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学校日和  作者: めろん
85/102

第85回 我慢日和

「怒りっぽいのはよくないよねプリン?」


食堂のカウンターの前で、やっと順番が回ってきたミントが隣にいるプリンに話し掛けた。


「うむ。怒りは相手に反感を持たせやすい感情だからな」


それにコクンと頷いて応えるプリン。


「相手に反感を持たれる危険性が高いって分かっているなら、怒らなきゃ良いのにね?」


カウンターの前で何語り出してんのお前?と、カウンターに立っているおじさんに不審に思われているとも知らずに続けるミント。


「…それでも相手に伝えたいことがあるからこそ、僕たちは怒るのだろう」


後ろに人がいないのだから別に構わないだろう?という目でおじさんを見ながらプリンが言った。


「成程。怒りはとても素直な感情なんだね」


目を瞑ってしみじみと頷くミント。


「…でも、それ故怒りはあまりにも脆くて無防備な感情だ」


ミントに貰った枕を抱え直しながらプリンがしみじみと言った。


「だから、弱いオレたちは自分を守るために感情を抑えるコト─…我慢するコトを覚えたんだね?」


ゆっくりと目を開けたミントが言うと


「うむ。きっとそうなのだろうな」


プリンはコクンと頷いた。


「と言うワケで、牛乳下さい」


「お…おう…」


成程。要するにコイツらは怒りっぽくなってきたからカルシウムを摂取しよう!って言ってたのか。とか思いながら、おじさんが注文された品を出そうとすると


「…でもミント、僕牛乳嫌い」


プリンがさらりと言った。


「そっか。じゃあやっぱりコーラ下さい」


すると、ミントがさらりと注文を変え


「僕はプリンを頼む」


プリンもミントと同じようにさらりと注文を変えた。


「お…おう…」


じゃあさっきまでの語りは一体なんだったんだよ?とか思いながら、おじさんは厨房の奥に下がっていった。










「…と、いうワケでオレ、心を広く持つことに決めたんだ〜♪」


「へーえ?ご立派な志だねー?」


板書されたものをノートに写しながらミントとココアが言った。


「うん!やっぱり3LDKぐらい寛大な心を持たなくちゃね!!」


ノートし終わったのか、ペンを置きながらミントが言うと


「何故に心の広さの基準が3LDK?」


ペンを置いてノートを閉じながらココアが言った。


「人が住めるくらい広い心ってコトで!!」


「あー成程ー」


なんか最近妙に冷めているココアちゃん。


「てな感じで、今日からオレは何があっても平常心!で生きてゆきたいと思います!!」


ノートをしまいながらミントが言った。


「頑張ってー…あ、でもやっぱ無理だと思うよー?」


そんなミントにココアが言った。


「? どうして?」


小首を傾げるミント。


「ミント、あの二人相手に平常心でいられるのー?」


そう言って前方を指差すココア。


「アノフタリ?」


ミントがココアの人指し指の先を見ると、熟睡しているプリン隣で、ポトフがこちらを向いて手を振りながら微笑んでいた。


そして


「アラモードとフラントがお前がいないと嫌だと言って利かないので面倒だから今回も道連れだブライト」


前方からやって来たセル先生がミントに言った。


「…ほらねー?」


やれやれと肩をすくめるココア。


「…忘れてた…」


ルームメイトにして貴方の平常心を掻き乱す最強の敵であるプリンくんとポトフくんの存在を忘れていたとは、かなり迂濶ですよミントくん?


「我慢は体に良くないよー?」


ココアが悪戯っぽく笑いながら言うと


「ががが頑張るもん!!」


そう自分に言い聞かせるミントくんでした。










「いつも悪ィなミント?」


暗い廊下で、頭にバケツを乗せたポトフが言うと


「ははは 全然気にしてないよポトフ?」


頭にバケツを乗せたミントが爽やかに笑いながら言った。


「! ホントか?!」


驚いたようにポトフが聞き返すと


「あったり前じゃんさ?」


己の内なる感情を抹殺し、にこやかに笑いながら答えるミント。


「っ!俺…そんな心が広いミントが大好きだ!!」


天使のように微笑んでいるミントに胸を打たれるポトフ。


「ははは オレもだよポトフ」


悪魔のような本音をぶっ潰しながら微笑み続けるミント。


「あっはっはっ!照れるぜェ♪…にしても、あの先生相当枕にキレてんだな?」


朗らかに笑いながらポトフが言うと


「…寝言は寝てから言え。貴様も同罪だ」


頭にバケツを乗せたプリンがさらりと言った。


彼らの頭に乗っているバケツの中身は、ただの水ではなく塩酸なのでした。


「…あれ?なんかホントに眠くなってきたぞ?」


そう言われたポトフは、バケツを揺らさないように欠伸をしながら


「…なァ?俺今ものっそい眠ィんだけど寝たらどォなると思ふ?」


何故か微妙に古語を交えながら尋ねた。


「永遠にさよならだ」


さらりと答えるプリン。


「ははは そしたら夏の大三角形あたりとお友達になれるんじゃないかな?」


あくまでも爽やかに笑い続けるミント。


「マジかァ!?でもそしたら夏の四角形になっちまうぞ?!」


ミントの答えに驚いたようにポトフが言うと


「ははは じゃあここは景気よくプリンも巻き込んで夏の大五角形−あら素敵☆お星様でお星様!?−を描けば良いんじゃねぇの?」


爽やかに微笑み続けているものの、若干心の声が漏れ出すミント。


「ちょっ…なんか素敵だなそれ!?」


夏の夜空に描かれたダイナミックな星を想像しながらポトフが言うと


「…逝くなら一人で逝け。僕は間違っても貴様と心中する気はない」


プリンがスパンと切り捨てた。


ちなみに、彼は遠回しにミントに死ネと言われたことにまったく気が付いていない。


「あァ?そしたら俺が寂しくなっちゃうだろォが?」


ミントを挟んでプリンを睨みつけながらポトフが言うと


「…知ったことか。貴様が寂しかろうがなかろうが僕には微塵も関係ない」


鼻で笑いながらプリンが言い返した。


「んだとォ!?」


「なんだ?」


ミントを挟んで睨み合う二人。


「…ふんっ 俺はミントがいればそれだけで十分だ」


すると、ミントの左腕を掴みながらポトフが言った。


「ははは オレもポトフと心中する気はまったくないけどね?」


思わず…いや、むしろわざと本音を漏らすミント。


「ダメ!ミントは僕の!」


そんなミントの右腕を掴むプリン。


「ふざけんな俺のだっ!」


負けじとミントを引っ張るポトフ。


「聞いてねえし」


もはや平常心なんかどうでもよくなってきたミント。


「俺のだ!!」


「僕のーっ!!」


そんなミントに気付かずに彼を取り合う二人。


結果


グラッ…


ミントの頭に乗っていたバケツがバランスを崩した。


「「!!」」


それに瞬間的に気が付いたプリンとポトフは、液体がミントに降りかかる前に彼のバケツを受け止めた。


…のだが


ドバシャア!!


「「…あ…」」


代わりにプリンとポトフの頭に乗っていたバケツがミントの上に引っくり返ってしまった。


「…」


もちろん、塩酸がかかってしまったミントはただ事では済まされない。


「「めめめメディケーション!!」」


慌てて回復魔法をかけるプリンとポトフ。


「?! なんでテメェも回復魔法使えてんだよ!?」


そこでプリンが普通に回復魔法を使っていることに気が付くポトフ。


「!! いっ今そんなこと言っている場合かっ?!」


うっかり彼の前で彼と同じ回復魔法を使ってしまったプリンは、慌てて顔を背けながら彼に言った。


ぷわわわわ


二重の回復魔法は、重傷したミントをどんどん回復させてゆく。


「…助けてくれてどうもありがとう二人とも?」


完全に回復したミントは、取り敢えず二人にお礼を言った後で


「…知ってた?オレのはただの水なんだよ?」


足元に置いてある先程まで自分の頭に乗っていたバケツを蹴りながら言った。


彼はもう、平常心なんてクソ喰らえ状態だ。


「「え?」」


ミントの言葉を聞いて固まる二人。


道連れにされた憐れなミントの頭に塩酸入りのバケツを乗せるほど、セル先生は酷い人ではなかったのだった。


詰まり


「…ただの水の代わりにわざわざバケツ二杯分も塩酸ぶっかけてくれてどうもありがとう二人とも?」


と、いうことになる。


「「ど…どういた─…」」


冷や汗をダラダラ掻きながら二人が返そうとした瞬間



「ふざけんじゃねえよ」



ミントがキレた。


シュパンシュパン


そして、ミントは左手に薔薇の鞭、右手に食人鞭を出現させた。


「「っ!?二刀流!?」」


「二鞭流だよ」


…にむちりゅう?


結局、ミントはプリンとポトフ相手に平常心を保ち続けることは出来なかったのでした。


『『ジェララララ!!』』


訳)我慢はあんまり体に良くないから程々にネ!!


「「すすすすみませんでしたあああああ!!!!」」


「曼珠沙華」


聞く耳持たず。


"まんじゅしゃげ"という技名を呟いた後、ミントの復讐が始まりました。

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