1.お土産
恋愛ハプニング(?) を集めました。続.らぷそでぃーとしての位置づけです。
ちなみに「らぷそでぃー」はエッセイ集として拙書「むぎわらぼうしと赤とんぼ」黒瀬新吉著 に収録されています。紀伊国屋(弘前店、流山おおたかの森店、新宿本店、横浜店、ゆめタウン広島店)などやアマゾン、電子書籍にもなっています。興味があれば検索してみてください。
7話完結を目指します。それぞれ読み切りなので感想などいただければ作者はとても嬉しいです。
1.お土産
「ユウ、なんとか言いなさいよ!」
目尻を吊り上げた女が男の上着のポケットからレシートを取り出しひらつかせた。
「さっきも言ったろ、付き合いだって」
「20万が酒代だって信じられない……」
「このマンションの家賃と同じじゃん、おかしいでしょ」
「何が?」
「無駄遣いしなきゃあ、慰謝料なんてすぐ貯まるでしょう。ユウあんた私を騙してんでしょう!」
「騙す? そんな事あるもんか、マイ。もう少し寝かせてくれよ」
そして1時間。
「とっとと起きなさいよ、そろそろ時間でしょう」
男は腕時計を見て、渋々ショーツをつけた。
「お互い、忙しいからな、マイ。愛してる」
抱きしめようとした男の腕をかわして女は男の胸を押しのけた。
「まったくユウは調子いいんだから。いい、奥さんにお土産買って帰るのよ」
「ああ、駅前のコンビニで買って帰るよ」
「馬鹿ね、新幹線の中で買わないとばれるでしょう」
「そうか、さすがマイ、よく気が付いた。おまえの狸によろしくな」
「馬鹿! それより今度いつ泊まれるの?」
「うーん、再来週の金曜日」
「本当かしら、もうすっぽかされるのはこりごり……」
「俺の愛は変わらないよ」
「まったく調子いいんだから……」
男を乗せた新幹線は、静かに新神戸を滑り出した。彼の手には愛する妻と娘への菓子箱があった。
「マイともそろそろ潮時だな。愛想をつかれるようにしむけないと面倒になるからな」
妻に福岡出張と言いながら、男は岡山に泊まっていた。そんな「出張」も次第に減っていった。
「マイの狸はどんな男だろう? マイの勤めるクラブの客だろうが、その話は聞いた事が無い。まあ、そのうちお返しするよちゃんと『のし』つきでね、くくくっ」
男を乗せたタクシーは、御堂筋を時間調整をしながら走る。ようやく見慣れた空色のガレージが見えた。
「おや、来客か。あのブルーの『クルマ』はマセラティ……。社長が来られたのか、まさかな」
男の出張先など些細な事を社長が知る訳も無い。タクシーの音に気付き、妻が玄関のドアを開けた。
「ただいま、ゆかり」
「……」
もう一度、土産を持つ片手を上げ、男は言った。
「ただいま」
「お帰りなさい、ユウ」
聞き覚えのある声が「クルマ」の中から聞こえた。
「少しいいかな、キミと話をしても」
甘い葉巻の匂いが男の鼻をついた。男の手から吉備団子の箱が滑り落ちた。