少しの傷跡と、くだらない戦い
「…そうか」
アザイは例によって感情のこもってない声で呟いた。
「ソウデス」
ムゲンは棒読みで返答する。
再びの静寂。
しかし、それはすぐに打ち払われる。
銀髪の少女は唐突に立ち上がるとーー
「ならば消えてもらう」
訳の分かるような、分からないような理由でムゲン達に再び襲いかかってきた。
「っおおおお!?!?」
アザイの魔力を込めた斬撃がムゲン達に飛来する。
「ムゲン!!!」
が、そこにガンバの紫電の如き足払いがムゲンに。
体制が崩れたことで彼は辛うじて難を逃れた。
「サンキューガンバ!!」
「そんなことより逃げるよ!!!ほら兄さんも起きろぉ!!!」
タクウに膝蹴りを入れながら、ムゲン達は転移魔法で一気に宿屋の入り口に移動する。
「よし、とっととこのままーー」
ズドォン!!!!
背後から聞こえた爆音。振り返ればそこにはアザイの姿。どうやら宿屋の壁と床をぶち抜いてムゲンを追ってきたらしい。
「逃がさない…万が一奴らに情報を流されたら困るからな」
「いっ、いやいやいやいやいや!その奴らって誰だか俺たち知らなーー」
ムゲンが言い終わる前に、雷撃を纏わせた斬撃が少年達の足元に直撃する。
深夜のミッドガル王国の一角の宿屋街に、復讐者と三人と一匹のバカの惨劇が巻き起こるーー!
「いやなんだアイツ!?こっちの話まるで聞いてくれねーぞ!!!」
先ほどの斬撃の余波で土煙に塗れながら叫ぶムゲン。
「多分、これまでの傭兵達もあんな感じで一方的に質問されたりしてボコされたんじゃないかなぁ!!」
ガンバは膝蹴りを叩き込まれたのにまだ眠ったままのタクウを担ぎながら、土煙の中で周囲の様子を伺っていた。
「マジかよ!むしろそれ笑えーー」
右側からの風圧。ムゲンはとっさにその方向に衝撃波を放つ。
…手応えは無い。そこにあったのは、先程アザイが纏っていた上着のみ。
「…は?」
呟き終えた刹那。
『ドッ』という音。それはムゲンの足元からーー
「っ…ぁ...!」
そこには氷の刃が突き刺さっていた。
アザイは頭の片隅で思考していた。
(…何故、私はこいつらと戦っている)
分からない。
解らない。
判らない。
もう戦う意味は無い。
こいつらがあの盗賊団の事を知らないことは、こっそり読心魔法を使用したことで分かっている。
なのに、あんな理由付けをした。
何故だ。
何故だ。
何故だ。
そんな事ばかりを考えている。
だが、自らの身体は戦う事を止めようとしない。
上着を脱ぎ、土煙の中に放り込む。
何らかの魔法がそれに当たった事を風の動きで判断する。
その方向に、氷の刃を飛ばそうとする。
(これで、いいのか?)
何故か、そんな想いが頭をよぎるが、それを無視して氷の刃をそのまま飛ばした。
ーーこの時、彼女は下方向に氷の刃を飛ばしたことに気付いていなかった。
「ムゲン!!?」
ガンバが叫んでい「うるせぇッッ!!!!」
畜生、やりやがったなアイツ!!!
クソが!!!痛えなオイ!!!
奥歯を噛み締めて耐えるしかねぇな!!回復魔法なんぞ覚えてねぇぞ!!!!****!!!!!!!!
……アレ?痛くねぇ。
「回復魔法、やっといたから!!って、今度はこっち…か!!!」
ガキン!!
「あーもう!兄さん邪魔だから早く起きろ!!!」
ズドン!!!
「うるせぇなぁ…ガンバ、おはよー」
「ようやく起きたな!!バカ兄貴!!!!」
…いやー、向こうは大変そうだなぁ。
よし、足はきちんと動く。
なら「やることは一つだなァ!!キリュー!!!」
ぽひゅん。
「呼んだカー?…ってキリュ!?!?」
ほい、がしっとな。
「喰らえ!(多分)精霊魔法!!!」
チラッと見えたアイツの影…逃すか!!!!!
「エ?チョット、ムゲン??」
おおきく振りかぶってェェェェ……!!
「『キリューブラスタぁぁぁぁ』!!!!!」
投げまぁぁぁぁぁぁぁすッッッ!!!!!!!!!
其れは、疾風の如く。
未だ晴れぬ土煙を裂き、銀髪の少女剣士の元に迫るはーー龍の精霊なり。
「キリュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!????」
「ッ!?」
其れがただの魔法であったなら、彼女は易々と回避していただろう。
しかし、動体視力の良い彼女は飛来した物体に思わず、僅かに興味を惹かれてしまった。
そして、盛大にーー顔面にぶち当たった。
「ぐっっ!!!!」
一気に宿屋街から中心街と隣接した大通りに吹っ飛ばされるアザイとキリュー。
だが、アザイは吹っ飛ばされながらもハンドスプリングで立ち上がった。
(一回体制を立て直ーー)
ここで彼女は下した判断は正解だった。何故ならば、
相手は自分と互角、もしくはそれ以上の実力者。ならば正々堂々と正面切って戦うのは悪手に他ならない!
だが。
「ぜぁぁぁぁぁぁああああああああッッッッ!!!!!」
その判断は余りにも遅過ぎた。
「なっ…!」
気付けば背後には閃光眩い劔を振りかざす赤髪の少年。
その唐突な状況に対応出来る程彼女にはーー心構えが足りなかった。
「えっと…国王様、これって…?」
「うーん…物凄い光景としか…」
苦笑いを浮かべる国王…と、引きつった笑みを顔面に貼り付けた緑髪の少女…マクナである。
「僕も詳しいことは聞いてないんだけどね? なんでも、ムゲン君達が宿屋で仲間割れ?を起こして、そこから色々ドタバタどんがらガッシャーン!!って感じでね?」
国王ののほほんとした声が目の前の惨状をほんわかとした風景に見せようとするのを、ありったけの倫理観や常識、その他etc…で必死に抑えながら、マクナは一言。
「…あんの戦闘バカ…ッ!!」





