家を買う
あれから町をぐるぐると歩き回ったが不動産的な店はなかった。おっかしいなー。普通どっかしらにそういう店があると思うんだけどな。ないとするとこの世界の人たちは家を勝手に建てて暮らしてるってことになるが。普通に考えてそれはないよな。だってそんなことしたら管理が追い付かないし。困ってしまったぞ、せめて交番みたいに道案内してくれるところがあればいいんだが。俺が辺りをきょろきょろ見回していると『無料案内所』と書いてある小さな店があった。ラッキー!俺が無料案内所に歩きだすとユウナに肩を掴まれた。
「一応聞いておくけど、どこ行くの?」
「あの案内所ってところで不動産の場所教えてもらおうと思って」
「これも一応聞いておくけどあれがどういう店かわかってる?」
「案内所って書いてあるし交番みたいに道案内してくれる店だろ?」
ユウナは「嘘でしょ・・・頭痛がするわ」とでも言わんばかりに頭を押さえた。俺なんか間違ってたのかな?
無料案内所ってその名の通り案内してくれるところじゃないの?間違ってたらごめんね、俺ってそこそこ田舎の方に住んでたからちょっとよくわかんないわ。とりあえず無料案内所は道案内してくれる店じゃないらしい。
でもそれだと本当に困ったな全くのノーヒントだぞ。今のうちに言っておくが『お前1か月以上王都に住んでたんじゃねえのかよ』というツッコミはなしにしてもらいたい。家を買う以前に家を買うための店がないというどうしようもない事態に
陥ってしまった。
「分かったわ。デネリー商会の店に行けばいいらしいわ」
・・・お前は優秀だな。俺が1人悩んでいる間に一体何があった。
一体どこから答えを得たんじゃ。
デネリー商会か。たしか冒険者用の防具とか売ってるところだったと思ったが家まで売ってんのか。防具専門かと思っていたが何でも扱ってる感じなのか。
「それでそのデネリー商会は何処にあるんだ?」
「さあ」
状況大して進展してないんかーい。仕方ないが歩き回って探すしかないか。店の場所もわからないとか俺1ヶ月以上住んでたのに一体何をしていたんだ。
十数分後。
マジか。マジで言ってんの?この現実を直視したくない自分がいる。こんなことあるか?普通。横目で見てくるユウナ先輩の視線が心に突き刺さる。そんな目で見ないでくれ。
いくら商会が黄金の鹿の3つ隣だったからって俺を
『何やってんだこいつ』みたいな目で見ないで!!
俺って本当にこの1ヶ月以上何をやっていたんだろうか。
誰か教えてよ!何で3つ隣にある店すら俺は覚えていないんだろうか。かなりぼんやりと過ごしていたことがモロバレじゃねえか。
レベルがもうぼんやりのレベルじゃねえ。無意識、何も見ず考えず感じず過ごしていたにも等しい。
俺は扉を開けて中に入った。
「いらっしゃいませ、本日はどのような御用でしょうか?」
チョビ髭の男がカウンター越しに挨拶してくる。
店の中は郵便局に近いような気がする。
「家を買おうかなと」
「なるほど、それではこちらにどうぞ」
俺達が案内されたのは長いカウンターの一番端っこ。唯一仕切りで区切られているスペースだった。若干狭いそのスペースにどうにか2人並んで座る。
「私ここの責任者のマネーチ·マネーと申します」
なんだその金に埋もれてそうな名前は。本当に本名か?
「早速ですがどのような物件をお求めですか?」
「2500万以内で広めの家が良いんだけど」
「ええと2500万以下で広め·······これなんかどうです?」
そう言って見せられたのは部屋の見取り図。見たところ部屋は6つ
、リビングは広めで風呂が···風呂狭くね?公衆トイレの個室2つくらいしかないんじゃないかこれ。もうそれ風呂じゃないよ?ただのお湯溜まりだよ。俺ん家の風呂だってもうちょっと広かったぞ。この風呂は間違いなく足が伸ばせない。
しかもこの物件場所がすごい遠いな。
「ここはちょっと駄目だな」
俺は出された書類を漁る。ちょっと待てどの家もどこかしら欠陥があるんだけど。なんだこの家、何で部屋の中にギザギザの線が入ってんの?説明がなんにもないし。
更にガサゴソ漁っていると700万の物件を見つけた。
部屋は8、9、10部屋!?更にそれとは別に書庫と地下室、どこか怪しい実験室っていうのがついてる。全部で13部屋ある2階建てで、庭までついてる。スゲー、スゲーんだけどすっごい怪しい。
「この物件って」
「その物件は少し古いので改修しないとですが大変お買い得ですよ。ここから近くなので見に行ってみますか?」
「行こう」
俺達は店を出て歩き出した。歩いて行けるほど近くにあるのか。お城を通り過ぎ、建物が少なくなってきた。この辺りは建物が集中しておらず木とかが生えている。こんな所があったなんて知らなかった。
「ここです」
は?なんすかこの胡麻豆腐にほうれん草のお浸し乗っけたみたいな家は。(訳:何だこの豆腐みたいに四角い灰色の家は、しかも植物の蔦がすごい壁に張ってるけど)
わざとなのか手入れをしていないのかわからないがおしゃれ、とは言えない。
「中もよろしければ見て行ってください」
「一緒に来ないのか?」
「私はここにおりますのでご自由に見ていただいて」
お前、中に入りたくないだけだろ。これ本当に大丈夫だよな。
今にも何か出でてきそうなんだけど。俺達はドアを開けて家の中に入った。中はずっと使われていなかったのかホコリがひどい。
かび臭いな。ただのボロ屋じゃねえか。俺は家を買いに来たんであって幽霊屋敷を探検しに来たんじゃないぞ。
「私は2階に行ってみるわ」
ユウナはそう言って階段を上がっていった。
どこを歩いてもミシミシと床のきしむ音が聞こえる。床は木でできてるのか。ドアを開けて中を確かめる。
こちらもホコリはひどいがそれ以外は問題なさそうだった。
掃除すればまた使えるんじゃないか。
その時どこかからバキッという音が聞こえた。急いで音のした方に行ってみると。
そこには天井から誰かさんの下半身が突き出ていた。どうやら床が抜けたらしい。
結局ここも欠陥住宅じゃねえか。
にしても天井からホットパンツと生足が出ていると何かエロい。
俺はそれを放置して2階に上がると予想通り胸のあたりまで床に埋まったユウナがいた。
最後の最後で胸が引っかかって落ちずに済んだようだ。なかなか面白い光景だな。パッと見下半身がなくなったようにしか見えないけど。
「胸が痛いからそろそろ引っ張り上げてもらえないかしら」
「了解」
俺はユウナの脇のところに手を入れてそのまま持ち上げた。
ユウナは笑顔で「ありがとう」と言ったが口元がひくついてる。目も笑ってないしな。表情筋硬いんじゃないか?もっと笑顔の練習した方がいいぞ。いくら脇に手を入れたからってそこまで怒らなくてもいいだろ。
それしか持ち上げる方法がなかったんだから。
だがユウナを引き上げたと同時に今度は俺のいたところの床が抜けた。状況が逆転し今度はユウナが俺を見下ろしている。
「あの、引き上げてもらっていいですか」
「ええ、もちろんよ」
「もちろんよと言いつつ何故足を上げているんですかね」
「別に、ただ今のうちに踏んでおいた方がいいかなと思って」
「待て待て!!ヒールは駄目だって!!冗談にならないから!!」
その後どうなったかはみんなの想像におまかせしたいと思う。
果たしてヒールで踏まれたのか生足で踏まれたのかそれとも
重力で潰されそうになったのか。もしくはその全てか。
おかしくないか。俺は何もしていないのになぜこんな目に合わなければならないんだろうか。もう理不尽を通り越してただのサイコパスだぞ。これはあれか、神罰か天罰か?今までしてきた悪いことに対しての罰なのか。ここまで理不尽、主に殴られたり蹴られたり踏まれたりしている不幸な主人公はそうそういないんかないだろうか。いや、いないな(確信)。
「どうでしょうか?」
「まあ床が抜けたけど直せばなんとかなりそうだな。買うよ」
ボロ屋を出てマネーチと話す。そこそこ広いわけだしこの屋敷で良いだろう。掃除が大変なうえに空き巣に入られそうで怖いけど。
「ありがとうございます。ではこの書類にサインを」
俺は渡された書類に日本語で名前を書いた。実のところ読むのはできるが書けと言われるとよく分かんない。何度か練習はしたんだけどな。早く覚えないとこれから先絶対に詰む。
「奥様の方もサインを」
は?その言葉に俺達は固まった。奥様?奥様ってなんだよ。
どういうことなの誰が誰の奥様なの?もしかしなくてもこれってそういうことか?
「私達別に夫婦じゃ」
「にしても危なかったですね。今日が新婚応援期間の最終日だったんですよ」
「新婚応援期間?」
「ええ、新婚の人たちに新生活で役立つものをプレゼントしたり物件購入価格の割引を行っているんですよ」
うわーなんか面倒くせー。これってすでに面倒ごとに巻き込まれてるよな。しかも今までの中で一番大事で面倒なパターン。
「割引ってどのくらい?」
一応それだけは聞いておこう。割引という単語に反応してしまうのは仕方のないことなんだ。
「最大150万です。今回の場合は700万ですから550万くらいになりますね」
いやらしいことにけっこう安くしてくるな。俺達は夫婦じゃないし俺が700万払うから関係ないけど。奥様と呼ばれた当の本人を見てみると苦渋に満ちたような顔をしていた。
わかりづらく言うと『ようやく見つけた両親の仇をいい感じ追い詰めたがあと少しのところで逃してしまった』そんな顔をしている。悔しい顔と言うのが1番近いかな。
俺と夫婦に間違われるのがそんなに嫌なのか。そこまで嫌がられると心の広い坂下さんもちょっと傷付くと同時に怒るぞ。
「良かったわねアナタ」
笑ってるつもりなのかもしれないけど目が笑ってないんだよなぁ。ユウナは書類にサインした。
「ありがとうございます。では今この瞬間からこの物件は坂下様の物になりました。私は書類をまとめておきますので一時間後にまた店の方に来てください」
そう言ってマネーチはさっさと帰ってしまった。静かな空間に俺とユウナが取り残される。
俺の親父は24の時に結婚して26の時にはマイホームを持っていたらしいけど俺は17にして親父よりもデカイ家を手に入れ、夫婦認定されちまったよ。もう不安しかないんだけど。親父でもおふくろでも妹でもいいから誰か助けてくれ。
「なあ、1つ聞きたいんだがどうしてサインしたんだ?否定すればよかったのに」
「別に、私も自分の家が必要だったし安く済むならその方がいいに決まってる。それに同じ転生者同士近くにいた方が何かあっても対処できるってだけよ」
コイツなりの考えあってのことか。なかなか1人になれないな。
1人でのんびりこの家で過ごそうと思っていたがそうもいかないようだ。寮みたいなものだと思えばいいか。
「じゃあ同業者改め住居人としてこれからもよろしく」
俺は手を出した。
「ええ、こちらこそもよろしく。でも握手はしないわよ。私達はこれで十分」
そう言ってユウナは拳を突き出した。やれやれ素直じゃないやつだ。俺は自分の拳をコツンとユウナの拳にぶつけた。コイツこういうところはいいやつなんだけどなぁ。一体どこであんな性格になってしまったんだろうか。




