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それでも転生者は異世界を生きていくようです  作者: 春深喜
異世界日常編
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残された選択

「こいつ、あなたの知り合いなの!?」


エリザベートが驚いた表情で俺に聞く。


「ああ。ちょいと厄介な関係さ」


騒がしい戦場の中で俺とユリウスが向きあうその場所だけが戦場と壁を隔てたように物静かな雰囲気に包まれていた。目の前の男を見ているとイライラとするが同時にこれ以上ないほど冷静でいられる。鏡の自分を見ているような不思議な気分だ。


「この世界で何をする気だ?」

 

「変わらないさ。元の世界にいた時と」


「バカバカしい」


「レイジ。お前にもわかるだろう。この混沌とした世界の醜さが。争い、差別、格差にまみれているにもかかわらず誰もそれを止めようとはしない。規律のないこの世界が心地良いからだ。ならば規律を作り、世界を作り変える絶対的な支配者が必要だ」


「だからミスクスを足掛かりにすると?」


俺がそう聞くとユリウスはそれを鼻で笑った。まるでくだらないことのように。


「まだ気が付かないのか?この状況になっても」


ユリウスの言葉の意味が俺には一瞬理解できなかった。しかし少し頭を使えばそれはとても簡単なことだったと気が付いた。とても小さくとても単純である意味では直球的。もしこの場にいたのがユリウスではなく他の男だったならきっとこんな直感的に理解することはできなかっただろう。ユリウスという男の存在が最大のヒントであり、俺の推測を裏付ける要因となった。


「ふざけやがって」


「俺の計画を実行するうえで障害となるのは軍隊でも、国でも、世界でもない。お前だ」


そう、ユリウスがなぜミスクスを襲撃したのか。その理由はここを世界征服の計画の足掛かりとするためではない。ユリウスの目的は俺を誘い出し、始末することだったのだ。そのために都市を丸々1つ使い潰し、戦場に変えたのだ。俺を片付けるためだけの戦い。それがこの戦場の存在意義、全てであり、それ以上でもなければそれ以下でもない。


「レイジ1人のためにこんな・・・」


エリザベートが呟いた。それが普通の反応だろう。年を陥落させるために人を1人犠牲にするというのならばまだ理解できる。しかし1人の人間のために都市を犠牲にするなど前代未聞、あまりにも過剰で割に合っていない。


「こいつはそれだけ危険なのさ。1人で世界を変えられるほどにな。凡人にはわからんだろうがな。都市1つでこいつを追い込められるなら迷いはない」


その言葉には一切の曇りがない。まるでそれが絶対に正しいことであるかのように。


「レイジ、あなたは一体・・・?」


そう呟いたのはエリザベートではなくエリアスだった。今までずっと近くにいた彼女からの言葉に俺の胸は強く締め付けられる。


「なんだ知らないのか?どうやらお前らはあまり信用されていないみたいだな」


転生し、この世界に来る前の俺が一体何者なのか。高校生ということは話したことがあるがそれ以外のことは誰にも話したことがなかった。話す機会がなかったのではない。意図的に隠し続けてきたのだ。知られたくなかった。知られるわけにはいかなかった。ユリウスは何も知らないエリアスたちを嘲笑うと「まあいい」とだけ吐き捨てた。


「レイジ、詰みだ。お前はすでに負けている。いや、元々負けていた」


「ならここから巻き返せるか試してみるか?」


「巻き返しはできるだろう。下手をすれば俺が負ける可能性もある」


ユリウスはあっさりとそれを認めた。これだけ用意周到に計画を進め、ここまで俺を追い詰めたというのに未だ負ける可能性を危惧しているのだ。


「だがそれは仲間を犠牲にすることを意味する。そしてお前にその選択できない」


何から何まで見透かされているようで相変わらず気色の悪い男だ。しかしユリウスの言う通り、誰にも構わず、俺が俺のためにだけ闘えば俺はこの状況を切り抜けることができる。そしてこの不利な状況をひっくり返してユリウスの計画を阻止することもできるだろう。しかしそれはエリアスやエリザベートを見捨てることを意味している。この戦いはそれほどのことをしないと逆転できないほどの不利な局面なのだ。


「しかしお前は理解しているはずだ。今自分が選ぶべき答えは全てを犠牲にして自分が生き残ることだと。そして身を潜め俺を撃つ機会を窺うことだと」


「あなたはどうしてそこまでレイジにこだわるの?」

エリザベートがユリウスにぶつけた疑問は当然のものだろう。傍から見ても俺はただの高校生、どこにでもいるような普通の少年にしか見えない。特別な才能があるようにも見えない。だというのにユリウスは明らかにレイジという男を高く評価している。


「言っただろう。こいつは危険な存在だ。そして文字通りの天才だからな」


ユリウスから出た言葉は非常にシンプルなものだった。「天才」どこでも聞けるような言葉だがユリウスから放たれたその言葉の重みは尋常ではない。何をやらせても人よりできるほぼ完璧と言っても過言ではない存在。それが本来どれだけ偉大で、称えられるべきものであるのかは想像に難くない。


「ここで見逃せば俺たちの計画が大きく狂う」


ユリウスがそんなことを言っている間に俺はこの状況をどうやって乗り切るかを考えていた。敵に取り囲まれているだけならば突破できないこともないが敵の数が多すぎる。2人くらいならばなんとか抱えてこのお戦場から離脱することもできるかもしれないがそれはつまり、この生き延びた者の中から助ける2人を選ぶことを意味している。そしてそれは言い換えれば他を見殺しにするということだ。


先ほどユリウスの言った通り「詰み」だ。今回は力押しではどうにもならない。どうすればいい。今俺にできることは何だ。


「少し話過ぎたか。では」


始まる。


「死ね」


殺戮が。


ユリウスの殺戮開始の宣言と共に俺は近くにいたキメラ2体に神器を投げつけて殺す。そしてさらに近くにいたキメラたちに斬りかかる。約3秒で近くにいた5体を片付けた。


「全員逃げろ‼生き延びることだけ考えるんだ‼」


「レイジは!?」


「できるだけ敵を抑える‼」


そう言って俺はエリアスの足元に1本の神器を投げると神器は足元に突き刺さる。結局俺が取った行動はおそらく俺にとって最悪のシナリオ。他の誰かを犠牲にして生き残るのではなく、自分を犠牲にして他を生き延びさせることだった。ユリウスの読み通り俺は誰かを犠牲にできない。しかしこれが最善の選択肢であるのも間違いない。ヤツの思惑に乗っかることにはなってしまったが元々狙いは俺。逃げるエリアスたちよりも俺を殺すために戦力を裂くはずだ。


「・・・みんな、行こう‼」


エリアスは他に何も言わずに足元に突き刺さった神器を引き抜くと全員を誘導する。エリアスが一緒なら生き延びられる。頼りなく見えても元々は戦争の前線で戦っていた天使だ。こんな時にどうすればいいかもわかっているはずだ。当然、敵の一部は逃げるエリアスたちを見逃してくれるわけではなくエリアスたちのところへ向かって行こうとする。俺はそんなキメラたちに掴みかかり、剣を振るい、滅多刺しにしてその命を奪う。


戦い方など選んでいる余裕はなかった。切り、刺し、引き裂き、殴って蹴って、噛みついて。とにかく殺すことだけ。そのためならば手段は問わなかった。それほどに敵の数は多く、隙を晒す余裕もなかった。

どれだけ殺したかわからないが地面と自分自身が濃く、赤く染まりヒドイ匂いが充満していて意識が飛びそうだった。しかしどれだけ足を滑らせそうでも踏ん張って立つ。まだ倒れることは許されない。



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