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異世界を行く魔力引きこもり  作者: はむかに
第4章 指輪と世界樹
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ドワーフの街

 ガンゲンベルクは全て山の中である。


 とは言っても別に地下都市という訳ではなく、露天掘りで出来たすり鉢状の土地に、蓋をするように周囲の坑道から出た土を被せ、そうして出来た円形の人工大地に放射状の町並みが広がる、予想以上に見事な都市だった。


「コーヘイ! した下!」

「んえ? ……おお!」


 はしゃぐシルカに付き合って道沿いの柵を覗くと、そこは断崖になっていた。反対側にも柵のついた道路が延びており、その間がまるで川であるかのように空中を伸びる橋で繋がれていた。

 そしてその下は綺麗に削られた壁面が続き、あちこちに開けられた穴から同様に橋が伸びていたり、小さな滝から落ちる水が途中で霧になって幾つもの虹を作っていた。おっかなびっくり覗き込んでいたシーナが感嘆の声を漏らす。


「下にも森があるのですね」

「……ガンゲンベルクは階層都市だから。見た目よりも広い」


 まさにジオフロントだな。バブル景気のころの日本人の夢がこの異世界で実現していようとは。

 しかし、思ったよりも大都市なんだな。ドワーフというと、洞窟の奥に溶鉱炉とか鍛冶道具を仕込んでこもっている印象だったんだけど。俺の目に映るガンゲンベルクは、素材こそ石や木材が見られるが計画的に整備された近代都市そのものだ。……ちょっと、ヘリオス負けてね?


『では、そろそろ我を創りしクロムガット殿、あるいはその親族を探そうではないかな?』


 背負い袋から柄をはみ出させたガラドボルグが言ってきた。


「それはそうだが……、どこで聞けばいいんだ? っていうかドワーフはどこにいるんだ?」


 俺はきょろきょろと辺りを見回す。町の正門から伸びる幹線道路なだけに人通りはある方だが、これまでそれらしい人物を見かけていない。肌が浅黒い、どちらかというとエルフのような容姿の人たちばかりだ。ひょっとすると、あれがダークエルフというのだろうか。


「どこって……その辺にいる皆がドワーフだよ?」

「はあ??」


 シルカの言葉に思わず間抜けな返しをしてしまった。

 俺の周りにいるのはどうみてもエルフだ。ヒイラギやヒイラギパパと比べると筋肉質でやたら健康的、あと金髪率は低く赤毛や茶髪が多いといった違いはあるみたいだが。あと、男性のヒゲ率が高いな。モジャモジャというより綺麗にそろえたダンディなスタイルが多い印象を受けるが……ヒゲ。といえば。


「ひょっとして……、この皆さんがドワーフ、だと」

「さっきからそう言ってるじゃないの」

「……確かに祖先はエルフの枝だったけど、人が地に増えるより昔に世界樹から別れて、土と鉄に馴染んだのがドワーフになった。と、長老から聞いた」


 シルカの言葉にヒイラギが付け加えた。なるほどーこれがこの世界のドワーフなのかー。


「…………まったく! エルフとかドラゴンとか、なじみの言葉はあるくせに、肝心のところで微妙に外してくるなこの世界は! これじゃドラゴンだってどんなのが出てくるか予想がつかん……」

「何ブツブツ言ってんの?」

「別に」


 個人的感情はスルーして、さっさと要件を済ませよう。面白そうな街だし観光したいのだ。



 ◆◇◆◇



「クロムガット? 知らないなあ」

「ガラドボルグ……? 聞いたこと無い銘だね」

「……な、なぜだ……」


 その辺のドワーフさんから手近の小売店の店員まで、小一時間ほど聞き込みをしてみたが、なぜかクロムガットのことを知っている人に会うことは無かった。

 足が棒になった俺たちは、街路の交差点でもあるロータリーの中の広場で芝生に腰を下ろしていた。広場の中央には公園の定番・噴水の代わりに鉄柵で蓋をされた穴が開いており、下の階層の採光口になっていた。


「名のある名工が打ったんじゃなかったのかガラさんは」

「銘はともかく、作者の名前が知られてないなんて……」

『……我、自分の出自に自信が無くなってきたのだが……』


 なんか、ガラさんの柄にはまっている魔石の色がくすんできてるような気がするが。闇落ちとかやめてくれよ。


「可能性としては、クロムガットが一代限りで誰も覚えていない。という所か」

「弟子も取らずに世間との関わりを避け、一人黙々と己の技を磨き続けていた……、なんかカッコいい! いいなあそれ!」

「いかにも気難しい職人にありそうな話よね」


 魔剣マニアのフレイヤの喜ぶポイントはともかく、いくら腕が良くてもそれが伝わっていないのなら、やがて忘れ去られるのは当然か。しかし、そうなると困ったな。


「クロムガットの技術が伝わってないなら、ガラさんどうやって修理すれば……」

『もう駄目だ……おしまいだあ!』


 ガラさんの絶叫が採光口に反響する。下階層の人うるさくてごめん。


「あのう……」


 観葉樹の木陰と一体化していたアシヤイさんが片手を挙げて自己主張した。


「こういうのは、ギルドで訪ねればいいんじゃないでしょうかねぇ」

「………………………………」


 全員が固まる。木漏れ日がきらめく。心地よい風が頬をなでる。


「「その手があったぁっ!!」」


 ギルドがあるならあるって、真っ先に言ってよ!!


「ギルドでしたらヒル……ヒイラギ様はご存知のはずでしたよね? なんでお気づきになられなかったんですか?」


 フェリーニが指摘したが、ヒイラギはちょっと子供っぽい嫌そうな顔をしてこちらを見返した。


「……あまり、良い思い出がないので、出来れば行きたくなかった」

「??」


 ◆◇◆◇



 ガンゲンベルク鍛冶屋ギルドは町の中心部、階層をひとつぶち抜いてそそり立つ、頂点を切り落としたピラミッドのような建造物にあった。どちらの階層からでも出入りできるように橋が架けられ、人々が行き交っている。俺の記憶の中でいちばん近いものをあげるとすれば、コミケで有名な某会場の一部を上下逆さまにした。とでも言おうか。つまりその外観は。


「すごい量のガラスだ……」

「きらきらしてますねえ」


 俺の見てきた限り、この世界ではガラスは高級品だ。ヘリストラウスでも王家を除けば一部の貴族の屋敷に使ってあったくらいで、だからマノノ村を作った時に、シェーラに頼んでガラス窓を作って提供したらやたらと恐れ入られてしまった。俺としては無ければ困るだろうくらいの感覚だったのだが、そういった生活文化の面でも、マノノの里は外界から断絶した環境になってしまった。


「でもこれで、ガラさんの体を治してくれる人が見つかりますね!」

「……だといいけど」


 明るく話すミルミとは対照的に、ヒイラギはどこかうんざりした顔でギルドを見上げている。


「なんか問題あるの? このギルド」

「鍛冶といえば軍事機密も含みますからね。部外者は逮捕されるとか!」

「……フレイヤは考えすぎ。と、いうか……」


 めずらしく、ヒイラギはため息交じりでつぶやいた。


「……そっちの方が、まだマシ、かも」


 なんだよ、その思わせぶりなセリフは? 




※ずいぶんと間が空いてしまいました。

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