、猛獣を操り、猛獣に自分から俺の乗るソリを引かせる。
主導権を握るのはアイツらじゃない。
主導権を握るのは常に俺だ。
次の日、城にて。
俺は早速皆を会議室に集めることにした。例えどんなことをされようが仲間であることには変わりない。ならばそのうち来るであろう任務のためにも少しずつでもメンバーとの距離は詰めておいたほうがいい。すでに皆会議室に集まっているはずだ。
大丈夫、落ち着け。相手は暗殺集団だ。それに昨日の一件もあるから何をされてもおかしくはない。だが冷静さを失うな。もし冷静さを失えばいくら俺でもタダでは済まない。大丈夫、大丈夫。
俺はドアを開ける。
よし、全員いるな。とりあえずバックレるやつがいなくてよかった。ここでサボられたらさすがにどうしようもないからな。
「えー俺たちは短い間とはいえ部隊の仲間だ。そのうえで聞きたい。昨日のあれはなんだ?」
これを最初に聞いておきたかった。一体なんで刺されたのだろうか。家に帰ったあとも考えたし、一応のため鬼畜代表のユウナにも聞いてみたのだが「顔がムカついたんじゃない?」とかいうふざけた回答をされるだけで答えは出なかった。もし本当に顔がムカついたのなら俺にはどうしようもない。
そうだったらその時は頑張って整形するか、もう一回転生できるか試してみよう。次はちゃんとイケメンとして転生できるように頼んでみるわ。
「顔がムカついたから」
うわ、こういうときに限って嫌な方の予感が的中するんだもんなぁ。とりあえず俺はもう一回転生できるか試すことにするわ。キメラのいそうな所に行ってズタボロにされれば転生できるかな。
「冗談だよ。そんなこの世の終わりみたいな顔するな」
ウェイブは笑ってそう言うが俺のこと刺して俺に殴られ、一撃でノックアウトされたのお前だからな?お前が原因でこんなことになってんだからな?自覚あんのかこの野郎。
「ちょっと試したのさ。次に来るやつが隊長として本当に相応しいのか」
ということは俺はあの一撃を避けなければいけなかったってことなのか?どう考えても初見殺し、無理だと思うけど。それに試したって言うけど試すにしては随分グッサリ深々と刺さってたと思うんだけど。あれ俺じゃなかったら多分致命傷よ?それで試しただけと言われるとか、まさかとは思うがお前らも鬼畜か。
そろそろ俺の基準が低いのか、それ以外の基準が高いのか本格的に考えたほうがいいのかもしれない。こんなくだらんことのせいで俺が考えなきゃいけないことがどんどん増えていくんだよなぁ。まあいい、こうは思ってるけど毎回数秒後には忘れてるから。
「俺は結局どうなの?」
「「「「「「うーん」」」」」」
皆が一斉に声に出して悩む。これで駄目だったら俺は一人でキメラを追い掛けなければいけなくなる。効率が良いか悪いかで言えば五分五分と言ったところだろう。一人なら仲間の事を気にせず好き勝手戦える。本来できない無茶な戦い方もできるし一日の討伐数もそれなりに多いはずだ。
ただし情報は少ないし必要なものは全て自分で揃えなくてはならない。それに長期的な戦いにはあまり適していない。
それに対してグループならば情報は集めやすいし何かあればすぐに、そして戦略的に動くことができる。必要なものも用意してもらえる。一言で言うなら便利だ。
その反面、仲間の状態に作戦が左右される。
どちらが良いのか迷いどころだ。
「私は別に構いません」
「私もだ」
「少々不安なところはありますが、そうするしかないでしょう。ねぇ?ルネ」
「はい。姉さん」
「私は全然オッケーだよ!」
「んーまぁいいんじゃね?」
おい、ウェイブ。しつこいようだけどお前が始めたことだからな?なのになんでお前が一番適当なんだよ。怒るぞマジで。また右だか左だかでフックかストレート食らわすぞ。でも皆渋々とはいえ仲間として受け入れてくれるってことでいいんだよな。
今はそれでいいとしよう。今は。
「皆、ありがとう」
俺はただ一言皆に礼を言った。・・・いい感じの流れみたいになってるところ悪いんだけど何だこれは。これって単に俺が理不尽な目にあってどうにかこうにか仲間になったっていうだけだからね。感動で泣ける要素はない、俺の苦労に悲しくなるという意味では泣けるだろうけど。
「さて、団結したところでだ諸君。早速仕事だ。」
変な空気を切り替えて仕事のことについて話をしよう。今回頼まれたのはまさかまさかの暗殺、とかではなくただの町のパトロールだった。エリザベートから今回の仕事について聞いたとき「他の暇そうな部隊に頼めばいいのに」とも一瞬思ったが「よくよく考えたら全部隊の中で一番暇なのは俺たち暗殺部隊じゃん」そう思い心の中にとどめておいたはずなのに一体なぜ俺は紙束で頭を叩かれ「あなたのところが一番暇よ」と言われたのだろう。
確かに何かしら口を動かしたような気がするが一体なぜ叩かれた上に心を読まれたのだろうか。やはりこの世界は不思議なことであふれているな。
「退屈だな」
「すんません」
「また見廻り」
「すんません」
「飽きた」
「すんませんねぇ!?えぇ本当にすんませんねぇ!?」
俺が謝る必要など微塵もないのに何故か俺が嫌々謝るという謎の地獄、カオスタイムが始まった。
俺だって好きでこんなつまんない仕事を持ってきたわけじゃねえんだよ。
「文句があるなら例の偉い人に言ってください」
俺がそう言うとみんなが一斉に黙る。こんなちょっとヤバい奴らでさえエリザベートのことを出すと黙るあたりアイツが俺以外にもいろんな人たちから恐れられているのがわかる。暗殺部隊ですら黙ってしまうほどっていったい何をしたんだろうか。
「文句もないみたいだし行くぞ。二人一組作ってくれ」
この時の俺はどうして気が付かなかったのだろうか。二人一組、それは文字通り二人で一つの組を作ることだ。ボッチにとっては地獄の言葉でもあるが。二人一組、それは7人の場合2、2、2で組んでいくと1人余り者が出てくる。そして今回の場合誰がそうなるのか、この中で一番仲間外れは誰なのか、それを考えれば答えはすぐにわかる。
無論、俺である。本当にどうして気が付かなかったんだろうか。7人ならもっと良い分け方があったんじゃないだろうか。そう思いたいけど実は絶対に良い分け方はない。今回頼まれたのは王都内のパトロールだ。
王都のエリアは東西南北の4つに分かれている。俺の家があるのは西区。西区と東区は庶民が住んでいる治安も普通のエリアだ。北は貴族たちが住む貴族街、俺みたいなのとは無縁の金持ち達の街だ。
そして報告によると南区の方はあまり治安が良くないとかなんとか。そんなわけでこのエリアをすべて廻るには2人ずつで分けなければならない。絶対に1人は地区まるまる一つを廻らなければならなくなる。
こんなことになるなら最初からメンバーを8人にするか他の部隊に頼めよ。明らかに俺らに向いてないよねこの任務。
「・・・じゃあ次は地区ですけど、俺1人だから西行くわ1人だし」
おいお前らその大人げないなコイツみたいな顔を辞めろ。別にいいだろお前らは二人組なんだから。
流石に一人で治安の悪い南区の方に行く勇気はないし、よくわからん東区に行けば絶対道に迷うし、北区に行けば面倒なことが起こるような気がする。押し付けられるのはごめんだ。他の誰かに取られる前に見慣れた西区を取った方がいい。
それにあそこならサボっていても気づかれないはずだ。
「そんじゃ俺は西区に行くからみんなもさっさと決めて行けよ」
そう言ってドアノブに手をかけたと同時にウェイブが俺の肩に手を置いた。
「ちょっと待ってくれそういうことなら組み直す」
くっ!このまま1人だからというのを理由に逃げてやろうと思ったのに失敗したか。
「いやいや無理しなくていいぜ?俺は一人でも大丈夫だから」
だがまだ諦めんよ、まだな。このまま逃げ切ってやる。俺は西区に行って楽になりたいんだ。このまま組み替えられてたまるかっての。
「「「「「「じゃんけんぽん!」」」」」」
・・・お前ら今俺の話聞いてたか?俺別に大丈夫って言ったんだぞ。じゃんけんするにしてもせめて俺を対処してからにしろ。さも当然のように物事を進めないで?
「あっちゃーお姉さんか」
どうやらじゃんけんに負けたのはカーリーらしい。そんでもって本当は組みたくないのに組む羽目になっちゃったよみたいな感じ出さないでくれないかな。いくら俺でも多少は傷つくぞ。
「まあ、そんなこともあるさ」
「大丈夫よカーリーきっといいことあるわ。ね、ルネ」
「そうね姉さん」
お前らもその軽い慰めみたいなのをやめろ。さっきからわざとやってるんじゃないかと思うくらいピンポイントで俺の心にダイレクトアタックを決めてきている。そろそろ日々のストレスによって限界を迎えつつある俺の心が崩壊、ハートブレイクするぞ。どこに行っても鬼ばかり、渡る世間に鬼はなしということわざがあるがあれは絶対に嘘だ。このことわざを考えた人はなんやかんやと言いつつもきっと楽しい日々を送っていたのだろう。
俺を見ろ、これが本当の渡る世間は鬼しかいないってやつだ。どこに行ってもなんでか俺が悪いみたいな、理不尽な目に遭っている。俺はてっきり自分は幸せの道を歩いていてその途中にこんな感じで障害という石ころが落ちているのかと思っていたけどどうやら逆のようだ。俺は修羅の道を歩いていてその途中に幸せという宝石が落ちているらしい。
おしゃれ(?)な言い方をしているが要するに運が悪いのである。
そんなわけでその後も色々あって運が良いのか悪いのか北区に行くことになりました。
初めての貴族街、緊張と不安とワクワクという複雑な思いが俺の心を埋め尽くしていた。




