風に塗れて
彼女は、風のようだった。
軽やかに、涼やかに。
烏のような黒髪と。
血に濡れたような紅い瞳。
そんな彼女だからこそだろうか、あんなにも煌めいて見えたのは。
「ゴオオオオオオオオオ!!」
烈風のような咆哮を大剣で凌ぎながら、距離を詰める。
ヤツも何かを察したのか、動きがより苛烈になる。
それは暴風雨の如く。
黒い触手が四足歩行の人型から荒れ狂う。
「マクナァッ!」
ムゲンが吠える。
「言われなくても!」
大量の光の鎖が触手を相殺、否、縛り上げる。
「もっと体力削って!抵抗できないくらいには!」
そう言いながら彼女自身も大量の攻撃魔法を怪物に叩き込む。
タコの触手をごちゃごちゃの毛玉にしたような、黒い怪物のシルエットが少し小さくなったかのように見えた時……
大剣の彼は影のように、
双剣の彼は閃光のように、
両刃剣の彼女は雷の如く。
怪物に己が想いを乗せた一撃を捩じ込んだ。
*
「でさぁ、俺たち置いてけぼりなんだけど」
病室の前、不満気に鼻を鳴らすムゲンをマクナは嗜める。
「まぁ、私も読心したわけじゃないし、なんとなーく訳アリってことしか分からないからね」
「出身が同じってことくらいしか教えてくれなかったもんね…」
しれっと会話にガンバが混ざる。
「まぁ何はともあれ魔物から引き剥がせて良かったよな!」
「病院なのに型の練習すんなよお前は」
呆れながら筋肉バカを嗜める側に回りつつ、ムゲンは病室のドアを眺める。
その中には、ムゲン達が魔物から分離させた少女……リュナ・タハルが隔離されていた。
*
重苦しい沈黙が病室には満ちていた。
ただ、皆が思うことは恐らく遠からず。
アザイも、ルスガも、カイザも。
ただ彼女を見つめていた。
「マクナは、良い腕をしている」
アザイがポツリと呟いたのをそれとなく聞き流す。
「少なくとも、身体的にはほぼ完璧にヤツから切り離した」
「……ああ」
とは言いつつ、1ヶ月も目を覚まさない少女をルスガはいつも以上の無表情で眺めていた。
仮にも1人の少女が、数年間も魔物に取り込まれていたのだ。
見てくれが治っているように見えても、精神、心、魂が如何なる被害を受けたのかなど、彼らには想像もつかなかった。
『肉体はほぼ完全に修復した、と言っても良いと思うよ』
つい先ほどの「肉体は」と強調したマクナの言葉がやけに重たく感じた。
「ルスガ、仕事行けよ」
「……魔物の被害にあった市民を見届けるのも、仕事だ」
太々しい、という他ないセリフに、少しだけ温もりを覚えた。





