ようやく進展
粉塵が晴れオーバーロードの姿が見える。
左手はすでになく、右手もひびが入りもはや砕ける手前。
頭のひびも徐々に広がっている。確実に弱っているはずだがその赤く光る目は未だに輝きを失ってはいない。さすがに高難易度クエストのボスだな。でもここで倒してやる。
俺は地面を蹴り、オーバーロードに接近する。拳の攻撃圏内に入り拳を振り上げる。この一撃で肋骨をもらう!振り下ろした拳はまっすぐにオーバーロードのコアを捉えていた。だがオーバーロードはそれを上に飛ぶことで躱した。狙いは大きく外れ少しかすっただけだった。
上に避けたオーバーロードはボロボロの右手で石天井を砕いた。
そして砕いた穴から更に上へと向かう。地上に逃げる気か!
天井にぽっかり大きな穴が空いた。しばらくぶりの太陽の光が眩しい。
「逃がすもんか」
俺は思いっきりジャンプして地上に出る。今度こそ仕留めてやる。青空の下、俺とオーバーロードは正面から向き合いお互いにじっと睨み合う。その光景は西部劇に出てくるガンマン達が
1対1の早撃ち勝負をするのにも似ているような雰囲気だ。
本物の早撃ちは正当防衛にするため相手が銃を抜いたあとから銃を抜くらしい。が、この勝負はどちらが先なのか。ただそれだけの勝負。
正当防衛も何もない。遅かったほうが相手にぶっ飛ばされる。
それでもじっと待つのは攻撃したときに隙ができるから。
早すぎても遅すぎてもダメなんだ。
そして俺とオーバーロードは同時に距離を詰めた。お互いに拳を振り上げ、そして全力で振り下ろす。2つの拳がぶつかりそこに衝撃波が生まれる。ミシミシと骨の砕ける音が静かに鳴る。
オーバーロードの右手は完全に砕けた。だが砕けたのは俺も同じだ。今の一撃でガントレットの一部が僅かに変形、そして俺の腕折れた。やっぱり高難易度なだけある。俺の腕を折るだけじゃなく神器を僅かにでも凹ませるんだから。こんなの普通の人間が勝てるわけがない。
俺は後ろに下がって折れた方の腕を動かす。折れたと言ってもすぐに治ったっぽい。今まで自覚なかったけど俺もなかなかのチート野郎だな。さっき骨折したのにもう治ってるって治癒力高すぎないか。
「じゃあ仕上げといこうか」
俺は『SF剣』を装備した。あとはコアを破壊すれば終わり。
俺はゆっくり歩き始め少しずつ速度を上げて、最後には走って
オーバーロードのコア目掛けて剣先を向けた。剣はコアに吸い込まれるようにまっすぐにコアを守る肋骨を貫通し、そのまま突き刺さった。
突き刺したところから光が漏れ出す。
オオァァァァアアア!!と獣にも人にも似ないオーバーロードの咆哮が響く。
俺はコアを割ろうと更に力を入れるがなかなか剣が深く刺さらない。うまく力が入ってないのか?もしかしたら治っているとはいえさっきの骨折が多少は効いているのかもしれない。
その時また剣が吸い込まれるように剣が動いた。いや、吸い込まれてるんじゃない!これは剣の重力が横に向いているのか!
「何、遊んでるのよ。早くして」
顔色の悪いユウナがだるそうに腹を押さえながら立っていた。
「わかってるよ!」
全体重をかけて剣を押す。グググッと無理矢理コアにねじ込む。
そしてついにパキンという音とともにコアが割れた。
コアから光が消え、浮いていた体は地に落ちた。オーバーロードの目に光はなく、頭もグッタリとしていた。
エンシェントオーバーロード完全に倒した瞬間だった。
「よっっしゃーー!!!」
倒した。ようやく倒したんだ。長かった。遺跡に来る途中で何かいろいろあったけど、エンシェントオーバーロードの幻術を破って重力に耐えて遂に倒せたんだ!!やりきった感が尋常じゃない。
この喜びをどう例えるべきだろうか。
甲子園で優勝するのと同じくらいといえば伝わるだろうか。
それとも夢が叶った瞬間とでも言うべきか。とにかく嬉しくて楽しくてしょうがない。あくまで心の中はね。
体の方はもうクタクタだ。疲れたよまったく。
倒れた柱にもたれて座っているユウナの隣にストンと座る。
お互いに無言で見つめ合う。なんだこの状況は。目と目が合う瞬間なんちゃかだと気づいた。って歌った方がいいか?
グギュウゥゥーとお互いの腹が鳴った。
「ふっ」
そこで二人とも吹き出した。俺とユウナの笑い声が静かな遺跡に
1つ響いている。この一軒でユウナとの絆は多少は深まっただろうか。俺のことあんまり信用してなさそうだし、少しは信用してくれるようになると良いけど。
「キャロリーメイト食べる?」
「正直嫌だけど今は気分がいいからもらうわ」
いつも通りのチョコ味が口の中に広がる。飽きた味だがどうしてかいつもより美味しく感じる。あっという間にキャロリーメイト
4箱を平らげてしまった。やはりあまり食べた気にはなれない。
帰って肉食べたいなぁ。肩に何かぶつかった。見るとユウナが俺によりかかるで眠っていた。あれだけ力を使えば当然か。
俺もちょっと眠たくなってきた。ちょっとだけ寝よう。
周りに敵は、いない、しな。俺はそのまま寝落ちした。
このあと2人とも寝過ごして帰るのが1日遅くなったのは言うまでもない。
帰り道。王都はもうすぐそこだ。しょうもない理由で帰るのが1日遅くなったがやっと帰ってくることができた。疲れた、早くベッドで寝たい。もう硬い地面で寝るのは嫌なの。
「なあ俺のことどう思う?」
俺は前にユウナに聞かれたことを真似して聞いてみた。
「唐突ね。前にも言ったでしょアホ馬鹿脳筋チートエロ野郎よ」
「あれ?変化なし?」
おかしいなエンシェントオーバーロードを倒したことで多少は友好度が上がっていると思ったんだけど。お前の中での俺は未だにそんな感じなの?仲が深まったと思ってたの俺だけ?
「あなたが何をやろうと別に驚かないし、見直すこともないわ。ただぼんやり『やっぱりすごいなー』としか思わない」
「え?なんでそんなに冷めた感じ?俺って呆れられるくらいズレたことしてるの?」
「高校の時に自分が何をやってきたのか胸に手を当ててよく考えることね」
高校で何やったか、ね。何したっけ?女子校入って、理科室で
お茶飲んでたら部活に入ってなかったのを教師に注意されたから
無理矢理いろんな理由つけて学園アイドル部作って仕事して、
いろいろあってダンスパーティーで裏方の仕事をやったりして。
他にもいろいろあったような気がするが別に変なことはしていないんじゃないか?確かにアイドル部を作ったのはちょっとズレていたかもしれないが好評だったから別にいいじゃん。
許してくれよ。
一体俺の何がズレていると言うんだか。
どっちかと言えばいきなり俺を部屋から追い出したお前の方がズレていると思うんだが。
俺が珍しく真剣に考えている間に気がつけばギルドに到着していた。スイングドアを開いて俺とユウナは堂々とした態度で中に入る。受付にはいつもの受付嬢がいつも通り立っていた。
受付嬢は俺らを見ると少し驚いた顔をしたがすぐにホッとした顔をした。
「おかえりなさいレイジさん、ユウナさん。無事に帰ってきて本当に良かったです」
「ただいま。こういうときは「君が祈ってくれたおかげさ」とか言ってナンパするんだっけ?」
「あなた下手ね」
ユウナが冷めた目で俺を見る。
ごめんねナンパしたことない童貞野郎で。でもナンパは難易度高いよ。坂下さんとしては多分エンシェントオーバーロード倒すより10倍は難しいと思うの。もう勝ち目がないわけだよ。
『結局怖いのは人間』って言うように結局1番強いのは女なんじゃないかな。どの家でも父ちゃんより母ちゃんの方が強い感じしかしないもん。
「ともかくこうしてまた会えて嬉しいです」
すると横からひょっこり別の受付嬢が出てきた。
「そうだよねーフィーゼったらレイジ君のこと考えすぎて仕事が手につかない程だもんねー」
受付嬢、お前フィーゼって名前だったのか。前からお世話になってたけど知らんかった。でも名前知ったところで受付嬢って呼ぶことに変わりないんだろうけど。
受付嬢はいろいろワタワタしているが俺としてはそんなに心配してくれるのは正直ありがたいことだ。元の世界でもこっちの世界でも俺を心配してくれる人は少ない。理由は「まあ、レイジなら大丈夫っしょ」という謎の思考がみんなに染み付いているからだ。
なんだそのフワフワした理由は。何を根拠に大丈夫だと思ってんの?俺一応人間だからね?必ずしも何でもなんとかできるわけじゃないのよ?できないことだってあるから。例えばナンパとか。
だから変に期待するなよ。
「悪いな、心配かけちゃって」
「いいんです。最終的にまた戻ってきてくれるならそれだけで嬉しいです」
なんていい子なんだ。これが天使か。どうして本物の天使よりもこういう身近な人の方が天使らしいのだろうか。
本物の天使なんてベッドの上でポテチ食いながら
週刊少年シャンプー読んでゴロゴロしているうえに優しさがあんまりない。
最初に出会った天使は愚痴だらけで次にあった水の天使は
正直ただのグーたら娘にしか見えない。あいつは相棒失格だな。
「これが戦利品だ」
俺の隣にドスンと出現したのはエンシェントオーバーロードの
コア。骨の方も持ち帰りたかったが骨の方はすぐに灰になって消えてしまったためこのバカでかい水晶みたいなコアしか持って帰れなかった。割れた水晶を見て周りがざわつき始める。どやぁ、どうだお前らこれ本物やぞ。もっと俺を褒めてもええんやで?
「あの水晶どっから出てきたんだ?」
「わからん。急に現れたようだが」
あれ?ざわついた理由そっちなの?どこから現れたのかの方が驚きポイントなの?
そこは「あの水晶は、まさか!」みたいな驚きの反応を見せてほしいんだけど。このままだと俺はデカい水晶を出しただけの手品師みたいになってしまう。
「エンシェントオーバーロードの討伐を確認しました!おめでとうございます!」
そう言って出された報酬は袋いっぱいの金貨、ではなく袋に入った25枚の金貨。もちろん普通の金貨ではない。1枚500万ルドの価値があるこの世界で最も価値が高い硬貨。聖金貨である。
無論実物を見るのは初めて。パッと見普通の金貨と変わらないが
よく見ると金色の輝きとは別に薄く紫色のオーロラみたいなものが見える。よくわかんないけどなんかスゲー。
俺とユウナはそれぞれ聖金貨を25枚ずつ受け取った。
今まであんなにギリギリの生活をしていたのに一気に金持ちだ。
25枚分の重さしかないはずなのにその袋はとても重く感じた。
「あなた、その報酬は何に使うの?」
「ふっふっふ、家を買うんだよ」
「昨日はどこに居候していたの?頼み込んでそこに住まわせてもらえばいいじゃない」
そう聞かれて俺はまっすぐに遠くに見える城を指さした。
ユウナはしばらく黙って俺の指さした方をじっと見つめると
俺の顔を見ながら同じように城を指さした。
俺は黙って頷く。どうやら事の大きさを理解したらしい。
お城にだけは住まわせてくださいなんて絶対に頼めない。
図々しいにもほどがある。何よりそれをこの国の一番偉い人に頼むのが嫌だ。下手なことを言って処刑されそうで怖い。
ユウナはもう一度城をじっと見ると俺を軽く殴った。
「何でー!?何で殴られたん俺!?」
「なんかムカつくのよ」
「理不尽!」
そもそもお前とエリアスが俺を俺の部屋から追い出したんだよな。それで仕方なく土下座して1日だけ泊めさせてもらっていろいろあって今に至るわけじゃん?俺別に悪いこと1つもしてないからね?むしろ被害者だから。
なのに殴られる俺って一体。
「それで自分の部屋を手に入れるために家を買うと」
「しょうゆうことだから不動産?みたいなところ行ってくる」
「ふーん、じゃあ私も行こうかしら」
「え、何故?」
「私も広い部屋が欲しいのよ」
おいおい人を部屋から追い出しておいてそれを言うか。
これだからお嬢様ってやつは。まあいいや。こいつが家を持つって言うならそれでいいもう俺が巻き込まれることはないだろう。
「それでその不動産的なところはどこにあるの?」
「わかんないっす」
「···まずは探すところからってことね」




