無限にして夢幻
「頭空っぽにして読めるシンプルな今時のファンタジー」を意識して書いてみました。感想、レビュー等で頂いた意見は是非とも活かしていきたいので、気軽に(落書きのつもりで)書いて頂ければ幸いです!
──『世界』には無限の可能性がある。
さらに、その『世界』自体も無限に存在する。
「∞」×「∞」の答えは何処にあるのだろうか?
それを知っているのはその無限に存在している世界の内の一つに住んでいる私達か、それとも他の世界に住んでいる『何か』か……
そして、これから繰り広げられる物語もその無限に広がる世界に住んでいる人々の話。
さぁ、無限の世界へ。
✳︎
ここは我々の住む世界……もっと分かりやすく言い換えると時空と言うべきだろう。そんな別時空に存在する孤島。そこのウスイベム村という小さな村がある。
人口は100人と少し。草原のど真ん中に高さ0.5メートル程の木製の柵で囲われている村だった。
そんな村の南方にある唯一の入り口の見張り台。その屋根に彼は居た。
「……眠い」
ここにいる12歳ほどの赤髪赤眼の少年。
名を『ムゲン・シン』。この物語の主人公だ。
「おいムゲン!そこから降りろォ!」
「あーあー、わかったから!」
ムゲンは屋根から飛び降りた。
私たちの世界の長さの単位に直すと約15mの高さから。
さらに、さも当然という様に無事着地した。
「お前、身体強化魔法を使っていないのにその体の耐久度……相も変わらず化け物か?」
「まぁ、あの師匠のせいで身体は強くなったからなぁ…」
「成る程。だがお前が強くなってくれるなら父さんは嬉しいぞ。この村の将来も安泰になるしな」
ムゲンの父親は満足げに彼の頭を撫で回す。
魔法や幻獣が存在するムゲン達の世界において、個人個人の生き残る力は非常に重要なものだ。
幸いにも、このムゲンはこの村でも身体能力、剣術共にトップクラスだ。
しかし、残念ながらムゲンは万能ではない。
「で?魔法の勉強は捗ってるか?」
「まぁ、うん」
単調な返事でその話題をうち切ろうとするムゲン。だが、そうはさせないのが親というもの。
「あのな、魔法が使えなくても生きていけるといえば生きていけるがなぁ」
「だってめんどいし、だるいしさぁ〜〜?」
ムゲンは年に似合わぬ、心底面倒くさそうな顔で父の説教に反論した。
そして思い出したかの様に父親に言い放つ。
「あ!オレ、今日も師匠の所行くから」
「全くお前はな……もう勝手にしろ。もっと化け物になってこい」
「ネグレクトって言うんだぜ、そーゆーの。サイテーだな」
「なんか無駄な知識ばかりついてないか、お前」
そうは口で言いながらも、ムゲンは嬉しそうに笑っている。
そんな息子に父も少し表情が緩む。
「行ってくる!」
「おう!気をつけろよ!!」
するとムゲンは「そんじゃあ!」と言うと僅かに魔力光を放ち、その場からかき消えた。
(ワープ魔法、か。あの年齢で…)
ムゲンの父親は息子が消えた場所を暫くの間見つめていたが、少しすると村の中心部に向けて歩き出した。
✳︎
ムゲン達が住んでいる村の外れの粗末な小屋。
ムゲンはその小屋の扉を開けると、中には入らずに呼びかけた。
「師匠ーー!いんのかーーー!!」
「お前は相変わらず喧しいな!」
そう言いながら、魔力の光弾をムゲンに大量に撃ちこむ。
だが、ムゲンは素早く赤色の両刃剣を抜き、それを目にも留まらぬスピードで振るい、光弾を全て弾き返した。
『師匠』と呼ばれた短く雑に切り揃えられた黒髪と浅黒い肌の男は答えた。
「お前な、魔法には魔法で対処するのが鉄則だと言ってんだろーが」
「とっさにそんなこと思い出せねーよ」
ムゲンは上機嫌で答えると小屋の中に上がり込み、今にも壊れそうな木製の椅子の上に腰掛けた。
「あと、お前はいつになったら敬語を俺に対して使うようになるんだ?」
「たぶん葬式の時」
「ほう、それはお前の葬式ってことでいいなクソガキ」
『師匠』は「やれやれ」とでも言いたげな顔をした後、色々な民族やら国やらの服を継ぎ接ぎにした──チグハグのはずだが似合っている──服の埃を払いながら、ムゲンの腰の両刃剣を見つめた。
「その剣、使い方は大体分かってきたか?」
「……なんとか」
ムゲンは顔を少ししかめて答えた。
この剣、実はとある秘密があるのだが……
「その『なんとか』の意味は聞かないでおくぜ。あぁ、それとムゲン。少しやばい事が起こった」
「何だよ?」
不思議そうな顔で見上げるムゲンにわざとらしく、それにいやらしい笑顔を浮かべると言葉を続けた。
「お前の彼女兼、お目付役のマクナちゃんと音信不通になったと村長が駆け込んできた。」
「アイツとはただの腐れ縁!…てか、音信不通?!どうしたんだよ!?あの村長が護衛隊付けたんだろ!」
この村の村長。彼はマクナの血の繫がっていない父親であり──詰まる所、養父であるが──ムゲン曰く、
「自分の利益のためだけに両親を亡くしたマクナを引き取りやがったクズ野郎でさ!ほら、あの頭にチョココロネを乗せてててさ、背後霊使うあの・・・某奇妙な冒険漫画の第五部主人公の能力で死に続けた方がいいジジイ!!」
とのことである。
……何故ムゲンがその作品を知っているのかはツッコまない方向性で。
師匠もとい『ブレイド・アイン』はとても中年男性とは思えない光を目に湛えて言った。
「ムゲン。お前もう12歳だろ?そろそろ自分の力で世界を見てこい。これは俺からの宿題だ。『マクナ・メリッツ』の行方を追い、見つけ次第救助が要るなら、助け出してこい!俺の代わりに!」
カッコつけた割に、やっていることは12歳の少年に行方不明者の捜索を任せる外道ムーブである。
「いやアンタの仕事を体よく押し付けんな!!」
「実際、いい機会だろ?初めて会った時からちびっ子のクセに『こんなド田舎じゃ終われねぇ』みてぇな目つきしてたんだからよ」
「そりゃ、まぁ……」
ムゲンは頭の中に一人の少女の姿を思い起こしていた。
自分とは補色の青緑の髪と瞳が鮮烈に蘇る。
正反対なのは髪と瞳の色だけではなかったが。
こんな自分とは違って、いつもお人好しで、アホで、お節介焼きで、弱虫で……いつも自分に──。
「……分かった」
ムゲンはため息を一つ吐くと外に歩き出す。
ここに今、ムゲン・シンの物語が紡ぎ出されようとしていた。