ブレ続ける主軸
首回りの筋肉が足りないとあの「オエッ」ってなるやつが日常的に起こるらしいっすよ。
はい、実体験です。
「我が軍の砦の正門前に、革命軍の──」
「……変わらないな」
アイツは昔から回りくどいやり方は嫌いだった。
だから、いつかはこうやって直接乗り込んで来るのも想定の範囲内だったが。
(よりによって、このタイミングか)
最大戦力の一人である、ムゲンはまともに戦える状況でない。
どこから漏れ出したのか、そのことを知った一般兵まで含む全員の士気が下がり出していた。
そこまで計算に入れてここまでやっていたとしたら。
(本当に、戦争なんだなコレは)
認識が甘かったことを今更悔やんでも仕方がない。
「ルスガァ!」
聞き慣れた胴間声。
「……行ってきます」
「応、後悔だけはしねぇようにしろよ」
浅黒い肌に、白い歯を剥き出しにした老いを感じさせぬ満面の笑み。
たったそれだけに、今まで何度心を救われたことか。
(この人のお陰で、俺はここに居る)
ならば、この人が守ろうとしているモノの為、俺は私情の一切を捨てよう。
✳︎
砦の正門前。
対峙していたのは。
「カイザ……」
「よぉ、アザイ。あの勇者サマとやらもいねぇことだ。全力で潰してやるよ」
この二人であった。
いや、対峙と呼んでいいのか分からない。
片や殺意を秘めた笑み。
片や戸惑いを未だ拭い去れない悔み。
カイザの、闇のような黒髪と血のような紅い瞳。
アザイの、鉛のような銀髪と空のような蒼い瞳。
その二人は、ただそこに「在る」だけの様に見えた。
けれど、それは僅かな刹那であることをその場の全員が分かっていた。
『ひゅぅぅぅぅぅ』
一陣の風。
それが、合図だった。
「行くぜ、皆殺しの時間だァァ!!」
「総員、応戦せよッッ!!」
✳︎
闇の中。
声が聞こえる。
殺し合いの声だ。
「もう、面倒臭いんだよ」
頭と心が拒絶する。
なのに、体は勝手に動き出す。
「最初っから使命感なんてねぇだろ?」
ベッドから身を起こし、
「かったるいんだっての」
剣を手に取り、
「っ……オぇっ」
それを引き摺る様にして、
「吐き気が、止まらない、んだけど……ッ!」
正門へと続く廊下へと足が進む。
風に乗って、皆の声が聞こえる。
「俺が行っても、何も、変わらない」
否。
確実に変わる。
「……それは『人の命が消える数が』って意味だろーが」
正門前。
皆が忙しそうに行き交う。
負傷者を抱えた者。
亡骸を抱えた者。
血塗れになりながらも己が武器を振るう者。
「は〜〜ァ、くっだらない」
なんでか、俺はそう呟いていた。
「ったく……ゔぉえっ!」
吐き気が止まらない。
何もかもがどこか遠く感じる。
何も感じられない。
なんでそんなに必死になれるのか。
なんでそんなに死にたがるのか。
なんでそんなに弱いのか。
なんでこんなに、俺は─────
「……まぁ、取り敢えず、また誰か殺せば分かるだろ」
再び俺は、戦場に足を進めた。
✳︎
アザイは乱戦の真っ只中に居た。
「そこを、退け!」
魔物使いが操っているであろう、獅子のなり損ないような獣を踏み台にし、一気にカイザのある方向へと跳躍する。
「カイザッ!」
大きく剣を振りかぶり、奴の脳天に一撃を叩き込もうとする。
「流石にそれは見えてるぜ、アザイィィィ!!」
大剣を振り回す様にしてアザイの剣を弾き飛ばす。
「ッ!」
カイザの鉄塊の如き無骨な大剣のその一撃は、その見た目以上の重さと威力を以ってして、アザイを大きく吹き飛ばした。
(やはり、私の剣ではカイザに届かない)
空中で体勢を整えながら彼を睨み付け──
「遅いぜ?!」
カイザの追撃。
目の前に迫る鉄の刃。
逃れる事は出来ない。
私はここで死──
「お前の遅さも大概だがな」
眼前で耳障りな金属音と共に火花が散り、浮遊感とともにカイザと私は一気に距離が開けられた。
「ルスガ」
「単騎で敵の首魁に突撃するのは戦場において自殺行為だ」
ルスガは私を傍に抱えながらも、視線をこちらへはやらずに早口で指摘した。
「すまない」
謝罪を一言で済ませてルスガの腕を振り払い、二人で共に改めてカイザと対峙する。
「よぉ、いつもの堅物コンビが揃ったな」
「あぁ、こんな形で揃うのは想定外だったがな」
「全くだ」
戦場の只中でありながら会話を交わす余裕。
しかしそれがただの余裕ではないことはその三人が一番理解できていた。
「じゃあ説教が始まる前に、ぶっ殺させてもらうとするわ」
一瞬にして二人との間合いを詰めるカイザ。
身体強化の魔法を使っていることを加味しても、大剣を担いでいるとは思えぬ速度。
「フッッ」
大振りな斬り上げをアザイは軽やかにバックステップで躱し、ルスガが振りあげた後の隙を突いて双剣で反撃。
「効くか!」
が、それをカイザは短距離の転移魔法で回避。それは同時に斬り上げの隙のキャンセルにもなっている。
そしてその転移先は、
「!!」
アザイの背後。
カイザはそのまま振り上げた大剣を逆手に持ちかえ、一気に振り下ろす。
アザイはそれを反射的に身体強化魔法で耐え凌ぐ。
甲高い金属音と鈍い衝突音が鳴り響く。
「オイオイ、アザイちゃんはそんなやわなオンナノコでしたっけェ?」
「黙れ…ッ」
アザイの背中に深く大剣はめり込んでいた。
「ッ!」
即座にルスガがアザイのリカバリーに入らんと、カイザの真上に瞬間移動し、双剣を振り下ろす。
「チッ!」
流石にカイザもそれを交わすためにはアザイから離れるほかなかった。
「逃がさん」
無論、それはルスガの想定内ではあるのだが。
そのまま右手の一振りをカイザに投擲した。
それを蹴り飛ばしながらカイザは体勢を整え、ルスガに呪怨を込めた漆黒の火炎弾を撃ち込む。
無論ルスガは身体をひねり、すんでのところで回避。
(埒が明かない)
(埒が明かねェ)
二人がそう同時に感じた瞬間。
「なっ……!?」
アザイの息を飲む声。
反射的にその方向を振り返る両者。
そこに居た、否、在ったのは。
「おーおー、いい感じにラスボス戦っぽいことになってんな」
血染めの衣を纏った『ムゲンのようなナニか』であった。
血液って病原菌のタクシーみたいなものなので、みんなも道端や学校で見知らぬ人の血液を見かけたら触らないようにしようね!





