それが出会いだった
更に森の奥に進むこと数十分、スライムを数匹倒した俺は次にゴブリンを倒しに行くことにした。
倒しに行くと言ってももう目の前にいるんだけどね。ゴブリンは見た感じ棍棒や剣を持った緑の小さいおじさんみたいな感じだった。はっきり言ってスライムより絶対楽だなって思った。
だってさっきのスライムみたいに小さいコアを探さなくてもいい。それだけですごい気が楽になる。
それにSF剣の切れ味も確認することができる。さっきスライムを切り刻んでいたがはっきり言ってよくわかってない。アイツらビニョっとしてるから何とも言えないんだわ。
それじゃさっそく試していくとしよう。最初の一匹は後ろからこっそり近づいて後ろから首をはねた。
剣がゴブリンの首に入ってそのまま横へ抜けて行った。そしてゴブリンは灰になって消えスライムより少し大きい宝石を落とした。首をはねたことはないがこの感覚は多分異常だ。
あまりにも簡単すぎる。普通なら多少でも脊髄を切った感覚があるはずだ。
でも今の感覚は何もないまるでスチロールカッターで発泡スチロールを切ったみたいに何の引っ掛かりもない。もしかしたら本当は何も切っていないのかもしれないと疑いたくなるくらい引っ掛かりがない。
この剣、おもちゃみたいな見た目してめっちゃ危険だぞ。何かの拍子に余計なものまで切ってしまいそうだ。
仲間がやられたことに気が付いて他のゴブリンたちがこちらに向かってきた。一匹が剣を振り下ろしてきたがそれをSF剣で防御する。・・・はずがその剣がそのままサックリ切れてしまった。
「あぶねっ!」落ちてきた剣の破片を躱す。切れ味が良すぎて逆に俺自身が結構危ない。攻撃力は高いけど
そのせいで防御力が最弱説がある。ガードしたかったら盾とか装備しないといけないってことか。
剣をダメにされても諦めずにこちらに突っ込んでくるゴブリンを切るとさっきと同じように灰になって消えた。さぁてドンドン片付けていきますかね。
それからしばらくして多分10匹のゴブリンを倒したようだった。落ちている宝石を拾っていると
横から小さいスライムが宝石を乗せてズルズルこっちに近づいてくる。
はい。あげる、とでも言っているかのように頑張って上の方に体を伸ばしている。小さなゼリーがプルプルと震えている。なんか、ちょっと可愛いな。っていうかちょっと待て、よく見たらこいつコアがない。
何で生きてんだ?
俺は少し考えて思った。こいつさっき俺がサクサクしてたスライムじゃね?
あの神器の取扱説明書を取り出して読んだ。
えーとなになに。
この剣の名前は・・・『支配者の短剣』
この短剣で命を絶たれた者はその場で蘇生し自分を殺した相手に服従する。
殺された者は殺された時の記憶が消える。・・・なるほど。
うわーこれヤバいわ。この神器はマジでヤバイ。殺した相手を服従させられるうえに殺された相手はその時の記憶が消えるとかとか都合良すぎるだろ。俺、神器舐めてたわ。まだ使った神器はたったの二つ。それなのに切れ味がおかしいチート剣に、相手を服従させるチート短剣。
こんなのがまだ150以上あるのかと思うと少し頭痛がする。世界観ていうか世界のバランスが崩れるちゃうよこんなの。強すぎて本当につまんない異世界物になっちゃいそうでもう恐怖しかない。
まあ武器のチート性能の件は後でじっくり考えるとしよう。俺はスライムから宝石を受け取ってポケットに入れた。もうポケットはパンパンになっていて少しダサい感じになっている。
これ腕輪の中に入んないかな。剣をしまったときと同じようにすれば・・・よし、できたこれで多分宝石は腕輪の中にあるはず。
俺はスライムをつまんで自分の肩に乗せた。いい感じじゃないか。何かあれだな肩に黄色の電気ネズミを肩に乗せている主人公を思い出す。このスライムも仲間になったことだし名前つけておくか。
「スライムだから、スイム?それともライム?」どうしようかと迷っていると。肩に乗っていたスライムがそれはだめだと頬をペチペチたたく。贅沢な奴め。十分良い名前だろうがよ。ちょっと雑ではあったけど。
コイツの名前は帰ってからじっくり考えるとしよう。多分酷いことになるだろうけど。
そう思いつつも頭の中でスライムの名前を考えながら森の中を歩く。数分ほど歩いてスライムの名前を思いついた。
「ジャクソン?」そうつぶやいた瞬間今まで優しかったペチペチが一発ベチンッ!と強烈な一撃になった。
「なんでや!ジャクソンええやろ!」打たれた頬をさする。
「ジャクソンがだめならマイケルでもええんやで?」そう言うと今度はスライムから二本の触手みたいのが目の前に伸び来てこちらを狙っている。2秒後、まあ刺さったよね。思いっきり目に直撃したよ。
アーーー‼‼という叫びが森に響き渡る。潰れるほどの一撃ではなかったもののその痛みにうずくまる。
ほあぁ、こ、この野郎マイケルもジャクソンもだめかよ。そんなに俺の考えた名前はダメなのか。
もうやめた!もうしばらくはこのこと考えない!俺は心にそう誓い立ち上がった。
帰ろう。
あれ?・・・ここさっき俺がゴブリン倒したところじゃね?
俺まっすぐ進んでいたはずなんだけど。というか多分何度も同じところをループしてるな。
スライムの名前考えてたせいで完全に道に迷った。いやー困ったなーおい。
とりあえずまっすぐ歩けば何とかなるだろうか。まだ朝早いしここからできるだけまっすぐ進んでみよう。
もしかしたら道に出ることができるかもしれない。多分道に迷ったとき絶対やっちゃダメなことだろうけど
俺、運は結構いい方だから何とかなるだろう(楽観)。
またしばらく歩いていくと森の途切れているところが見えた。広い道がある。そう思って走って茂みを出た。だがそこで俺を待っていたのは
「ぐはは、もう生き残りはお前だけだぜ騎士団長さんよぉ!」
「姫様お下がりを」
マジかよ。なんか姫様と若い騎士が野盗に襲われているんだが。
辺りには騎士と野盗の死体があったがその中に何人か怪我をしている人たちがいた。
騎士はさっき野盗が言った通り最後の一人のようだが野盗の方はまだ三人生き残りがいた。
このままだと騎士の負けは確定している。
「あぁ?何だテメエは?」
しばらく意識が死んでいた俺に気が付いた野盗が言った。
「おい、貴様ここは危険だ早く逃げろ!」
騎士の方も俺に気が付き警告した。こんな状況でも他人の心配をするとはいいやつだな。でも
「でもそれだと姫様を守れねーぜ?多分」
俺はそう言って野盗に近づくとそのまま助走もなく唐突にドロップキックを食らわせた。
「うぐぁーー‼‼」
野盗はそのまま後ろの方に吹っ飛んでいき他の野盗に激突してそのまま全員気絶した。
まさに人間ボーリング、ストライクだ。
スゲー。これが今の俺の力なのか。こんなキックで人がアホみたいに吹っ飛ぶなんて映画とかアニメの中の話だと思っていたがそれすらも可能にしてしまったか。
「よし、これでもう大丈夫だぞ」
姫様たちを見ると二人とも目が飛び出るくらいビックリしていた。
助走もないドロップキックで人が思いっきり吹っ飛んだらそりゃビックリするか。
騎士はハッとなって自分たちが助けられたことに気が付いた。
「貴殿の助力に感謝する。おかげで助かった」
「いや俺としては助けれてよかったよあのまま逃げてたら後で死にたくなってた」
「そうか。名乗り忘れていたが私は王宮騎士団第三団長のサディス。サディス・ジーンだ」
「俺はレイジ。今は一文無しの冒険者だ」
サディスは「レイジか、珍しい名前だな」と小さくつぶやいた。耳が少し良くなったせいで結構小さな音も聞こえるようになっている。
「サディス。私もこの方にお礼を申し上げたいのですけど」
とサディスの後ろに隠れていた姫様が言った。
「はっ!」
サディスは横に避けて腰を折った。
ゆっくりと前に出たのは金髪ロングのふわふわした髪に銀色のティアラをつけて淡いピンクのドレスを着た
童話にでも出てきそうなまさにお姫様だった。その人は元の世界にはいない美しさだったと言ってもいいと思う。クラスにこんな人がいたらきっと学園天国のような感じになるのだろう。
「かわいい・・・」
「へ?」
「いえ、何でもないです‼」
危ない危ない、つい心に思ったことを口に出してしまった。というかもうアウトだけど姫様には聞こえてないようだしまあセーフということにしよう。隣のサディスは微妙な表情をしているが誰が何と言おうが
セーフだ。いいね?
「そ、そうですか。コホン、私はこのハイデン王国第4王女アイリス・グローリー・ハイデンと申します
我々を助けていただいたこと誠に感謝申し上げます」
うーんやっぱりね。王宮騎士とか言ってた時点でそんな感じだろうなーとは思ってたけどやっぱりそうだよね。王宮って聞いたときに夢であってほしいなと思っていたけどこれはもうだめだな。もうどう考えても完全に起きてるわ。この世界に来てまだ一日目なのに大変なことに関わってしまったのかもしれない。
本能がそう言ってるが俺はそれでも感情を表に出さず対応する。
「いえいえ当然のことですので」
「そんな誰にでもできることではありませんよ」と王女様も笑顔で返してくる。
どうしてだろう。この可愛い笑顔をもっと見ていたい気がするが本能が『これ以上は面倒なことになるから逃げたほうがいい』と叫んでいる。実は元の世界にいた時は偉い人と関わって良かったこと一度もなかったんだ。だからしょうがないと言えばしょうがない。
「それじゃあ俺はこのへんで」
そう言ってこの場を後にしようとしたが
「待ってください‼何か、何かお礼を‼」
「いえもう本当にそういうの大丈夫ですから」
「そうはいきませんこのまま恩を返さないのは私の、王家の恥です!」
王女はそう言って俺の腕を両手でつかんで引き留めた。引きはがそうと思えばできるほどの弱さ。
だがそれができぬ。まあ美少女だからね仕方ないね。
だが困った。引きはがせないのもそうだが王家の恥とか言われるともう余計なことは言えない。
王女様はえーとえーと、と迷いに迷って
「そういえばさっき一文無しだと言っていましたね!ではこのティアラを差し上げます」
その言葉にサディスが
「アイリス様、それは王家の証いくら命の恩人とはいえそれはっ!」
「いいのです。このようなもの結局は命がなければただのガラクタです」
ほら面倒なことになってきた。もう二人があげていいだのダメだの言い合いを始めちゃったよ。
俺がかかわると本当にろくなことにならないわ。
「それがだめなら私自身を」
「それは絶対だめです‼例えドラゴンが襲ってきても神が決めたとしてもだめです‼」
とサディスが本気で突っ込む。おいおいドラゴンは百歩譲っても神が決めてもだめってちょっと傷つくぞ。
「あんなお金に目がくらんだ男爵と結婚するよりこの方のように優しい方と結婚したいです‼」
「つい4分前くらいに出会ったばかりですよ!?」
そこから二人の口論はさらに白熱していく。
おいお前らちょっと待て、ドンドン話が大きくなっていってるぞ。これ以上大きくされたらレイジさん
マジで泣くよ?というかもうちょっと泣いてるよ!?
負けるな頑張れ俺!ここは話をいい感じにそらそう。
「とりあえず怪我人もいますし一旦帰りましょう?」
そう提案したのが間違いだった。
「助けてくれただけでなく怪我人のことまで・・・トゥンク」
え?何で?この世界はあれか怪我人や弱者に厳しいのか!?そんな鬼畜な世界なのか!?
それともまさか!と思ってサディスを見ると
そういうことだ。察してくれ、と申し訳なさそうに頷いた。やっぱりかこの娘、惚れっぽいタイプなのか。
倒れている騎士を背負って立ち上がった時サディスが
「すまない、姫様は幼少期から大変な思いをされていてな、見知らぬ上に欲もなく助けてくれたお前にときめいているんだ」と耳打ちしてきた。
なるほど優しくされたら惚れちゃうっていうタイプの惚れっぽさなのね。これは面倒なことになった。ひっじょーうに面倒なことになってきたぞ。俺はこの異世界生活を無事に楽しく過ごすことができるのだろうか。ただただそれが心配だ。俺は騎士を背負って歩きながらそう思った。
目指す先はおそらく王宮なんだろう。