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また始まる日常に

食卓についた俺を待っていたのは豪華な料理、の前に王家の皆さんでした。おかしいな俺はどうしてこんなすごい人たちと一緒に飯を食わなければならないのだろうか。長いテーブルの端の中央の席、俗に言うお誕生席に国王、国王から見て右隣に王妃、そこから第一王女のアナスタシア、マリア、アイリスと並んで座っている。


俺が座っているのはその反対側、1番前を開けて2番目の席に座っていた。なんて緊張する配置にいるんだ。よりにもよって全く関わりのないアナスタシアの前に置かれるとは。


俺以外の人たちは当然落ち着いている。ただアイリスだけは頬を膨らませながら俺をじっと見ている。俺が目を合わせると

「ふんっ!」と顔をそらす。あいつ何で不機嫌なんだ?


しばらくすると料理が運ばれてきた。すげーちゃんと料理に銀色の蓋がされてる。俺、自分の料理に銀色の蓋がついてるのは初めてだぞ。高校ではお嬢様達の給食についてたけど俺は神崎と屋上でコンビニのパン食べてたからな。(神崎はおせちの重箱みたいな弁当箱に入った豪華な弁当だった)学費は特別に保証されてたけど給食費はダメだった。


蓋が取られて湯気とともに美味しそうな匂いが広がる。おお

これが王家の飯!見たところこれは鶏肉、とトマトソースか?

鶏肉に野菜やらトマトソースやらがかかっている。


こっちのスープは···よくわからん。でも美味しそうだ。

さすが貴族。めっちゃ良いもの食べてるな。俺もたまにはこういうものを食べたいものだ。いつもはキャロリーメイトとトン麺、まともな物なら黄金の鹿でのまかないだ。


早速食べようと思ったが誰も手を付けようとしない。食べないのか?俺もそれに合わせて手を置く。

何だこの沈黙の間は。今は一体何タイムなの。あ、もしかしてあれか神へのお祈り的なやつか。俺の学校でもやってたやつ何人かいたぞ。俺は無宗教だから特にお祈りとかはしなかったけどな。


でも手を組んだり合わせたりもしないしみんな目を開けてるし祈りの言葉もない。本当に何なのこの微妙な雰囲気は。俺は一体どうすればいいわけ。この雰囲気の中で口を開くのも嫌だったので黙って皆に合わせておく。・・・・・・・・なんだこれ。


その時国王が口を開いた。

「どうした食べないのか?」

はぁ!?お前らがいつまでも食べないから珍しく空気読んでおとなしくしてたんですけど!?それなのに開口一番にそれを言うのか!?怒るぞこの野郎。


「みなさんは食べないんですか?」

俺はイラつきを抑えながら聞いた。


「私たちは君がこの料理を食べた時の反応と感想を知りたいのだ」

なんだそれ。料理の感想を聞きたいと。確かに王族と平民では食べてるものが全然違うみたいだから普段自分たちが食べているものを平民が食べるとどんな反応をするのか気になるのか。変な話だがきっと平民とこうして飯を食うのは珍しいことなんだろう。当然と言えば当然か。まあ俺自身腹も減ったしいただくとしようか。


「いただきます」挨拶、これ大事。


俺は早速鶏肉から食べよう思ったがその前に水をゴクリ。・・・ん?グラスに入った水を見る。

水にもグラスにも見た限り特に変わったところはない。気のせいか。

俺は鶏肉をナイフで切ってフォークで突き刺すとそれを口に運ぶ。んん?なんだ?肉は美味い。

ソースも甘くて不味いところはない。だがどこか違和感を感じる。なんていうか何か余計な味がついているような。何だろうか。


次にスープを一口飲んでみる。こっちも味は悪くないがやはり違和感を感じる。こっちも何か余計な味がついているような、もっと言えばアク抜きしなかった野菜みたいに少し苦い。この料理は何かがおかしい。

その時頭の中に声が響いた。


毒物を検知。神器、メーティアスの羽ペン及びメーティアスの

魔導赤書を使用。


照合終了

メーティアスの羽ペン及び赤書の知識と完全に合致。

照合結果 


鶏肉にはトカリブト、スープはハシリドロコ

そして水はスズランのものと一致。


毒!!なんともないようだが大丈夫なんだろうか。

そういえば「スズランの毒は青酸カリよりも遥かに強力だにゃ」って前に立花のやつが言っていた。水差しの水はもちろん花粉ですら死亡するケースがあるとか。そう考えると俺は毒耐性があると考えていいのか。


神器であるメーティアスの羽ペンと魔導赤書の効果は、どうやら辞書みたいなものらしい。

俺の体から感知したものを調べてくれるようだ。

コイツはなかなか便利な神器だな。

ただデメリットとしては実際に触れてみないと調べることができないってことか。今回の場合は俺が毒を食ったから勝手に発動したのか。


スズランはともかくトカリブトとハシリドロコなんて毒は知らないな。そう思うと頭の中に文字が浮かぶ。


トカリブト

生息地、森。食後20以内に口唇や舌の痺れから始まり徐々に全身が痺れていき最終的には呼吸不全になり死亡する猛毒。


ハシリドロコ

生息地、沼地付近。目眩、嘔吐、幻覚などを引き起こす毒草。

根、根茎に強い毒がある。


こんなものを俺以外の人間が食べれば即座に病院、いや多分助からない。俺()()()()()生きているような猛毒ばかりだ。誰だこんなものを入れたのは。まさか国王たちの料理にも同じものが入っているのか?だとすれば入れたやつの狙いは暗殺か!


俺は毒が入っていることを知らせようと思ったがそこで気が付いた。俺以外の誰も未だに料理に手を付けていない。何でだ?何でさっきから誰も料理に手を付けない。何で皆俺を見ているんだ。毒が入っていることに気が付いているのか?ありえない。油断していたのもあるが俺ですら全く気が付かなかった。

ユウナみたいな転生者やエリアスみたいに天使のいわゆる人間を超えた何かであればともかく


ただの人間が料理に入っている毒に気が付くとは思えない。いや待て、気が付いているんじゃなくて、元から知っていたのか?そうだとすると、俺は試されていた?なん、だ・・・と。試す?試すだと‼この俺を、毒を使って試すだと‼この時ばかりは珍しく俺の怒りが頂点に達した。


俺は立ち上がると神器を装備してその剣先を国王の喉元に向けた。その直後に


バンッ!と部屋のドアが開いて鎧を着た騎士たちが突入してきた。

「動くな!動けば国王の首を飛ばす!」

俺は騎士たちに忠告した。


「本気で私の首を刎ねるつもりか?」

国王は剣を喉元に突き付けられているのに冷静に言った。

国王の首を刎ねようものなら処刑は必至、逃げたとしても大罪人として死ぬまで追いかけられるだろう。

最終的にその火種は俺の身の回りの人達、つまり黄金の鹿のメンバーに向かうだろう。

俺に自分の事だけを考えることができたならそれもいいだろう。でも俺にはできない。


「俺にはそれに対処できるだけの力がある」

ただの強がりだ。そんなことできるはずもない。人を殺すことも誰かを巻き込むことも俺は怖い。


「試されたことに腹を立てているのか?」


「違う、人を試すことは良いことじゃないが俺だってよくやる。俺が腹を立てているのは」

そう、俺が本気で腹を立てているのは。俺が許せないことの一つは、それは


「食い物を無駄にされたことだ」

それだけは国王だろうが神だろうが許せなかった。「何を偉そうに」と思うかもしれないがよくよく考えてみろ。例えばこの料理の鶏、こいつは元は生きていた。俺らと同じように世界を見て歩いて必死に生きていた。だが最終的には始末された。人間に食べられるために。


それはしょうがないことだ。命は命の上に成り立っている。こいつは人間より上の生物として生まれてこなかったから。それはどうにもできないことだ。ならば始末した人間側はその鶏に感謝してその肉を食らうべきなんじゃないだろうか。それを無駄にするのは勿体ない。それじゃあ鶏は何のために死んだのかわからんからな。そう思うと食い物を無駄にされるのは何というか腹立たしいのだ。


「この料理はもう誰も食えない。食い物を無駄にするな。それは誰であっても許されない」


「ほう、試されたことより食い物を無駄にされたことに腹を立てるか」

国王は意外そうに言った。たしかにこんなしょうもない顔をした男がいきなり食べ物の大切さについて語りだしたらそんなふうにもなるわ。


「皆のもの下がれ。サカシタ殿、貴殿を不快にさせたこと、食物を粗末に扱った事を深くお詫び申し上げましょう。そして貴殿こそが勇者だとハイデン王国の国王としてここに認めます」

国王は騎士達を部屋から出すと俺に敬意を評した。


「わかればいいんすよ。でも勇者じゃないんで」

この毒は俺が勇者かどうか試すために入れたのか。おかしいな

俺もう何度も勇者じゃないって言ってると思うんだけどこいつら本当に人の話を聞いているんだろうか。今までの感じからして多分聞いてない、よな。お前らどんだけ勇者を求めてんだよ。


国王はシェフに毒入りの料理を下げさせて新しい料理を持ってこさせた。蓋が取られてまた湯気とともに美味しそうな匂いが広がる。

「さあ食事にしよう」

ようやっとまともな飯にありつけた。




部屋に戻ってベッドに寝っ転がる。なんだかこの部屋に帰ってくるときはいつも疲れているような気がする。さっきの夕食だって今まで食べたことないくらいには美味しかったが国王の中での俺への認識が『恩がある冒険者』から『恩がある勇者』にランクアップしてしまった。


何度も違うと言ったのだがやはり聞いてもらえず勇者ということになってしまった。どうやらこの世界の人間たちは勇者の話になると人の話を聞かなくなるらしい。『らしい』というか

『なる』と断言させてもらおう。


俺がこの世界の人間たちに若干呆れていると

「レイジ起きてる?」

とアイリスがドアを開けた。さっきの食の大切さ事件のせいで国王は少しばかりフレンドリーになったがどこか気まずい。


「ああ、何かようか?」


「ちょっと退屈で」


「そうか」

アイリスが俺の横に座った。少しの間流れる微妙な空気。当然だな。さっき自分の父親に剣を突きつけてたヤツがいるんだから。

好感度がガタ落ちしていて当たり前だ。とんでもないことしちゃったな俺ってやつは。


「さっきね。レイジがお父様に剣を突きつけた時、私本当に首を刎ねるんじゃないかって思った。この人ならやりかねないって一瞬そう思った」


「そうか」


「でもそうはしなかったからホッとした」


「俺にそんな勇気はないよ。それに命の問題を命で払うなんて何かおかしな話じゃん?」


「昔ねお祖父様も同じこと言ってた『どんな命も無駄にするな』って、きっとお父様もそれを思い出したのね」

アイリスは小さく笑って言った。


「それで何が言いたいかって言うと、私もお姉様たちもお母様も誰もレイジのこと嫌いになったりしてないからね!だからそんな暗い顔しないで!」


アイリスは小さな両手で俺の顔を挟むと歯を見せて笑った。

そうだよな。自分で言うのも何だけどはっきり言って俺に暗い顔は似合わない。もっといつもみたいにマヌケな顔してるくらいがちょうどいい。


体は鋼鉄、心は豆腐。頭脳は中学生。そんなアンバランスな性格だがどうにかこうにか過ごしていくしかないな。


そしてやっぱり少女が無邪気に笑うのはいいものですな。

俺は気持ちを入れ替えた。よーし明日からドンドコ働こう。


それはそうとアイリス君その背中に隠し持っているトランプとサイコロとぬいぐるみは一体何かな。コレ今いい話じゃなかったの?

お前完全に遊ぶモードだろ!俺は明日からちゃんと働けるのだろうか。ちょっと心配になってきたぞ。


言うまでもなくこのあと滅茶苦茶遊んだ。



次の日、朝7時。俺はかつての自分の部屋の目の前に来ていた。

今思い直せば一体なぜ俺が追い出されているのか疑問でしかない。どうにも2人とも俺が出ていったあと店長を強引に納得させたらしい。そのあとで店長が泣きながら

「私もうだめ!!レイジ君はどこ行っちゃったの!?」などと言っていたらしい。一体説得の現場で何があったのか想像したくもない。


ドアをノックするが特に何も起きない。まだ寝てんのか?

起きないなら歌でも歌っちゃうぞー。

「肉団子つくーろードアを開けてー一緒に食べよう、どうして出てこないのー♪」


「まだ寝てるからよ」

ドア越しにユウナの声が聞こえた。まだ寝てんのかよ。

「早く起きないともっと酷いことになるぞ」


「まだ朝の7時よ。寝てたっていいじゃない」

やれやれどうやら起きる気はないようだ。しょうがないな。俺もこんな事はしたくなかったが起きないというならやむ終えない。

俺は一息おいて言った。


「えーユウナさんのスリーサイズは上から順番に」

その時ドアが勢いよく開いたと同時に鉄拳が飛んできた。


「さあ、行きましょう」

軍帽の位置がおかしいことから察するに急いで着替えたな。

外に出てギルドに向かっていると

「ちなみにさっきなんて言おうとしたの?」


俺は耳打ちでゴニョゴニョと言おうとしていたサイズを伝えた。実際に測ったわけではない俺の目測である。


「なっ!」

顔を赤くしたと思ったら今度は下からの鉄拳が俺を襲った。

「へぇ!!」

俺の体が宙に浮きそのまま地面に落下した。どうやら大体当たっていたっぽい。これで俺のあだ名は変態勇者になるかもしれないな。それにしてもいいアッパー、だった···ぜ。


俺は軽く気を失った。こんな調子でクエストに行って果たして大丈夫なんだろうか。

今から心配になってきた。








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