自立に邪魔なのは大抵両親
晴れた空。白い雲。鳥の透き通った鳴き声。
今日もこの『ウスイベム村』での一日は良い日になりそうだ──この村の東の方にあるこの家の家族以外は。
「だーかーらぁぁ!!1ヶ月で帰って──」
「だめよ!」
「あんたその台詞しか言えねーのかッ!!そして人の台詞に被せるんじゃねェェェ!!」
いきなり台所で言い争ってるこの二人。
一人目は口調で察したと思うがムゲン・シンである。
昨日、彼の師匠は突如行方不明となった、ムゲンの幼なじみの『マクナ・メリッツ』を探し出してこいという、『宿題』を出してきたのだ。
「あなたからも言ってくださいよ!ムゲンは私の言うことちっとも聞かないんですもの!」
「だって喧しいだけだし」
「ムゲン」
台所の入り口に歩いてきたのは彼の父親である。
「どうして村の外に出たいんだ?」
「それ『俺がこの世界に生まれたから』って答えじゃダメなヤツ?」
そんなことをほざいた後、溜息を一つついてムゲンは話し始めた。
「それは、さ」
「マクナちゃんがおまえの彼女だからかい?」
ニヤリとしてムゲンの父親が言った。
「彼女じゃねェェッ!どいつもこいつも俺とマクナはそーゆー関係にしか見えねーのか!」
ヒステリーを起こしながらムゲンは再び話し始めた。
「だってあいつも俺と同じで『色々と訳あり』じゃん。絶対狙われてもおかしくねーじゃん。だからここは同じ『訳あり』な」
その後の発言は父親が引き継いだ。
「自分が行くべきだと?」
「さっすが我が父」
指をパチンと鳴らしてムゲンが言った。しかし、彼の母親は、
「ムゲン。あなたね、少し思い上がり過ぎよ!いい加減にその態度を改めなさい!!」
言うやいなや、ムゲンの頬を張ろうとする母親だったが。
「!」
その刹那、ムゲンは母親の懐に飛び込み(断じて愛情表現の方ではない)
「オラァ!」
そしてその腹に拳を叩き込んだった。
未だ嘗て第2話で自らの母親に腹パンをかました主人公が居たであろうか、寧ろ居てたまるか。
「ムゲ、ン」
「ごめんな、母さん」
ガクリと項垂れる母親の姿を一別すると、父親が歩いてきた。
「行くんだな?」
「ああ、でも出来るだけ早く帰ってくるよ」
ニヤッと笑うとムゲンは旅立ちの準備を始めた。そんなムゲンに父親は近づくと一言。
「手伝うぞ」
気絶している自分の妻の介抱などが先では?
「いや、自力でやりたい」
訳のわからない所で謎のプライドを発揮したムゲンはそう言って荷物袋に様々なものを詰め込み始めた。着々と荷物をまとめていく我が子を見て彼の父親は苦笑いしながらも、その様子をしばらくの間嬉しそうに見つめていた。