敗北の追憶
オンライン授業のお陰で時間はあるんだ…なおモチベ。
「え、いや、えぇっ?」
思わずガンバの口から漏れる困惑の声。
「精霊ってのハ、まァ、ウソじゃないけどナ」
ふよふよと宙に浮かびながらムゲン達を見下ろすキリュー。
「つまり堕天使の出現より、前から貴方は召喚獣として現れていたのね」
「そーだナ。ムゲンの為にってわけじゃないケド」
そう言いながらちらりとムゲンを見遣る。
「ハァ、ハァ、ハァっ……」
なんとも言えないゆるふわ感、気の抜けた感じ、そんな雰囲気があまりに漂うも、彼だけは未だキリューに殺意を向けていた。
「一応、教えておくヨ。ムゲン、召喚獣ってのハ──お前の力を証明しないと使役出来ないんダヨ」
キリューは、これだから素人は、とでも言いたげにムゲンに一つの事実を提示した。
召喚獣。か弱き人に使役される、人より高位の強大なりし存在。
自然の摂理として、弱者が強者に生殺与奪を握られる、つまり従うのは必然であり、それを表すためのプロセスである。
「ムゲン、このタイミングで言うのもアレだけど」
そう言ってマクナがムゲンに近寄るも、当の本人は。
「知るか……マクナを斬る俺を邪魔したんだから敵だろ」
ギラついた殺意を存分にマクナにも向けた後。
「でも、アレを殺さないとお前ころせなさそうだし、まぁ」
心底めんどくさそうに。
「ブッ殺すか」
血と吐瀉物を拭い、キリューに斬りかかった。
✳︎
カイザは地に伏しながらも、一連の流れをしっかりと見ていた。
(アイツは選ばれし者って、ワケか)
再び巨龍としての姿を現したキリューに先程、自分がされたように尋常ならざる動きで飛びかかるムゲンをぼんやりと見つめる。
この感情は、嫉妬か、憧憬か、それとも。
(クソが)
少なくとも、ロクでもない感情であることを自覚して、再び傷の回復に努めることに意識を集中させた。
✳︎
それは、まさに、一方的だった。
ムゲンがいかに啖呵を切ろうとも、都合よくパワーアップというわけにはいかない。
地面に幾たびも叩きつけられ、その度に憎悪、絶望、殺意の表情を浮かべ、突撃するムゲン。
それをあっさりいなし、的確に傷を負わせていく巨龍。
気付けば周囲の人々は敵味方を忘れ、固唾を飲んでその戦いを見守っていた。
そして、似たような流れを数十回繰り返した辺りで、それは訪れた。
「はぁ……っ」
吐息一つの後に、ムゲンが地にうつ伏せに倒れる。
『フン、ここまでか』
「……」
嘲るような巨龍の発言に最早反応一つ返さない。
いや、うつ伏せのまま聞き取れるかどうかギリギリのレベルで一言。
「殺せよ」
と。
しかし、巨龍はそれを意に介さないかのようにムゲンに語りかける。
『お前は昔からそうだ。何故自分の事しか見つめない』
溜息を吐かんとするくらいの勢いでムゲンに半ば呆れ気味に悪態をつく。
『お前はいくら無限に等しい力を持とうと、人の子であることに変わりはない』
ムゲン、沈黙。
『敗北を知らず、盗賊を、敵軍を、堕天使を倒し、そして幾ら自らが一般人より逸脱した視点の持ち主であろうとな』
巨龍の言葉ぼんやりと聞き流しながら、ムゲンはポツリと、さながら蝋燭に火が灯るように、頭の片隅で反論する。
(敗北なら、知らないわけじゃ、ない)
むしろ敗北を知ったからこそ今日の自分がいる。
(その時も、今の俺みたいな気持ちだったか?)
ムゲンは面倒な現在から目を逸らし、過去の敗北に目を向けた。
✳︎
数年前、ウスイ・ベム村の公民館にて。
「赤剣、ムゲン・シン!」
村一番の剣の使い手を決める剣術大会にて、ムゲンは弱冠9歳にして決勝戦の舞台に立っていた。
「青剣!エル・ドラド!」
相手はマクナの血の繋がり無き兄。
年に一度のこの大会。毎年皆が誰が村一番の使い手になるのか、楽しみにしていた。
ムゲンが参加し始める前までは。
「……まぁ、今年もムゲンが勝つでしょうなぁ」
ムゲンは単純に剣の腕だけでも天才、と呼ばれるにふさわしいレベルには強かった。
故に村人達は最早試合内容、というよりかはムゲンがどうやって勝つかという事に興味がシフトしていた。
数刻後、ムゲンは優勝した。
試合内容は書くまでもないが、敢えて記すとするならば『子供らしからぬ剣さばき』であった。
さらに付け加えるなら、その試合直後に起こった出来事の方が肝心である。
「おーい、そこのクソガキ」
試合を終え、そそくさと帰ろうとするムゲンに馴れ馴れしく近づく男。
「だれだよ、オッサン」
「俺?俺が誰かはな」
そこでニヤリと意地汚い笑みを浮かべて、その男はこうのたまった。
「俺に勝てたら教えてやるよ」
次の瞬間、打ち合いが始まった。
「あの男、マジで誰だよ…?」
「最近この村に来た旅人らしいぜ」
「あぁ、なんでもかなりの剣の使い手なんだろ?」
思い思いのことを好き勝手に喚く外野を捨て置き、ひたすらに踏み込む。
一撃、二撃、三撃、四撃……
(見たかんじはつよそうだけど)
全く男は反撃してこない。
(たいしたことない)
適当な所で顔面に一撃叩き込んで終わらせよう。
そんな事を考えていたムゲン少年はこの後地獄を見ることになる。
ムゲンが妙なことに気付いたのは数分経ってからだった。
(……おわらない)
肝心な所で攻撃をかわされ、受け流される。
それ以外の牽制や軽い一撃はそれなりに当たるというのに。
幼いながらもムゲンが気付き始めていた違和感。それを決定づけたのは──
「おーおー、つよいつよい」
ニタニタ笑いながらムゲンを見下す男の姿だった。
「なめてんのかおっさん!」
──俺はこの村で、誰よりも強い。もしかしたら本気を出せば世界中でも、俺より強いヤツはいない。
誰もが少年期に抱く幻想ではある。
だが実際ムゲンは強かった。
木刀を用いた模擬戦とはいえ『無差別級』である村の剣術大会で、大の大人ですら捻じ伏せてきた彼にとって、この男もその程度の人物だと──。
「さて、終わらせるかね」
その言葉を言い終わるか終わらないかの所でムゲンの脳天に凄まじい衝撃が走ったのを最後に、彼は消えゆく意識の中に思った。
(おれは、よわいんだ)
FFの召喚獣で1番好きなのは王道ですけどバハムートです!





