高難易度クエストに行こう その3
あれから数十分が経過し、俺達はやっと森の前まで到着した。
空は太陽がほとんど沈んで星が見え始めている。夜の森の中は危険だ。それはもう遠征のときに痛い程に実感した。転生者2人であったとしても入りたくはないな。
「ここをキャンプ地とする」
俺は馬から降りてその辺の枝をかき集める。この作業にも慣れてきたな。最初のうちは枝探すのも楽じゃなかったが今ではどういうわけか高い確率で落ちているのを見かけるようになってきた。
「はいはいファイアー」
俺は炎魔法で枝に火をつける。ライターとかでつけているというより火炎放射器でキャンプファイヤーを作ろうとしているように見えるな。見えるというより実際そんなものだが。ライターレベルの火力だと火がつきづらいからこのくらいの火力一番楽だ。
「それで夜ご飯だけど」
俺は4種類のトン麺を横一列に並べて置いた。麺ざんまいである。
「·····」
そうなることはわかっていた。当然の反応だ。俺も多分そんな感じの反応する。俺は次にキャロリーメイト全14種類を並べた。
「キャロざんまい!」
「嘘でしょ」
「ああ、嘘に見せかけた本当だ」
俺がそう言うとユウナは両手で顔を覆い夜空を見上げた。
その反応。まさかとは思うがお前もうトン麺とキャロリーメイトに飽きたのか?俺なんかずっとキャロリーメイト食べてんのに!?
この世界に来てから一体何箱のキャロリーメイトを開けたことか。今までの人生の中でこんなにキャロリーメイトの箱を開けたことなかったぞ。
飽きて来ても自分に自己暗示をかけて「大丈夫、まだ飽きてない。まだイケる。チョコ味おいしい」と誤魔化していた。
他にも味はたくさんあるのだが奇妙な味が多すぎてあまり手を出したくない。
「···」
俺は無言でユウナにキャロリーメイト焼き肉味を渡した。俺もまだ食べたことはないから味はわからんがモーニングセット味が結構なハズレだったのでこれもハズレの可能性が高い。
俺は何味にしようかな。アスパラ、レタス、回鍋肉。回鍋肉!?
そんななんとも言えない味まであんの!?
アスパラ味とか需要ないだろ。
誰が積極的に食べたいと思うんだよ。
レタス味に関しては絶対にこのまま食べても美味しくない。
回鍋肉味とか焼き肉味と一緒に食べんのか?口の中パッサパサになるぞ。もっとまともな味はないのか!
えーと他には魔法少女メルメルメルちゃん味って何だこれ!?
メルメルメルちゃん味ってなんだよ。どういう味がするの!?
ヤベえすごい気になる。ハズレ、というレベルを超えて爆死レベルのような気がするが味が気になってしょうがないが俺は箱を開け中の袋を開けて中身を取り出す。
それじゃあ魔法少女メルメルメルちゃん味、いただきます。
気が付くと俺はトン麺の僅かに残った汁を見つめていた。
はっ!俺は何をしていたんだ?さっきまでメルメルメルちゃん味を食べようとしていたはずなのにいつの間にかトン麺の汁をじっと見ているなんて。一体食べたあとに何があったんだ。駄目だ全然思い出せない。
メルメルメルちゃん味がどんな味なのかもわかんない。
でもこれは確実に危ない味だ。食べると食べたときの記憶がなくなるとかどういうことだよ。誰だこんな危ないものを作ったやつは。こんな危険なものが元の世界では平気で売られてたのか?よく事件にならなかったものだ。今後この味を食べることは二度とないだろう。
カップ麺の汁は飲まないほうがいいらしいが俺は構わずに全部飲み干す。流石に自然の中にトン麺の汁を捨てるわけにもいかないからな。おかげで不健康への道まっしぐらだけど。
さてさて色々あったが夜飯は済んだことだしさっさと寝てしまおう。そうは言っても交代で見張りをしなければいけないのでそんなに寝れないとは思うけどな。
「1時間交代でいいよな。お前先に寝ていいぞ」
「悪いわね」
ユウナはそう言うと軍帽を取ってその場に横になった。とりあえず毛布でも掛けてやるか。俺は毛布を取り出してユウナにかけてやった。俺はここから1時間の間眠ることなくずっと起きていなくてはいけない。どうしようか。何か寝落ちしないようにするものが必要だな。
本、は絶対に寝落ちするだろうし何か食べる、のは肥満への近道だしな。持ってる神器でも眺めるか。もしかしたら何か良いものがあるかもしれない。俺は早速適当にいくつか神器を出してみた。まず最初に出てきたのは『支配者の短剣』。随分前にスライムだったエリアスに突き刺したきり一度も使っていない。
殺した相手を服従させることができるチートの中のチート神器。
しかもエリアスの感じを見る限り嫌々従うのではなく
「喜んでやりますぜ」と言わんばかりの忠実さになるようだ。
これを使えばどんな人でもハーレム待ったなしの状態をつくることができるが正直邪道だ。
手っ取り早くハーレムしたい人におすすめの一品。
俺としては今後この神器を使う場面は来ないことを願っている。
次に手に取ったのは国語辞典並みに分厚い本。
これは『星の本』という神器。中には魔法陣の書き方、魔法の使用方法など事細かに書かれている。要するにこれは魔法大百科みたいなものだ。俺も時々読んでいるがほとんど頭に入っていない。
しかもこの本厚さはどう見たって国語辞典と同じくらいなのにめくってもめくっても全然終わりがない。見た目とページ数が合っていない不思議な本でもある。
そして次はこれである。名前は未だにわからないがSFチック
な見た目をしていることから俺が勝手に『SF剣』と名付けた黒い剣。こ所有権は俺にあることになっているがこの剣についての情報が一切ない。
何という名前なのか、どんな効果を持っているのか
使っていても全くわからない。剣に付いている値札みたいなやつも外せない。何なんだこの剣は。どうしてこの剣だけ何もわからないのか、意図的に隠されているのか?それすらもわからない。
最後に手にしたのは黒い弓。これは『黒鉄の弓』その名の通り黒くて弓自体は何かしらの金属でできている。特殊な効果を持っているわけではないが岩をも貫けるほどの威力が出せる弓だ。
シンプルなので弓を使ったことのない俺には使いやすい方だと思う。
一度だけ使ったがことがあるが俺が下手すぎたため敵に当たらず木や岩に当たっては穴を開けていた。もっと練習しないとな。
え?よくよく考えたら岩を貫く前に矢がだめになるって?
岩を貫いたあとも矢が無事だったからこの弓で放った矢は多分鋼鉄レベルに固くなってる。本当に威力の高いシンプルな弓だ。
それ故に俺の持っている弓矢の中では最弱だ。
これだけ見せてもまだ数ある神器のほんの一部である。
なんというか気が遠くなるな。150以上の神器。正確にはどのくらいあるのかもわからないほどの膨大な数がある。それが実は150なのか200なのかそれとも1000というぶっ飛んだ数なのかいつかわかる日が来るのだろうか。
俺はポケットから懐中時計を取り出して時間を見た。こんな神器を眺めている間にもう50分が経過していた。時間が経つのはやっぱり早いな。あと10分。微妙に時間があるな。俺は夜空を見上げた。空には星がこれでもかとばかりにたくさん見える。
元の世界では俺の住んでいた所はそんなに都会じゃなかったからあまり明るくはなかったがそれでも明るすぎて星はこんなに見えなかった。俺が転生したとき向こうも春だったから今頃は乙女座とかが見えるのだろうか。
この空では何座が見えているのだろうか。星が多すぎて何が何なのか俺には全然わからない。まあそもそも何座があるのかもわからないが。そしてそんな星の海の中にある2つの月。片方はよく見る白い月でもう片方は紅い月だ。
白い月は人の善の心によって白く染まりいつの日か天使が住むようになり、紅い月は人の悪の心で赤く染まり悪魔が住みつくようになったって伝説があるらしい。前にどこかで読んだ。
実際天使には出会ったし、エリアスの話やユウナの転生からすると悪魔もいるみたいだからもしかしたら本当に天使と悪魔がそれぞれに住んでいるのかもしれないな。でも出会わないことを願っているよ。絶対に面倒なことになりそうだからな。
そんなことを考えているうちに10分をつぶすことができた。
今度は俺が寝る番だ。ユウナを起こして今度は俺が横になる。
今まで気が付かなかったがすごい眠い。目を閉じると一気に眠気に襲われた。まあ、退屈だったのに、寝るに寝れなかったから、そりゃ、そう、か。俺の意識はそこで完全にフェードアウトした。
私はその男が眠りにつくところを眠い目をこすりながら見ていた。
こいつは今日大したことはしていないはずなのだがなぜ疲れているのだろうか。まあいいか。私は目をこじ開けて見張りの役目をこなす。と言ってもただ起きているだけなのだが。···正直なところ暇だ。特にやることがない。星を見てもただ「たくさんあるなー」としか思えない。
見る限り夜空一面に広がる星は天の川を超えて星の海。そういうのが相応しいだろう。前にもこんなきれいな夜空を見たことがあるような気がするがどこで見た景色だったのか覚えていない。多分学校かどこかだろう。
隣で寝ている男を見る。普段はアホみたいな顔をしているのに寝ているときは幸せそうというか安心したような顔で寝るのね。
一体何故そんな顔ができるのだろうか。
私達は別に仲間じゃない。こいつがどう思っているかは知らないが少なくとも私はそう思っている。
この男への信頼はないし信用もない。だって当然でしょ?
私達は長い付き合いでもないし和解し合った仲でもない。
出会ったのは昨日、一昨日だ。しかも殴り合ったわけだしそんな
相手を信用できるわけがない。
だが見る限りこの男は完全に私のことを信用している。
背中からは刺されない、と思っている。昨日までまったく知らない赤の他人だったくせに、勝負してご飯奢らされて部屋を追い出されたくせにどうして私を信用しているんだろうか。
やっぱりアホね、こいつは。
レイジは私のことを一切知らないが私は前からレイジを知っていた。
星ノ空学園女子に入学した世界で唯一の男子、坂下レイジ。
歴史的にも女子校に入学した男は彼だけだろう。
彼が入学したという噂は兄弟校である星ノ空学園男子と
星ノ空学園(一般)にすぐに広がった。
レイジはもともと星ノ空学園(一般)を受験したらしい。そこにどんな手続きのミスがあったのか知らないが女子の方に移されてしまったとかなんとか。
成績は中の中。あの成績優秀な学校で中の中というのだからあんなアホみたいな顔をしているうえに脳筋野郎だが勉強はできるということだ。しかもこの成績は一般の方で見れば上位に入れるレベルと言ってもいい。
運動能力に関しては男ということもあり女子校ではトップ。兄弟校と比べてもダントツだったらしい。異例の自体に加えて成績もそこそこよかったことから星ノ空学園の関係者で坂下レイジという生徒を知らない人はいなかった。
このアホは実は優秀なアホだった。
私がレイジに初めて会ったのは、というより見かけたのは年に一度星ノ空学園女子で行われるダンスパーティーの時だった。
イメージとしては本当に貴族とかがやってそうなダンスパーティーだ。学校に星ノ空学園男子の生徒を呼んで一緒に踊るというものだ。
風習だけ時代に取り残されたような学校だったのでこういう珍しい行事もある。レイジはそこで何故か裏方の仕事をしていた。
料理を運び、飲み物をトレイに乗せて人に勧めていたりしていた。だが仕事の合間に女子に声を掛けられて踊っていたのを覚えている。
女子まみれで男一人で悲しく孤独な生活になっているかと思っていたが案外楽しくやっているようだった。
って私は何でこんなにコイツのことについて語っているのかしら。ともかくこの男はバカでアホの脳筋チート野郎だしまだ信用もできないけど尊敬できる奴だと私は前から思っている。
いや、出会う前から話を聞いていくうちに私は坂下レイジという男子生徒の優秀さを尊敬し「その人を知りたい」と不思議と興味を抱いていた。
だから私はまだ信用、信頼はできないけどもこの男について行ってみようと思う。そしてどんなところに辿り着くのか見てみよう。
私は寝ているレイジの頭を優しく撫でた。
「おやすみなさい。そしてこれからよろしく」
誰も聞いていないはずなのになんだかこいつに優しくしてやるのは恥ずかしい。
「朝だー!!」
俺は今まで持っていたけど使わなかったフライパンとフライ返しを叩いて叫ぶ。これやるのは楽しいんだけどやられると本当にムカつくんだよな。カンカンカンカンと金属音がやかましく響く。
寝ている誰かさんはウザそうに寝返りを打ったり「んー」とか言ったりしている。
こいつ起きるのは苦手なのか。しょうがねえな。
俺は大きく息を吸って言った。
「なかなか起きないんでユウナさんの寝言を発表しようかな!」
俺はもう一度息を吸った。
「夜、ユウナさんは寝言で『レイジ、本当に大丈夫?』って言ってました。だから俺が『何が』って聞いたら『パプリカ』と返ってきました」
一体どんな夢を見ているんだ。俺とパプリカの間に一体何があったの?夢の中の俺はパプリカで何をしようとしてんの?
これだけ叫んでもユウナは起きない。寝起き悪すぎやしないか。
「そういえば『生涯あなたについて行くわ』とか寝ながらプロポーズしてたな」俺がそう呟いた瞬間俺の顔面は地面に叩きつけられていた。体が重い。ユウナの重力操作か。
重たい頭を頑張って上げると目の前に仁王立ちの顔を赤くした
ユウナがいた。お前そういうときはすごい速いな。
「あなたのその人の秘密を暴露するそれは何なの?」
「ただの嫌がらせ」
「シンプルにひどい!」
そんなこんなで俺達は焚き火を消して馬に乗ると朝食であるキャロリーメイトの箱を開けながら森の中へと入った。ユウナは隠すことなく嫌そうな顔をしていたがそれに関しては我慢してもらうしかない。只今の時刻は6時。ちょうど朝日が昇り始めた頃だから森の中は若干暗く涼しい。この森を抜ければ目的はすぐそこだ。地図を見る限りでは俺達の目指しているところは遺跡、みたいだ。
エンシェントオーバーロード。その名の通り古代の支配者ってことか。
別に急ぐ必要もないのでパッカパッカと馬の足音を聞きながらのんびりと森を進む。辺りにモンスターの気配はない。いるのは鳥とか小動物くらいか。鳥の鳴き声が聞こえる。朝の鳥の鳴き声ってなんかいいよね。スズメとかだけだけど。カラスはうるさいうえに怖い。
「ねえ、レイジ。私のことどう思う?」
唐突だなお前。
「何?俺に惚れた?」
「バカ。そんなわけ無いでしょう。ありえないわ」
そんなはっきり言わなくてもいいんじゃないかな。お前が俺を好きになる確率は0パーセントなのか。恋愛的に好きなってくれなくていいからせめて人間としては多少は好きになってほしいが。
俺はユウナをどう思っているのか。正直に言うと出会ったばかりだが信用はしている。少なくとも裏切られることはないと思っている。俺の直感と今まで見てきたアイツの性格からそういう汚いことはやらないと思う。厳しそうだが根は優しいツンデレ的な感じなんじゃないだろうか。正しい認識かどうかはわからないが今はそういうことにしておこう。
「いいやつ、かな」
ユウナはクスッと笑って変な奴と呟いた。
「ちなみにお前は俺の子どう思うわけ?」
「アホ馬鹿脳筋ハーレムチートエロ野郎」
はっきり言い過ぎじゃない!?何だよアホ馬鹿脳筋ハーレムチートエロ野郎って。アホ馬鹿脳筋チートはわからんでもねえよ?でもな一体俺のどこにハーレム要素あった!?もしかして女子高のこと言ってんの?あれは俺のせいじゃねえから、学校側のミスだから。
俺は被害者だからな?
「あとエロ要素はどこから?」
「人のスリーサイズを当てるやつがエロ野郎じゃなくてなんなの?」
言い返せねえ。そうだね人のスリーサイズを目測だけでピタリと当てるやつはエロ野郎だね。でも誰かピタリと当てたことを褒めて下さい。おかしいなこれいい話になるかと思ってたんだけどなぁ。俺が一方的にDisられて終わっただけじゃんか。
いや待てポジティブに考えよう。この会話でユウナとの絆が深まったと、そう考えよう。ちょっと無理があるような気がするがそうしよう。俺の異世界生活なかなか鬼畜だな。漫画とかで見るより何倍も厳しいんじゃが。誰か俺に異世界生活の基本とか教えてくれないかな。それが参考になるかはわかんないけど。
俺の悲しい想いもお構いなしに馬はパッカパッカと進み続ける。
遺跡まではもう、すぐそこである。




