主人公の名前の伏線回収はお早めに
さて、この辺りでこの世界における『魔力』関連のことを書いておこう。
この世界において、魔力というものは『魂』からの力だとされている。その力、即ち魔力を行使し、普通の物理、質量、力学の法則を無視した事象を発生させることが魔術、魔法、妖術etc…とこの世界では国、地域によって呼び分けられている。
そしてその魔力は生物から、植物から、様々なモノから発せられ、混ざり、世界を覆っている。
気体のようなものだと考えてくれればそれで大丈夫だ。
さらに、人々の魔力量、魔力の質等には個人差がある。A君は火炎魔法が得意で、B君は冷凍魔法が得意であるなどだ。この件の詳細は後々語ろう。
今、最も重要な事は『稀にとんでもない魔力を持つ者が生まれる』という事。
例えばとてつもない量の魔力を持っていたり、逆にあり得ないほど少ない量の魔力しかなかったり、そしてあり得ない属性の魔力を持っていたり。
さらに、肝心のムゲン固有の魔力属性は『無限』である。
「まぁ、確かにムゲンの魔力属性には目を見張るものがあるのは間違いないですねぇ…」
「だったら!!」
ブレイドは手を止め、ムゲンの母に向き直った。
「じゃあ、逆に聞きますがね、何故アイツの名前をわざわざ『ムゲン』にしたんです?」
「…ッ」
言葉に詰まるムゲンの母。
それを確認すると、ブレイドは更に続ける。
「子供の魔力なんざ生まれてすぐに分かる事ですし、そんなにその力が嫌ならわざわざそんな名前にしないでしょうが。そうだとは思いませんかね?」
「…そうです。あの時はまだ事の重大性が私達には分かっていなかったんです…『あの事』が起きるまでは」
さて、時間はムゲンが7歳の頃にまで遡る。
この世界においてこの位の年齢になると、魔力を使ってちょっとしたイタズラをする子も増えてくる。
しかし、自分の魔力の調整、調節、把握が出来ていない故に、大体ヘマをやらかす。
そして当時7歳のムゲンも正しくその通りだった。
その通りだったが故に、自らの魔力で『ちょっとしたイタズラ』をやらかした。
魔力仕掛けの花火である。人が通ると、その動きに反応して炸裂するというちょっとしたトラップじみたものだった。
結論から言えば、村の半分が消し飛び、数百人の村民から死傷者多数。子供のイタズラでは済まないレベルの爆発が発生した。
この事を受けたこの村の住民、そして世界魔導委員会は大至急彼への対応をすることとなった。
世界魔導委員会。名前の通り、世界中の魔法、それに準ずるものを管理、保存、調査とかする連中だ。詳しい事は後々。
話が逸れたが、彼らの調査によって、ムゲンへの対応が言い渡された。
要約すると、
『めっちゃ危険だけど、めっちゃ有能な魔法だから、うちのエキスパート付けて、うちの本部で教育、管理するわww』
というのが大まかな対応だった。
しかし、そうは問屋が卸さなかった。偶々村に訪れていた、アイン・ブレイド…つまりムゲンの師匠が『は?あんなクソ狭い所で何が出来るんだよボケナス!』と、協会に直談判したからだ。
ちなみに、今の鉤括弧内の発言は要約でも何でもない、その時の発言をそのまま抜粋したものである。
結果、ブレイドはウスイ・ベムに居座り、ムゲンの剣と魔法の師匠になったのだった。
「…まぁ、答えられないならこれ以上オレも何も聞きませんよ」
何やら完成した薬を振ったり、混ぜたりしているブレイドは、そう言うとぼろ小屋に帰っていった。
「…頑張りな、ムゲン…!」
空を仰ぎ、そう一言漏らすのが彼女の精一杯だった。
「じゃあ、行こうぜ」
眼前の海は煌めき、船の帆はしっかりと張られている。
「船乗るのとか初めてだぜ…!」
「兄さん。僕たち乗り物で酔ったりするのかな…?」
「いざとなったら私が治してあげるから安心してね!」
各々の反応を見渡し、最後に港に振り返ってあの宿の屋根を見るムゲン。
「結局、あまり分かんねー場所だったな」
溜息交じりにぼやく。
「出発しまーす!お乗りください!!」
船乗りが大声を出す。その声を合図にムゲン一行を含めた十数人が船に乗り込む。
桟橋から乗り込んで、そのまま甲板に上がる。
そして見据えるのは、はるか彼方の水平線の向こうだった。
「ワクワクするね、ムゲン」
気付けばとなりにマクナが居た。
「んー、まぁね」
素っ気なく返すムゲン。
しかし、それにイラつき一つ見せず、
「だよね!」
ムフフと嬉しげにマクナが笑うと船は青い海原を進み出した。
堕天使。その名が、その存在が何を示しているのか。そしてそれがいかにとてつもない相手を敵に回したか、ムゲンが知る事になるのは海原に浮かぶ水平線の如くはるか彼方。
しかし、彼がこの物語の主人公である以上、そう簡単に挫けはしないのだ。
だから、先に進んでも彼らは大丈夫だった。





