最初の夜1
俺に話しかけた女の人の名前はシーナさんといった。やはり巫女のような役職らしい。パジャマ姿の俺に自分のローブをかけてくれた。ふわふわブロンドを肩まで伸ばし、ちょっとたれ目の蒼い瞳が優しそう。ローブの下はこれまた純白の衣装。ロングのゆったりしたワンピースだが、腰に帯を巻いているのでくびれたラインがそこはかとなく分かる。胸元が結構大胆に開いていて、お辞儀される時かなりきわどかったデス。
巫女……いいねっ! ちょっと緊張が解けました。
「ぶしつけなお願いでありますが、イスルギ様には『勇者』として我らをお救いいただきたいのです」
まあ、そんなところだろうとは思っていたけど、やっぱり『勇者』のお誘いなのか~
お約束ではあるけど、正直自分ではどうなのよ?と思う。シーナさんの言ってる言葉は完璧に理解できるけど、今のところそれ以外に自分の体に変化らしきものが感じられないのが不安の原因だ。この手のお約束の『チート能力』、それが自分……16歳高校生・石動耕兵にはどの程度備わっているのか?じっと手を見てたりすると、足元の魔法陣が光を失い始めた。シーナさんの体がぐらりと傾く。
「あぶないっ!」
思わずシーナさんを抱きかかえる。うわ、やーらかーい。……ゲフンゲフン。彼女いない暦=年齢の俺にはちょっと刺激が強すぎますよ。今まで我慢していたのか、呼吸が荒いシーナさんが色っぽ……心配だ!
「も、申し訳……ありません。魔力を注いでいた『召喚門』が、無事に完全閉鎖されましたので、気が緩んでしまって……」
「もういいですよ、なんだか辛そうだ。代わりの人から話を聞けませんか?王国ですから王様とか、えーっと伯爵とか?」
魔法陣使うくらいだから魔法も魔力もあるってことか。シーナさんがどのくらい魔法を使えるのか分からないけど、かなりの重労働だったみたいだ。これはもう休んでもらった方が良いだろう。
「ヤハルマ伯爵様はお屋敷でイスルギ様をお待ちになっておいでです。国王陛下は、その……王都ヘリオスにおわします」
「へ?」
勇者呼び出しといて、ここにはどっちもいないのかよ!神殿に入れないとかだとしても、外で待っててくれてもよさそうなもんじゃん。百歩譲って都合がつかないとかでもさ、大臣なり王子様とか姫様なり、その辺の人たちよこしてくれてもバチは当たらないと思うよ?皆さん勇者に期待してるんじゃなかったんかい! 責任者出て来い!
「お怒りはごもっともですが、どうか寛大なる御心をもってご容赦ください。我らには勇者が……イスルギ様が必要なのです!」
すがるようにこちらを見上げてくるシーナさんの瞳がうるうるしてる。ううっ、そういうのずるいと思います。でも、なんか引っかかるよな。勇者は国の希望!みたいな事言ってるけど、やってることはどうにもせせこましい。シーナさんは真剣だ、でもどこか何かを隠しているような気がする。言葉が分かることでつい見逃しがちだったけど、俺はこの世界について何も知らない。いきなりおいしい話に乗っかったら取り返しのつかない事態に陥るかも。
「……わかりました。話しは後で聞きましょう。それよりも、俺が勇者だと証明するとか、俺の能力を調べることとかは可能ですか? 正直、俺は自分が『勇者』だといいきれる自信がないんです」
まずはコレだ。自分の能力を把握しておかないとな。右も左も分からないまま魔王討伐とかに行かされるとかはさすがにないだろうけど、自分の限界を知っていれば意見を言うことも出来るだろう。
そして、もし……もし自分が『勇者ではない』としたら……考えたくはないけど、その場合のこの世界での暮らしも考えなきゃいけない。常に最悪を想定せよ、だ。
「ああ、それでしたら……」
『我々が調べてさしあげましょう。あなたが『勇者』かどうか、肉の一切れ、骨の一本にいたるまで……ね』
「なっ??」
突然祭壇に突風が吹き荒れた。思わず目を閉じた俺の両肩に、激しい衝撃と痛みが襲う。体が軽くなる。足が浮かび上がる。目を開いたとき俺は―――
不気味な爪に捕らえられ、空中にいた。




