芽生える友情
「ここは、どこだーーーー!!」
「だからヘルテーカ大図書館でち」
前回までのあらすじ!!俺、坂下レイジは朝飯を食べに食卓に向かおうとしたが途中で道に迷って気がついたら大図書館にいた。そこで禁書を読んだせいで血まみれになって倒れているところをミーティという少女に救われたのだった。そして本格的にココドコー状態に陥ってしまったのだった。
「陥ってしまったのだった、じゃないでち。前回までのあらすじとか慣れないことするなでち。ボロが出る」
「う、うるせいやいっ!」
前回までのあらすじが本当にちゃんとまとまっているのか少し不安なところではあるが別に説明する必要もないだろう。そんなことよりも今俺が置かれている状況の方が問題である。今の状況を一言で説明するなら
ココドコーで二言で説明するならココドコー?ウミナンダケドというところだろう。森の中の屋敷から何がどうなった結果海の近くの大図書館に来たのかがわからない。来た道を戻れば帰れるとは思うがどこの角を何回曲がったのかなんて覚えているはずもない。
これは新天地で頑張れってことかい?俺はそれでもいいけどそれだと今までの登場人物たちは何だったんだよって話になってしまう。それにキメラ問題が残っている。解決するまでは逃げるわけにはいかない。つまりは遠回しに頑張って自力で帰ってくれ、ということになる。
「お前さっきからなんで海に帰りたそうな顔してるでち?」
「してねえよ!?俺はウミガメか!」
一体俺は今どんな顔をしていたのだろうか。ふっ、海に帰りたそうな顔って面白いな。どんな顔なのか全然想像もできないけどきっと遠い目をしてたんだろうなとは思う。でも無意識に遠い目になるのも当然だ。大図書館だなんだと言われてもそれがどこにあるのかについてはまったくわからない。
そんな絶望に叩きのめされながら俺は食糧庫にいた。なんだかんだと騒いでいても腹は減る、ならばまずは朝飯を食おうじゃないか。今日は何を食べようか、経験上朝食のメニューに困った時はとりあえず卵を使っておけば文句を言われることはない。特に目玉焼きは米にもパンにも合うという最強の料理だと思っている。え?そもそもお前料理できるのかって?俺の家は母親が料理できないという致命的な欠点がある。そのため家で料理をするのは決まって俺か妹のどちらかなのだ。
「こんだてを教えてほしいでち」
「目玉焼きとベーコンとなんかいろいろ」
「手伝うでち」
そう言って台所まで来た。予想通り台所の火まで背が足りていないミーティは台に乗ってフライパンを見てくれている。可愛らしい光景の横で俺は情けなく玉ねぎで涙を流し続けていた。冷蔵庫で冷やしておけばマシになるらしいけどこの世界には冷蔵庫っていう便利なものはない。朝から道に迷ったり変なところ来ちゃったり涙流したりと忙しいな俺。
「お前目閉じてるのによく切れるでちね」
「ふふふ伊達に毎日家族の飯作ってなかったからな。目をつぶった状態でも料理くらいできる」
それが原因で何回怪我をしたことか。痛い思い出である。
「私も切るでち」
「じゃあそっちのじゃがいも切ってくだちい」
玉ねぎのせいで目がもう大変なことになってるよ。目開けてもなんにも見えないレベルだよ。この玉ねぎ刺激強すぎるだろ。
涙を拭いて玉ねぎを切り終える。玉ねぎって本当は俺の中ではベスト3に入るくらい調理したくない食材なんだよな。
ちなみにランキングは1位が里芋だな。こいつヌルヌルしてるから皮剥くときに滑るんだよ。そのせいで何回台所と指を血まみれにしたことか。2位は魚かな。理由は面倒くさい、ただそれだけだ。
「ミーティ手が違うぞ」
「でちっ!?どこが違うでち!?」
「左手はヌコ(猫)の手やで」
「ぬこ、ぬこの手でち」
俺も最初の頃はそうだった。夢中になるうちついつい食材を押える左手がニャーハンドであることを忘れてしまう。その度に妹に注意されたり逆に注意したりと兄妹揃って色々(8割は俺が里芋で指を切る事故)やらかしていたものだ。まあもう何年も前の話だが。
じゃがいも切って、ニンジン切って鍋に食材とか色々ぶち込めばあっという間にそれっぽいオニオンスープの出来上がり。コンソメの素という概念がないことに気がついたらときは「あれ?これやばくね?」とも思った。
けど安心してください。
この坂下、元の世界でコンソメの素がなかったことに気が付かずやらかした経験からちゃんと代用できそうなスープの作り方を調べておきました。なんでもニンジンの皮、玉ねぎの皮や端、マッシュルームの軸、セロリの葉そしてベーコンを煮込むとスープができるらしい。
味はどんなものなのかわからないがただのお湯に入れるよりはいいだろう。テーブルに並べられた朝食は目玉焼きとベーコン、パン、オニオンスープとなかなか豪華なものだった。
「「いただきます/でち」」
早速オニオンスープを飲んでみる。まあ、味は悪くないと思う。もうちょっと塩コショウを入れておくべきだったか。っておいおい誰だニンジンの皮をちゃんと剥かなかった奴は。(多分俺)
目玉焼きに手を出したがやっぱり物足りないな。
何度も言うようだけど俺目玉焼きには醤油派なんだよなぁ。どこか物足りない思いをしながらも朝食を終える。やはり醤油というものが欲しいな。ミーティは口元を拭いた。
「誰かと食事をするのは久しぶりでち」
そういえばここに来てからミーティ以外の人に出会っていない。こんな広い図書館を管理するにはそれなりの人手が必要なはずだ。どこかで人と出会わないのは少し不自然な気がする。
「ここには他の人はいないのか?」
「この大図書館の管理は私が全部一人でやってるでち」
「一人って、こんな広いのに?」
「ここは私の家でち。だからここは私が守るでち」
なるほど、ここが家なのか。詳しい理由については恐らく聞かないほうがいいのだろう。なんとなくだがそんな気がする。自分の家って大事だよな、そこで生まれて育っていろんな思い出があるもんな。たとえどんなに広かろうが汚かろうがやっぱり自分の家は守りたいものだ。かく言う俺も・・・いやこの話はやめておこう。
「ここってハイデン王国のどのあたりなんだ?」
俺は話を変えて帰ることを考えることにした。
「ここはどこの国でもないでち」
「どこの国でもないってどういうことだ?」
ミーティは本で散らかった床から丸まった何かを取り出した。それを机の上に置いて広げると俺にちょいちょいと手招きした。机に広げられたそれは机から少しはみ出るくらい大きな世界地図。見てみると地図一面にアジア大陸より何倍も大きな大陸が描かれていた。そこに書かれている土地の5割はグリフォード帝国、4割がラガエルという世界で2番目の大きさを誇る王国、そして残りの1割がハイデン王国だった。
1割と言われるとすごく狭いように感じるがそれでも地図の縮尺を見る限りハイデン王国の大きさは恐らくロシアの数倍の大きさだと思われる。スケールが違いすぎる、何もかもが俺がいた元の世界よりも大きい。
さらにその地図の左上と右上に『暗黒大陸』と書かれた別の大陸がある。この地図はあくまで今の人類が確認できた世界
の地図ということになる。この世界の本当の広さを知っているものは一人もいない、それほどこの世界は広く、自然界の弱肉強食がはっきりしている。
「ここがハイデン王国でち」
そう言ってミーティが指さしたのはそんな広い世界の中の小さな小さな国だった。
「そしてここがヘルテーカ大図書館でち」
次に指さしたのはグリフォード帝国領土の端っこ。そこにある小さな空白はグリフォード帝国の領土とは違う別の何か。
「ここは?」
「ここは空白領域、この大図書館とこの周辺はどこにも属していない土地ということになっているでち」
ハイデン王国と今いる空白領域との距離はかなり離れている。どう考えても寝ぼけてさまよってここまで来たとは当然考えられない、直接来るとしてもこの距離はどう見たって三千里くらい遠い。ここまでの事から
推測するにどうやら俺はハイデン王国の王都にある豆腐ハウスからグリフォード帝国の空白領域にあるヘルテーカ大図書館までワープしてしまったようだ。
「なあ、遠いところから瞬間移動する方法とかって知ってるか?」
行きでワープできたなら帰りもワープすることもできるはず。
「知らなくはないでちね。ある場所に専用の魔法陣を設置して別の場所にも同じ魔法陣を設置、それをさらに魔力で編んだ糸か何かしらの魔道具で接続すれば理論上は可能でち。成功するかは別でちけど」
「失敗するとどうなるんだ?」
嫌な予感しかしないが一応聞いておく。
「運が良ければ魔法陣の起動に失敗するだけでち、逆に運が悪ければ魔法的に分解されて無に帰るでち。
魔法陣での移動の仕組みは簡単に言うと一方の魔法陣で対象を分解、もう一方で対象を再構成するというものでちから」
さらっと恐ろしいことを言ったな。対象を分解して再構成する。失敗すればどうなるのか見当もつかない。
分解されて無になってしまうのか、再構成の途中で何かアクシデントが起きればどんな残酷なことになるだろうか。俺がここに来た時には魔法陣らしきものはなかったはずだ。
「他にはないのか?」
「そうでちね・・・超高難度の魔法の中に空間と空間を切り取って繋げるものがあるでち。でもそんなことができるのなんて先生くらいしか・・・」
「でっちーはできないのか?」
「でっちー!?でちはできないでちけど、っていうかでっちーじゃないでち!」
すごいでちでちしててちょっと何言ってるかわからないけどとりあえず空間を繋げるほどの魔法は使えないってことか。俺が来た道は誰かが空間同士を繋げて作ったのか。
「世話になった。俺はそろそろ行くよ」
俺はドアを開け階段を降りて入ってきたドアの前に立った。
いつまでもここにいても始まらない。正直またあの地獄のような迷路を歩くのは面倒くさくてしょうがないが頑張って戻るしかない。
「また遊びに来いでち」
「ああ、いつかな」
俺はドアノブを回しその扉を開けた。
「・・・・・・」
そこに広がっていたのは最初の長い廊下ではなくある女の部屋。
そして女は珍しく目をまん丸にして驚いた顔でこちらを見ている。俺も予想外の出来事に頭が追いつかず思考が停止、女を見る。ただの女ではない。普段はホットパンツに「そこ長いの需要あります?」というくらい裾の長いライダースジャケット、白っぽいピッタリくっつき気味のTシャツ、そしてどこかの軍帽というダサいファッションを着こなす重力操作の能力を持つ鬼畜野郎。
それがお着替え中でした。
このときの出来事を坂下レイジは後にこう語る。
『完全に下着オンリーでしたわ。流石にあの時は俺も命の危機を感じましたね。下着姿を脳に焼き付ける気さえ起きなかったですよ。さっさとドアを閉じました。一刻も早くドアを閉じないと死ぬんじゃないかという恐怖が体に染み付いていたんでしょうね』
「・・・・・・おっふ」
長い沈黙のあと俺はそっとドアを閉じた。そして深呼吸だ。
吸って吸って吸って吐く。気持ちが落ち着いたところで改めてドアノブを回し扉を開ける。すると今度はさっきとは違う台所が見えた。今度は何も起こらずに済んだらしい。そう思った矢先に
「どういうこと!!あの女は誰!!」
「し、仕事の仲間だよ」
男女が正面の部屋から出てきた。女の方は問い詰めることに男は言い訳に必死でこちらに気がついていない。
「嘘よ!!宿屋からあの女と一緒に出て来るのを見たっていう人がいるのよ!」
「知らないよ、人違いじゃないのか?」
わーお、これが本当の修羅場ってやつか。どうやら男の方が浮気していたようだ。見てはいけないものを見ているような気がするがこれはこれで続きが気になるお年頃。もう少し見ておくか。
「遊びに来たわよ」
そう言って入ってきたのはまた別の女。浮気相手か。こうして揃ってはいけない3人が揃ってしまった。これから始まるのは皆さんお察しの通り泥沼の人間関係だ。
「ねえ、これどういうこと?」
「そ、それは」
男の方はついに言い逃れできなくなったか。そこからは予想通り暴言が飛び交い殴り合いになりドロドロギスギスのバトルが始まった。
「これが三角関係でちか」
「お前は見ちゃダメ」
俺はミーティの目と耳をふさいだ。
「何するでち!?」
ミーティはバタバタ暴れているがこんな醜い争いを見せるわけにはいかない。ミーティが何歳なのか知らないがとりあえず誰にとっても教育に悪い。俺はドアを閉じた。今の修羅場を見て改めて思ったことは浮気、ダメ、絶対ということだ。
さて色々あったが本来の目的に戻ろう。問題なのは開けるたびに繋がっている場所が違うということだ。空間の繋がりが線路の分岐器みたいに切り替わるなら狙ったところに繋げるのは難しいな。何度か開け閉めして試さないといけない。
「空間の繋がりを安定させる方法とかないのか?」
「しょうがないでちね」
ミーティはそう言うとドアに近づいて3回だけノックした。
「これで大丈夫でち」
「本当かよ」
そんなことで俺の行きたいところにちゃんと繋がっているとは思えないが。ゆっくりドアを開ける。するとそこには俺の部屋である地下室のドアがあった。本当にピンポイントで繋がった。
「悪いな最後まで世話になっちまった」
「気にするなでち。それよりこれを持ってくでち」
そう言って渡してきたのは魔法陣の描かれた紙。
「こいつをドアに貼っておけばまたこっちに来られるでち」
ミーティはモジモジしながら言った。
「なんて言うかこっちには全然人が来ないでち、だから・・・また来いでち」
「でっちー・・・」
そりゃそうかあんな遠いところにあるんじゃ人なんてそうそう来ない。人が来ない間ミーティはずっと1人であの広い大図書館を管理している。そんなの寂しいに決まってる。誰とも話すこともなく、誰とも会うこともなくただ1人であの図書館に縛られているんだ。
「ああ、どうせ暇だからな」
俺は手を出した。それは握手を求める手である。
ミーティは最初何だったのかわからないという表情をしていたが
それが意味するものを理解すると迷わずその手を握った。
それは短い時間ではあったが俺とミーティの間に芽生えた友情の証だった。




