第95回 脅迫日和
「プリンの…」
ポトフを見るミント。
「双子の…」
ポトフを見るココア。
「弟…?!」
ポトフを見るプリン。
「おに〜ィちゃん♪」
すると、ポトフがにこっと笑ってプリンに言った。
「失せろ」
全身に鳥肌が立ったプリンは、ぴしゃりと彼にそう言った後で
「…どういうことだ?僕に弟がいたなんて初めて聞いたぞ?」
プリンママに尋ねた。
「うふふ あら、言ってなかったかしら?」
すると、プリンママがにこやかに小首を傾げた。
「はっはっはっ!何を言ってるんだ?昔はよく玩具の取り合いをしてたじゃないか!」
その隣で朗らかに笑うプリンパパ。
((玩具の取り合い?!))
バッとプリンとポトフを見るミントとココア。
「うふふ いつもプリンが負けていましたよね」
「はっはっはっ!そう言えば、ババロアはいつもプリンを泣かせてたなぁ」
昔を懐かしむようにほのぼのと笑うプリンママとプリンパパ。
((喧嘩好きは昔から?!))
とか思うミントとココア。
「いっいつの話をしている?!」
若干顔を赤くしながらプリンが尋ねると
「三歳までかな?」
ってプリンパパが答えた。
「そっそんなの覚えているワケないだろう!?と言うか"まで"ってなんだ?!」
おぉ。珍しい。プリンが突っ込んだ。
「うふふ …そう…三歳までは…」
顔を悲しく曇らせたプリンママは、再びポトフに目を向け
「うふふ 本当に生きていて良かったですわ」
本当に嬉しそうにそう言った。
「…」
しかし、ポトフは反応せずに下を向いていた。
「…?ポトフー?」
ココアが心配そうに声をかけると
「いやぁ本当にババロアが生きてて―…」
というプリンパパの発言を遮って
「ババロアじゃねェ 俺はポトフだ」
と、静かな声でポトフが言った。
「な…何を言って―…?」
ポトフの言葉を聞き返すプリンパパ。
「…"生きてて良かった"?どの面下げてそんなコト言ってんだ?」
すると、ポトフはプリンパパを睨みつけ
「…この話が本当なら、テメェらが俺を捨てたんだろ?」
殺気を孕んだ声でそう言った。
「「…!!」」
その一言を聞いて息を呑むミントとプリンとココア。
「うふふ す…捨てた?」
ポトフに気圧されながらも先程の言葉を聞き返すプリンママ。
「なっ何を言っているんだ?!私たちはお前を捨ててなどいないぞ!?」
それと同時にプリンパパが言った。
「ふざけんなっ!!俺はゴミ捨て場のゴミ袋の中から拾われたんだぞ?!」
そんな二人の態度に我慢できなくなったポトフは
「しかも危険物回収の日にだぞ?!ふざけんなよ!?」
二人に向かって怒鳴り散らした。
どうやらポトフくんは、電池や刃物などの"有害ゴミ"の袋の中から発見されたようですね。
((くっ…駄目だぞ自分!!"その分別は正しい!!"なんて絶対に言っちゃ駄目だっ!!))
空気を読め!空気を!と、何度も己の心に言い聞かせるミントとココア。
そして二人は、視界の隅で枕に顔を埋めて静かに爆笑していたプリンを一発どついてやりました。
「…そうか…お前は拾われる前の記憶がないのだな…?」
ポトフの言葉を聞いて、プリンパパは納得したように
「…お前は三歳になったばかりの頃、誘拐されたんだ…」
と、目を瞑って静かに語り出した。
≫≫≫
「うふふ あっあなた!郵便受けにこんなものが!」
顔を真っ青にしてプリンママが二通の手紙をプリンパパに手渡した。
「どっ…どうしたんだ一体?!」
プリンパパが二通の手紙を開けてみると
[激安!!タマゴ一パックお一人様5円!!by○×スーパー]
[ぉ前らノ息子はぁずかッた。返しテ欲しかったラ1億円を用意シロ。さもなクば息子に毒薬ヲ飲ませて殺ス]
と、書かれた紙がそれぞれ出てきた。
「うっそマジで!?超安いじゃん!!」
社長のクセに安売りの紙に食い付くプリンパパに
「うふふ まったく駄目ですわねあなた!!それだけ安いのだから、何か裏があるに決まっているでしょう?!賞味期限が切れてるとか!!」
と、注意した後で
「うふふ それよりもこっちですわ!!」
プリンママは新聞の文字を切り合わせたベタな脅迫状を指差した。
「んなにぃ?!新手の保育サービスかぁ!?」
"預かった"の意味を取り違えるプリンパパ。
「うふふ そんなワケないでしょう?!これは誘拐よ誘拐!!どこの保育サービスが毒薬なんか飲ませるんですか?!」
意外と常識人なプリンママの指摘を受け
「何だと!?む…息子ってどっちだ?!」
プリンパパは、ようやくシリアスモードに突入した。
「うふふ プリンは風邪で寝込んでますわ」
その質問にプリンママが答えると
「くっ…私の超安い…違う!!超可愛いババロアをっ…!!」
プリンパパは立ち上がり
「今すぐ一億円用意するぞ!!」
って言ってジュラルミンケースを用意した。
次の日
「…で、銀行から一億円引き落としてきたケド…」
プリンパパは、お金で一杯になったジュラルミンケースを抱えて初めて
「…用意してどうするんだ?」
脅迫状にお金を届ける場所と日時が指定されていないことに気が付いた。
「うふふ で…電話がかかってくるのでは?」
「そ…そうだな…」
てな具合で、二人は一日電話の前で待機することになった。
「…あ、警察にも連絡しとかなきゃな!!」
「うふふ そうですわねっ!!」
その次の年。
「うふふ あ…あなた!郵便受けに手紙が!」
数十人の警察が待機している部屋に入り、慌ててプリンパパに手紙を手渡すプリンママ。
「な…なになに?」
プリンパパが手紙を開けると
[マサか一年以上も用意シナイとはな。約束通り息子は毒薬を飲マせて捨てテぉいたゾ。]
と、書かれていた。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
「「ふざけんなあああああああああああ!!!?」」
≫≫≫
「「・・・」」
プリンパパの話を聞いて、ミントとプリンとココアとポトフは固まった。
「…私たちはあのすぐ後、全国のゴミ捨て場というゴミ捨て場を探し回った…」
「うふふ …でも…見付からなかったんですの…」
涙ながらに語り続けるプリンパパとプリンママ。
「は…はァ…きっともうおねェさんが見つけた後だったんでしょうね…?」
もうどうでもよくなってきたポトフがそう言うと
「…で、その気違いな犯人は捕まったんですか?」
ミントがプリンパパに尋ねた。
「ああ!!もちろん…!!一年間の捜索の上やっと捕まったんだっ!!」
「うふふ それで…それでその犯人は、確にあなたに毒薬を飲ませて捨てたと…!!」
さめざめと泣くプリンペアレンツ。
「でもポトフは生きてるよー?」
小首を傾げながらココアが言うと
「…うむ。きっとその毒薬は、命を奪う代わりにコイツの遺伝子に影響を与えたのだな」
ってプリンが言った。
「…あ!だからポトフは狼男になっちゃったんだ!」
プリンの言葉にピンときたミントが言うと
「うむ。多分」
プリンはコクンと頷いた。
「…なんか踏んだり蹴ったりだねポトフー?」
気の毒そうにココアが言うと
「…あ!だからポトフは足技が得意なんだね!」
ってミントが言った。
「うむ。多分」
てな具合にほのぼのと笑い合うミントとプリンとココアの会話を聞いて
「…あの」
「「?」」
ポトフは実の両親に
「その犯人は今どこにいるんですかァ?」
爽やかな笑顔で質問しました。
「うふふ た…確か王都の第13番地下牢に…」
プリンママがそう答えると
「ありがとォございます♪おかァさん♪」
にこっと笑いながらポトフが言った。
「うふふ!! ええ!どういたしまして!!」
ポトフに"お母さん"と呼ばれて喜ぶプリンママ。
「はっはっはっ!気を付けてな!!」
そんなプリンママの隣で、朗らかに笑いながらプリンパパが言った。
「はァい♪」
このすぐ後に、ポトフを誘拐して毒薬を飲ませた気違いな犯人は、産まれてきたことを後悔することになったそうな。