第87回 宿屋日和
「ぐー。」
涼しげな木陰で、木の幹を背もたれにしてお休みしているプリンの先にある海では
「いくぞミントォ♪」
ぽーんっ
三人が楽しげにビーチボールで遊んでいます。
「いくよココア〜」
ぽーんっ
ポトフから来たボールを、ミントがココアにトスをすると
「逝けよポトフー」
バシュア!!
ココアがポトフに向けて渾身の力でボールをスマッシュした。
「音おかしい音おかしい音おかしい音おかしい!?」
なんかビビビっていう変な効果音つきでこちらにやって来る豪速球にポトフが焦っていると
ドゴーンッ!!
豪速球が彼の顔にぶち当たった。
「っ!!」
もちろん、彼のたーいせつなイケメンを守るために、彼は腕で直撃をガードしたのだが。
バシャーン!!
豪速球の衝撃に耐えきれずに後方に吹っ飛ぶポトフ。
「あはは この勝負、ココアの勝ち〜」
パチパチと手を叩きながらミントが言うと
「あったり前よー!」
ココアは腰に手を当てて胸を張った。
「いってェ… …けど♪」
かなり痛かったのだが、ココアの麗しい水着姿に免じて、ポトフは飛んでいってしまったボールを取りにいった。
「…お?」
「ぐー。」
ボールは、寝ているプリンの足元にあった。
「…」
ボールを拾ったポトフはにやりと笑うと
「起きろォ!!」
ボーンッ!!
そのボールを頭を垂らして寝ているプリンの首に思い切り叩き付けた。
「ぴぐ!?」
その衝撃で頭がガクッと下がるプリン。
「あっはっはっ!起きたみてェだな?」
そんなプリンを見て、楽しそうに笑うポトフ。
「…いい度胸だな貴様…」
ゆらりと立ち上がったプリンに
「…いつまで寝てんだよ?早く行くぞ?」
ビーチボールを持ったポトフはくるりと背を向けた。
「…む?」
プリンが海の方に目を向けると
「おはよープリンー!」
「早く早くー!」
ミントとココアが、こちらに向かって大きく手を振っていた。
「!」
それを見て、驚いたようにポトフを見るプリン。
「…なんだよ?」
背後から視線を感じたポトフが尋ねると
「…」
プリンはフッと笑って
「…成程。貴様、僕と遊びたいのか」
って言った。
「っ?!なっ何馬鹿なコト言って─…」
顔を赤くしたポトフがバッと振り向くと
「…嬉しい」
枕に顔を埋めたプリンが嬉しそうに呟いた。
「〜!!早く行くぞ!!」
調子が狂ってしまったポトフは、そう言って歩き出した。
「うむ!」
プリンはコクンと頷くと
「テレポート」
ピュッ
シュパンっ
ポトフより先にミントたちのところに着いた。
「いや少しは歩けよテメェ?!」
「ふふふ ヤー」
そんなプリンとポトフを
「いやー…ほのぼのだねー?」
のほほんとした目で見ながらココアが言った。
「ってか焼けるとか言ってなかったっけココア?」
ミントの些細な疑問に
「細けえコトは気にすんなヨ」
って答えるココアちゃんでした。
夕方になって
「ふー!すっきりしたねプリンー?」
「うむ。すっきりしたなココア」
清々しい笑顔で、海の近くにある宿屋の廊下を歩くプリンとココア。
「…いぢめは良くないよなァミントォ…?」
二人の後ろには、肩を微弱に震わせているポトフと
「げげげっ元気出してポトフ!?そうだよね?!いじめ、カッコ悪いよね!?」
今にも泣き出しそうな彼を必死に元気付けようと試みるミントが歩いている。
「うわァん!!ミントォ〜!!」
「ななな泣かないでポトフ?!ほっほら!アイス買ってあげるから!!」
未だに涙にはめっぽう弱いミントは、抱きついてきたボロボロになっているポトフの頭を優しく撫でながらそう言った。
「ホント?」
潤んだ茶色い瞳をミントに向けて聞き返すポトフ。
何故ポトフがボロボロになっているかというと、先程プリンとココアが、日頃の鬱憤を晴らすがごとく鬼のように鬼スマッシュを彼に叩き込みまくったからである。
「楽しかったねー?」
「うむ。楽しかったな」
晴れ晴れとした笑顔のプリンとココア。
「美味しい?」
「うん!」
二人の後ろには、美味しそうにアイスを食べるポトフと、彼が泣き止んで胸を撫で下ろしているミントが歩いていた。
「こちらのお部屋でございます」
すると、四人を先導していた宿屋の少女が言った。
「「!?」」
案内された部屋を見て驚く四人。
「…では、ごゆるりとお休みになって下さいまし」
少女はぺこりと頭を下げると、プリンを見て赤くなった顔を両手で隠しながらぱたぱたと帰って言った。
「…む?」
それを見て、小首を傾げるプリンと
「…枕に負けた…」
ガクッと頭を垂らすポトフと
(…まぁ…あれだけ嬉しそーにアイスなんか食ってたらねぇ…?)
とか思うミント。
「…二人部屋が二つー?」
そんなことはどうでもいいというように話を本題に戻すココア。
「む…四人で来たのだから当然の結果だな」
傾げた小首を元に戻しながらプリンが言った。
「…じゃ、行こうかココアちゃ─…」
スパァン!!
ココアは、肩に手をまわしてきたポトフを吹っ飛ばすと
「おやすみーミントとプリンー」
バシン!!
って言ってドアを閉めた。
「うむ。おやすみ」
「…まぁ…こうなるよね」
きちんとおやすみを言うプリンと、疲れたように笑うミント。
「大丈夫ポトフ?」
吹っ飛ばされたポトフにミントが尋ねると
「あっはっはっ!照れ屋さんだなァ♪」
打たれた頬を押さえて立ち上がりながらポトフが言った。
「大丈夫っぽいね」
そうして残された方の部屋に入る三人。
「むぅ…お布団が二つ…」
部屋に置いてある二つのベッドを見て、困ったという顔をするプリン。
「どうしよっか?」
ミントが小首を傾げると
「ミントがここで、俺がそこで、枕が外だな」
ってポトフが言った。
「似たような言葉で誤魔化すな。そしてヤー」
さらりと反論するプリン。
「立ったまま寝れるだろテメェ?」
さらりとポトフが言い返すと
「気のせいだ」
ってプリンが言った。
「何が気のせいだ?」
素早く聞き返すポトフ。
「…仕方ねェなァ…じゃ」
ポトフは小さく溜め息をついた後
「枕がここで、ミントがそこで」
って言って
「俺もそこっV」
ミントに抱きつこうとしたところ
ぽす…
「…へ?」
ミントの方からポトフに寄りかかってきた。
「…くぅ…」
次いで聞こえてくるミントの小さな寝息。
「む。ミント寝てる」
プリンがそう言うと
「…疲れたんだな」
ポトフはフッと微笑み、ミントを静かにベッドに横たえた。
「…?何処へ行く?」
その後に出口に向かって方向転換した彼にプリンが尋ねると
「…そっちのベッドはお前が使えよ」
振り向かずにポトフが答えた。
「! …貴様は?」
なんかかっこいいポトフにプリンが更に尋ねると
「俺は…」
ポトフはそっとドアを開け
「…ココアちゃんのところに行ってくる」
ぱたむ…
そう言い残して部屋から去っていった。
「・・・」
幻滅するプリン。
すると、程なくして
『ダークネスサクリファイス!!』
というココアの怒鳴り声と
ドッカ──────ン!!
何かが吹っ飛ぶ音がした。
「おお 効果は抜群だ」
軽く実況してみるプリンくんでした。