ヒロインと断罪
◆本日最後の投稿になります。よろしくお願いします。 4/4
「残念だ、アイリーン。お前との婚約を破棄させてもらう」
冷たく鋭い声で、目の前のアイリーンに告げるシュザ様。その目にも立ち振る舞いにも、迷いのカケラも無かった。
アイリーンの取り巻きも周囲の学生達も驚いている。当然よね、こんなに堂々とアイリーンに詰め寄るシュザ様を見たことが無いのだから。私はゲームで見たことあるけど。
だって、今のシュザ様は私と出会う前のシュザ様ではない。私によって自信を取り戻し、殿下を心から支えている私がいるから。
それにしても、取り巻き達の顔色はひどく真っ青ね。自分達の失言が原因で、己ばかりかアイリーンまで婚約破棄の道を辿らねばならないのだから仕方ないけど。
私はあの録音した暴言の数々をシュザ様達に聞かせた。シュザ様は陰口に聞き慣れていたのか静かだったけれど、セイリオス様と婚約し直そうという辺りでは顔をしかめていた。
兄であるセイリオス様と婚約者の令嬢が仲睦まじいのを知っているから、それに横やりを入れようとするアイリーンに憤りを覚えたのだろう――自分ではなく家族のために怒るなんて、本当に優しい方。
攻略対象達も、自分の婚約者の言葉に覚悟を決めたのだろう。主と決めた人をここまで悪く言う人間に好意を持つわけがないもの。揃って頭を下げて殿下に謝罪する彼らを見ているといたたまれなかった。彼らはとても優しい人達で、何も悪くないのに。
そうして彼らは、自身の婚約者達を断罪する。真に愛する人のために、祖国のために。
当然、私も一緒に戦う。だって私はヒロインで、彼らの光だから。
「恥知らず! 殿下や皆様に取り入って、私達を陥れるなんて……! 身の程を知ったらどうなの!!」
令嬢の一人が叫ぶ。どうやら、私の非を利用して逃れようとしているようだが、そうはいかない。
「その言葉、そっくりそのままお返しいたします。アイリーン様の権威を笠に着て、王族であるシュザ殿下を貶め、守るべき弱者を踏みにじってきた貴女方こそ罰せられるべきなのです」
息をのむ彼女達には目もくれず、私は周囲に呼びかけるように言葉を続けた。
「この国の頂点に立っておられるのは国王陛下、次いで王族の方々です。アイリーン様は確かに王族の血を引いておられますが、その正式な身分は公爵家の令嬢でしかありません。どちらが上か、考えなくとも分かることです。そして、身の程をわきまえた行動というものが、どういうものなのかも」
アイリーンも、何かに気付いたような表情をしたが、もう遅い。
「私は、過ちを犯したつもりはございません。私は、真に敬うべき相手は誰か、常識にのっとって行動したにすぎません」
学生達の中には、私の息のかかった者達がいる。彼らを中心に巻き起こる、私に賛同してアイリーン達を非難する声。
アイリーンは失念していたようだけど、これまでの出来事によって、一般の学生達から彼女への信用は揺らいでいた。元々アイリーンの派閥は高貴で淑やかな令嬢達の集まりということで羨望を集めていたが、女子の集団が厄介なものだという認識は「私」の世界と変わらないらしい。彼女達は格下の身分の学生にはずいぶん高圧的に接していたし、(クラスやサロンでの努力の甲斐あって)人望のあった私に対して行った攻撃の数々は学生達が抱いていた密かな不満を強めるのに十分だった。
私を非難する声よりも、よっぽど大きな不満を。
沈黙を貫いている人達もいるけれど、彼らは事態の静観を決め込んだ第三王子派や中立派の人間だ。アイリーン達の助けにはなるまい。
「アイリーン。この件は父上、いや陛下にもお伝えする。公爵への報告は使者と君自身――好きな方を選ぶのだな」
「…………承知いたしました」
僅かばかりの沈黙の後、アイリーンはシュザ様に一礼し、弱々しくも承諾する。
ゲームと比べて潔い最後だと思う。彼女は今更ながらにシュザ様を見つめていたが、ニックスや騎士科の男子学生(言うまでもなく私達の同志だ)に促されてその場から退出していった。もちろん、彼女の取り巻き令嬢達も一緒に。
しばし騒然となるが、シュザ王子がその場を収めるために声をあげる。
「皆、此度は王家の恥部を見せる形になってしまい、申し訳ない。だが、私は約束しよう。この失態は、シュザ・ランドセン・セントラルの名にかけて必ず返上しよう。ここにいる、私の親愛なる側近達と、勇敢なメアリー・パリエット男爵令嬢と共に!」
第二王子派の学生達を中心に拍手喝采が起こる。物語通りの展開に、私は今までにない達成感を覚えながら笑みを浮かべていた。
(これでシュザ様は解放される……後は、シュザ様が立太子なさって、私と結婚して、私が王妃になるだけ)
本当なら、ここでシュザ様は私にはっきりと求婚してくださるのだけれど、婚約破棄の直後でそれは良くないと側近達がシュザ様に忠告してしまったので我慢する。それは少し不満だったが、シュザ様の御心を信じているので何ら問題は無い。
我慢もほんの少しの辛抱だ。何故なら、もうアイリーンの失脚は変わらないから。
断罪が始まったのと同時に、王都の至るところでアイリーン達の醜聞が噂として流れ出す。噂を流すのは私の商会での部下達だ。彼らが流す噂は若干脚色しているものの事実なのだから、公爵家がいくら庇っても国民達は信じないだろう。
そして、シュザ様を救い、悪役令嬢を断罪した正義のヒロインとして、私――メアリー・パリエットの名も広めるのだ。国民の支持というものは、直接的な力は無くとも武器になる。実際、ゲームではヒロインを王妃に望む声が国民達の間で強くなることが、私が王妃になる手助けとなるのだから。こうした情報は早いに越したことはない。
まだまだ忙しいのは続きそうだ。これからは、シュザ様を立太子させるために、様々な思惑を持った宮廷の人達とやり合っていかなくてはいけないのだから。
そうだ。ついでに「私」の記憶を使って真央国の体制を改革しよう。「私」の生きていた社会の方が、はるかに便利で生きやすいのだから、きっと国民達も喜ぶわ。
「ありがとう、メアリー。君は私の光だ。これからも私を、この真央の地を照らしてほしい」
「身に余る光栄ですわ、殿下、いえシュザ様……!」
手を取り合う私と王子。更に湧き上がる歓声。
もはや、シュザ様も他の攻略対象者達も、単なる「ゲームの登場人物」ではなくなっていた。彼らは生身の意思を持った人間であり、現実を共に生きていく最愛の人や仲間なのだ。それを自覚した瞬間、心の中でずっと感じていた違和感が消えてなくなっていく。
私は幸せだった。今までの人生で、一番幸せな瞬間。
でも、まだまだ大きな幸運がこの先やってくる。私には分かるわだって、私は――。
この世界のヒロイン。この世界の中心で、誰よりも幸せになる運命を持つ者だから!
ヒロインside、以上で終了となります。
最後までお読みくださり、誠にありがとうございます。