第89回 変態日和
真っ白な病室に、柔らかな朝日が差し込んできた。
「ぅ…ん?」
光に刺激されて、ミントがゆっくり目を覚ますと
「! ミント!」
それに気が付いて顔を明るくするプリン。
「…はれ?此処は?」
ぐるりと周りを見回しながら起き上がったミントが尋ねた。
「国立病院だ」
その問いに答えるプリン。
「…?国立美容院?」
ミントは寝惚けていた。
「って何これ!?ディス イズ ザ 点滴!?」
寝起きのためテンションがおかしいミント。
「…うむ」
ミントの腕に刺さっている点滴を見て、表情を暗くするプリン。
「…? どうしたのプリン?」
そんなプリンを見て、ミントが小首を傾げると
「…ごめん…ミント入院してるの僕のせい…」
枕をギュッと握り締めながらプリンが謝った。
「ええ?!オレ入院してんの!?」
自分が入院していることに初めて気が付くミント。
「うむ…ハイパーウルトラスーパーグレートオクトパスの毒に当たって」
「どんだけ凄いねん?!」
静かに頷きながらプリンが言った言葉に素早く突っ込みを入れるミント。
「って…あ…もしかしてあの巨大タコのコト?」
突っ込みを入れられて気が済んだミントが言った言葉に、プリンは再び頷いた。
「そっか あはは…やっぱ魔物は食べちゃまずかったみたいだね?」
自分、反省してマスと言うように笑うミント。
「…」
うつ向くプリン。
「プリン…」
笑顔から困ったという顔に変化するミント。
「…ごめんミント…僕、魔物食べちゃいけないこと知ってたのに…」
うつ向いたままプリンが再び謝った。
「あはは オレも薄々感付いてたからプリンのせいじゃないよ?」
感付いてたのに食っちゃったの?!
「じゃ…じゃあ僕がタコさんに捕まらなければ─…」
「…でも、海に入らなければ捕まらなかったよね?」
ミントはプリンの言葉を遮って
「…だから、泳げないプリンを海に突き落としたオレが悪いんだよ」
申し訳無さそうに微笑みながらそう言った。
「…っ!」
じわり
あくまでもプリンのせいにさせないミントの優しさに触れ、涙目になるプリン。
「?!」
それにびびりまくる相変わらず涙に弱いミント。
「えぐえぐっ ミント〜っ!!」
「なーなななな泣かないでプリンー?!」
泣きながら自分に抱きついてきたプリンにミントが焦りまくっていると
ずり…
プリンの手の力が抜け
ぽてん
「…ぐー。」
ミントの太股の上に頭が落ち、プリンはそのまま眠り始めた。
「って寝たぁ?!」
突然爆睡し始めたプリンにミントが驚いていると
「…そいつ、一晩中ミントのコト看てたんだぜェ?」
左側からポトフの声が聞こえてきた。
「! …え?」
突然聞こえてきたその声に驚いて左側…入り口の方に素早く目を向けるミント。
そこにはいつの間にかポトフとココアが立っていた。
「…マッドプラント戦で風魔法を連発した上に、多人数テレポートを三回もしたんだから相当疲れてるハズなのにねー?」
やれやれと肩をすくめながらココアが微笑んだ。
ちなみに、死にものぐるいで果実を手に入れて帰ってきた三人は、お姉さんから治療が終わったと聞いてハイパーウルトラスーパーグレートショックを受けたそうな。
「!? そんなっ…プリン?!」
何故マッドプラントとかいうのと交戦したのか分からないが、それだけ魔法を連発すれば疲労が溜りまくることぐらいは分かる。
「ぐー。」
「…ありがとうプリン」
バッと目を向けたものの、ぐっすり眠っているプリンを見て思わず笑顔になったミントは、彼の頭を優しく撫でながらお礼を言った。
「くっ…ミントの膝枕…」
それを羨ましそうに見つめるポトフと
「変態」
彼に的確な突っ込みを入れるココア。
「あはは…どうしたのポトフ?両方のほっぺに手形ついてるケド」
そんなポトフにミントが分かりきったことを尋ねた。
「へ?あ、ああ これはさっきココアちゃんを襲お…起こそうとした時に─…」
ドスッッッ!!
解答途中の失言のために、ココアの肘鉄砲…いや、肘大砲がみぞおちにクリーンヒットするポトフ。
「…あ、ちなみに反対側は"俺がミントを一晩中看病するぜ!!"とかにやけながら言い出した時に私が成敗した跡だよー」
彼を吹っ飛ばした後で、何事もなかったかのように解答するココア。
「…あはは…どうもありがとうココア」
ポトフを若干気の毒に思いながら、自分を守ってくれたココアにお礼を言うミント。
「どういたしましてー♪って、あ、そだ!」
にこっと笑ったココアは思い出したように手を叩くと
「ミントにお客さんが来てるよー?」
ドアを指差しながらそう言った。
「? どうぞ?」
誰だろうと思いながら、ドアの外に立っている人物にミントが声をかけた。
バンッ!!
「ゲヘヘ!!」
「帰れ」
ドアを勢いよく開けて病室に入ってきたミントママを見るなり、ミントは絶対零度の言葉を浴びせました。
「メルヘン!!」
病院の屋上から吊されているミントママは、我が息子がいる病院の入り口に目を向けた。
「もう魔物なんか食べちゃ駄目よ?」
病院の前でお姉さんが四人に言うと
「お世話になりました。うちの母が」
ミントが申し訳無さそうに深々と頭を下げた。
「ふ…うふふ…大丈夫よ…慣れてるから…」
そう言っている自分が悲しくなるお姉さん。
「…心中お察し致します」
自分の母親の知り合いなのかと、気の毒そうにお姉さんを見て同じように悲しみの涙を光らせるミント。
「…じゃ、学校に戻ろうぜェミント?」
そんなミントとにポトフが言った。
「うん!お願いプリン!」
ミントが頷くと
「うむ。テレポート!」
プリンが魔法を唱え、四人は学校へと戻っていった。
「…♪」
楽しそうに笑いながら学校に戻っていったポトフを見て、お姉さんが嬉しそうに微笑んでいると
びちゃっ
「・・・」
上から緑色の液体が降ってきた。
「ゲヘヘ♪」
ぶくぶくーっ
その液体からミントママが発生した。
(…ミントくん…これでよくまともに育ったわね?)
意味もなくY字バランスをして笑っているミントママを見ながら、お姉さんがしみじみそう思っていると
「ゲヘヘ♪そういうあんたこそ、随分エロく育てたのねぇ?」
ミントママは読心術を心得ていた。
「えっエロくだなんて…私は普通に育てたわよ!?」
ミントママの言葉に素早く反論するお姉さん。
「ウチは異常に育てたつもりよ!!」
そう言いながら胸を張るミントママ。
「あーうんへーそう?」
適当に流すお姉さん。
「…ふぅん…じゃあモヤシが原因なのかしら?」
「そ…ソラが原因なワケないでしょう?!」
にやりと笑いながら言葉で攻撃してくるミントママに必死で抵抗するお姉さん。
「なるへそ。二人の生活そのものがエロいのね?」
笑いながらからかい続けるミントママに
「ちっ違うわよっ!!あの子が勝手にエロくなったのー!!」
お姉さんは顔を真っ赤にして怒鳴った。
…と言うか、ポトフがエロいことは否定しないんですかお姉さん?
「? ええもちろん」
お姉さん認定!!
ポトフが変態だということが今、正式に決定されました!!
「ふェくしっ!!」
丁度その頃くしゃみをするポトフ。
「? ポトフ風邪?」
「あっはっはっ!俺はいつでも健康だぜミントォ?」
「うむ。馬鹿は風邪を引かないらしいからな」
「違うよプリンー 馬鹿は馬鹿だからよく風邪引くんだけど、やっぱり馬鹿だから風邪を引いたコトに気が付かないらしいよー?」
「ふむ。そうなのか。つくづく馬鹿だな」
「…泣いていい?」