高難易度クエストに行こう その2
そのあと結局俺はトン麺だけでは足りずにキャロリーメイトを食べていた。一応バランス栄養食のはずだが
こうもカップ麺とキャロリーメイトだけだとやっぱりバランスが悪いような気がする。しょっぱいものしかないから悪いんだよな。たまには新鮮な野菜を食べたいところだが当然今そんなものはない。
またしばらくキャロリーメイトが主食になる可能性が高い。次に野菜や肉が食べられるのは数日後か。栄養の偏りで体調崩すか
早死しなきゃいいが。やかんに入ったお湯を飲みながら自分の健康を切に願う。
さてそろそろ行かないとあっという間に夜になってしまう。1日は思っているほど長くはない。
「そういえばお前にこれやるよ」
俺はそう言ってユウナに赤い籠手を渡した。無論これもちゃんとした神器である。
「これは?」
「お前って殴るときは素手だろ?それじゃ痛いんじゃないかと思ってよ。それにつければ拳の威力も上がるし」
「ありがたくもらっておくわ」
そう言ってユウナは籠手を装着して感触を確かめ始めた。よかった同じ転生者とはいえ天使側と悪魔側だからもしかしたら使えないんじゃないかと心配だったが普通に使えるようだ。
神器は普通の人間が使おうと思っても使うことはできない。
俺やユウナみたいな転生者以外が持とうとしても持ち上げることができない。多分アーサー王伝説に出てくるエクスカリバーが
選ばれし者にしか抜けないように神器は転生者以外が無理に持ち上げようとすると岩よりも重たくなるらしい。
神器を使った最強軍団を作ることはできないが悪用される心配も今のところはないってことか。
「なかなかいい感じだわ」
「よかった。耐久性は心配しなくていいぜ。壊れることはないだろうし万が一何かあったらこいつで魔改造しよう」
俺はヘファイストスハンマーを見せる。
「あなた本当にいろいろ持ってるのね」
いろいろあっても神器の8割はほとんど、もしくはまったく使わないから持ってたところで何の意味もないけどな。
気がつけばユウナのつけていた籠手がなくなっている。よく見るとユウナの薬指に籠手と同じ色の赤い指輪がはまっている。そんなコンパクト機能あんの!?羨ましす。俺の手甲はつけたらずっとつけっぱなし、外したら外しっぱなしで片付けるのすらすごい不便なのに。
しかも絶対に必要になるのはわかりきっているはずなのにこういう肝心なときに限って忘れてくる俺。今頃俺の装備は王宮のベッドの上だろう。
完全にやらかしたな俺。後で代わりになるものがあるかどうか倉庫の中を漁ってみないとだな。
俺は馬に跨り片手に地図を持ちながらユウナに捕まった。
目的地はまだ遠く森を抜けた先の遺跡だ。方角を確認して馬は再びだだっ広い草原を走り出した。
暇だ。かれこれずっと走ったり歩いたりを繰り返している。
経験したことないだろうか。移動中の車の中で暇になったこと。
そして自分自身は暇なんだけど運転している親はそんなに暇じゃないからあまり構ってもらえず本当に暇になったこと。
今この空間で暇なのは俺だけだ。ユウナは馬を操らなければいけないし、馬に関しては俺らを乗せて走ったり歩いたりしてる。
寝ようにも寝れないので本当に暇である。今までも暇になったことは何度もあるがこれほど暇だったことがあっただろうか。
寝ることもできず、遊ぶこともできず、特に話すこともないというスリーストライクの豪速球である。やることといえば時々地図見てコンパス見て「間違ってないよな」と思うことだけである。
森はまだ遠くだ。多分今日は森の手前くらいで野宿することになるだろうな。晩飯はまたトン麺とキャロリーメイトか。いい加減違うものを食べたい。俺が深くため息をついた。それと同時に
馬が急に止まる。
危ないな止まるならゆっくり止まるか「止まる」と宣言してから止まりなさいよ。危うく腰に抱きついてた手がもっと上の方に行って2つの大きな山を鷲掴みにしてしまうところだった。
無論そうなれば俺の命はないだろう。本当に危ないところだった。久々に本冷や汗が出ている。
「どうしたんだよ。急に止まっちゃって」
「何か感じない?」
「お前の髪の毛について?」
「バカ。そうじゃなくて振動みたいなもの。というか私の髪について何か言いたいことがあるわけ?」
「その話はまた今度にしよう」
振動って言ったって俺の下にいるのは馬だし。生きてんだから多少は絶対動いてるものだからな。
別に何も感じないが。試しに馬から降りてみる。それでも特に何も感じないと思うが。
一応のために地面に耳をつけてみる。それでも振動はないと思う。ドスン、ドスン、ドスン。
あったわ。
何だこの音。地震、じゃないよな。俺と心臓の音と同じような感じでない限りはそのはずだ。
どんどん音が大きくなっている。本当に何の音だ?どんどん鈍い音からはっきりと聞こえてくる。
もしかして何かの足音なのか?そうだとすればヤバくね?どんどん近づいて来てるってことじゃん。
早めにここからおさらばした方が良さそうだ。
「おい早くここから離れた方がいいk」
ユウナの方を見るとさっきまでいたはずの馬がいない。どこ行った。よく見ると遠くの方に走っている馬が見える。アイツ俺を置いて行きやがった。走って追いかけるか。追いつけるかわかんないけど。
俺がスタンディングスタートしようとしたその時辺りが少し暗くなった。
雲か?それにしては暗すぎるような気がするが。少し上を見ても空は雲一つない快晴である。
ズシンッ!振動でちょっとだけ俺の体が浮いた。すごい近くね?後ろを見るとそこには岩の塊があった。
正確には岩でできた巨人。それは世間一般的にゴーレムと言われるモンスターだった。
今の俺の目は漫画で出てくるような点になっているだろう。
「・・・おっす、元気?」
俺とゴーレムはしばらくお互いに見つめ合う。ははっ笑うしかねえよ。絶対に意思疎通は出来てない。
「さいなら‼」
俺は全力で走り出した。その後ろからゴーレムが同じく全力で走ってくる。
全力で走っているうちにユウナと馬に追いつく。
「あら追いついてきたのね」
「てめえこの野郎!よくも置いて行きやがったな‼」
「ごめんなさい。気が付いたら走っていたわ」
その言い方は絶対に謝罪の心がないよね。俺たちって仲間じゃなかったっけ?もしくは友達的な。
とにかく協力し合う仲だったと思ってたんだけど俺だけなのかい?走りながら一瞬そう思ったがよくよく考えればこいつは俺を部屋から追い出した張本人じゃないか。そう思うと全然和解できる気がしない。むしろ未だに敵対しているような気すらする。
ゴーレムは諦めることなく俺たちを追っかけてきている。先にこいつを倒しておくか。後ろを見ると
「なんか数増えてるー‼」
1体しかいなかったはずのゴーレムがいつの間にか5、6体に増えていた。足音は一つしか聞こえないと思ったが一体いつから増えていたんだ?よく見るとゴーレムはみんな同じ動きをしている。歩く速さ、歩幅、腕を振るタイミングなどが完璧にそろっている。だから足音に気が付かなかったのか!?
プロの集団行動の人もびっくりなほどそろってんなお前ら!
「仕方ないわね片付けるわ」
ユウナは馬から飛ぶと一番前を走っていたゴーレムをキックして破壊した。俺も走りに急ブレーキをかけて振り返ると同時にハンマータイプの神器を装備してゴーレムの足を砕く。
『奇跡を砕く碧銀の槌』。攻撃した敵の魔力生成と魔力の流れを一時的に遮断する僅かに青く輝く銀色の両手持ち用のハンマー型の神器。
ゴーレムの体は岩でできている。当たり前だが岩と岩が何もなしにくっつくことはない。これがくっついてい人の形を保っていられるのは岩同士が魔力で引き合っているから、らしい。磁石を想像してもらうか、もっとわかりやすく考えるならテディベアみたいに糸で縫われていると思ってもらってもいい。
ようはこのハンマーはその糸をほどくことができるためゴーレム退治にうってつけの神器だということだ。
「そーらよっと」
俺はもう片方の足を砕いてゴーレムを立てなくするとそのまま追い打ちをかけて倒した。
数も多くないし案外すぐに倒すことができそうだ。このハンマーがなければもっと面倒なことになっていただろうな。
ユウナの方は籠手を装備してゴーレムを殴って砕いている。籠手をしているとはいえ拳は大変なんじゃないだろうか。あの赤い籠手は赤神龍の鎧という鎧の神器の一部。どういう効果なのかはあんまり覚えていないが確か装備すると高い防御力と攻撃力を得られたはず。胴体とか兜とかを装備すれば効果は倍増して他の効果も得ることができるはず。
他にもなんかいろいろあったような気がするが所有権をユウナに渡したため全然覚えていない。
今の俺があの籠手を装備しても所有権がないからただの頑丈な籠手にしかならない。
なんかもったいないような気がするがそうしないとユウナはあの籠手を使うことができないので仕方ない。
ただ籠手以外の装備はまだ俺の所有権が生きているので使うことができる。
「こんなものかしら。こっちは3体ってところね」
「こっちも3体だ」
どうやらすべてのゴーレムを倒したらしい。道が岩だらけになったな。
ゴーレムたちのせいで時間が食われてしまった結果気が付けば日が傾き始めていた。
今日はあんまり移動できないな。森まではまだ少し遠いが日が完全に沈む前には森まで行けるはずだ。
森を抜けるのは明日になるだろう。
俺たちはまた馬に乗って走り出した。
「ねえ、さっきのゴーレムたち妙じゃない?」
「何が?」
馬を走らせながらユウナが言った。
「だってゴーレムって生き物じゃなくて誰かが作った岩人形なのよ?それが何でこんなにたくさんいるわけ」
「ゴーレムって自然の生き物じゃないのか!?」
「あなたここに来てから一体何してたの?」
冒険とバイトだが何か?
「ゴーレムっていうのはね魔石とか魔法文字を刻んだものを核に岩とか木とかで体を作ってそれで出来上がるの。たまに魔法文字の刻まれた石とかを落とした結果そこからゴーレムが生まれることもあるらしいけど。その場合は形が安定せず崩れたり、奇怪な行動をすることが多いらしいわ」
なるほど。まったく知らなかった。魔力で岩同士がくっついてるみたいなことは聞いていたが作り方とかは知らなかったな。つまり普通に考えると森とかにゴーレムがいることはないってことだな。
それなのにこうも平然と存在しているのはおかしいと。それは確かにおかしいな。
あのゴーレムたちは形が崩れることもなければ変な動きをすることもなかった。つまり誰かに意図的に作られたってことか。俺らを攻撃するために作ったのかそれとは関係なく作ったのかは知らんが近くに誰かがいるって考えた方がいいか。
「どうするの?もし私たちを攻撃するために作られたのだとしたらこれから先厄介よ」
「そうなんだけど相手の場所もわかんないし目的地に急いだ方がいいと思う。流石に追いかけては来ないだろうし。そんなことしてまで俺らを倒したいとは思わないだろ」
「楽観しすぎよ」
「いざとなったら何とかするさ。森まであとちょっとだ」
ユウナはやれやれという顔をしながら軍帽を被り直した。




