プロローグ
「僕は愛歌以外を好きになる気はない。そもそも、君らなんかが愛歌の代わりになるわけがないだろう」
凍りつく場の空気。お愛想笑いを終始浮かべていた女達は表情を固まらせ、同席していた男達は目を剥き僕を凝視した。
僕を、この居酒屋での合コンに無理矢理誘った石田は「お前、いますぐ謝れ」と蒼白な顔に目差しだけでそう訴えていた。しかし僕は無言のまま、何も言い繕ったりはしなかった。
周囲はガヤガヤと酔いの回った客の声や食器が擦れ合う音がしたりと、相変わらず喧騒に包まれていたが、男女比半々で十人の僕らの席だけは静まり返っていた。
“忘れようよ。新しい子見つかるって”
“今回こうやって集まってるわけだしさ”
“ねー”
ノリの悪い僕が過去に恋人であった愛歌を亡くしたことを、石田が勝手に話した時の彼女らのリアクションはそのようなものであった。
愛歌を、まるですぐに取り替えが利くような消耗品のように話す彼女らが、自分達で簡単に成り代われるかのような口振りの彼女らが僕には許せなかった。
僕が愛しているのは今も、そしてこれからも愛歌ただ一人だけなのだ。決して彼女の存在を忘れたりなんかしない。