ラスボスは二面性や意外性が大切
地図を広げる。
特有のインクと古紙の匂いが鼻をつく。
特に不快とは感じていない。むしろ好きだ。
私は昔から魔導書とか本が好きだったから。
そして今回ムゲンの師匠から渡されたこの地図も好きだ。色々な所にムゲンの師匠が書き込んだと思しきメモがーー
『この街の娼館はブスまみれ』
『ここは大量のゴブリン(カモ)がいるので金に困ったらここに行くべし!』
…えー、なんか、その、やばい。
「えっと、港町から船であっちの大陸行けばいいんだよね?」
引きつった笑みを浮かべたマクナが後ろからだらだらと街道を歩いているムゲン達に問う。
なんだかんだで村を出発してから数日が過ぎていた。
今回はこのムゲン達の住むヒザラミ島から堕天使が本拠地としているミッドガルド大陸に行く手段はワープ魔法…ではなく、船である。
流石に魔力が保たない為であろう。
「おっけおっけ」
手抜き気味に返事するムゲン。
「応ッ!」
「はい!」
元気に返事する盗賊兄弟。
言うまでもないが、確認の為に解説しておくと、如何にも漢といった感じの返事をしているのが兄のタクウ、丁寧な返事をしているのがガンバだ。
「うーん、ばらばらだなぁ…」
そして上のやりとりからさらに数時間後、夕暮れ時。
「はい、港街に到着!今日はここで一泊して、明日の昼頃の船でミッドガルド大陸に行くよ!!」
半ばヤケクソ気味にナレーターの仕事を盗りながら、さながら引率の先生の如くマクナは宿に宿泊する旨をムゲン達に伝えた。
そして数十分後。
「…えっと、マクナ?」
「…うん」
ムゲン達の目の前にあるのは、宮殿といっても差し支えない巨大な建築物。
壁はキラキラと黄金に輝き、港街を照らしている。
「…まさかここが今日泊まる宿とか言わないよね?」
「…ここが今日泊まる宿だよ」
ちなみにタクウとガンバはポカーンと建物を見つめている。
「…そっか」
「…そう」
遠い目で宮殿を見つめて深呼吸する二人。
そしてーー
『なんでだぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!?』
ツッコミとも悲鳴とも取れない声が響き渡った。
「よくぞこの宿をお選びになりました、少年少女よ!!!お目が…高いッッ!!!!!」
とかなんとか言われながら、金キラな格好をしたデブ…体型がふくよかな宿主に案内された部屋に辿り着いた。その際にこの宿に関して色々説明されたが、そんな事は覚えてられないのだった。
「なんで真っ先に堕天使の攻撃食らってなきゃおかしいこの港町がこんなにも平和で、寧ろ前よりも豊かになってるんですかねぇ…」
ムゲンがぼやく。
「まー、豪華なのはいい事だよな」
高級そうな壺を持ち上げて弄ぶタクウ。
…盗もうと画策しているのかもしれない。
「でも、逆に休まらないよね…」
ガンバは部屋の中心で何故か正座している。緊張し過ぎだ。
「いかんせん情報が少なすぎるからなー…ま、そんな時のためのマクナだけど」
マクナはこの部屋に着くなり情報収集のために宿屋の外に飛び出していった。
「ムゲンは付いていかなくていいのカー?」
ぽひゅんと気の抜けた音と共に現れたのは、謎の妖精キリュー。
「行かねーよ、めんどくせー」
キリューを放り投げて遊ぶムゲン。
精霊に対してこの扱い。末代まで祟られるのではないだろうか?
「ーーと、結論としては、堕天使はこの港町に様々な恩恵をもたらしているわ。魔物よけの結界とか、財宝を無償で寄付したりね」
マクナは自分の集めて来た情報を総括した。
聞いていたムゲン達はというと。
「なんだ、名前が厨二病なだけでいいヤツじゃん、堕天使」
「確かに。倒す必要ないっしょ!」
「でも、だからこそ怪しいというか…」
まるでバラバラだった。
「まーたムゲンはこの村出たの!?」
ウスイベム村に響き渡るヒステリックボイス。
勿論、ムゲンの母である。
「あぁ、出ましたよ奥さん」
何やら薬剤を混ぜながら片手間に対応するブレイド師匠。物凄い匂いが辺りに立ち込めている。ここが村のはずれでなければ追放間違い無しだろう。
そして、ムゲン母が鼻を押さえながらこう言った。
「ブレイドさん…私があの子に対して最も心配しているのは、年齢とか、性格の事じゃなく、あの子がもしも『あの力』を完全に扱えるようになってしまったらという事なんですよ!」





