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人には何が必要ですか?

「よ~し!張りきって!今日も降らしますか!」


人気のないダムの上でいぇ~い!と一人拳を空に突き上げた人影はテンション高く叫ぶ。本日も真夏の太陽は燦々と輝き続けるがその命は最早残り少ない。日陰のないダムの通路には一人っ子一人おらず、その通路に佇むのは真夏の炎天下には不釣り合い……いや、不釣り合い所か真夏日にその出で立ちで街を歩いていたらまず間違いなく職務質問の対象だ。身長、150㎝ほどの小柄な体格に肩までにはつかない程度に切られたボブカットの髪。その瞳は楽しげに輝いてはいるが、出で立ちはなぜか、薄いピンクの雨合羽。足元は今流行りの長靴ブーツ。猛暑の影響を受けて、連日35度の猛暑日を記録する高知県のとある場所には不釣り合いな格好だ。それなのに彼女はテンション高く、びっと真夏の太陽を指差す。


「今に見てなさいよ!あんたの命は後僅かなんだから!」


燦々と輝く太陽は彼女の宣言を受けても動じはしない。その姿に女性はいい度胸ねと肩を竦めてみせる。


「私が来たからにはあんたなんて怖くないのよ!」


周囲に人が居たら、いきなり太陽に向かって電波なことを話出した彼女は確実に遠巻きにされるだろう。


「この早明浦ダムを守るために私が来たんだから!」


女性の視界に映るダムの水かさは残り僅か……連日の猛暑で減った水かさはその底に沈んだ残骸を容赦なく引きずり出した。このまま行けば、後一週間もしない間に水が渇れ果ててしまうだろう。だからこそ彼女は呼ばれたのだ……。自信満々に疑うこともなく、彼女は雨合羽のフードを被る。


「呼べない雨はないと言われている位の“雨女”垣谷栗花落が貴方からこのダムを守ってみせるんだから!」


そう叫ぶと彼女はよいしょと手近な場所に設置されたビーチパラソルの下に移動する。後は待つだけのお仕事だから座って熱中症にならないように気を付けてただここに座るだけだ。その姿を遠くから眺めている一団ははらはらと自分の一挙一動を見守っているが……再度繰り返そう。


      ー後は待つだけのお仕事だー


自分の買ってきたスポーツドリンク(熱中症予防)と読みかけの本を片手に後はひたすら待つのだ。その姿に詐欺にあったと叫ぶお偉いさんは一切無視する。だって、3分クッキングじゃないんだもの、これが出来上がりですとダムの水量をを取り替える訳にはいかない。ここに来るまでに通った街は軒並み豪雨だと報告を受けているので、早くて30分。長くて一時間で降りだすだろう。


「本当にびっくりな職業よね~」


ビーチパラソルの下で本を開きながら栗花落はひとりごちる。世の中の不思議の一旦を担うご職業に就くとはあの時は考えもしなかった。なのに…………


「今は、妖怪雨降らしだもんね~」


もはや人類の驚異と言っても過言ではないほど、雨を連れてきてしまう体質が職業になるとは思わなかった。きっとあの日、あの時に彼に出会わなければ私はもうこの世に生きてはいなかっただろう。なんにも感じず、思いを抱くことも出来ない“ソラ”と出会わなければ……。


ーポツー


急激に曇りだした空から一滴の恵みがコンクリートを濡らす。みる間に一滴が二滴に……二滴が四滴に……急激に数を増やして襲来する。さきほどまで電波な私に引いていた面々が遠くで“嘘だろ!”“あ、雨が!”と驚愕しているが失礼なと思う。残念な事に、一度たりともお仕事を失敗したことがないのだ。本当に残念な事に私は“雨女”なのだ。生まれてこの方、21年。私の記憶ではイベント、行事と名のつくものがことごとく雨によって中止か順延を余儀なくされている。本当に、同級生の皆様には申し訳ない。


「………………………………」

 


そう考えて、栗花葉はくすりと笑う。本当に私は驚くほど変わった。自分を変えたあの出会いからもう6年。私は今日も元気に雨を降らすのだ。


 ー変化のない“空”をみる事しか出来ない彼のためにー


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