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幸運とは一瞬らしい

「それで要塞の中にいたのはどうして?」

話題は要塞にいた理由に移った。


「あれは王都に行こうとしてたら近くが騒がしいから寄ってみただけ。中に入った時に騎士が入ってきて私をモンスターと勘違い、それであの場面に繋がったの」


なるほど、そんな経緯だったのか。最初に出会った時俺はてっきりこいつがモンスター集団の中のボスなのかと思ってた。だってそうだろう?あんなモンスターまみれの要塞で平然と騎士を倒して出てくるんだもん絶対何かあると思うじゃん。実際は俺が暴れていたうるささに反応して寄っただけという大したことない理由だった。


これでユウナの疑いは完全に晴れた。エリザベート達が嫌悪してくることもないしユウナがエリザベート達を嫌悪することもないだろう。これにて一件落着、本当にめでたしということで良いんだよな。かなり長引く泥沼の戦いになるかと思っていたが案外すんなり解決してくれてよかった。


もし長引けば俺もおっさんも口から泡を吹いてぶっ倒れていたかもしれない。

「さて、次はあなただけど」


ワーオすっかり忘れてたけど俺これから説教されるんだった。

イイハナシダナーで終わってくれないのがこの世界での俺の人生らしい。よーし来いよ今から右耳から入って左耳から抜ける馬の耳に念仏モードに入ってやる。バレたらお説教はより長く厳しくなるだろうけど。


「今回あなたが勝手な行動をしたせいで私をとても怒らせたわけだけど」

ゴクリと自分の唾をのむ音がハッキリ聞こえる。長い地獄が始まろうとしている。今回はどんなお説教が始まるんだろうか。もはや苦痛を通り過ぎて一種の楽しみにすらなっている。皆見ていろ俺が普段どんな風に怒られているのか、お前たちの国の姫様がどう説教してくるのかを。生きているうちにその目に焼きつけておけ。


「今回だけは不問にしておくわ」


「まじで!」


「なんていうか怒る気分じゃなくなっちゃったもの」

神よ。かつてこれほどにも神に感謝した日があっただろうか。今のこの瞬間の俺の信仰心はおそらく協会のシスターにも負けていないだろう。そのくらい膝をつき手を組んで天に祈りたい。まあ多分3分後には一切の感謝も信仰心もなくなっているだろうけど。



数分後

初の説教回避に成功した俺はマネーチに言われた通りデネリー商会にいた。だが呼んだ本人がなかなか現れない。何をしてるんだあのチョビ髭は。かわりにハンチング帽をかぶったお兄さんが「あーマネーチさんのお客さんっすか。マネーチさん今出掛けてるんすよね」とだけ教えてくれた。さて厄介なことになってしまったぞ。このすごいつまらない暇な空間に俺を置き去りにするな。


せめて一人で遊べるものがあればいいんだが無論そんなものはない。こういう暇なときはゲームするか、水中輪投げのおもちゃで遊んでいる。水中輪投げは普通ないだろって?いやいや俺はスマホの充電切れに備えて学校のカバンの中に仕込ませてあったぞ。(ある日見つかって没収され、そのまま帰ってこなかった)


まあそんなことはいい。とにかくマネーチが来ない。入れ違いになるかもしれないしこの場を離れることができない。最悪な状況だ。


するとハンチングお兄さんが「すんませんお客さんマネーチさん夕方には帰ってくると思うんでまた夕方来てもらっていいすか?」


本当に何をやってんだあの髭は。仕方ないまた夕方に来るとするか。俺は店を出て城に戻った。ベッドに寝っ転がり目を閉じる。

久しぶりのベッドだ。背中はもう硬い地面で寝ることに慣れたが

やはりベッドというものは良い。


ベッドの上に置き去りにした自分の鎧が綺麗に置かれているが気にせずにこのまま眠ってしまおうと思う。夕方まではまだまだ時間がある。疲れた。寝よう。そうして俺は意識を手放した。

そういえば布団に入ってすぐに寝る人は気絶の可能性があるらしいね。




さて私はどうしたものか。レイジは「帰って寝る」とは言っていたが私の現在の部屋のベッドはどこかのバカに占領され週刊少年シャンプーとポテチで散らかってとても寝れるような状況ではない。出掛けても帰ってきても硬い床で寝なければいけないらしい。今ごろ向こうは良いベッドで寝ているんだろうなと思うと羨ましい。


レイジもエリアス自身も言っていたが本当にこのグータラ少女は水の天使なのだろうか。私のイメージしている天使とは全く逆のダメダメな人間にしか見えない。少なくとも天使は天使でも駄天使という方が合っているのは間違いない。


「むにゃむにゃ」

当の本人はそんな汚いベッドの上でお腹を出して寝ている。

天使以前に女としてだらしない。同じ女としては見ていて恥ずかしい。もう寝るのは諦めたほうがいいのかもしれない。


ベッドに腰掛けそばに置いてあった週刊少年シャンプーを手に取る。表紙を飾るのは世界的有名な漫画家、小鳥谷あいさの

『勇者戦記』。漫画を読まない私でもストーリーくらいは知ってる超有名漫画だ。しかもこれちょうど元の世界での今週号なんじゃないだろうか。


ペラペラとページをめくり中身を見る。たまにはこうして漫画を読んでみるのも悪くないのかもしれない。特に『勇者戦記』は面白い。話は途中からではあるがそれでもついつい引き込まれてしまう。


内容は主人公の勇者が冒険の中でいろんなことに巻き込まれるというシンプルな話だがそのシンプルなテーマに対してストーリーは深くバトルシーンや行く手を阻む敵も魅力的で多くのファンから支持を集めている。


今回から学生編というのに入るらしい。勇者はふとした理由から貴族のお嬢様が通う学校に編入することになりそこで四苦八苦しながら日々を過ごしていくようだがこの話、どこかで見たことあるような気がする。


気のせいか私の近くにも男のくせに女子校に行ったバカがいる。

しかも主人公とソイツの性格が若干似ている。明るくハキハキ喋り、頭の悪い脳筋でチートで時々エロ野郎。私の気のせいだろうか。この漫画の主人公があのアホ馬鹿脳筋チートエロ野郎をモデルにしているのかアホ馬鹿脳筋チートエロ野郎がこの主人公を真似しているのか、はたまた偶然か。


ダメだ。だんだんこの漫画の主人公がアイツに見えてくる。私は漫画を閉じた。やっぱり寝よう。きっと疲れているんだ。だから変な錯覚が見え始めているんだ。そう思うことにしよう。


エリアスから毛布だけ剥ぎ取って床に寝た。体が硬い床に寝ることに慣れてきているのを実感した。




夕方。

ちょうど目が覚めた。体が重い。俺はそれほどに疲れていたのか。当然といえば当然か。このところ帰ってきてもすぐにあちこちに行ってまともに休む暇がない。冒険者とはそこら辺のブラック企業よりもブラックな職業なのかもしれない。だがそんなことを言っていることもできない。早くデネリー商会に行って家を買わなければ。


明日からまたいつも通り稼ぎに行かなければならない。しかもあの家で生活するには今以上に稼がなきゃいけない。忙しくなりそうだ。重い体を無理やり起こす。すると体の重さがするりと横にずれた。俺体はついに疲れすぎて融けてしまったのだろうか。やべーなーと思いながらも毛布をめくるとそこには 幸せそうに眠るアイリスがいた。


あらやだ、幸せそうに寝ちゃって。でもこの状況が君のお姉さんに知れたら怒られるのは俺なのよ?せっかく回避したのに逆戻りよ?俺は起こさないようにそっとアイリスを横に除けようとしたが動かない。

あれ?なんか知らないけど動かないんだが。毛布を完全にめくるとどうやら俺の体にがっちり抱きついているらしい。


頑張って引き剥がそうとするが剥がれる気がしない。何この力!?とても少女の力とは思えないんだけど!

お前本当に少女か?と疑いたくなるほどの力の強さ。転生者の俺でさえ剥がせないって一体どういうことなの。少女か以前に人間なのかも怪しくなってきた。


とりあえずベッドから出てみるがそれでもがっちりくっついている。いやぁお前スゲェよマジで。

接着剤のCMと間違えられるくらい丈夫にくっついてるのもそうだけどこの状況で全く起きる気配がないというのがまたすごい。人間は本気で寝るとここまで深く眠れるらしい。


俺はこれからどうすればいいのだろうか。

「おい、起きろそして離れて」

ポンポン頭を叩いて起こそうとするが無反応である。どうしよう。このままじゃ外に出られない。最悪デネリー商会には明日行くとしてこのまま引きこもることもできる。だがこのままここにいると変な誤解を招きそうで怖い。どこにいても何かしらの問題が付きまとうという厄介なパターンである。


どうする?このまま寝るか?そうすればアイリスの存在を隠すことはできる。その代わりデネリー商会に行くのは諦めるしかない。でもその方がいいのかもしれない。このまま外に出ると俺が社会的に死ぬことになるのは明白、最悪の場合処刑される可能性がある。


寝よう。俺はそう決めてベッドに入ろうとしたときガチャリとドアが開いた。

振り向くとそこに立っているのはやはりいつものあの女。そうだねエリザベートだね。

あ、終わったな。言い訳をする気にすらならない。どうせ言ったところで聞いてもらえないんだから。

しかも持っている書類の束を見るにお前また俺に何か頼む気だったよね。


「何をしているのかしら?」


「聞いてもらえないだろうけど一応言っておくぞ。今回も俺は悪くないからな」

今まで理不尽に怒られていたが俺が悪かったとことなんてほとんどない。


「あ、そう」

状況が状況なのでエリザベートもどう反応していいのか困っているようだった。

そりゃそうだ。自分の妹が寝ながら知り合いの冒険者の男に抱き着いているうえに抱き着かれている本人はすごく微妙な反応という何とも言えない不思議な状況なのだから。


「俺はどうすればよろしいのでございますか?」


「私が剥がすからそこにいて」

エリザベートはそう言うとアイリスの足を掴みそのまま引っ張った。無論簡単には剥がれない。俺はエリザベートが引っ張る方向とは反対側に動く。アイリスのせいで体がちぎれそうなほどに痛い。

この子本当に人間なんだよね!?


「ぐぬぬぬ」

そしてついに、グキリという音とともにようやくアイリスを引き剥がすことができた。

その代わり俺は地面に倒れた。どうやらまた背骨が折れたらしい。まさか1日に2回も背骨を折られることになるとは今日もついていない日だな。


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