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昔話

不幸全開

むかしむかし、あるところに魔法で栄えた小さな国がありました。

小さいながらもとても豊かでした。

そこの国の王子様は綺麗な金色の髪をしており、とても剣を扱うのが上手で、魔法も歴代随一を誇る力を持っていました。

それに、顔も素敵な男の人でしたので、色々な女の人に好かれていました。

でも王子様は自分の魅力や力におごったりもせず、とても周りに優しくしていて聡明で、王様もお妃様もとても期待をされていました。


その王子さまと、とても仲良しだった女の子がいました。

その女の子にはお父様が再婚し、血の繋がらない妹がいました。

妹はとても甘えたがりだったので、お姉さんの女の子からなんでももらっていました。

もらえないと分かると、なんでも壊してしまう性格でしたが、それはお姉さんやお母さんに隠されていたので、誰も気づきませんでした。

ある日『王子様とお話できるその声をちょうだい』と妹はお願いしましたが、当然あげることはできません。

『それは無理よ』とこたえたら、妹は女の子に毒を飲ませてノドを焼き、女の子の声を出なくしてしました。

とても悲しんだ女の子でしたが、怒ったってもう声は戻りません。

悪いことをしたと思ったからか、妹はお話の手伝いをしてくれるというので、女の子は妹を連れて王子様と会うことにしました。

でも女の子の思ってることをちっとも話してくれず、妹はひどいことや傷つけるようなこと、馬鹿にすることなど、女の子が思ってないことばかり言う始末です。

それに城には招待されていなければ行ってはいけないのに、勝手にお城に行って『姉に「行かないとムチで手を叩く」と脅された』などと言うようになりました。

女の子はそんなことしてないのでびっくりしました。

でも声が出ないから、どんなに否定しても誰も聞いてはくれません。

いつの間にか、お城のお手伝いさんも兵士さんも妹を哀れみ、女の子を悪く言うようになりました。

守ってくれるのは、手紙や筆談で心を配ってくれる王様とお妃様と、『何かの間違いだよ』と微笑んでくれる、優しい王子様だけになってしまったのです。


そんなある日、王様とお后様が二人亡くなりました。

そして女の子の部屋で、毒が発見されたのでした。

女の子としては、守ってくれている王様達を殺すことなんて、思いもよりません。

なんの利益があるでしょうか?

でも声がでない女の子の話など、誰が聞くでしょう。

一緒に暮らしているお屋敷の人は否定してくれますが、お城の誰も彼もが「そらみたことか」となじりました。

王子様も、もう微笑んでくれません。

大事な両親が殺されたのだから当然です。


明日は処刑の日です。

最後に会いに来た妹は「お姉さまの持っているもの全て欲しかったの、これからは私がこの国で一番偉い女になるのよ」と言いました。

女の子は泣きました。

せめて最後に「妹をお妃様にしては、王子様も国も大変なことが起こりますよ」と言いたかったけれど、声は出ません。

もう二度と会えないだろう王子様もおかわいそうに...。

大好きだった王子様に向けて、何もしてあげられない女の子は泣きました。

残念ながら全ては今更なのです。


さようならさようなら

願わくばこの物語が心ある人に届きますように



「...そして何の罪もない女の子を処刑した、何も知らない王子は妹と半年後に結婚した。

 その妹はすぐに本性を現し、気に入った男を愛人に、気に入らないものをなぶり殺し、国の全てを強欲に望み、国内外を大混乱に陥れた。

 処刑前に女の子が書いた―物語―を預かっていた良識ある上位僧侶が、王子様のお后様に毒を飲まされ死ぬ寸前に『最後にこれを』と王子様に―物語―を渡した。

 これを読んだ王子様は、両親だった王様達と僧侶の毒薬が一致して気がふれ、自分のお妃様を八つ裂きにして殺し、止めに入った周りの者も魔法と剣で殺し、城も城下も壊して国は跡形もなくしてしまった...。

 女の子の心も、妹の真意も気付けなかった馬鹿な王子様は、本当は誰かに自分を壊してほしかったんだ...」


ボソリとつぶやき、茶色く今にも崩れ去りそうな物語の書かれた数枚の紙を、そっと大事そうに胸のポケットにしまう。

日の当たらない裏路地の木箱に腰を下ろして、フードを目深く被り座っている様子は、顔が見えなくとも品位が感じられた。



日が沈んでくる。

男は腰を上げ、食事を始めることにした。

男はバンパイヤ。

高い魔力があるため、指が肌に触れれば人間から生気を奪える。

生き物の生気が男を生かす。

そうやって300年無駄に生きてきた。


でも今は無駄ではない。

彼女がいる。

そばにいたいと願う彼女がいた。


前世のことは思い出さなくていい。

思い出さないで欲しい。

あの子を追い詰めることしかしなかった。

騙されたとはいえ、最後まで俺のことを思い、国のことを思い涙した彼女を殺してしまったのは俺。

異議を申し立てあの子の命を救おうとした父親を国外追放して、何の審議もせずあの子を処刑するよう命令したのは俺。

一番近くであの子と妹の関係を見て、事実を知っていたのは、あの子の父親だったのに...。


どこが聡明なものか。


国を崩壊させた後、王子様は大量の血の匂いに誘われたバンパイヤに遭遇して、女の子を探すために長い時間を生きると決めた。



王子様がどこにいるのかなんて誰もわからない。





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