第84回 友情日和
生物学の授業中
カリカリカリカリカリ…
左手で頬杖をついて、右手で羽ペンを分厚いノートの上に走らせるポトフくん。
…
!?
なな何をしているのですかポトフくん?!
(はァ?レポート書いてるに決まってんだろ?)
なんですと!?
いつも寝てるのに…熱でもあるんですか!?
(あっはっはっ!馬っ鹿お前…学生の本業はお勉強デショウ?)
!!
ま…まさか貴方からそんな尤もらしい言葉が発せられるとは…!!
(あ゛〜だりィ…あと十分か…あの時計、十分遅れてんじゃね?)
…何を仰いますか。むしろ十分進んでますよ?
(何?!ってコトはあと二十分もあるのか!?)
そゆことになりますねー。
(くっ…なんて残酷な真実なんだ…っ!!)
ウフフ♪
真実はいつもひとつ!なのですよ。
(くそゥ…真実め…っ!!たまには分裂しろっ!!)
ダンッと机を叩くポトフくん。
そのおかげで机が揺れ、隣に座っていたココアちゃんに睨まれてしまいました。
「ご…ごめんココアちゃん…」
ココアちゃんに謝ったポトフくんは、再びレポートを書き始めました。
カリカリカリカ…
ポトフがレポート書きを再開して数秒
「ミントの馬鹿!!!!」
後方からプリンの怒鳴り声が聞こえてた。
「「?!」」
驚いて一斉に後ろを振り向くウサギさん寮の皆さんと狐色の髪のリア先生。
すると
ス…
とプリンの隣に座っているミントが手を挙げた。
「な…なんですかブライトさん?」
リア先生が尋ねると
「機嫌が悪いので早退します」
ノートを閉じて、羽ペンをしまいながら立ち上がったミントがさらりと言った。
(どんな理由?!)
とか、ココアが思わず心の中で突っ込むと
「お大事に」
ってリア先生が言った。
「「うをい?!」」
思わず声を出して右手を前に出すウサギさん寮の皆さん。
そんなことは気にも留めずに
「…」
ミントは冷えきった目でプリンを一瞥すると、ツカツカと教室を出ていってしまった。
ザワザワ…
突然の出来事にザワめき出すウサギさん寮の皆さん。
「…」
プリンはうつ向いて左斜め下の床を睨んでいる。
「ど…どうしたのかなあの二人ー?」
心配そうにココアが隣に座っているポトフに言うと
「ミントと枕が…喧嘩?」
うつ向いているプリンを驚いたように見つめながらポトフが呟いた。
すると
キーンコーンカーンコーン
「!」
終業の鐘が鳴った。
…どうやらあの時計は遅れていたようですね。
(分裂してくれてありがとう真実!!)
ポトフは素早く立ち上がると、ココアと共にプリンの元へ駆け寄った。
「一体どうしたのープリンー?!」
到着するや否やプリンに問掛けるココア。
「…」
しかし、プリンはうつ向いたまま答えようとしなかった。
「…?プリンー?」
そんなプリンの態度に、困ったように首を傾げるココア。
すると
「テメェを起こそうとしたミントが誤って倒してしまった羽ペンのインクがテメェの枕にかかったぐらいで何考えてんだテメェ?!」
ドカ───────ン!!
「「何故分かる!?」」
説明口調で素晴らしい洞察力を披露しながら、ポトフはうつ向いているプリンを蹴り飛ばした。
もちろん、皆さんの突っ込みは気にも留めない。
「大体…テメェが授業中に寝てんのが悪ィんだろ?!しかもミントはちゃんとテメェに謝ったじゃねェかっ?!」
エスパーなポトフ。
「…だって…」
プリンはインクで汚れた枕に顔を埋めて起き上がりながら
「これは落ちないんだぞ…っ!?」
浮遊魔法で彼の枕にかかったインクの瓶をポトフの目の前に突き付けるプリン。
そのラベルには
[布に付いたら最後!!]
って書いてあった。
((何故そんな危険なインクをご購入なされた!?))
とか心の中で突っ込んでいる皆さんはほっといて
「なら新しい枕でも買えばいいだろ?!」
ポトフが怒鳴った。
「…馬鹿か貴様は?…これは僕が十年も愛用した代物だぞ…?」
もの持ちが大変よろしいプリン。
「ホンっト馬鹿だなテメェは…」
ポトフはプリンに背を向けると
「泣くぐらいならとっととミントに謝って来い!!」
背中越しでプリンに一喝した。
「!!」
それによって目が覚めたプリンは
「…っ!!」
テレポートせずに、走って教室を出ていった。
「「う…っ」」
この友情劇にお涙頂戴するウサギさん寮の皆さん。
(…喧嘩の理由はもの凄くくっだらないことなのにねー?)
そんななか、一人だけ冷凍室のように冷めた感想を持つココアちゃんでした。
「ミントっ!!」
ミントの魔力を辿り、中庭に走って来たプリン。
「…」
中庭にある一本の大樹に手を当てていたミントは、プリンの声にゆっくりと振り向いた。
「ミント…その…さっきはごめんっ!!」
それと同時にバッと頭を下げてミントに謝るプリン。
すると
「…オレも…ごめん」
と、ミントが言った。
「…?」
ミントの声が震えていることに気が付いたプリンが顔を上げると
「プリン…オレのコト…嫌いになった…?」
肩を震わせながらミントが尋ねた。
「! そっそんなことないっ!!僕が全部悪いっ!」
泣いているミントを見たプリンは、慌ててその言葉を否定してミントに駆け寄った。
「…ううん…ごめんプリン…」
それを聞いて安心したミントは
「枕…これじゃ駄目かな…?」
まだ袋に入っている新品の枕をプリンに差し出した。
「!」
その枕を見て目を見張るプリン。
それは、彼が持っている今の枕とほとんど同じものだった。
仕事が物凄く速いミントと彼の気遣いに感動したプリンは
「ありがとうミント!!」
その枕ごとミントを抱き締めた。
「ううっ…ごめんプリン…もうあんな酷いコトしないからね…?」
プリンの腕の中で泣きながらミントが言った。
「うむ…僕も…!!」
静かに頷くプリン。
これで、仲直り。
ミントとプリンは心から笑顔になった。
「これからも…ずっと友達でいてね…?」
「うむ…!!もちろんだ…!!」
清く晴れ渡った青空の下、大樹に見守られながら、ミントとプリンは、以前よりも更に堅い友情を結んだのでした。
その一部始終を窓から見て
「よかったな…!!」
温かく微笑むポトフと
(…どうでもいい…)
冷えきった感想を持つココアちゃんでした。