ギルド内の攻防
ギルドの中は戦場だった。……ある意味で。
「いつまでかかってるんだ! 早くしてくれ!!」
「あ~、はい。も~~~~少しお待ちください」
「ミスリルの搬入許可だ。早く出してくれ!」
「分っかりました~。え~では、この書類を持って~5番の窓口へ」
「うがー!!」
あー。
なにか、たまらなく既視感を覚える風景だなー。
吹き抜けのロビーにこもる熱気は列をなす職人らしきドワーフ達のものだが、それに対する受付の
ギルド職員の態度は、いうならばズバリ『お役所仕事』だ。熱意とか義務感とかとは無縁の存在だ。
「……なに、あれ」
シルカがあきれ顔だ。まあ言わんとする所は分かる。
「冒険者ギルドとは、その……ずいぶん雰囲気が違うね」
フレイヤもやや頬を引き攣らせながら呟いている。
確かに、俺たちがよく使う冒険者ギルドは、職員ももっと引き締まっていたな。やはり仕事内容が
命がけの物があるからだろうか。素材の査定の時なんか、両者の目から火花が出るかの勢いだったな。
ちなみに俺はギルドの言い値で売ります。マノノ村の副収入もあるし、余りがっつくと周りから良い目をされないからな。
「……ここの職人ギルドは、冒険者ギルド以上に職種やランクで格差がある。大口の儲けを出す職人は個別の担当が付いてるわ。この通常受付で待たされるというのは、つまりそういうランクの人たち」
「あ~」
世知辛いなあ。
「ま・まあ、あたしたちには関係ない話だし、さっさとクロムガットって武器職人を探してもらいましょ?」
シルカが切り替えて窓口へと向かう。
それを目で追う俺には、確実ともいえる予感があった。この流れは、絶対にテンプレな展開を迎えると。
「あの~すいません、人を探しているのですが……」
『案内』と書かれたプレートのぶら下がる窓口で、周囲の喧騒を完全に無視していた職員に俺は尋ねた。
椅子に背を預け、今にも居眠りを始めそうだったくたびれた水色の作業服を着た男性職員は、まず俺の顔を見上げ、それから自分の周囲を見回し、ほかに仕事を押し付けられる同僚のいない事を確認してから徐に俺に向き直って愛想笑いした。
「ようこそガンゲンベルク職人ギルドへ! ご用件はこちらの用紙に記入してお持ちください」
「いや、どこへ行けば聞けるのか教えてくれるだけで……」
「こちらの用紙に記入してお持ちください!」
「窓口の番号を言ってくれれば後はこっちが……」
「こちらの用紙をお持ちください!!」
「分かりました」
……まあ、予想の範囲だ。俺はもらった紙に必要事項を記入した。字を書くのはまだ苦手だな。こういうのは字が汚いと受理されないのがお約束だ。しっかり読みやすいように書く。
「書いてきた」
「はいどうも~……、あ、これ用紙が違いますね。ギルド加入者以外の外来はこちらの用紙に書きなおしてくださ~い」
「………………」
ピラっと新しい紙を飛ばしてよこす職員。カウンターを滑って飛び出しそうなそれを慌てて捕まえる。
……見てわからね? 分かるよね? ちょっと見たら俺らドワーフじゃないの。分からない?!
………………落ち着け。
大丈夫。まだテンプレから外れていない。こんなのは想定内じゃないか。役人相手に短気は禁物だ。
「書いた」
「あ、はいはい」
職員はざっと目を通すと、用紙にポンとスタンプを押して返す。
「じゃあこれ持って12番の窓口へ行ってくださ~い」
「12番って、どこですか?」
「そこの階段上って二階ですね」
「……………………」
この段階で、すでにアシヤイさんの姿は見えなくなっていた。
階段を上って12番窓口に行くと、先客がいて待たされた。どうやら女性のようだ。
(この世界の)ドワーフとしては小柄で、見た目の年齢は俺たちと大して違わないように思えた。褐色の肌に光沢のある白銀の髪はショートカットにバンダナを巻いている。薄汚れたツナギの袖を腰で結んで、タンクトップのインナーは豊かな胸部を主張していた。の、ノーブ……
「だから! さっさと担当呼んでくれよ。もう何枚書類書いたと思ってんだ!」
「だからなレリ、お前の今年分の割り当てのアダマンタイトはもう出したじゃないか」
件の人物がカウンターに掌を打ち付けて職員に食ってかかっている。おー、揺れる……
シルカに太ももをつねられた。……なるほど、彼女はレリというのか。
「あれっぽっちじゃ全然足りないよ! あたいが何作るのか知ってる? ゴーレムだよゴーレム!」
「だからなんで小物商のお前がゴーレム作るんだよ!?」
「実験だよ実験! あたいはこの閉塞したギルドに革命を起こすんだ!!」
何だか大きな事を言ってるぞ。
ちょっと圧倒されていたが、こちらも用事を済まさねばならない。俺は彼女の後ろから手に持った用紙を振ってみた。
「あの……」
「ああ、すいませんね。ほら! 後が詰まるからどいたどいた!」
追い払われるレリ。勝気な青い瞳がこちらを睨み付けるが、一つ息を吐くと脇へと退いた。
「はい、それではご用件を~っと、はあはあ、こちらの用紙ですね」
職員は俺の手渡した書類を一瞥すると、新たに取り出した書類と共にスタンプをポンポン。
「それでは~っと、こちらを持って5階・庶務課に行ってくださ~い」
「……ご……五階?」
「はい五階」
職員の指さす先には、暗がりへ続く無機質な階段が。エレベーターとか無いのかよ。
「あ、あたし下行ってそこで待ってるわ! 頑張ってね~」
「み、ミルミちゃん! ドワーフの郷土料理って興味ない? 見にいこっか!」
「あ! それいい!! 行こう行こう!」
「?? はいです?」
ミルミをダシに、シルカ・シェーラ姉妹が脱落した。
「私は何処までもコーヘイ様に従いますわ!」
「まあ、聖剣がかかってるからね」
「無理しなくてもいいぞ?」
「……じゃあ私はパス。こういうのは一度経験すれば十分だから」
「ヒイラギ様?!」
なんか経験があるらしいヒイラギと、お付きのフェリーニも戻っていった。俺も帰りたい。
……その後、五階まで行った俺たちはそこで新しい書類を書かされ、西棟へ行くために三階まで降りて渡り廊下を移動。もう一度五階へ上った時にはシーナとはぐれていた。
「……これって、何かの罠じゃないでしょうね?」
「知らん」
ようやく指示されたフロアへ到着すると、職員に書類を渡す。
「これで……どうだっ!」
「はいはい。……あ、こりゃダ~メダメ! 検索相手の職種申請と氏族申請の認め書類が抜けてますよ。12番窓口で貰ってきて下さいね~」
「「…………………………」」
残されたフレイヤと共に、無言で階段を下りる。背中のガラドボルグが震えている。
『も、申し訳ないのう……』
「ガラさんのせいじゃないから。うん、……悪いのは相手でいいよな。この場合」
「賛成」
『……気持ちは嬉しいが落ち着くのじゃぞ?』
再び12番窓口にさしかかると、何だか騒がしい。覗いてみると先ほどの女性・レリが暴れていた。ヒイラギとフェリーニが遠巻きに眺めている。
「何があったんだ?」
「……あれからずっと押し問答してた。限界超えたんでしょう。分かる」
「……分かるな」
俺たちもいい加減、ここがどういうところか解ってきたしな。
「こんな旧態依然としたギルド運営なんて時代錯誤もいいところだっ! あたいは待遇改善を要求するっ!!」
「何を言うかっ! 要は自分が欲しい素材を貰えないから文句言ってるだけだろうが!」
「それは些細な事に過ぎない。氷山の一角だ」
「じゃあ他の問題点を挙げてみろ! 我々だって遊んでいる訳じゃないんだぞ!」
「う~~~~うるさいっ!!」
あ、もう論破された。
他の職員もやって来て多勢に無勢になったレリは、俺たちのいる廊下まで下がるとツナギのポケットから何か剣呑な印象の鉄パイプを取り出した。
「え~い、いつも数に頼みやがって! かくなる上はちゃららっちゃらー!『れ~り~ば~く~だ~ん~』!!」
「うわーっ! 何かいろいろとヤバい!!」
俺はとっさにパイプ爆弾ぽいものを掲げたレリを羽交い絞めにする。あのテーマとフレーズは全世界共通か?
「なにをするっ! こうなったら武力闘争しかないのだ! レボリューション!」
「落ち着け! 俺たちを巻き込むな! 大体こんな所爆破してどうするんだよ?!」
「無論! 正当な権利である物資を獲得して凱旋するのだ!!」
「……ここお役所だろ? アダマンタイトとか現物置いてないんじゃないか?」
「えっ?」
レリの動きが止まる。
「……………………」
「……………………」
「……………………あ、そっか!」
「「おいっ!!」」
「ひゃあ!」
俺たちの突っ込みに驚いたレリの手から爆弾が落ちる。金属音を立てて転がるパイプの両端から煙が噴き出し、それを見た職員が我先にと逃げ出す。
「おいー――――っ!!」
「心配無用! 実はただの煙幕なのだ」
俺の拘束から逃れたレリが豊かな胸をそらす。
「こう見えてあたいもいっぱしの職人、レリ・クロムガットだ! 下手なモノは作らん!」
「ホントかよ? それにしても……………………って、……何だって?」
「だから信用してくれていいぞ。なんならほんとに爆弾いるか?」
「そうじゃない! ……クロムガット、だと?」
「そうだが?」
……いたよ。こんな所に。
「……まあ、話はあとでいいんじゃないの?」
「そうだった! 逃げるぞ!!」
「なに? 革命達成せずして逃げるとは! あたいは認めなって、はなせー!」
とりあえずレリ・クロムガットを小脇に抱えた俺と、ヒイラギたちはその場を後にした。
立ちこめる煙幕の中、警備の兵士まで動員されてギルドは大混乱に陥った。とは、後からアシヤイさんに聞いた話である。




