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それでも転生者は異世界を生きていくようです  作者: 春深喜
異世界日常編
103/106

首都ミスクス

ものすごい勢いで流されていた俺だが数秒で水流が止まった。もうエルドニアの近くに到着したのだろうか。


「ぷはっ‼」


水面から顔を出してみる辺りを見ると川の近くに大きな白い壁が経っていた。


「エルドニアだ!」


水面から顔を出したエリアスが叫ぶ。サイアンからエルドニアまでかなりの距離があるはずだがほんの数秒で移動できるとは思ってもみなかった。これなら多少の遅れも取り戻せるかもしれない。俺たちは川から出ると服を乾かすために1度休憩することにした。


焚火をして服を乾かす間、俺はエリアスに気になったことを聞いた。さっきはなんだかよくわからないうちに事が運んでいたからだ。


「水龍神の言っていたルミエルってのは誰なんだ?」


「ルミエル様は大天使だよ。とっても強くて優しくてみんな尊敬してた。でも神様に粛清されたんだ」


「粛清?」


「水龍神は知らなかったみたいだけど大戦後すぐに堕天したの。何でかは知らないけど」


「堕天・・・」


それが具体的にどんなことなのかは知らない。だがそれはエリアスにとって悲しい出来事だったのに違いない。尊敬する人が理由もわからずいきなり大きく変わってそのまま死んでしまったならそれほど納得のいかないものはないだろう。


「私とルミエル様はいつも一緒にいたからきっと水龍神は私の気配を感じてルミエル様も近くにいると錯覚しちゃったんだろうね」


エリアスは遠くを見るような目で、その時のことを懐かしむように焚火を見ていた。振るべき話題ではなかったのかもしれない。俺はすぐに話を別のものに切り替えた。


「そういえばエルドニアはどんなところなんだ?」


「そうだなぁ。世界最大の宗教国家かな。国民のほとんどが国と同じ名前であるエルドニア教の信徒で、大陸で2番目に国土のある国だね」


ハイデンよりも大きな国、か。国土の広さは国力の強さと言っても過言ではないはず。つまりエルドニアはハイデンよりも力のある国のはずだ。敵はそんなところで一体何をしようとしているのだろうか。まさか国を取るわけではないだろう。


「そして目の前に見えてる白い壁に囲まれているのが首都のミスクス。神官太子、エルドニアの国王もミスクスにいるから敵が現れるとしたらここだと思う」


エリアスの予想は当たっていると思う。予感でしかないが俺の中の奥底にある何かがここだと言っている。この巨大な壁の向こうに倒すべき敵がいる。そう思うと緊張する。しかしいつまでも壁の前で足踏みしているわけにはいかない。迷うことなく踏み出さなければ。俺は乾いた服を着る。戦いの舞台はすぐそこだ。


ミスクスの入口で検問を受け無事に通り抜けた俺の目に飛び込んできたのはミスクスの街の風景だった。

ハイデンの王都とはまったく造りの違う街だった。ハイデンと違いカラフルな街ではなく白で統一されていた。住民の服装も白い。白ばかりのまるで自分たちの廉潔を表現したような異様な光景だ。


あまりにも統一され過ぎていて何もしていないのに俺たちのような旅人はとても浮いているように見える。この状況で何かしようものならすぐに危険を察知されると思うが敵だってそれくらいはわかっているはず。なのにわざわざこんなに目立つ場所を狙うのか、ここを標的にする意図がわからない。テロリストが自分たちの意向を見せつけるために目立つ場所を狙うというのは元の世界のことを考えれば不自然なことではないがそれが目的とは思えない。


しかし回りくどいことはしないはず。奴らには国を陥落させるだけの力がある。いきなり首都を攻め落とすという可能性はもちろんあるが国崩しをやるだけならいつでもできたはず。なのになぜ未だ慎重に動いている?


意図が読めない。情報が少なすぎるか。俺の考えがカラぶっているだけか。それともここまで読めないのはそもそも陽動だからなのか。


「あら?あなたがここにいるなんて意外」


敵の罠の可能性を本格的に疑い始めていた俺に声をかけてきた女がいた。その人物を見て俺は思わず目を丸くした。声をかけてきた女の正体はハイデン王国第二王女であるエリザベートだったからだ。傍には王国の騎士であるサディスもいた。


「なんてお前がここに?」


「前々から予定されていたエルドニアの神官太子様との会談のためよ」


「・・・今からか?」


「そうだけど?」


エリザベートがここにいるということは陽動の可能性は低いかもしれない。前回の戦いでキメラたちは多少なりともエリザベート率いる王国騎士団に痛い目に遭わされている。それならわざわざエリザベートの留守を狙ってハイデンを攻めるようなことをするだろうか。敵にとって邪魔なのは王国騎士団よりも俺やユウナのような規格外の転生者のはず。それなら俺とユウナを確実にハイデンの外に誘導してその間に攻めるはずだ。


となると敵の目的はエリザベートと神官太子の会談を襲撃することと考えるのが妥当か。暗殺を計画しているというのならこそこそ行動しているのも辻褄が合うと言えば合う。


「あなたたちは今日は仕事?」


「いや、実は」


一通り頭の中で考えた後、俺はこれまでのことを話した。エリザベートは口元に手を当てて考え込む。


「いろいろと不確定な要素が多いわね」


残念だが否定はできない。敵の行動を予想はできるし、行動の理由にも辻褄の合うものを探し出せる。しかしそれらはどうであれやはり予想の域を出ない。物事を確定させる要素が何1つ見つからない。果たしてどこまでが正解でどこからが間違っているのか、それさえもわからないのがもどかしい。


「会談は中止ってわけにはいかないか」


「難しいわね。国の行く末を左右しかねない会談だもの。信憑性の薄いその情報でそう簡単に中止にはできないわ」


お偉いさんの命が狙われているというのだから中止にできそうなものだがやはりそう簡単にはいかないだろう。神官太子からすれば、いや、第二王女としてのエリザベートからしてみても俺の言っていることは信憑性が薄い。彼らからすれば俺はただの小汚い冒険者。俺の言っていることはクソガキの戯言に過ぎないのだ。そんな戯言に1つ1つ構っていては外交などできない。会談の中止はもちろん、聞き耳すら持ってはもらえないだろう。


「殿下そろそろ時間です」


「ええ、わかってるわ。この話、一応騎士団と神官太子様にも共有しておく。お互いに何もないことを祈ってるわ」


エリザベートと護衛である王国騎士団はそう言い残して行ってしまった。俺の心には不安が募るが止めることはできない。せめて護衛として近くにいたかったがそれもかなわない。どれだけ腕っぷしが強くても特別な力を持っていたとしてもこの世界の俺の立場はただの冒険者、政治的な力はない。俺は俺で他に遠回しにでもできることを探すしかないのだ。


「厄介なことになったな」


「そうだね。かゆいところに手が届かない。そんな感じ」


問題の渦中すぐそばにいるというのにギリギリ手の届かない蚊帳の外にいるもどかしい、イライラとさせる感じが俺の気分を悪くさせる。


「エリアス、俺はどうすればいいと思う?」


「そうだなぁ。会談の場所はおそらく神官太子のいる大聖堂。忍び込むのは無理だし、その周辺に張り込むくらいかな。エルドニアの聖騎士団はかなりの腕前らしいけど正直転生者率いるキメラ軍団を相手にどこまで戦えるかは未知数だね」


エリアスは普段のふざけた感じの態度からは想像できないほど冷静に戦況を分析する。さすがは悪魔との戦争を経験してかろうじてではあるが生き延びているだけのことはある。キャリアが俺とはかけ離れている。ここは経験者に頼るのが良さそうだ。


「敵はどこから来ると思う?」


「私だったら下水を使うかな。キメラを街の中に潜伏させるのは無理だろうしね。馬鹿正直に正門から攻めるのは戦力の無駄だし」


下水か。確かにそれなら正面突破よりも楽だし、静かに内側に入れる。大聖堂の地下から侵入すればエリザベートたちを襲うのは簡単、例え地下に警備がいてもキメラの力ならば瞬殺できる。それにキメラの強みである物量による制圧を活かしやすく、都市そのものを陥落させるのも簡単だ。外壁の内側をキメラで埋め尽くせば決着はすぐだろう。


会談はじきに始まる。開戦の時は近い。


俺とエリアスは大聖堂へと向かった。

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