諦観
コロナやら何やらで大変ですがなろう小説で乗り切りましょう。
ゆらりとした足取りでこちらへと進むムゲン。
「おっとウワサの勇者サマじゃねぇか」
大胆不敵な笑みを浮かべるカイザ。
「……」
ひたすらに無表情のルスガ。
そして、
(否、アレは、違う)
戸惑いを隠せないアザイ。
彼女の知る普段の彼とは明らかに放っている気配が別物だ。
「『トラウマ克服して成長して俺最強!』って感じか?え?」
嫌味ったらしい笑みを浮かべながらカイザもまたムゲンへと歩みを進める。
(やはりムゲンに人を殺させる様に仕組んだのか)
ルスガはいまのカイザの発言からそう推測するも、すぐに思考を眼前の敵へと切り替える。
どうやら今まで戦っていた二人からは完全に興味が失せたのだろう。ルスガとアザイに背を向けてムゲンへと歩みを進めている。
(好都合だ。不意打ちができる可能性がある)
──ルスガはこの時点で気付くべきだった。
何故、周囲が先程より静かになったのかを。
「さーて、勇者サマよぉ」
顔面に回し蹴り。
「が、あッ!?」
カイザが話しかけようとして戦意が限りなく0に近くなった、その刹那のムゲンの一撃。
「テッメッッ!?」
蹴り飛ばされ、体勢を戻そうとした瞬間の爆炎魔法。
「ッッッッ!!!」
吹き飛ばされながらも強引に呪縛魔法をムゲンに付与。
が、それをすぐに引きちぎるムゲン。
その代償に彼には常人であれば意識を失うほどの激痛!
「ウッ、がァァァァァァァァ!!」
絶叫しながらも、己が剣を構える。
それの形は、さながら鋸の如き姿へと変化していた。
(拙い!)
その瞬間にカイザは悟った。
真の敵を。
✳︎
砦、医務室前にて。
「タクウ君!ガンバ君!!」
半ば悲鳴のように名前を呼ばれたので反射的に振り返る。
「マクナさん」
『兄さんの目がたった今回復した』と言おうとしたけれど、それどころではないらしい。
「ムゲンを、見かけなかった……?」
「えっ……と」
マクナさんが医務室とは別の部屋で看護してると聞いてはいたけど、当の本人がこう言っているのだから……
「見てないのね、ありがとう」
僕にそう言って微かな笑みを浮かべたのも束の間、すぐに駆け出す。
すると僕に寄りかかるようにしていた兄さんが
「……多分!もう『行っちまった』ぞ!!」
と、マクナさんへと叫んだ。
「……分かった」
そう言うや否や、転移魔法で何処かにマクナさんは消えていった。
「兄さん、まさか」
「俺たちも行くぜ、ガンバ」
とてつもなく嫌な予感が全身を駆け抜ける。
具体的にムゲンがどうなるか、とかそういうことは分からないけれど。
少なくとも、見て見ぬ振りは出来ない何かが起ころうとしているのは分かったから。
「……うん」
兄さんと自分の疲れと痛みを治癒魔術で強引に消し飛ばすと、僕たちは一気に砦の外で渦巻く地獄に躍り出た。
✳︎
「なんだ…アレ…」
その場にいる敵味方問わず、全員が静止してそれを見ていた。
凄まじい勢いでカイザを攻め立てる、紅のナニかを。
ソレの一挙一動作はヒトの達することの出来る、否、達するべきレベルではない。
そして一際甲高い金属音の後、爆風が巻き起こり──
「ぐ…ぁ…ッ」
ボロ雑巾、などというレベルではない。
さながら道端で干からびて死にかけているミミズのように見窄らしい姿に成り果てたカイザと。
「…」
それを気怠そうに見下ろす、ムゲンの姿がそこにあった。
✳︎
革命軍を作った理由はただ一つ。
世界が憎かった。
あの夜、あの地獄から生き延びて、俺たちは離れ離れになって。
でも周りは誰も俺たちに手を差し伸べなくて。
仕方ないと思った。
けれど、ふざけるなとも思った。
なんで俺たちがこんな目に合わなければいけないのだろうか。
だから、復讐したかった。
その世界そのものに。
世界の中心たる『世界王家』。
そこを滅ぼせば何かか変わると、そう勝手に思う事にした。
そんな事を思いながらやるべきだと考えたことをやり続けた。
仲間を、戦力を、世界を壊すために集め続けた。
そんな中、風の噂で聞いた。
『銀髪の少女が大規模な盗賊団を打ち倒した』
『銀髪の少年がミッドガル王国軍の次期軍隊長になるらしい』
その話を詳しく聞けば聞くほど、俺は予感した。
そしてそれはいつしか確信に変わった。
そして─────。
✳︎
「…」
浮上するような感覚を覚えて、自分が今意識を失っていたことに気づく。
(走馬灯ってやつだったのか)
ぼんやりとそんなことを頭の片隅で思う。
気付けば、眼前には避けられぬ死。
(嗚呼、畜生)
ヤツを睨み付ける気力すらもう、もう、もう……
「カイザ!!」
声が、聞こえた。
もう二度と向けられることはない筈だった感情の籠もった声で。
✳︎
「……」
刹那の沈黙。
何故あの時彼の名を叫んだのか、自分でも理解でき
『否、今は分かる』
確信と共にムゲンを見据える。
「ムゲン、カイザはこの後然るべき場所で裁かれるべきだ」
戦場の只中、敵も味方も静止した中で自分だけが言の葉を紡いでいた。
「……」
ムゲンからの返答はない。気怠そうに地を這うカイザを見下ろしている。
「アザイ、お前は何を」
口を挟もうとするルスガを睨む。
「……同情か」
その通りだ。
なんとなく、本当になんとなくではあるがカイザの気持ちが分かってしまう。
全てを壊したくような、絶望的なまでの怒りと悲しみ。
けれど、今私はそれすら上回るような感情をようやく思い出した。
思い出させてくれる人々に出会ったのだ。
「生憎、人の心をそこまで捨てた気はないのでな」
何故か、理由の分からない笑みと共にルスガからカイザへと歩み寄り──。
「ダメ!!アザイちゃん、逃げて!!」
私はムゲンに、袈裟斬りにされていた。
ヒロインに厳しい世界!





