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嵐を呼ぶもの

扉を閉じてもらった張り紙を張っておく。これでいつでもでっちーに会えるわけだ。やったね。

さて、帰ってきたのは良いがこの家の構造がわからないことには変わりない。リビングにたどり着くことを目標に進んでみるか。そう思って歩き出したとき前方のドアが()()()()()()()()()


「なんだ!?」

ものすごい勢いで飛んできたドアを受け止める。この眼の前にあるドアに隠れて見えないが何かがドアを吹っ飛ばして来たというのはわかる。今の一撃は普通の人間が食らえば確実に骨折するレベルの威力。こんなことができるのは訓練された戦士か、いや違う、こんなことができるのは転生者だけだ。


ドアをどけるとその正体がすぐにわかった。そこにはいつもの踵がヒールみたいに細いロングブーツも履かずに裸足で息を切らし顔を赤くしながらユウナが立っていた。


「何するんだ!?」

と言いつつも一体どうしてこんなことになったのかは気が付いていた。どう考えてもさっきのお着替えタイムだよね。でも今回のこの事故については俺は悪くないと思うんだ、もちろん100パーセント悪くないわけではないだろう。ちょっとだけとはいえじーっと見てしまったのは事実だ。だが言わせてもらいたい、ある程度見ていたのはそうだが正直記憶にない。白だったとかそんなこと記憶にございません。


「何ってこのっ!・・・今まで誰にも見られたことないのに!」

拳をぎゅっと握りしめた。確かに着替え見られるのは恥ずかしいけどさ、そんな「ぶっ殺してやる!」みたいなオーラを出すな。


「忘れろっ!すべて!」

そう言ってユウナは一気に踏み込むと距離を詰めてきた。強烈な蹴りを受け止める。腕からバキリと枝を折るような音が聞こえる。骨が折れたのか!どう考えてもビンタとかそういう領域の話から外れている。この威力は絶対に「ダメだぞっ!」というかわいらしい感じではない、これは完全に殺しに来ている。はたから見ると2人の格闘家が組み手をしているように見えるかもしれない。だが実際は殺し合いにも等しい格闘戦である。さっきの蹴りだって俺だから骨折で済んでいるけど普通の人なら腕が折れるとかそんなレベルの低い話ではない。


腕が切断されてそのまま頭を潰されると言っても大げさではない。


「落ち着けって!あれは事故なんだ!」


「うるさい!事故だろうがそうじゃなかろうが着替えを見るなんて信じられない!」

キャラが崩壊しかけている。普段ならもっと「はぁ?あんた生きる価値あんの?」みたいな「跪きなさいよ豚が」みたいな冷たい目でこちらを見ているのに今回はどっちかっていうと乙女(?)に近い何かになっている気がする。続けて素早いパンチが来るがすべて流す。聞く耳持たずってやつか。

攻撃を流し続けていても埒が明かない、たまにはこっちから攻めてみるか。


俺は攻撃を流しつつ少しずつ前進する。そして腹と胸に張り手を一発ずつ、足に蹴りを一発と追い込んでいきそしてついに壁に追いつめる。ユウナとの距離はもう15センチもないくらいに近づいている。状態的には

壁ドンに近い状態と言える。


「落ち着けって」


「・・・今」


「ん?」


「今、触ったわよね?」

?一体俺が何を触ったというんだろうか。確かに追い詰めるために腹と胸に張り手と足に蹴りを入れてるから触ってはいる。だからっていったい何の問題があるってんだ。・・・ん?ちょっと待って。俺は頭の中で今までの経緯をビデオのように巻き戻す。順番に足に蹴り、胸に張り手、そして腹に、ちょっと待ってストップ。一時停止した場面を拡大し問題のシーンを思い出すと、うんやっぱりそういうことだよね。


さりげなく触ってはいけないところを触ってたよね。さて映像判定はアウトで話は本格的に聞いてもらえるかわからなくなってきたぞ。これは現代社会の中でたまにやめなさいと言われる「ヤバい」というやつなのではないだろうか。坂下レイジお得意のヤバい状況なのではないだろうか!?もう言い逃れできないよこれ。


「・・・俺としては話し合いで解決したいな」

たった数センチの距離、下手に刺激すればこのまま俺は人生から「ぐんない」することになる。ここは言葉を慎重に選んで常に正しい選択をするんだ。そう思っていた時きゅうに体が軽くなった。それが何を意味しているのか直感で分かった。背中に寒気が走る。軽くなった体はふわりと地面を離れ宙に浮いた。地に足がついていなければこちらは何もできなくなる。一方的に殴られるサンドバッグにされるのは避けられない。


下手に動いたせいで体が回転し体制が安定しない。おかげで次の瞬間背中から落ちた。痛てぇ、だがそんなことを思っている暇はない。すぐに起きないとリンチされてしまう。そう思った時にはすでに遅かった。

腹のあたりに衝撃が走る。ユウナが落ちるようにして俺の体に馬乗りになったのだ。本格的にヤバい‼


勢い良く伸びてきた左手を右手で握るようにして受け止め、次に顔を潰しに来た右手を同じようにして左手で受け止める。上から押し潰されそうにになりながら次にどうするべきか考える。


マズい、今世紀最大のマズさかもしれない。馬乗りというのは見てわかる通り乗っかられた側は逃げることができない。しかも乗られた側は攻撃が入りづらい。何か武器でも持っているなら逆転することもできるだろうが何にもない場合は攻撃が届かない、もしくはパンチが入ったとしても大したダメージにならない。

しかも乗っている側の攻撃を防ぎづらく今みたいに上から押し潰すような戦法には十分な力を出すことができない。


負ける!このままじゃ負けてしまう!何か武器がないと逆転することはできない。使える神器はあるにはある。だがそれを使うのは今じゃない。神器の中には本当にチートと言ってもいい最強クラスのものもある。

ただしその神器を使うために使う自身の魔力やエネルギーは他の神器と違い圧倒的に多く、疲労しやすいという弱点がある。要するに本当に困った時に使う奥の手中の奥の手、最終兵器の中でも最終に出す武器ということだ。


仕方ない、使いたくはなかったが禁断のアレを使うことにしよう。それは今、この状況から脱出するための最終手段である。そしてそれを使うということはこの最悪の状況を打開すると同時に

俺自身の立場を危うくしてしまうということでもある。


お前ら喧嘩で自分を有利な状況に運ぶ方法知ってるか?それはな相手の隙をつくことだよ。とてもシンプルだがそれ故に重要なことでもある。俺は今からユウナに隙をつくる。上手くいくかはわからない、一瞬でも隙がつくれればいいけど。


「先に謝っておくぞ」


俺は掴んでいた右手を振り払った。ユウナはすぐに自由になった左手で殴ろうと振りかぶる。だがそれよりも先に俺の右手が素早くユウナの胸に向かって伸びる。そしてむにゅりとその大きな胸を鷲掴みにした。この瞬間、男である坂下レイジは思った。


『あ、やっぱり俺の予想したとおりのサイズだな』と。柔らかさとか男のロマンとかそんなことは考えていなかった。それよりも俺の観察力と考察力も捨てたもんじゃないな、とただそう思った。その時間僅か0.1秒である。


とても危険な行為であるが予定通りユウナに隙ができた。膝を立てて思い切り床を蹴り体制を変える。馬乗りの体制が崩れると同時に後ろへ下がる。


「一応もう一度謝っておくぞ。すまん」

ここは素直に頭を下げる。ピンチだったとはいえやはり女の胸を触るのは良くないことだという自覚はある。どんな試合でも金的攻撃が無いように戦いの中、特に一対一の場合は相手を辱める行為が良くないとは俺なりに思っている。


「謝罪の意思があるなら一発殴らせなさいよ」


「わかった」

そう言って俺は歯を食いしばった。すると右の頬からハンマーで殴られたのかと思うほどの威力のパンチが飛んできた。歯、というよりその周辺の骨が粉砕された。今までに味わったことのない感覚が口に広がるがそれもすぐに治療されいつも通りの感覚に戻った。まあ、これで許してもらえるなら安い方だろう。


「あなたも一発殴っていいわよ」


「俺が色々やらかしちまっただけでお前は別に悪いことしてないだろ」


「ドアを壊したわ。それにあなたの腕を折った」

最後には俺の上顎骨(じょうがくこつ)下顎骨(かがくこつ)を粉砕したけどな。これ俺じゃなかったら大変なことになってるからね?この短い時間で3か所は骨折してるとか普通の人間ならとっくに死んでてもおかしくないから。ちなみに俺が同じようにユウナを殴った場合恐らくユウナは当然死ぬか全治何か月の大ケガである。


それに今回悪いのはどちらかと言えば俺なのでパンチするわけにもいかない。だが一矢報いてやりたいのも事実。じゃあ間をとってこうしてやろう。俺は親指と人差し指で輪っかを作るとユウナの鼻の前にもっていった。もうどうするのかおわかりいただけただろう。俺はそのままピンっと人差し指をはじく。


「あうっ」

最後に鼻へのデコピンでこの大騒ぎは終息を迎えることができた。本人に言うと絶対に怒るので黙っておくが今回この騒ぎで唯一良かったことはお前が見かけによらず結構可愛かったことだよ。本当はこんなに可愛いのに一体何故鬼畜になってしまったのだろうか。


とりあえずこれで仲直りってことでいいんだよな?




さて、恐ろしく長い時間を挟んでようやくリビングにたどり着くことができた。潤っていた俺の財布をスカスカにした高級ソファに横になる。うーむふわふわ過ぎてなんか落ち着かないぞ。そのままソファに沈んでしまいそうだ。


リビングテーブルに乗っている数枚の店の広告の紙、その中にある他とは違う真っ黒な紙がある。手に取ったそれは呪いの手紙とかではなく重要な案件であることを示す色であった。赤い文字で書かれたその文章は誰がどう見ても禍々しく、危機感を覚えるものだった。『キメラ出現の知らせ』エリザベートが言っていたキメラ警戒報だ。


さすがエリザベート、仕事が早いな。これで王都の人々は本格的にキメラに警戒し始めるだろう。そしてキメラの駆除も少しずつ始まっていくはずだ。しばらくは冒険者たちの行動も少なくなり俺も含めて暇になる奴らが増えるだろうがまあ、大けがしたり死んだりするよりはマシだろう。


しかしこんな非常時とはいえやっとまともな理由で休暇がもらえるわけだ。今までいろいろ巻き込まれていろいろやってきたけど俺があくまでも普通の冒険者であるということを忘れてはいけない。しばらくは家でのんびりできると信じている。


「旦那様、玄関に旦那様宛の手紙が」

そう言ってラシェルが渡してきたのは綺麗な白い封筒だった。一瞬誰からだろうか、と思ったがその疑問はすぐに解決した。封を閉じる封蝋の印、それは今では馴染み深くなってしまったハイデン王国王家の印であった。俺はそれを見て「うわー」と目を手で覆いながらその手紙を受け取った。うーん、そうだよね

なんとなくそうなると思ってたよね。


残念ついでに内容を言い当ててみせようか。内容は恐らくこんなかんじだろう。


『坂下レイジへ

キメラの件で話したいことがある。この手紙を読んだならすぐに城まで来て。(以下略』


手紙を開けてみるとすごいことに一言一句違わずにキメラの件で話したいことがある、城まで来いと書かれ、その下にはよくわからん小難しいことが書いてある。どうですかみなさん、この俺の予知能力は。・・・誰に言ってるんだ俺は。どうやら坂下レイジは忙しさという運命から逃れることはできないらしい。現実(リアル)こそが正義だと言うなら俺は空想という悪でいい、初めてそう思えた。


行かないと王国中の兵士をけしかけられそうなので行きたくはないが嫌々行くとしよう。現実とは非情である、か。俺はソファから立ち上がり玄関のドアを開けた。


「行ってらっしゃいませ」

という後ろからの突き放すような冷たい言葉とともに外に出た。




「というわけでやっと休めるかなと思っていたところに鞭打つような手紙が来て行きたくもないのにわざわざこんなところまで来たわけだ」


「・・・あなた服が変わったのね。前はもっと珍しい格好だったのに」

俺の愚痴についてはスルーですか!?今珍しく俺が不満をもらしたというのにまるで何もなかったかのように服の話を始められてしまった。ちなみに服の方は学生服がボロ雑巾みたいになったのでそっちをメイド達に直してもらってる間、別の服を着ているわけである。


「それでなんで呼び出した?」

これ以上服の話をされてもしょうがないので渋々用件について聞く。まあ、だいたい察しはついているが。


「単刀直入に言うとキメラ討伐隊に入りなさい」

やっぱりか、やっぱりそういう感じの忙しくなりそうなやつなのか。俺今すごい愚痴を言ったはずなのに全てをスルーしてそれを言うのか。すごいよまぢで。お前に限らずこのところ出会う女全員の度胸がすごい。やっぱり元の世界だけじゃなくて異世界でも結局は女が強いのか。


「王国騎士はキメラの駆除を開始する、そこにあなたが加わればまさに百人力というやつね」


「それ別に入らなくてもいいような気がするんだけど」


「そんなことないわ。まずこれは仕事として引き受けることになるわけだから当然報酬が出る。次にこちらが掴んでいるキメラの情報を提供する。必要なものは全てこっちで用意するし、欲しいものがあるなら少しくらいはご褒美としてなんとかしてあげる。それにこれが成功すれば勲章も貰えるしあなたにとってはいいことしかないと思うけど?」


勲章には興味はないが確かに報酬が出るうえに欲しいものも用意してくれるし、何よりキメラについての情報を提供してくれるというのが大きい。俺も一週間キメラを狩り続けていたからキメラの種類、行動とかについてはある程度理解しているが生息地や出現地点など全体的なことはやはり俺一人ではどうしようもない。


そう考えると参加するのも悪くない気がする。だがここですんなり参加するほど俺はアホではない。よく言うだろう、おいしい話には裏があると。キメラの出現という非常事態であるとはいえ

サービスが良すぎるような気がする。


「報酬は?」


「どのくらいかはまだ決めてないけど確実に1000万以上出すわね」

報酬金額は悪くない。というより良すぎるかもしれない。だとしたら何だ、何が罠なんだ。このところ人間らしい扱いを受けていないせいで人間不信になってしまったのだろうか、何か裏があるようにしか思えない。


「もしかして何か裏があるんじゃないかと疑っているのかしら?」

ヤベ、もし疑っていることが完全にバレれば絶対に嘘をつかれるに決まってる。そうなれば地獄へと転落もいいところ。今まで以上に過酷な生活が始まってしまうかもしれない。


「裏なんてないわよ、そんなことしていられるほど私達には余裕がない。キメラが出てきてこの国の貿易に制限をかけられたし、住民の安否もある。早急に片付けなければこの国は日に日に苦しくなる一方だもの。それにあなたに声をかけたのはその実力もそうだけど何より信頼できる人物だからよ」


なるほど、事態は俺が思っていたよりも大きな範囲で影響が出るらしい。そして声をかけたのは実力と信頼か。実力に関しては何も言わないが信頼と来たか。キメラは人工的に造られた生き物だ。つまり今回の事件は誰かが造って解き放ったということになる。その時周りにいるのが必ずしも無関係の人間とは限らない。もしかしたらキメラを造ったヤツのスパイの可能性もある。そんな中でエリザベートは俺に声をかけた。


困った女が信頼して助けを求めたんだ。男として、人間として何より坂下レイジという転生者として助けねえわけにはいかねえじゃん。


「受けよう、その仕事を」


「そう言ってくれると信じていたわ。早速だけどこの駆除の間あなたには部隊の隊長として参加してもらうわ。これがあなたの受け持つ部下たちよ」


そう言って渡してきたのは部隊員の名前と経歴などが詳細に書かれた資料だった。全部で6枚、俺を入れて7人の少数部隊らしい。1枚ずつ資料を見ていく。


「あれ?」


この部隊、ほとんど女だ。


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