歩いていこう
第2章、完結。
アザイをすこっていけ。銀髪クール美少女最高。
「…」
陽光と柔らかな風でアザイは覚醒した。
あたりを見回せばそこは何処かの宿屋の一室らしく、ベッドの上に自分は寝かせられていたらしい。
「私、は」
想像以上に掠れた声の自分に少し驚きながら、蕩けるような昼下がりの平和な時間を享受している自分の状況を確認しようとする。
(メツを殺した後──)
✳︎
「…終わったんだね」
マクナが呟く。
見据えた先には己が身体を引きずるようにしてこちらへと歩いてくる三人の姿。
タクウ・レブ。
ガンバ・レブ。
ユラワ・アザイ。
復讐と執念の一撃、否、三撃によって巨悪は完全に滅んだ…と彼らは信じたかったが。
「…ムゲン?」
マクナはふとムゲンがいない事に気付『はいナレーター少し黙ってろォ!!』
はいッ、打☆撃!!
「ボスが倒されても俺たちがいるんだじょぉぉぉゴゴボァァァ!!???」
下っ端に用は…いや無いわけじゃねーけど取り敢えず眠っとけ!!!
「ムゲン、アンタの後ろにいる大量の下っ端盗賊って…」
…そんな顔で見ないでほしいナ、マクナサン…不可抗力よ不可抗力。
「いやー、コイツら丁度さっきまで他の村でキャッキャウフフグヘヘへな事してたらしくてさー、でも俺たちがこんなにアジトで騒いでたらそりゃあ戻ってくるよねって話よ」
「で、それを察知して殿を『務めようと』してくれてたのね…ムゲン?」
ジト目やめれ。
「さーすがに人数差キツくて、うん、すまぬ」
「そんな事してないで、とっととワープで離脱するわよ」
え。まっ、マク「うッ…!」
わーお、なんて綺麗な血の噴水。
じゃ、ねーだろォゥォゥォゥォゥ!?!??!!
「こンンの…馬鹿ッ!!!!」
なァァァァーーーんで人の話最後まで聞かずにワープしようとするんだ〜〜〜????こんんんのすっとこどっこいッッッッッッ!!!!
「ム、ゲン…?マクナちゃんが、血塗れ、に…!」
いやオメーも大概血塗れじゃねーかよ。つーかゲロ臭ッ!?
「転移妨害のトラップ、だね…!」
多分その通りですよスーパー血塗れブラザーズ。
「ムゲン、ここは俺たちが無理矢理にでも血路を──」
どさっ。
「…は?」
…アレ?なんか、いきなり転んじゃった??ま、まぁこの辺り足場悪いし仕方ないけどこのタイミングでってお前…
「兄さん…ッ、ムゲン、ごめ…ぼくも…」
ばたっ。
「あぁーっと、これでNewスーパー血塗れ意識消失ブラザーズの完成かよクソが!!!!!!!!!!!!」
…そういや、アザイはどうした???
「わたしは、やったんだ。わたし、は…」
ばちゃっ。
「いやそこまで言ったなら耐えてくれよ!!」
おい、倒れ込んだせいでメツの死体の破片と混ざって新手のレッ●マンみたいになってんぞ……いやウーマンか。いや知るか。
まぁ意識はあるからなんとかなるか…?
だが、そんな俺の思考を遮ってきたのは。
「ギョウェッシッシッ…お前の仲間はみぃーんな気絶しちまったらしいなァ〜??」
「笑い声が特徴的過ぎて折角の煽りもまるで耳に入んねーぞ三下ぁ…!」
敵は人間と人外含めて100と少し。
俺を囲むように立ちふさがっている。
なら、俺のやる事はただ一つ。
それは──。
「キリュー」
「オウ、なんだヨ」
はい、がしっとな。
「キリュ?」
困惑してるようだが、説明してる時間はないんだ。許せ。
そんな事を一瞬思った後。
「頼んだキリュゥゥゥゥ!」
流れ星の如く敵陣の彼方へと(オレがぶん投げたから)飛んでいくキリュー。
そこに反射的に群がる敵達。
なんか凄まじい罵倒が聞こえた気がしたけどきっと気のせい。
「……よし、とっとと逃げよ」
✳︎
「で、その後命からがら逃げ切ってきたってわけです、ハイ」
「うん、報告お疲れ様ムゲン君!」
ムゲンはミッドガル王国に戻るや否や早々に報告のためにミッドガル城へと引きずり出されたのであった。
ちなみに城とは銘打っているものの、さながら摩天楼の如き姿である。
例によって、ここも最新の魔力テクノロジーによって凄まじい勢いで改築されていっている。大体ムゲンと天使がやり合った時にぶっ壊れたせい。
たが、ほんわかほわほわな国王様はそんなムゲンをつい先日改築が済んだ謁見の間で丁寧にもてなしていた。
ちなみにキリューは様々な手段を用い、ムゲン達がワープが使用可能な領域にたどり着くまで立派に殿を務めた。すげぇ。
「さてムゲン君」
「あ、はい」
国王の声のトーンが少し変わった。
それに対してムゲンは「まーためんどくさい事でも押し付けられるんだろーな」と考えていた。
ぶっちゃけ、それは半分くらい当たっていた。
「君のその手腕を見込んで頼みがある」
「堕天使と盗賊の次は何ですか、魔王ですかそれともドラゴンですかぁ?」
「うん、将来的にはそういうのもあり得るのかもねぇ」
どんどん嫌な予感が増してきたムゲン、引きつった笑みが止まらない。
ほんわかほわほわな国王、安定のほんわかっぷり。
やや間を置いて、国王が言い放った言葉は。
「君、そして君の仲間たちには報酬としてこの王国の永住権を与えたいと考えているんだ」
*
アザイは宿屋の客室から抜け出し、中庭へと足を運んだ。そこには窮屈そうな大木と、少しの花壇が申し訳程度に添えられていた。
病室の様な客室に篭っているよりはこの中庭で外の空気を吸っていたかった。
「…」
何も、頭に浮かんでこない。
感慨も、達成感も、これからの展望も、何も、何もかも。
空虚な開放感だけが残っていた。
「アザイ、ちゃん」
「…マクナ・メリッツ」
長めの綺麗な常盤色の髪の毛を靡かせながら彼女はやや照れ気味に私の側に歩み寄る。
「隣に居ても…いいかな?」
「構わない」
特に危害を加えてくる様子もなかったので警戒する事なく許可する。
風の音と、宿屋の食堂からの宿泊者の雑多な会話が微かに聞こえる昼下がりの狭い中庭。
二人の少女は特に言葉も交わさずに嫌でも視界に入ってくる巨木を見つめる。
「アザイ、ちゃんは、さ」
「何だ?」
どぎまぎしながらマクナは聞きづらそうにこちらに視線を遠慮がちに向ける。
「この後…どうするの?…その、色々と、さ?」
「…分からない。今考えている」
今更になって、自らの立場を理解する。
身寄りも、金もない14歳そこらの小娘が出来ることといえば。
「スラム街で身体でも売って──」
「ちょ、ストップ?!」
何故か大きな声で話を遮られた。
「なんですぐにそういうことになるの!?もっと他にも…こう、あるでしょ!!」
腕をブンブンと振りながら力説された。
だが一番現実的、かつ効率よく金を稼ぐにはこれが一番手っ取り早いのだが。
「他にも何があるというんだ?この私に」
「……あの、ね。さっきムゲンから連絡があって、さ」
視線を少し落とした後、意を決したかの様に私に向き直る。
「この国で私たちと一緒に暮らさない?」
「…」
いきなり突拍子も無いことを言われて面食らった。
たかだが数週間程度の、さらに出会った時は敵同士だったというのに、そんな付き合いしか無い私にこんな提案をしてくるとはとても予想出来なかった。
「ダメ、かな?」
「…」
悩んでいた。
こんな空っぽな私が近くにいて彼らに利益があるのだろうか?
こんなどうしようもなく愛想の無い私が皆と生活出来るのだろうか?
こんな、こんな私が。
ぽたり。
何かが膝の上に滴った。
「なん、で…?」
それは、随分と久々に見た気がした。
それは、私の感情をどうしようもないくらいに表していた。
「…私たちは、アザイちゃんの全部を慰めたり、とか、支えたりとか、出来ない…かもしれないけど」
彼女は微笑み、そっと手で私の瞳から流れ出たモノを拭う。
「ちょっぴりなら、肩代わりできるから。絶対に」
彼女の声は、優しくて、強くて、しっかりとした声で私の鼓膜を、心を震わせた。
「っ、わたし、は」
情けなくしゃくりあげながら、自分の考えを、思いを吐き出した。
「おまえたちと…いっしょにいても、いいのっ…?」
我ながらなんて情けない声。でも、彼女の精一杯のあの声に、私の精一杯の声で返したかった。
一陣のそよ風。
その間に微かに聞こえた声。
それは。
「もちろんだよ、アザイちゃん。私たちと一緒にいて、いいんだよ」
そっと抱き寄せられて。
その温もりと柔さで。
もう、もう、頭も心もぐしゃぐしゃで。
こえもこえにならずに。
ただ、ただ。
ずっと。
とても。
ないた。
✳︎
「つまり、君たちはそのユラワ・アザイの身柄を我々には引き渡す気は無いと?」
「その通りです」
ムゲン達は国王との謁見の場に臨んでいた。
多くの大臣に囲まれる中、本来であればこの場でアザイの身柄の引き渡しを行うはずであった、が。
「私達は彼女の功績、そしてその実力を鑑みて我々の仲間に加えるべきと判断しました」
というマクナの発言で周囲は凍りついた……無論、ムゲン含めて。
(…入り口に衛兵が2〜4人ってところね)
直後に展開されるであろう戦闘に備えて身構えるマクナ。
だが、その必要はどうやら──
「いいとも」
必要なかったらしい。
「え?」
「私は君たちの功績には無論報いたいと思ってるのさ」
穏やかな笑みと共にそう言葉を投げかける国王。周囲の大臣達もにこやかにその様子を見守っている。
「それにこれは君たちなりの贖罪でもあるんじゃないかな?ムゲン君?」
唐突に話をムゲンの方にふる国王。
振られたムゲンは一瞬、疑問の表情を浮かべた。
しかしすぐに「あぁ」と呟くと、苦いような、申し訳なさそうな、気怠いような、その他etc...を含んだ曖昧な表情を浮かべ、ややどもり気味に話した。
「こいつ、メツと刺し違える気だったんだよ。俺たちがこいつの協力の申し出を蹴ったから」
その通りだ。ムゲン達は共闘の申し出を断った。しかし、それでもアザイは彼女一人では困難を極めるメツの討伐に向かった。ならば彼女が背負った覚悟は半端なものではなかっただろう。
「……そうだね。場の流れで共闘することになっただけだから」
「んぉ?最初から仲間じゃなかったのか?」
約1名そこんところ理解出来てない奴がいるのはノルマという事で。
話を戻そう。つまり、ムゲンは。
「ムゲン君は分かっていたんだろう?『自分が断った所できっと彼女一人でそいつらを相打ち覚悟で倒しに行く』ってね」
「……アザイちゃんを見殺しにしたってこと?」
ムゲンに向き直り言い放つマクナ。
その瞳に宿った感情は言うまでもなく、怒り。
マクナの問いに対してムゲンの答えは。
「そりゃあ……そうだけど?」
余りにも主人公失格な、実にふてぶてしい答えだった。
✳︎
ムゲンを睨みつけるマクナ。
「めんどくせぇことになった」と言いたげなムゲンの表情。
何も言えずにムゲン達を眺めるタクウとガンバ。
そして、ずっと俯いたままのアザイ。
口火を切ったのは、ムゲンだった。
「いやそんな責めるように言われてもどうしよーもねーんだけど?いきなり襲ってきた挙句に、自分の復讐に協力してくれって虫がよすぎるだろ?」
「そう言う問題じゃないでしょ、ムゲン。人として、力を持つ者としての責任の問題でしょう?」
再びの沈黙と睨み合い。
「はい、そこまでにしようね二人とも」
国王が二人の間にわざわざ玉座から降りて割って入った。
「マクナちゃん、僕が言っただろう?これは『贖罪』だって。ムゲン君も罪の意識はあるんだよ」
ムゲンに微笑みを向けながらマクナを優しく諭した。
「そして、ムゲン君も下手にワルぶらずにそのことを正直に言えばいいんだよ?」
あまりのほのぼのっぷりに毒気を抜かれたのか、ムゲンもマクナも何も言わずに大人しく国王に向き直った。
そして軽くコホン、と態とらしく咳をして仕切り直すと。
「君、アレを持ってきてくれ」
国王は近くに控えていた部下に何か指示を出した。
コンマ数秒後、部下の手にワープ魔法で現れたのは、一つの鍵と契約書。
「これって……」
「この王国で暮らすなら家が必要だろう?それも君たちの功績に応える為の豪華なヤツが」
この時、ムゲン達はウィンクしても様になる王様というのを初めて見た。
✳︎
王宮を出発した時、空は子供が雑に塗った様に不器用な、だけど美しい紅へと変わっていた。
ムゲン達はなんとなく、それなりにまとまって新たなる家の場所へと大通りを歩いて向かう。
「ムゲン」
マクナの声。このトーンで話しかけてくる時は大抵ロクなことじゃない。
「なんだよ」
めんどくさいけど振り返る。
「ちゃんとアザイちゃんに謝りなよ」
溜息一つ。
「りょうかいりょうかい」
一番後ろで遠慮がちに歩くアザイに近づいて、話しかける。
「あー、その、悪かった」
雑に謝るムゲンの脳天にマクナのが投擲した石ころが直撃した。
悶絶・ザ・ムゲン。いやそらそうなるわ。
だけど、アザイは。
「……見殺しにされたとは思ってないさ」
そうムゲンに声をかけると、少し歩むスピードを上げ。
「あの復讐自体が、ただの、自己満足だったんだから」
寂しげな、自嘲するような微笑みを浮かべた。
✳︎
ウスイ・ベム村、ムゲン宅。及びマクナ宅。
そしてそこから少し離れた森にあるレブ兄弟宅。
そこに同時に駆け抜けた衝撃、それは。
『なんであいつらミッドガル王国で、しかもあんな豪邸に、仲間達と住んでるんだァァァァァッッッッ???!!!?????!!!!!???』
とまぁ、こんな感じだったらしい。
ただ、レブの祖父に関しては「ふぉっふおっふぉ」と笑いながら酒を呑んでいたらしいが。
*
こうしてムゲン達の冒険はまた一つ幕を閉じた。
しかも、新たな仲間、拠点を得て。
これでまた暫くムゲン達に平穏な日々が──というわけにもいかなかった。
ムゲン達は、決断と成長を否が応でも求められることになる。
〜インフィニティ・ワールド第2章、了〜
はい、これにて2章完結です。
一章よりは早目にケリがついて何より…。
書きたいことはたくさんあるけど、書くのめんど…もとい時間がないのでこんなところで!





