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異世界を行く魔力引きこもり  作者: はむかに
第4章 指輪と世界樹
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クロムガットの秘密(秘密とは言っていない)

 ガラさんこと聖剣ガラドボルグの製作者、クロムガットの関係者と思われるドワーフの女性、レリ・クロムガットを小脇に抱え、俺はギルド会館の中を警戒しながら進んでいた。大体の原因は彼女にある。

 よく分からないがギルド職員に突っかかり、口で言い負かされると逆ギレして破壊活動に及ぶとか、いったいどこのプロ市民かと思うが、これもガラさん修理の手がかりのためだ。あと、途中ではぐれたシーナを探さなくてはならないってのもあって、レリを追っているギルド警備員の目を気にしながら、俺たちは元来た道をこっそりと進んでいた。


「しかし、シーナはどこにいるのやら……」

「あれではないのか? 同志よ」

「だれが同志だっ!」

「私を官憲の手から救い出したではないか。わが同志」

「それはあんたの名前がクロムガットだからで……」

「そのあたりの話も含めて、そろそろ下ろしてくれないか同志? 胸がこすれて痛いのだが……」

「うおっ!!」


 胴体を抱えていたので猥褻は無いと考えていたが、よくよく検証するとノーブラの胸部を下から持ち上げていたわけで、見下ろすと谷間が凄い事になっていた。

 慌てて彼女を下ろすが、フレイヤの目がなんだか怖い。俺だけでなくレリにも向けられているのが怖い。

 それよりも、今なんて言った?


「シーナがどこにいるって?」

「……あれじゃないかしら?」


 フレイヤの指さす先、階段の踊り場に何やら人だかりができている。

 その中心に、時折ブロンドが揺れているのが見えた。……ドワーフの背が高いってのも違和感だな。


 と、言うか、シーナさんは何をやっているの?


「……と、言うように、私たちがシンボルとする光輪とは、単なる魔法陣ではなく、異世界への扉・未来への福音・巡る力の螺旋となって、皆さんの周りにも存在しているのです。そして、それを体現することで今を生きる力を得るのです!」

「おお~~~~!!」

「なんだか、悩みがすっきり晴れていくようだ」

「仕事が上手くいかなくて将来に不安があったのだが、明日を生きる希望が湧いたぞ!」

「ありがたやありがたや」


 ……なんだこいつら。


 どういう経緯か光輪教の説法をしてるシーナを囲んで、ドワーフの布教の輪が広がっている。ドワーフって、もっとこう、頑固一徹で他人の声に耳を貸さないってイメージがあったんだけどな。この世界のドワーフはとことん俺の異世界像を破壊してくれるな。


 とか思っていたら、レリが助走をつけてその集団にドロップキックをかましてくれた。

 ボーリングのピンにストライクを決めるがごとく、きれいに吹っ飛ぶドワーフたち。中にいたシーナがようやくこっちに気が付いたな。


「ぐわっ!! な、なにをする!?」

「やかましいっ! 技術を研鑽せずして安易な救済に救いを求めるとはなんという反革命精神! ドワーフなら恥を知れっ!」


 おお、なんかカッコいいこと言っているな。反革命精神っていうのが、どういうものかさっぱり分からんが。


「……先ほどから聞いていれば、光輪教は決して安易なものではありません!」

「飛び火した!?」


 今度はシーナがレリに食って掛かる。普段は温和な彼女だが、さすがに自分が信仰する、というか、現実に実践して俺を召喚した事実があるだけに、光輪教をディスられるのは我慢ならないらしい。


「光輪とは、世界を知り、理に到達する輝ける道! 命を革めるなどとは文字通りよって立つ世界が違います!」

「私は同胞のふがいなさを嘆いているだけだ! そちらの教義など関係が無い。革命の邪魔をしないでもらおう!」

「一時とはいえ、私の言葉に耳を傾けて頂いた方々を『関係ない』と放置するわけにはいきません!」

「なにをー!!」


 ああ、両方とも無駄にエキサイトしてしまった。

 そうこうしているうちに、周囲が騒がしくなってきた。向こうのブロックから警備員らしき野次馬を整理する声が聞こえてくる。


「話はあとでしてくれ、こっから逃げ出すぞ!」

「あっ、コーヘイ様!」

「ちょっ! まだ話が……、ええい! 諸君!! 革命だ! 来季のゴーレム品評会に参加せよ! ブルジョワどもに革命の力を見せつけるのだー!」


 レリがなんかがなっている。そういえばゴーレムを作るとか言ってたな。


「そんなこと言っても……」

「良い素材はもう大手工房が確保した後だろう。無理を言うな」


 転がってたドワーフたちが項垂れる。レリもさっき門前払い喰らってたからな。


「ぐぬう! 私は諦めないからなー! この同志と必ずや革命を成し遂げて見せるー!」

「だから同志じゃないって」


 両脇にシーナとレリを抱えて、俺はその場を後にした。

 ……今度は意識していたので、両腕がとても幸せだったが、背後にフレイヤの凍てつくような視線を感じたので決して顔には出さなかった。



 ◇◆◇◆



 ギルドを脱出した俺たちは、串に刺した謎肉や蛍光色に輝く飴を手に観光していたシルカたちと合流、行く当てもないのでレリの『自称アジト』、彼女の工房に転がり込んだ。ご丁寧な事に『技術と革新のクロムガット工房』と看板が掛かっている。でかでかと。


「……いいのか、これは?」

「ギルド警備員は己の職務に忠実(・・)だからな。会館の外の事にまで関心は向けないのだ」

「お役所だなあ」


 レリの工房は名前こそそれっぽかったが、中はこじんまりとしたものだった。扉をくぐるとすぐに小さな窯や金床が置いてある土間になり、奥にある部屋には足の踏み場も無いほどのガラクタが山と積まれていた。土間にテーブルと椅子が置いてある所から見て、既にここが生活スペースのようだ。


「ここで何を作るって?」

「い、いずれ工房も革命するつもりだ!」


 レリの目が泳いでいるが、シーナとのいざこざからは話が外れたので、まあ突っ込むのはやめとこう。


「まあ、とりあえずガラさんの件から片付けないとな」

「そうね、レリさんがガラさんを造ったクロムガットに関係があると良いんだけど」


 そうでないと、今後のギルドとの交渉が非常に難航する恐れがあるからな。もう並ぶのは嫌だ。


「あの~、さっきから話してる『ガラさん』とはだれのことだ?」


 レリが前後逆にした椅子に腰かけ(そして背もたれに胸を預け)ながら聞いてきた。危険だっ!

 すかさずフレイヤとシルカが俺を椅子ごと回転させ、背中のガラさんをレリに向けた。


「これがガラさんよ」

「我が国の至宝、『聖剣ガラドボルグ』です! ぜひとも生みの親である刀匠クロムガット殿に修理をお願いしたい。レリ殿の親族にそういった御仁がおられないだろうか?」


 俺の背から布にくるまれたガラさんを外してテーブルに置く。その間もレリはしきりに首をひねっていた。


「そうは言っても……うちは代々生活雑貨専門の鍛冶屋だったからなあ。刀匠なんて聞いたことがないが」

「じゃあ、別のクロムガット家が作ったのかしら」

「この国に他にクロムガットがいたなんて、聞いたこともないぞ」


 シルカの疑問にレリが答える。じゃあ、ガラさんどこ産なんだよ?

 悩む皆をよそに、レリはガラさんの布をほどいてその全体をあらためた。


「こりゃあひどい破損だな。いったい誰がこんな事を……んん?」

「へいへい俺が悪いって……どうかした?」


 しげしげとガラさんを凝視するレリが、何かを思い出そうとしている。


「この剣……見た事あるような……?」

「なに!? どこで?」

「お、落ち着け! 子供の頃見たような……、ああ! 思い出した! 爺さんの作品にこんな剣あったなあ」

『なんと!?』

「うおっ!! しゃべった?!」


 びっくりしたレリが取り落としかけたガラさんをなんとかキャッチする。


「それが本当なら、その爺さんが刀匠クロムガット?」

「いやいや、爺さんは只の雑貨鍛冶だったぞ」

「う~ん、誰かから預かっていたとか?」

「いや、造っていたな」

「どっちやねん!」


 思わず関西弁が出たじゃないか。


「落ち着け。思い出してきたぞ……、確かに爺さんはこの剣を造っていた」

『おおっ!』

「それも何本も!」

「何本も!! ……何本も?」

「うむ。思えば爺さんも立派な革命家だったのだな。この国のみやげ物事情に新風を吹き込もうとしていたのだー!」

「……みやげ物?」


「そう、これぞ爺さん渾身の力作!! 『光る! 回る! おみやげ魔剣』シリーズなのだっ!!」


 ………………。


 パキィィィン!!


 絶句する俺の手の中で、『聖剣ガラドボルグ』が細かく振動し、おさまったかと思うとひときわ高い金属音を響かせて、その刀身を砕け散らせた。数百年を経たとは思えぬ美しい光沢を放つ破片が工房の土間に散らばり、夜空の星のごとく煌いた。


「ああっ! ガラさんが死んだ!!」



『……死んどらんわ……』



※な、なんとか年内に上げられた……。

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