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覚悟を決める

結局またこのお城に戻ってきてしまった。それもまた同じ部屋に。

とりあえず今日一日はここで過ごすことになるのは確定だが明日以降はどうなるかわからんな。

そろそろ家を買うっていうのも真剣に考えた方がいいな。明日は不動産にでも行ってみよう。


今日はもう疲れたしゆっくりさせてもらうとしよう。


「でも本当に良かったのか?国王陛下にも相談せずに」


「いいのいいの。お父様はレイジこと一目置いてるみたいだし私から言っておくから」


「すまん。俺も一応挨拶しておくよ」

そうして久しぶりに玉座の間の扉の前に来ていた。一度来ているもののやはり緊張するものだ。

ドクンドンドドン・・・ドクンドンドドン。心臓が音を立てている。一度来ているにもかかわらず前よりもドキドキしている。この心音って確実に心臓止まっている瞬間があるよな。俺の心臓って本当に健康なんだろうか?心音もおかしいしちょっと心配になってきた。


扉が開くと国王陛下は玉座に座っていた。あの、もしかして昼間の間ずっと座ってたりしてます?

前にあった時と見た目がまったく一緒なんですが。


「久しいなサカシタ」


「はい。おおおお久しぶりであります国王陛下」

相変わらずカッチンコッチンだな俺。でも逆に慣れてはいけないのかもしれない。

国王に慣れてしまったら最後、絶対に余計なことを言って面倒なことになってしまうのが俺という男である。


「遠征の方ご苦労であった。そして娘の強引さを詫びよう。帰ってきたら注意しておこう」


「いえ、お気になさらず」

正直今更謝られてもどうしようもない。それにああいう人は注意されたくらいじゃ変わらないタイプだからな。


「それで家来の報告によれば、今夜泊まらせてほしいと。

黄金の鹿に住んでいると聞いているがなぜ来た?」

すでに報告済みとか家来優秀すぎないか。


「同居人とじゃんけんして負けて追い出されました」

国王は呆れたと言わんばかりに小さくため息をつくと


「まあいい、今までの恩もある我が家だと思ってくつろいでくれ」と泊まることを許可してくれた。これで今夜は乗り切ることができる。俺は「ありがとうございます」と礼をして玉座の間を出た。締め付けられていたように縮こまっていた心臓がやっと解放される。


俺はまた隅っこの部屋、前に俺が使っていた部屋のドアを開けた。部屋の中は前と同じ、整えられたベッドがあって広めの机がある広々とした部屋だった。この部屋に来て最初にすることといえば


「だーいぶ!」

ボフッ。ベッドダイブである。やはり大きくふっくらとしたベッドがあったらダイブしたくなる。ベッドダイブは人間三大欲求の一つだからね仕方ないね。柔らけーなおい。俺の部屋のベッドなんてぺったんこで小さかったからシリコンの上で寝てるみたいな感触だったのに。枕も気持ちいいし。


今夜はぐっすり寝られそうだな。さてさてこれからどうしよっかな。毎回やることがないな俺は。ちょっと庭にでも行ってみるか。多少は暇つぶしくらいにはなるだろう。


庭も前に来たときと変わらずキレイに整えられていた。お嬢様がお茶でも飲んでそうな花に囲まれたテーブルやらガーデニングが行き届きている花壇。そして前にピアノを弾いた何だっけ?

あの西洋風あずまや。確かガゼルみたいな名前だったと思うんだけど。


うーんとガゼス、いやガズポだったっけ?とにかく西洋風あずまやが遠くに見える。そしてピアノの音が聞こえる。よく聞いてみたら弾いてる曲は前に俺が弾いていた「トロイメライ」か。どこかぎこちない弾き方をしているあたりまだ弾き慣れていないのか。


俺はこっそり後ろから演奏者に近づいてみる。前に見た時と同じ青っぽい高そうな服を着た気の弱い第三王女。確かマリアだったか。


「違う、こうじゃないわ。主旋律はどんなのだったかしら」

忘れちまったのか。しょうがないな、教えてやろう。曲は最後までスムーズに弾けた方が絶対に気持ちいもんだからな。俺はマリアの後ろから手を伸ばして鍵盤に指を置いた。


「そこはミのフラットでここはスラーだから滑らかに」

この時の俺は気が付いていなかった。というより気にしていなかったが人の後ろから手を伸ばすと一体どんな構造になるか皆は想像できるだろうか。後ろから耳の横を通り、そのまま鍵盤に指を置くということは

抱きしめる構造に近いのだ。


「っ!!痴漢!?」

マリアの頭突きが俺の顎に直撃した。

「ぬん!」

あまりにも突然なその衝撃を受け止めきれず俺は変な声とともぶっ倒れた。

喋ってる最中に顎への攻撃はやめなさい。舌がすごい危ないから。すごいグロッキーなことになっちゃうから!【悲報】異世界主人公、王女に頭突きされ舌をかみ切り死亡。とかになるのはごめんだぞ。


「って痴漢じゃ、ない?」


「痴漢じゃないです。坂下です。あといかがわしい心は一切ないです」


俺は顎をさすりつつ舌が無事かどうか確認しながら立ち上がった。危うくこんな下らんことで人生終了するところであった。俺はピアノの椅子に座ると一息ついた。俺もちょっとだけピアノ弾いとこうかな。

一応言っておくが俺はピアニストではない。あくまで趣味レベルで弾いているだけであって大会に出るようなガチ勢ではないのでお忘れなく。


ピアノに立てかけられている楽譜が目に入った。この楽譜・・・トロイメライじゃね?俺が弾いてたのを聞いて楽譜にしたのか、すげぇなお前。よくそこまでやろうと思ったな。こいつはガチ勢なのか。

俺は鍵盤に指を置いた。が、特に無性に弾きたい曲があるわけでもないしそもそも曲がなにも浮かばない。


なーに弾こうかなー。そう頭では考えているが指は勝手にチューリップを弾き始めている。まるで俺の空っぽの頭のような曲だな。頭の中がお花畑ってことな。まずいなこのままだと俺の頭の中のような曲が一曲終わってしまう。どうしようか、今一曲浮かんだけどよりにもよって『魔法少女マジカルメルちゃん』なんだよな。今この状況でいきなり『マジカルメルちゃん』してたらただの頭のおかしい人だよ。


さーてそろそろ本気で考えないとヤバいぞ。指が今度は勝手にカエルの歌を弾き始めたぞ。このままだと確実に次は猫ふんじゃったを弾くことになるぞ。俺が一人葛藤しているとマリアがもじもじしながら俺の服をつかんで言った。


「あの、その、もう一度とろいめらいを弾いてくれない?」

・・・可愛い。そんな赤い頬しちゃって。どこぞの説教ばっかりしてくる奴の妹とは思えない。一体どこでここまでの差が生まれてしまったのだろうか。ともかく可愛い女子からの頼みとあってはやるしかないよな。男は夢と金と女に弱い生き物なのだ。


「了解いたしました」

俺は指をゆっくり動かし始め曲を弾き始めた。静かな空間に響くピアノの音と時々聞こえる鳥の声と風に揺れる草木の音が心地よくておまけに太陽の温かい日差しがあるせいでなんだか眠たくなってくる。


「ふあ~」

とマリアが小さく開いた口を手で押さえる。眠たくなってきたか。確かに俺も遠征の疲れとこの素晴らしい空間のせいで本格的に眠たくなってきた。この王国って気のせいかいつも昼寝日和だもんなぁ。

俺は立ち上がって近くの木の下に行くとそこに敷物を敷いて寝っ転がった。やっぱり外での昼寝は良いもんですな。


「寝ないんすか?」


「え!?でも、あの」


「すごく気持ちいいですぜ」

俺がそう言うとマリアはもじもじしながら敷物のところまで来て座るとゆっくり体を寝かせた。


「本当、すごくいい気持ち」

マリアはそのまま目を閉じると眠ってしまった。やっぱり眠かったのか。じゃあ俺も寝ちゃおう。たまにはのんびり昼寝でもして

過ごすのもいいものだ。俺はマリアに毛布をかけると目を閉じた。よくよく考えたらこの敷物と毛布も神器なんだぜ。誰だこの2つをお詫びにしようと思ったのは。


俺の意識はそこで眠りに落ちた。




同時刻

ハイデン北の要塞ブレカにて。



私は書類をまとめながらもイライラとしていた。原因はあの男である。あの男はたしかにすごい。ちゃんとした実力があるし指示したとおりにモンスターも蹴散らした。それは認めて称賛してやるべきだわ。だが、だがあの自由すぎる行動だけは許せない。


私はクシャリと整えていた書類を握りつぶす。


「あ、あの殿下そんなにイライラしなくても」


「別にイライラなんてしてないけど!」


「ひっ!すみません!!」

そう言うとルイズはさっきよりも早くペンを動かして書類を書き始めた。相変わらず気の弱い子。マリア同様そこが可愛いらしいところだけど時々とても心配になる。子供の時から変わってないんだから。


イライラを抑えて書類を整え直して部下に指示を出す。

1日遅れでこちらに向かっていた要塞修復の大工たちがついっさっき到着したため要塞内はとても騒がしい。私はそんな騒がしい中で書類を書き続けなければいけない。今頃あの男はのんびり昼寝でもしているのだろうか。


そう思うと、いや考えないようにしよう。今は集中しないと。

「殿下、妹気味アイリス様から先程の手紙の返信が」


「ご苦労」

私は手紙を受け取ると中を見た。


『お姉さまへ


言われたとおり皆には無事を伝え黄金の鹿に行ってレイジにも会いました。でもレイジは同居人とのじゃんけんに負けて部屋を追い出されていました。本人が土下座しながら「泊めてください」と言うので今はまた王宮にいます。


そういえばさっき庭に行ったらレイジとマリアお姉さまが一緒に木の下で昼寝をしていました。下の絵は転写魔法で転写したものです』

下の転写魔法で描かれた絵を見ると木の下で幸せそうに寝ている妹と呑気に寝ているアホがいる。しかもちょっと距離が近い。私の中で何かがプツリと音を立てて切れた。グシャっと手紙を握りつぶす。


「あの、で、殿下?」

ルイズが不安そうに声をかけてくる。


「あのアホは、さっさと帰ったと思ったら、一体何をしているのかしら!!」

治まってきた怒りが頂点に達する。これはもう説教では足りないわ。鞭、いいえ焼印でもしましょう。そのくらいしても神は目を瞑ってくれるはずだわ。


「サディス!!作業の進行状況は?」


「現在6割といったところです」


「急がせなさい!」


「はっ!!」

私は部屋のドアを閉めて閉じこもった。残った書類をまとめてさっさと帰ってみせる。覚悟しなさい下民。私が戻ったときがあなたの最後よ。


「やれやれ忙しくなりそうだ」閉じられた扉を見ながらサディスは深くため息をついた。




目を覚ますと空は青色からオレンジ色に変わっていた。どうやら結構本格的に眠っていたようだ。やっぱり昼寝とは良いものだ。

それもこんな綺麗な空の下だというのだからなおさら良い。

さてと、そろそろ部屋に戻るとするか。俺は体を起こした。

横を見るとマリアはまだ小さく寝息を立てていた。


まだ寝てるのか。部屋に戻ろうかと思ったけどこのまま置き去りにするわけにもいかないな。寝顔もやっぱりいいですな。

ぐへへ。おっと俺は紳士(ジェントル)だから寝ている相手にイタズラしたりはしない。


しゃーないな。起こすのは悪いし起きるまで一緒にいてやるか。俺は再び横になると眠くはないけど目を閉じた。空を飛ぶ烏が鳴いている。夕方の木の下で寝っ転がる。そういえば前にもこんなことがあったな。


ごめんね。唐突な自分語り始めちゃって。


前はもっとロマンチックな感じだった。美人の膝枕付きだったんだぜ?羨ましいだろ。その美人、神崎って奴なんだけどそいつも金持ちのお嬢様だったんだけどな、ある日家に呼ばれて遊びに行ったときにいろいろあってこんな木の下で膝枕してもらった記憶があるような。


そんな記憶の曖昧なことがあった。

神崎の奴は今頃どうしてんだろうか。学校に行っていたときはよく俺と立花と神崎で放課後に理科室で科学部という名のお茶会部をやってたなー。よくビーカーでお茶淹れてたわ。


もうあの空間に戻ることもできないと考えると思い出すだけで寂しい気分になる。思い出さなければいいのだがあの一年は強烈だったからこそ思い出さずにはいられない。心の奥底にしまっておきたくても勝手に出てきてしまう。


男なのに情けない話だな。誰にも言えない俺だけの秘密。

そして俺の大事な宝の1つでもある。


次に目を開けると見えたのは空ではなく心配そうに俺の顔を見るマリアの顔だった。


「どうかしました?」


「目を覚まして横を見たら貴方が泣いてたから怖い夢でも見たのかと思って、その、心配で」

俺は自分の目元に触れるとわずかに濡れていた。泣いているところを見られるとは恥ずかしい限りだ。俺は涙を拭って起き上がる。


「気にしないでください。ちょっと涙が出るくらい面白い夢を見ていただけです」


「そうならいいけど」

空は太陽が沈んで少し暗くなっている。どうやら少しばかり二度寝してしまったらしい。眠くはないとか言っておきながら結局寝てんじゃねえか。


「マリア様、サカシタ様間もなくご夕食の準備ができます。食卓の方へどうぞ」

歩いてきた執事が言った。


「わかったわ」

マリアと執事は俺をおいてさっさと行ってしまった。


一人になった俺は自分の頬を叩いた。


しっかりしろ坂下レイジ!!この世界に来たときに覚悟は決めたはずだろ。いつまで過去のことをズルズル引きずるなっての。俺はこの世界で生きていく。


もう元の世界に戻ることはできない。だから後ろは見ても前にしか進まない。そう決めただろうが。

そうだ、俺はこの世界で前よりも楽しい人生を手に入れてみせる。行く先は絶対に茨の道かそれ以上に過酷かもしれないけど。


できるとこまで頑張ってみようじゃないか。ビビってないで一歩踏み出さないと何も変わらない。

茨だらけの道に花を咲かせる方法を全く知らないわけじゃない。俺ならきっとそうすることもできるはずだ。大丈夫、あの女子高での出来事を乗り越えたんだから今回もうまくいく。


俺は自分にそう言い聞かせて食卓に向かった。




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