これが皇帝の強制イベント……ですか!?
……あれ? ここ……どこっすか?
暗いし……あれ? がちゃがちゃ音がする……両腕が上にあげられて……え? 鎖で縛られている?
あ、あの……これって、どういうことっすか……えーっと……うん。
えっと、朝から自分、思い出してみましょう。
そう、今日はとてつもなく、気持ちのいい朝だった。
いつもは、家から車で学校に向かうのですが、本当に気持ちのいい空だったので、るんるんで一人で電車に乗って学校に行ったんだった。
そろそろ、一人で電車で学校に行きたいと、無理やり説得して、出かけて行って。
もうすぐ学校だーーと達成感に浸っていたところで……。
――あっ……。
完璧に思い出しました。
自分、後ろから知らん男に捕まって、変なハンカチ香がされて……。
「自分、攫われてるんですけどぉーーーー!!」
「うん、正解!」
あ、その声って……。
「さーやちゃんっ!!」
「いやあ、物の見事に攫われちゃってるね。早く気づいてよかった。まだ朝だしね。強制イベント思い出した、私に感謝してね?」
よっこいしょっと、開いていた窓から、さーやちゃんは入ってきました。すげえ。
「それと、雄哉くん。今、上半身裸だから」
「わーお。本当だ……しかも肉付きいいっすね」
そういえば、今、パルクールと曲芸育ててるところだから、筋肉良い感じになってきてます。
こういう体をいじめる運動って、意外と楽しいんだよね。
「なるほど、ステータス、すっごい良い感じに育ててるんだね。失敗したら、メタボになるんだよ」
「いやそれ、今、いる?」
いや、そこを突っ込むときじゃない。自分、気づきました。
「すみません……まずは、コレ……外してくれませんか?」
「ああ、そうだったね。えっと…………あ、鍵ないや」
「ええええええっ!!!」
「そういえば、ここのイベント、やってきた人が鍵を見つけて持ってきて、好感度が100になるんだよね」
「待って、マジで待って……!! 100になったら、例のヤバいモードに入るんすよね!!」
「まあ、4人全員100にしなければ、ギリ大丈夫だから、まだ大丈夫。えっと鍵は……あれ、どこだったっけ?」
「え、詰みました? 自分、ヤバいことになってます?」
「あ、今、ここ脱出しないと、四人そろって、ここに来ちゃうよね」
「えっと……物凄くピンチじゃないですかっ!!」
「うん、そう。ここで君が助けられると、助けた人との好感度が一気に100になるんだよね。あのモードに入るにはこのイベントを使うと楽なんだけどね」
「いいから、早く助けてっ!!」
がしゃん。
……えっ……?
えっと、さーやちゃん、今、何をしました?
「あ、風の魔法で、鎖切りました」
「はい? な、何言って……」
「けど、急がないと100になるイベント発生しちゃいますよ」
「そうだったっ!!」
はっと自分、思い出しました!! イベント……!! いや、これ、どういうことっ!?
「強制イベントだね! ここで好感度を100にしていくやつ。普通は好感度が一番高い人が助けに来てくれるんですが……雄哉くんは、四人全員、均等に上げてるから、四人来ちゃうね?」
「いやあああ!!!」
今、大ピンチじゃないですかっ、自分っーーー!!!
「というわけで、助けに来たわけですよ、私。まだここで、面白い雄哉くんを終わらせるのは、勿体ないと思いまして」
「そっちですか!?」
さーやは、ぐいっと雄哉の手を握って、近くの本棚の本を抜き取った。
がこんっ!!
床が開いた!!
「はい、そこに入って!! この本はここに置いておけばいいか。入口はこうして……閉める!」
がこんと、床が閉じて真っ暗になった……と思ったら、光が灯った。あ、さーやちゃん、携帯持ってたんだ。さっすがーー!!
「ほら、さっさと、先に行くよ! あの四人、能力高いから、裏技とかすごいから、早めに逃げないと捕まるよ」
「そんな情報、知りたくなかったっ!!」
って、なんで、さーやちゃん、このクソ面倒なダンジョン(だよ、マジで!!)を迷いなく、ガンガン進んでいきます。すげーよ、さーやちゃん!!
「そ、外に出られたーー!!!」
「まだだよ。早く家に帰って、でないと見つかる」
「り、了解……」
「……ふう、何とかなってよかった。昨日言い忘れてさ……目覚め悪いなって」
「それっすか…………嬉しいような悲しいようなトホホなような」
さーやは、可愛い笑顔で雄哉へと笑いかけてくれた。ものすごく可愛いっ!!!
「ああ、このまま僕だけの楽園に沈めて、永遠の時を刻みたい……」
「はいはい。早く帰んないと好感度100……」
「それじゃ、また明日!!」
しぴゅーーっと、雄哉は自分の屋敷に逃げていった。見事だった。
「あれは……逃げ足のスキルも取り始めたんだね。必要か、逃げるなら……」
そう呟いて、さーやは、残念なイケメン雄哉を見送ったのだった。




