皇帝なんて言葉、忘れました
数日、保健室で勉強してましたが、何かを感じて、こっそり部屋を出たら。
その後、あの縦ロールと大和撫子が保健室に入るのを見ました。
あ、危なかった。
なんだか、こういう勘ってやつですか?
超絶磨かれているような気がしてなりません。
自分の平和な場所が、徐々になくなっていく気がします。
ううう、保健室の先生、自分のこと、言ったよね? 言いましたよね?
もう保健室行けないってことでいいですか?
なるべく、今後の為にも勉強しておきたいんですけど……はぁ。
乙女ゲーで勉強できないってどうよ?
あ、そうだ。
『彼氏事情』では、どうやって、自分を攻略するんだっけ?
脳内の記憶を絞り出して、いろいろリストアップしていく。
これは、『にーにー大好き☆』の明菜ちゃんルートで。
ああ、『みらくる☆とらぶる』に出てくるプリムちゃん、可愛かったなー。
そうそう、忘れていけないのは『銀盤のメヌエット』の葉月たん! あの子の話は、涙なしでは語れないっ!! あれは素晴らしい名作だった!!
………。
………………あれ?
えっと……その、あれ?
自分、『彼氏事情』、クリアしましたっけ?
出てくるのは、全て、ギャルゲーのばっかりなんですけど。
……あ、あれ?
「ねえねえ、彼氏事情って知ってる? 凄い乙女ゲーなんだって!」
「何それ?」
ギャルゲーならオススメ10本、すぐに言えるけど?
流石にそれは彼女相手にいう訳にはいかない。
「だから、ホント、いろんな意味で凄いんだって! しかも、この『皇帝』君が半端ないの! もう、突っ込み満載で砂糖いっぱい吐きそうで、けど、キュンキュンして、たまんないの!!」
あー、わかりました。
すげーはまってるっていうの、すごく分かりました。
「なので、ぜひぜひやってみてね! で、後で彼氏事情カフェ、一緒に行こうね!」
「はいはい、まずはゲーム内容をチェックしておきます」
……………はいっ!?
まあ、彼女が誰なのかは、おいとくとして、おい、自分!!
ももも、もしかして、自分、ゲーム内容だけチェックしたってことですか?
あああああああああ!!!!
道理で、攻略パターンが読めないと思ったよっ!!
しかも、突っ込み満載って、半端ないって……不安しかないんですけど!?
そんな傷心な面持ちで、自分、授業中だってのに、校舎裏の庭園に来ています。
庭園っていっても、木が少し生えてて、いくつか花壇があるって感じのやつなんですけど。
なんだか、これ見てると……落ち着きます、ふー。
これぞ、オアシスって感じ……わわ、なんでこんな時間に人が来るんだ!?
隠れよう、うん。ごそごそ。
「ことりさーん、ことりさん、いるー?」
ポニーテールの眼鏡っ子がやってきました。
「あ、いた! こっちこっち、ぴーぴー」
いや、ぴーぴー言っても、小鳥が来るわけ……来た!!
しかもその小鳥の足に何かついてるんですけど……リボン?
「よかったー、会えなかったらどうしようかって思ってたんだ。うん、怪我は治ったみたいだね。よかったよかった。また怪我しないよう気を付けるんだよ? ばいばーい!」
ある意味、天然ちゃん?
いや、それよりも、なんだろう、コレ?
胸のドキドキが、止まりません!!
「うん、ちょっと遅刻しちゃったけど、ことりさんに会えたから良しとしようっと」
にこっ!
ずきゅーんっ!!
い、今、自分の胸が、すばーんとライフルかなんかで、その、撃ち抜かれましたことですよ!
ポニテな眼鏡ちゃんはぐぐーっと、伸びをすると、今日も良い天気だなーと呟いて、去っていきました。ぴこぴこポニテが揺れてます。
うううううううう。
思わず、胸を押さえてしまいます。
っていうか、は、反則だ……。
いや、ポニテに眼鏡は、それほど守備範囲というわけではない。
け、けれど、なんだろう?
何故なんだ? どうして、こんなにも彼女のことが気になるんだ。
それよりなによりも……。
ささくれ立ってた心が、なんとも心地よい空気に包まれているんだ!
自分、生きてる!! 生きてるってサイコーっ!!
思わず叫びそうになって、寸前でなんとか堪えました。
ここは、きっと自分の心のオアシスだ。
そうに違いない。
自分、戦える……かも、しれない……ちょっとだけ。
ちょっぴり、いや、凄く嬉しい一日でした。