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他人事ではありません  作者: 藤田カナオ
Side:ヒロイン<学園編>
3/8

ヒロインと悪役令嬢

◆本日、三話目になります。よろしくお願いします。 3/4

 物語は順調に進んでいったが、当然のことながら悪役が登場する。

 シュザ様の婚約者となっているアイリーン・マーズレン公爵令嬢と、側近達の婚約者(もといアイリーンの取り巻き)が中心のグループだ。

 第一王子と婚約者は既に学園を卒業していて、第三王子は未だ婚約者が決まっていない。

 そのため、王子妃に内定しているアイリーンは身分的に女子学生の頂点に立っている。彼女の派閥は大きく、教師ですら満足に意見できないのだ。

 ゲームの物語では、彼女達はシュザ様達に近づくヒロインを邪魔者認定し、陰湿ないじめを仕掛けてくる。

 いじめは学校で行われるような一般的なものから始まり、終いには家の権力を用いて男爵家や周囲の人達に圧力をかけるようになっていく。

 もちろん、ヒロインと仲間達はそれらに正攻法で立ち向かい、最後には悪事の数々が露見して取り巻き共々婚約破棄されて退場するのだ。


 私のアイリーンに対する第一印象は「むかつく女」だった。

 アイリーンは本当に何でも持っていた。私とは正反対だけど人目を惹く美しい容姿、聡明な頭脳、王家と遜色ない高貴な家柄、自慢の家族から注がれる愛情、周囲からの期待と羨望、たくさんの取り巻き。

 どれも、「私」が持っていなかったもの。私が苦労しなければ、ヒロインでなければ手に入らないものだった。

 悪役令嬢のくせに、何でも持っているなんて、なんて生意気なのだろう!

 そのくせ、シュザ様が話しかけても扇で顔を隠して視線をあわせず、やっと話しかけたかと思えばシュザ様の小さな粗を見つけては文句を言ってくるのだ。


 ゲームの時から嫌いな女だったけど、実際に目の前で見ているとますます憎たらしく思えてくる。関係あるか分からないけど、「私」の同級生にも似たような女がいた。周りに人がいるからとつけあがって、「私」を事あるごとに貶してきた女に。

 だから「私」はシュザ様に一番共感したのかも。シュザ様の悩みの根幹は、アイリーンとその周囲によってもたらされた「無理解」だったのだから。

 彼女は知らないのだろう。周囲の人々がこぞって彼女とシュザ様を比較し、シュザ様を貶していることも、それらがシュザ様のストレスになっていることも……。

 そんなことも知らずに「理想の令嬢」を演じているアイリーンを見ても、鼻で笑うしかない。

 「私」の持っていた情報によれば、シュザ様は幼い頃は純粋にアイリーンが好きだったそうだ。だけど、彼女の身近な人達の心無い言動が深いトラウマとなってしまったらしい。そこでヒロイン、つまり私がシュザ様を一生懸命励まし、彼に自信を取り戻させるのだ。


 励ましの言葉はゲームでヒロインが言っていたのと同じだが、「私」の記憶の影響か力強く、自分のことのように喋ってしまった。結果的にシュザ様が本気で私を愛してくれるようになったから良いのだけど。ゲームの時より簡単だったのは驚いた。どうやらゲーム以上にアイリーンびいきがひどくなっているようだ。

 眉をしかめ、「息苦しかった」などと吐露するシュザ様を見るたびに胸がちくりと痛むのは、きっと気のせいではないのだろう。


 肝心の私に対する態度だが、アイリーン自身は素知らぬ顔をしていた。

 取り巻きの令嬢達がサロンを妨害してきても、陰湿な嫌がらせをしても、私の仲間に脅しをかけても、お父様の経営する商会を攻撃してきても、それに協力することもなければ表立って褒めることもしない。

 もっぱら、王宮での王子妃教育や、お茶会や舞踏会などの社交を優先し、周囲には「私は多忙で、悪事をしている暇はありません」アピールをしているようだ。

 ゲームでは、彼女がヒロインいじめの主犯であることが広まり、王子妃として不適格だとして婚約破棄の流れになるはずなのに。


「ああっ、もう! 目障りな上に役に立たないなんて!」

 誰もいない自室で怒鳴り声をあげてしまう。

 ヒロインらしくないとは思うが仕方ない。彼女が一向に悪役らしいことをしてくれないお陰で、こちら側が不利になっているのだ。

 攻略対象者達やクラスメイト、サロン仲間の協力もあって、取り巻き達をいなすことはできた。

 ゲームとは、嫌がらせの方法など多少の違いこそあったが、そこは「私」の知識や私自身の才覚・人脈を利用して、こちら側が有利な結果になるようにした。正直ゲームの物語よりも解決方法に筋が通っているのではないかと自画自賛してしまうほどの結果を出せたと思っている。


 だけど、肝心のアイリーンが主犯だという証拠が無い上に、実行犯の令嬢達が攻略対象者達の婚約者だったことや、彼女達自身が上位の家柄であるということで、直接の処分に持ち込めていないのだ。

 それだけならまだ良いが、婚約者のいる男子と親しくしすぎたのが悪いと、私を批判する声がちらほら出始めているのが気になる。シュザ様のお陰で表立って言う者はまだいないが、このままではそれも限界だろう。王と王妃になる身なのだから、なるべく醜聞は避けたい。


(しょうがない。ちょっと強引だけど、手を打たないと)

 私は覚悟を決めて、ある計画を実行に移した。

 アイリーンが普段利用しているサロン会場に音声を記録する法術具をしかけ、アイリーンが私への攻撃を取り巻きに指示している証拠をつかむ、というものだ。

 そうすれば、あの女も言い逃れできなくなるし、シュザ様との婚約破棄もきっと上手くいく。

 サブ攻略対象者の中から協力してもらえそうな人を選び、法術具をしかけることは難しくなかった。

 問題は、回収した法術具に証拠が残っているかどうか。


 ――その心配は杞憂だったけど。何故なら、聞こえてきた言葉は予想以上のものだったから……。



『殿下も見る目がございませんわ。庶民上がりの娘に現をぬかすなど、ご自身の取り柄をわざわざ貶めるだけですのに』

『本当に。アイリーン様こそ、王妃に相応しい令嬢はいないというのに、どういうおつもりなのかしら』

『ああ、ニックスも気の毒だ。あのような方にお仕えせねばならないとは』

『アイリーン様、いっそのこと公爵家より陛下に進言なされては? 王太子の有力候補には、まだセイリオス様がいらっしゃいますわ。それにセイリオス様の婚約者はしょせん伯爵家止まりです。側室に格下げしても文句は言えませんもの』



 ――彼女達がそういう人間だって、分っていた。分っていたけど、いくらなんでもあんまりだ。

 自分だけでなく婚約者や自分達の実家の立場を危うくし、第一王子とその未来の妃すら貶めていると自覚しているのかしら。

 まあ、さすがにこんな発言はアイリーンだって止めると思った。婚約者なのだからこんなあからさまな侮辱は注意くらいして当然……。


『皆さん、ありがとう。優しい友人がいて私は幸せですわ。そうね、この国のためにも、これからのことはお父様達とも相談していかなくては……私は絶対に負ませんわ』


「……………………」

 私は言葉を失くしていた。鏡があったら、知り合いが見たら別人かと疑うくらい冷たい目をした自分が映っていただろう。

 アイリーンが嫌いだったのは事実だ。

 政略的な意味合いの強い婚約だったらしいけれど、それでも公爵令嬢として、貴族として、シュザ様の婚約者として、最低限の情は持ってくれると思っていた。シュザ様が謗られている事実を知れば、そちらも諌めてくれるはずだと。ゲームでは、それをほのめかすセリフを言っていたのに。

 本当に、「王妃の地位」しか愛していなかったのか。

 何故だろう。もう怒りなんて感じない。ずっと待ち望んでいた証拠なのに、喜びすら感じない。


「ありがとう、アイリーン様。私がシュザ様を救うのは間違いではないと教えてくださって……」

 ゲームの中のメアリーは、悪役令嬢のアイリーンに対して「この人にだけは負けたくない」と言っていた。

 けど、現実の私が思ったのは、そんな生易しいセリフじゃない。



(この女だけは絶対に許さない!)



 その、一心だった。それだけだったのよ。

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