過去より来たる怒りと共に
多分2019年時点での最高傑作です…
「…ッ」
アザイの治療に専念していたマクナは、背後から聞こえた音に思わず目をそらしていた。
だが覚悟を決めて向き直った時、そこには…
「ッギギギ…ァ…」
棍棒を血まみれの両手で受け止めるタクウと、
「うぐぐぐ…ッ」
へし折れかけた槍で棍棒を受け止めているガンバの姿だった。
「…とっとと潰れんかいゴルォァァ!!!!」
先ほどよりも凶暴な笑みを浮かべたメツが力をさらに込める。
「ガ…っ…ぁ!!!」
「ぅあ…んッ…!」
歯を食いしばりすぎて二人とも唇と歯茎から出血していた。
限界は、近かった。
そんな時だった。
「…に…ねぇ…っ」
「あぁ?」
「気に!」
タクウの拳が棍棒をへし折る。
「このガキ…!」
メツの上半身が宙を泳ぐ。
「食わァ!」
そこに容赦なくタクウの拳がねじ込まれる。
「ゴブゥッ!」
メツは耐え切れずに吐瀉物を撒き散らす。
だがそれを気にする素振りもなくタクウは距離を詰める。
そして隣のガンバから槍をひったくり、
「ねぇッッ!!!」
自らの拳と共にメツの脇腹に叩き込んだ!
「兄さん…」
血と吐瀉物の雨の中、激情に駆られる獣の如き兄の叫び。
その叫びは、ガンバは忘れかけていた、忘れようとしていたある記憶を蘇らせた。
*
「…おじいちゃん、なんでぼくたちはぬすまないといけないの?」
数年前のある日、ガンバ少年は祖父兼師匠である、ウノ・レブにふとした疑問をぶつけた。
「そりゃあ、わしの家の近くに『コンビーフエンハンススター』とかのお店や市場がないからじゃなぁ」
語感で察しろコンビニのことだ。一応この世界にも存在はしている。
そんな色んな意味で意味不明な単語、ガンバには通じるはずもなく困惑した様子で言葉を紡ぐ。
「でも、盗むのは『だめで、いけないこと』って本とかに書いてあったよ…?」
「ふーむ」
めんどくさげに髭を弄りながら考えるそぶりを見せる祖父。
少しの間の後、祖父はこう答えた。
「『生きる為に必要だから』『そしてワシらは訳ありで働けない』そんで『ここには大量の商隊が通る』…ってところかのぉ?まぁ、最近はお前達が活躍するおかげでめっきり来なく……いや、久々に来たぞ」
祖父が指で指し示した獣道の先から微かに聞こえる大量の足音。
ガンバは話の内容そっちのけでそちらへと反射的に飛び出していった。
その日、兄弟は初めて人を殺した。
相手は二人の噂を聞きつけて完全に武装した用心棒を大人数雇っていた。
たかが10歳そこらの兄弟は苦戦を強いられることは明らかだった。
そこで、罠を張った。
この森で暮らすことに慣れ切っている二人には圧倒的な地の利があった。それを活かした罠だった。
初見ならばまず避けられない。
数刻の後、森の奥地から轟く轟音と絶叫、怒号…。
効果は覿面。
いつも通り、半ば遊ぶように、
『少し脅かして荷物を置いていってもらおう』
『最近はあまり来なかったからいつもより多めにもらおう』
……そんな事を半ば無意識に考えながら嬉々として罠を設置したポイントに向かい、敵の残存勢力を確認し、まだ戦えそうな傭兵にに襲い掛かろうとした。
「痛いよぉ…」
なまじ耳が良かった事が災いした。
声につられて目を脇にやると、自分と同じくらいか、それとも下くらいの年の女の子が赤い服を着て可愛らしく座ってい『否、血染めの服で、太ももから下は切断されていた。』
あまりの光景に兄弟の思考が完全に止まった。
「いだぃ…なんで…なんでぇ…っ」
何故。
何ゆえ?
どうして!
ボロボロと涙を、ドクドクと血を流した少女はーー
気付けば二人は闇夜の中、泥と血と涙に塗れて我が家の前に転がっていた。
戦利品は何一つ無かった。飢えと怒りと悲しみだけが身体に満ち満ちていた。
その夜はひたすらに泣いた。
訳が分からないくらい泣いた。
泣きすぎて眠れずにひたすら拳を、槍を互いに振るい続けた。
訳の分からないうわごととも取れる叫びを、ひたすらに上げ続けた。
ミッドガルで傭兵業をする中──それも罪滅ぼしのつもりだったのかも知れない──風の噂で聞いた。
周囲は兄弟の出自を知っていて当てつけの意味で噂していたのかもしれない。
積荷を奪うために二人で仕掛けた罠に引っかかった少女は傭兵の娘だった。
引っかかってしまった。
引っかからせてしまった。
それを知った時、二人は何も言えなかった。
その事件の後、ガンバは死に物狂いで魔法を取得した。目の前の命を、死なせたくない、死なせるべきでない人間を生かす為に。
だがタクウは、何を成すべきか未だに掴めずにいた。
だがあの事件以降、タクウは直感的に察した。
ガンバは理論を以って結論に達していた。
「命を奪う」という事の残酷さを。
あまりにも幼稚で、シンプルな事。
今日に至るまでの数多の創作物の中で語られに語られ、最早陳腐とも言えるフレーズ。
だが、彼らはそれを知り、噛み締めた。
他人よりも余りに早く。
それは幸か不幸なのか。
兄弟はムゲンとの旅の中で知っていくこととなる。
✴︎
そして今!!
メツ盗賊団と自分達兄弟の違いを!!
タクウは怒りの中で感じ取っていた!!!
即ち、生きる為に盗るのか、悪意を以って奪うのか。
『だがしかし、結局のところ他人から見ればそれは両方とも「悪」である』
全くもってその通りだクソッタレ!!!!!
それでも!!
そうだとしても!!!!!
娯楽の為に人々の命を弄び、奪っていったコイツらをタクウとガンバは、タクウとガンバだからこそ!!許すわけにはいかなかった!!!!!
『ハァァァァァァッッッ!!!!!!!』
再びメツに飛びかかる兄弟。
「ごぇっ…フッ、しゃらァァァァッッッ!!!」
醜悪な鳴き声を上げるメツの右拳をタクウの踵が鉄槌の如く叩き割った。
耳障りな音を立てるメツの口をガンバの槍が血と肉の塊へ斬り変えた。
「『グチョ』ぉまぇら『ぴぢょ』ごろズ…!!!」
コンマ数秒前まで【タクウの蹴りがメツの股に決まった】口だった箇所から【ガンバの腐食魔法がメツの脇腹を腐り落とした】紅いペーストを撒き散らすメツ。
この時点で勝敗は決まった。
だが最早彼らの感情は止まらずに──。
兄弟の視界の隅で眩い閃光が煌いた。
「フッッッッ!!!!!」
メツの四肢が焼き焦げた臭いと共に崩れ落ちた。
メツは恐らく悲鳴を上げたのだろうが、粘着質な水音しか聞こえなかったのでセリフは割愛。
「仇は、取らせてもらうぞ…!」
マクナの治癒によって復活したもう一人の復讐者が其処に居た。
ユラワ・アザイ。語るまでもなく兄弟と同じくらい、いやそれ以上に心を滾らせていた少女だった。
「アザイ、まだ治療は完全に終わって」
マクナの制止を振り切り、雷を己が剣に纏わせ突貫するアザイ。
「お前を…倒すッ!」
「ここで終われ…!」
「皆の仇だ…ッ!!!!」
全く意思疎通を図っていない筈なのに、彼らの動きは自然にタイミングが合っていた。
一人は雷の剣を。
一人は鋼の拳を。
一人は炎の槍を。
その刹那。
思いと復讐、そして殺意。
彼らの後悔は、怒りは、哀しみは、全てその僅かなひとときに込められた。
辺り一面に巨悪の朱が飛び散り、掻き消えた。
取り敢えず次回で第2章は完結します…多分…きっと…
この作品の主人公誰だっけ?(すっとぼけ)





