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他人事ではありません  作者: 藤田カナオ
Side:ヒロイン<学園編>
1/8

ヒロインと「私」の夢

 「他人事だと思ったら」に登場する花姫・メアリー視点。時間系列は「花姫騒動(ゲームでは学園編ともいう)」が起きた頃です。

 ※ヒロインは「自分は賢い」と思っているけれど、ゲーム脳または電波な一面もあります。予めご了承ください。


◆再投稿一話目になります。よろしくお願いします。 1/4


 十三歳の誕生日、私は夢を見た。とても不思議で、だけど懐かしいと思う夢。



 夢の中での「私」は大きくて立派な家に住み、裕福な生活を送っていたけれど、とても孤独だった。

 世間体に関わることには敏感に干渉するくせに、「私」の世話はずっと人任せにしてきた両親。

 勉強だけが取り柄で他は人並み以下だった「私」を馬鹿にするだけの学校の人間。

 そんな彼らに嫌気がさし、「私」は家に引きこもりがちになっていた。

 そして、乙女ゲームと呼ばれる遊戯の、ある作品に楽しみを見出すようになる。


 『君への愛を未来に捧ぐ』


 孤児院で育ったヒロインが、貴族だった実父に引き取られたことをきっかけに貴族御用達の学園に入学する。

 そこで、美形で将来有望な貴公子――(ゲームの言い方で言えば)攻略対象者達と出会い、彼らを心の闇から救って愛を育んでいく。

 そして数々の苦難を乗り越え、メインヒーロー(もっとも中心的な攻略対象者のこと)の王子様が国王となり、彼と結婚したヒロインは王妃になるという物語だ。


 「私」はその物語に夢中だった。特に、メインヒーローの王子様がお気に入りで、彼との物語を何度も繰り返した。


 王子の境遇が「私」と重なっているように思えて、彼を救うシーンに深く共感できたから。

 王子がヒロインに感謝と愛の言葉を囁く声が、耳に何時までも残っているから。

 王子がヒロインに向かって満面の笑みを浮かべている光景が、「私」の心を躍らせてくれるから。

 他の攻略対象者達も、晴れやかに未来の王と王妃を祝福してくれる。彼らだけでなく国中の人々が、ヒロインを認めて敬愛の情を向けてくれる。


 ――なりたい。皆に愛される存在に。誰にも負けない幸せなお姫様に。素敵な物語のヒロインに。

 夢の最後の方で、「私」の体はとても熱かった。それでも、かじりつくようにヒロインの幸せそうな光景を眺め続けていた。

 ――それこそ、倒れて意識が遠ざかっていくまで……。



 目が覚めた時、私は昨日までの私とは違う存在になった……と思う。

 原因は、いつもと違い、はっきりと覚えていた夢。夢の中に出てくる、ヒロインの少女に見覚えがあったからだ。

 数少ない私物である手鏡を手に取り、自分の顔を見た私は気付いた。

 あのヒロインの姿は、自分と瓜二つであることに。

 そして、ヒロインの名前が自分と同じ「メアリー」であり、子供の頃の境遇も変わらないということに。


「私のことだ………!」

 頭の中で、何かが一気にはじけるような音と共に、膨大な情報が脳内に広がってくる。

 私は一瞬で理解した。理解せざるを得なかったとも言う。

 ここは乙女ゲームの世界であり、私は前世の「私」の記憶を持って生まれた、この世界のヒロインなのだと。



 しばらくは動けなかった。「私」の人生を思い出してしまったショックからか、私の正体を知ってしまった喜びからかは分からない。

 本当なら、後者の方が大きいって言うべきなのだろうけど、「私」の人生があまりにも悲しく感じられたから、断言できない。

 あんなにも愛を渇望していた少女の記憶が、どうやって私の中に流れ込んできたのかは分からないけど。



 私は、三歳の時に母親が流行り病で亡くなってから、ずっと孤児院で暮らしてきた。私は母親とそっくりの顔だと言われてきたが、よく覚えていない。

 その生活に不満を抱いたことはない。院の先生達は厳しくも優しかったし、仲間達からも慕われてきた。

 自分で言うのもなんだが、私はとても可愛らしい顔立ちで勉強もできたし、お手伝いや年下の子の世話も積極的にやってきたから、というのもあるだろうけど。

 元々、幸せな家庭への憧れは持っていた。周りの大人から向けられる「可哀そうな子供への憐れみ」とかじゃなくて、本物の「愛情」が欲しかった。いつか心から愛する人と結婚して、幸せな家庭を作りたい。そう願っていた。

 私自身の境遇から来る願いだと思っていたけれど、「私」の愛に対する執着心がそうさせていたのかもしれない。

「もし、そうなら……叶えられるかもしれない」

 そうよ。今の私なら、私の夢も「私」の願いも叶えられる。だって、知ってしまったから。


 ここは乙女ゲームの世界で、私は特別な人間で、いずれこの国の未来を担う攻略対象者達と運命の出会いをするということを。

 そのために必要な要素も、記憶の中の光景をこの目で実現できる術も、全て持っていることを。


 だから決めた。この世界の、誰よりも素敵なヒロインになると。

 ――誰よりも幸せになると。



 その日から、私は準備を始めた。

 実の父親が私を迎えに来るのは十四歳の誕生日、つまり一年後だ。

 父は王立学園で、私に貴族教育を施すつもりなのだろうけど、それは学園での生活――物語が不利な状況で始まってしまう。今の私は平民としては十分優秀だと言われているが、貴族の子女が身につけている教養はさっぱりだ。

 実際、ゲームのヒロインは「平民上がり」と周囲に笑われてしまうらしい。「私」の経験上、それは絶対に嫌だ。

(せっかくの一年だもの。準備期間だと思っておこう。とりあえず……)

 市街にある使用人養成の私塾に職業訓練の名目で通わせてもらい、礼儀作法だけでなく、貴族の暮らしや社会制度なども学んだ。「私」は知識だけは豊富に持っていたので、勉強自体は苦にならなかった。

 美容にも気をつかった。化粧品や綺麗な服なんて買えなかったけど、清潔感だけは常に保つよう心がけた。王都の流行りは常にチェックして、自分だったらどう美しく磨くか想像していた。

 そして、もっとも大切なこと――情報収集も忘れなかった。攻略対象達の情報は「私」の記憶を通して把握していたけど、それが正しいかどうか、私塾などを通して確認した。ゲームでは明かされなかった、王家や貴族社会の情報も出来る限り拾い上げる……世間や私塾仲間の噂話が主だったけど。



 努力を積み重ねて一年。十四歳になった私の元に、一人の貴族が面会に来た。

 顔立ちや身なりは整っているものの、これといった特徴の無い彼こそ、パリエット男爵――私の実の父だ。

 父には正妻も跡継ぎとなる子供もいたのだが、正妻は数年前に病死したらしい。学園を卒業した嫡男――私の異母兄だが、ゲームに出てこないため実感は父以上に薄い――が独立して家を出てしまったので、一人身になった男爵はかつての愛人の娘、つまり私を正式に引き取りに来たのだ。

 正式な妻子がいる内は無理だけど、そのしがらみが無くなったから、という所だろう。情けないとも思うが、私がヒロインとして一歩を踏み出すために必要なのだから気にしない。


「はじめまして。メアリーと申します。会えて嬉しいです、お父様……」

 服は相変わらず地味だけど、こぎれいにして愛らしく甘える私を、お父様はとても気に入ってくれた。

 予想以上の逸材を見つけたと言いたげの、満面の笑みで私を迎える彼を見て内心ホッとした。

 孤児院の子供達は泣いて私との別れを嫌がったけど、私の幸せのために我慢してもらおう。

「あなたは頑張り屋さんだから、きっと幸せになれるわ。幸運を神に感謝なさい、メアリー」

「はい、院長先生もお元気で」

 私の華々しい門出を祝福してくれる先生達に、私も笑顔を返す。


 ――近いうちにまた来るわ。未来の王妃としてね。


 嘘ではない。だって、物語の最後には、王子と結ばれたヒロインが孤児院を表敬訪問する場面があったもの。

 ゲーム通りに、皆が驚く顔が早く見てみたい。私が出て行った後に入ってきた小さい子達から「お姫さま」と呼ばれたい。

 そう思いながら、立派な馬車に乗って、私達は孤児院を去った。



 好調な出だしを終えた私は、入学までの間にエステからダンスの稽古まで、お金でできることは全部やった。

 勿論、お父様の全面的な協力のおかげだ(王子達と恋愛する、とはさすがに言えなかったけど)。

 私の才覚を早々と見抜いたお父様は、自分が経営している商会も手伝わせてくれた上に、自分と繋がりのある下級貴族や商人に私を紹介してくれたりした。

(ありがとう、お父様。この恩は絶対に返すわ。私が王妃になったら、お父様も楽させてあげるから)


 ふかふかの豪華なベッドで毎晩思い描く、攻略対象者達との愛に満ちあふれた日々。

 これから始まるであろう夢のような日々のためならば、詰め込み教育なんて何の苦にもならないし、むしろ頑張らなくてはという気持ちすら抱ける。

 優しく甘やかしてくれる父親も大好きだけど、彼らとの出会いが待ち遠しくてたまらない。

(だって、私がヒロインになるには、愛と幸せで満たされるようになるには、彼らが必要だもの)


 早くあの光景が見たい。そう願いながら、私は毎日眠りについていた。

 

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