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それでも転生者は異世界を生きていくようです  作者: 春深喜
異世界日常編
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また旅の始まり

どうも皆さんこんにちは。俺だ。


突然だが前回までの物語を覚えているだろうか。覚えていない人は・・・頑張って思い出してくれ。

長い旅から帰還し、疲れ切っていた俺はしばらくの間休暇を取っていた。最初は1週間ほど休むつもりだった。いつも以上に頑張ったのだからいつもよりも長く休もうと思ったのだ。しかし休暇の時間というのはどういうわけかあっという間に過ぎ去っていくものらしく俺はいつの間にか1ヶ月近くの休暇を取っていた。ほとんど夏休み状態だったわけだ。


絶賛夏休み謳歌中の俺は当然だが働くなんてことはしない。やっていたことといえば川で釣りをしたり、昼寝したり、虫取りは・・・大人になるとできなくなる。要するに基本遊んでいただけ。ちなみに最近はやることがなさすぎて暇を持て余し始めている。


そんなわけでそろそろ夏休みも終わりにしなければならないのだが夏休みを1度でも経験したことのある人ならば1度は絶対に考えたことがあるだろう。


「夏休み、終わってほしくないでごんす」と。


夏休みという特別な休暇を知ってしまうとなかなかそこから抜け出せない。例えやることのない暇な時間だったとしても終わってほしくない。またいつも通りの忙しいだけの日々に戻りたくないと絶望し、夏のドリームワールドに引き籠もってしまいたくなるのだ。もう1日だけ、もう1日、もう1日。


かつては夏休み明けの始業式を風邪(仮病)で欠席する体育会系夏休み延長野郎をぶん殴ってやりたいと思っていた俺だがまさか自分がそちら側にまわることになるとは一生の不覚だ。


「不覚と思ってるなら早く働きなさいよ」

俺の目の前に座るのはおなじみドSクソダサファッションお嬢様のユウナ。


「いやーそう言われましてもねぇ」

ちなみに昨日で夏休み延長21日目。もうすぐ夏休み2ヶ月目に突入しそうだ。


「そんなにだらけてるから太るのよ」


「1キロも太ってないよ‼」

だらけてこそいたが体重の増減はない。我ながら完璧な健康管理だ。一方でユウナは少し痩せたような気がする。俺がだらけているここ最近はいつも以上に死ぬ気で頑張って働いていたようだがきっとそれは関係ないだろう。しかしこのまま痩せられても困る。そろそろ本当に仕事に復帰しなければならないようだ。


まずはウォーミングアップもかねて簡単なクエストでも受けるとするか。本当はもうしばらく休みたいが休みというのは終わってしまうから尊いものなのだ。さようなら夏休み、また来年会おう。


立ち上がって早速出かけようとした俺だったがその出鼻を挫くように屋敷メイドのモニカが一通の手紙を渡してきた。せっかくやる気になったというのにタイミングが悪い。俺は手紙の差出人の名前を探す。しかし真っ白な手紙にはどこにも名前が書かれていない。さらに不自然なことに封もしっかり閉じられていない。普通は封蝋されるはずなのだがそんなものは一切ない。とても雑な手紙。


こんな状態でよく届いたものだ。俺は封筒の中の便箋を取り出して中を見た。便箋には短く簡潔に書かれた文章があった。しかし、とても短くもはや手紙とは呼べないそれの言葉はだらけ切っていた俺の心を動かすには十分すぎた。


『エルドニアに行け。そこに敵がいる』


誰が送ってきたのかはわからない。敵の罠かもしれない。しかし、行かないわけにはいかない。本当であれ嘘であれこのまま黙って無視を決め込んでいることはできない。この機会を逃せばもう敵の情報を掴むことはできないかもしれない。この1か月、王都の街の中を歩き回って調べていたがハイデン王国では一切の情報は掴めなかった。この手も足も出ない状況の中でこの手紙が来たのはまさに千載一遇の好機。


長旅から戻って長期休暇の後、また長旅か。なかなか偏った仕事ぶりだがこの件を解決できれば俺は本当の意味で元の生活に戻れる。ようやく本当の意味で気を休ませることができるのだ。早速旅の準備をしなければ。俺は手紙を服の内ポケットにしまうとすぐに自分の部屋に戻ると壁際に立てかけられた白い鎧と向き合う。


ダンジョンでメルキムスに壊され使い物にならなくなっていた鎧だ。いくつもの破片となって飛び散ったはずの鎧はあの時、粉砕される前の姿に戻っていた。この休暇の間に俺が必死に直したのだ。だが直しただけではない。それどころかこの鎧はあの時よりも進化している。見た目も少し変わり、胸の中心にぽっかりと穴が空いていた。


俺はそこに青緑色の丸い水晶のような部品をはめ込む。鎧に欠けていた最後の部品だ。


「悪いが、お前の魂を使わせてもらうぞ」


俺が鎧の肩に触れると鎧は光とともに姿を変え、俺の手首の紋章の中へと吸い込まれていった。神器を持つ者の紋章。その紋章の意味が活躍する時がようやく来たような気がする。情報がどこまで真実かかわからないが仮に真実だったとすればこの旅はきっと俺の戦いの終わりになるはずだ。エルドニアという場所に加賀はいる。今度は間違えない。


この戦いは俺の甘さが原因で長引かせてしまった戦いだ。今度は必ずヤツを殺す。今度こそ終わりにするんだ。


リュックに詰める荷物なんてものはない。必要なものは全てそろっている。後はただエルドニアとかいう場所に行くだけだ。


「やはりエルドニアか。いつ出発する?私も同行する」


「エリアス」


ドアの近くに立っていたのはエリアス。ここのところ全くと言っていいほど出番がなかったので一体何人が彼女のことを覚えているのかが心配だ。


「遊びに行くわけじゃないんだぞ」


神導国家(しんどうこっか)エルドニア。私とは切っても切れない縁がある国だから見て見ぬふりはできないわけよ」


エリアスは気軽にそう言うがきっとその言葉には彼女なりの覚悟があるはずだ。そして手紙の内容を見たのならこれから行く場所がどういう場所なのかもわかるはずだ。


「本当についてくるのか?」


「相棒が行くって言ってるんだもん。ついて行かないわけにはいかないよね」


俺が1人で敵の根城に乗り込んでもおそらく勝てない。だから味方がいるのは心強いのだが同時に誰も巻き込みたくないとも思う。これから行く場所は今まで訪れた場所とは比べ物にならないほどに危険な場所だ。敵はモンスターではない。俺やユウナと同じ人間を超え、この世界のルールから大きく外れた転生者と呼ばれる正真正銘の怪物。


今までいろいろな問題にぶつかってはなんとか解決してきたが今回ばかりのこの脅威は完全に未知数。どこまでやれるのか、どこまで立ち向かえるのか想像なんてできない。だが行くしかない。どれだけ無謀であっても。転生者を倒せるのは同じ転生者だけ。そして敵の居場所を知っているのは俺たちだけ。


「わかった。行こう」


毎度のことながら必要な荷物なんてない。ほとんど手ぶらの状態で俺たちは戦いの場へと向かう。時間はない。いつ敵が動き始めるのかわからないからだ。そもそも何をしようとしているのかもわからない。今俺たちにできることは考えるよりも動くこと。だから今からエルドニアに向かう。


「悪い。今日からまたちょっと遠出してくる」


俺はそれだけ言ってユウナを呼び出して屋敷の外に出た。そして手紙のことを話した。


「それなら私も」


「いや、お前は残ってくれ。この情報がもし罠なら俺がエルドニアにいる間ハイデンの守備はガラ空き同然だ」


「けどそれじゃあ」


「危険なのはお互い様。どうなるのかなんて誰にも分からない」


「・・・・・わかった」

ユウナは渋々承諾してくれた。これが最善、とは言わない。しかしこうする他なかった。最悪の事態を防ぐためにはどちらかが残らなければならない。これは喧嘩やいざこざなんてものじゃない。これは戦争だ。小さいがとても大きい、1人で数千人分の戦闘力にもなる転生者同士の戦争だ。

俺とエリアスは歩き出す。


「いいの?これで」


答えられない。何がいいのかなんてわからない。俺はただやれることをやるしかない。



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