気が付いたら、皇帝
えっと、何から話せばよいのやら。
気が付いたら、自分、『皇帝』と呼ばれる子供になってました。
物心ついた5歳。
はっと気づけば、周りから皇帝皇帝呼ばれてます。
つーか、自分、皇帝じゃないんですけど!!
気分的には、教室の隅でひっそりと本を読んでいたい。
たまにはドッジボールとか鬼ごっことか、テレビのヒーローごっことかそういうのがやりたい。
全部、皇帝に似合わないから、別のことをしましょう。
なんて、別の事やらせないで下さい!
やられる自分の気持ちを、もっともっと考えて!!
ねえ、皇帝ごっこって何?
ここ、中世じゃないですよね? ごくふつーの現代日本でしょ?
ちょっとばかし、家がお金持ちっぽい感じはしました。
ええ、メイドさんが可愛い子ばかりで、親父もお袋もよく選んだなって思ったよ?
自分だって、ごくふつーの生活がしたいんだーっ!!
なんて、暴れたら……お袋にめっちゃ泣かれました。
ついでに親父も泣いてきたから、胸が痛くなって、数時間後には、グレ期終了みたいな?
まあ、後でこれ、めっちゃ演技だったって、気づくんだけどその時はわからなかったんだよね。
それはそれ。
肩が凝るけど、まあ自分、ちょっとばかし、前世の記憶があったり。
今の自分になる前は、バリバリやり手のサラリーマン、だったと思う。
ついでにいうと、ラノベ読破してたぜ。有名ゲームもクリアしてたな!
なので、まあ、何とかなっちゃいました。(何とかならないでっ!! 自分、心の叫び)
だってさ、おかしいと思わないか?
日本人なのに、金髪碧眼ってなに?
この日本人にありえないくらい背の高さを何とかして(いや、便利だからいいんだけど)。
それに……この眩しいくらいの美貌、何とかしてくれ。
自分、本当、平凡に行きたいだけなんだーっ!!
という、自分の希望もままならない間に、高校生になってました。
「今日も皇帝サマ、素敵……」
「あの憂いを帯びた瞳が、何とも言えないわよね」
教えてやろうか、今、自分、平凡が欲しいです。今ならいい値で平凡買うぜ?
あのコンビニで売ってる揚げたてのポテチ、自分にも食わせろ!
ジャンクなハンバーガーでも、カップラーメンでもいい。いやお茶漬けの素だけで作った質素な茶漬けでも構わない。
あーれーがー食いたいーっ!!
高級食材満載なフルコースはもう飽きたぞーっ!!
なんて、自分が言ってるなんて、そこら辺で自分を見ている女学生に言ったら、幻滅させられるんだろうな。したいけど、そこまでの勇気は……自分、ないです。
そして、決定的な何かを、知った。
「皇帝君っ! おはようっ!!」
茶髪の元気君、みたいだ。えっと、君。初めて会うけど、どっかで見たような?
「おいおい、勝手に声をかけるな。皇帝が戸惑ってるだろ?」
こっちは眼鏡のイケメンね。うーん、こっちもどっかで見たことあるんだよねー。
「……おはよう。これでいいか?」
うん、自分、悪くはない返ししたとおも……。
「うわああ、やった、やったよ! 皇帝君とあいさつできたーっ!! ありがとー、皇帝君っ!!」
だ、だから、手をつかんでぶんぶん振るなって!! 痛くなるってば!
「いい加減、止めとけ。困ってるだろが」
眼鏡イケメン、ありがとう。今、自分の中で、眼鏡イケメンの株が急上昇……え?
何でそこで、お前が顔を火照らせるんだあっ!?
関わりたくないと思ったので、さっさとその場を後にしました。
本当になんだこれは? ただの茶番ならいいんだが……。
実はこれだけじゃなかったんだ。
これだけなら、これから先のことだって、いろいろと回避できたと思う。
けど……。
「ごきげんよう、皇帝様。もしよろしければ、ご一緒に教室まで行きませんか?」
今どき、縦ロールのお嬢様なんて、ベタな子、この世にいるわけないだろがー!!
って、ちゃぶ台ひっくり返したい。
それに新学期早々、転校生ってどうよ?
「初めまして、瑠璃っていいます」
黒髪の大和撫子っぽい、可愛らしい女の子。
まあ、スタイル共々悪くはない。悪くはないんだが……自分を見て、ぽっと赤くならないでほしい。
むしろ、他を当たってくれ。
残念だけど、自分の好みじゃないから。
とまあ、ここまで進んで、やっと自分にも気づきました。
これって、前世でやってた、ゲームの世界じゃねー?
しかも乙女ゲーで、BLバージョンもあるという、有名なアレ。
『僕とわたしの彼氏事情』。
えっと、略して、彼氏事情だったっけ? まんまやんけって心の中で大いに突っ込んだ、懐かしいアレかよ!?
そして、自分はその攻略相手の一人、とある企業のクールな『皇帝』、硴崎雄哉だと、ようやく気付いたのだった。
…………ちょっと待て、ってことはつまり。
最低でも4人に言い寄られる、そういうことか!?
そのうち二人は、アウトオブ眼中の男とか!! ありえねえっ!!
さぶっ!! そんなのお断りに決まってるだろ!
ついでにもう二人の女の子も、好みじゃない。
縦ロールは扱いが面倒くさくて論外なのはもちろん、あの大人しそうな大和撫子にも興味ない。
自分の好みは、明るく気さくな女の子です。
……いろんな意味で、やばいってことですか?
新学期早々、自分は、自分の置かれている立場に戦々恐々とするのだった。
だ、誰か、嘘だと言ってくれーっ!!