第81回 武器日和
「も〜…プリンってば…オレが目ぇ離すとすぐいなくなっちゃうんだから…」
プンプン怒りながらプリンを探すミント。
「"僕の消しゴム落ちた"って言ってそれっきり帰って来ないし…どんだけ転がってんだよ消しゴム?」
そう言いながらミントが階段に差し掛かると
『♪』
上の階から綺麗なメロディが聞こえてきた。
「…?歌?」
綺麗なメロディに誘われて階段を登るミント。
この先は屋上です。
キイ…
ミントが静かに屋上へ出るためのドアを押し開けると
「♪」
屋上の真ん中で、枕を抱えた少年が、綺麗な水色の長い髪を風になびかせながら優しい風が流れてゆくような素敵な声で美しい歌を歌っていた。
(!? プリンが歌ってる?!)
その光景に驚くミント。
注)某風船モンスターの技のように眠くなる効果はありません。
「♪」
(ってか凄い上手いな…)
美しい顔立ちのプリンから発せられる美しい歌に、消しゴムのことなどとうに忘れ去ったミントが聴き惚れていると
「! 誰っ!?」
歌うことを中止したプリンがバッと振り向いた。
「みっ…みゃ〜お…?」
ドアが陰になって、プリンからは見えない位置にいるミントは、誤魔化すためにやたら上手い猫の声を発した。
「なんだミントか」
それを聞いたプリンがさらりと言った。
(…ほ…ほ?あれ?なんか普通にバレてません?)
胸を撫で下ろすと共に思い切り自分の名前を呼ばれたことに気が付くミント。
「ぶう…ミント、盗み聞きよくない」
ぷうっと頬を膨らましながらプリンが言うと
「ご…ごめんプリン…誰が歌ってるんだろうと思って…」
観念したように屋上に現れるミント。
「…恥ぢゅかしい」
ミントに自分の歌声を聞かれてしまったので、プリンはそう言いながら枕で顔を隠した。
「"ぢゅ"?あ、いやいや凄い上手だったよプリン!」
プリンの発言に小首を傾げるも、彼の歌を絶賛するミント。
「…照れる」
枕で顔を隠したままプリンが言った。
「なんか風のコト歌ってたみたいだけど、なんて歌なの?」
そんなプリンにミントが尋ねると
「風の歌」
プリンがさらりと答えた。
「シンプル イズ ベストだね」
さらりと返すミント。
「うむ。風の歌は風魔法に風のように役立つ」
プリンはコクンと頷きながら、風の歌の効果を風のように説明した。
「へぇ〜…?」
ミントは頷きながら
("風のように役立つ"?)
先程のプリンの発言に些細な疑問を浮かべていた。
「おっ!いたいた!ミントォ〜♪」
すると、そこにポトフがやって来た。
きっとミント臭でも辿ってきたのでしょう。
「! ポトフ―…」
ミントが振り向くと同時に
「微風」
ってプリンが言った。
「ぐはァっ?!」
ドカ―――――――――ン
プリンの微風に吹き飛ばされ、そのまま壁に身を強く打ち付けられるポトフ。
「ポトフー?!」
ミントはすぐさま彼に駆け寄ろうとしたのだが
「って…え?プリン、詠唱は?」
それよりも詠唱無しで微風を唱えたプリンに疑問を抱いたようだ。
「ふふふ 風の歌のおかげだ」
微笑みながらミントの問いに答えるプリン。
「よく分からないケドあの歌に不思議効果が?!」
ミントが言うと
「うむ。風の歌は風のように風魔法を風…風邪?」
自分の発言途中で混乱するプリン。
「っテメ…いきなり何しやがる!?」
立ち上がったポトフがプリンに向けて怒鳴ると
「旋風」
ってプリンが言った。
渦巻く風がポトフに襲いかかる。
「あっはっはっ!全然遅ェよ!!」
プリンの旋風をひらりとかわしたポトフはにやりと笑うと
「光の聖剣!!プリズムソード!!」
光り輝く神秘的な美しい剣を出現させた。
「!? 武器魔法!?」
彼と同じように属性がついた武器を出現させたポトフに驚くミント。
そんなミントの隣で、プリンは右手を枕から離し
「…舞風」
静かに技名を言った。
それと同時に、彼の五本の指の周りに風を纏った刃が五つ現れ、彼はポトフに向けてそれらを放った。
「プリンまで?!」
飛んでいく内にどんどん巨大になってゆく、ブーメランのようなプリンの魔法武器を見て衝撃を受けるミント。
「飛び道具なんて無駄だァ!!」
ポトフは前進しながら当たり前のようにそれらをかわすと、プリンに回し蹴りを見舞わした。
「ぴわ?!」
ドカッッッ!!
ポトフの蹴りの勢いで、プリンは壁に強く打ち付けられ、床に崩れ落ちた。
「…俺の勝ちだ」
倒れているプリンの喉元に光の剣の切っ先を突き付けたポトフが言うと
「…飛び道具を笑う者は飛び道具に泣く」
プリンは顔色ひとつも変えずにそう言った。
「はァ?」
ポトフが聞き返した瞬間
ザクザクザクザクサクッ
プリンのカッターが戻ってきた。
「が…っ?!」
背中に四つ、頭にひとつの巨大なカッターが突き刺さったポトフは
カラン…
ドサリ
剣を取り落とし、その場に力なく倒れ込んだ。
「ふふふ 僕の勝ち」
服の汚れを叩いて落としながら、ポトフに突き刺さっているカッターの魔法解くプリン。
「…くっ…そ…メディケーション…!」
ポトフは自分自身に回復魔法をかけると
「…次は負けねェかんな」
立ち上がってプリンに宣言した。
「ふふふ ファイト」
微笑むプリン。
「馬鹿にしてんのかテメェ―…」
分かりやすい怒りマークを出すと共に
「―…ミント?!」
視界の隅に映ったミントに顔を向けるポトフ。
「む?」
プリンもそちらを向くと
「…二人とも…普通に使えるんだね…武器魔法…」
ミントは体操座りをし、左手だけを盛んに動かしていた。
「どどどどどうしたんだよミント!?…ってわォ?!"の"の字が大量発生してる?!」
「みっミント…?」
負のオーラを垂れ流しているミントに慌てて駆け寄るポトフとプリン。
「…そうだよね?授業中爆睡してても学年トップになるくらい凄い二人なんだもんね?ついでにかなりモテるしね?更にオレの宿題を喜んで手伝ってくれるしね?おまけに喜んでオレをセル先生の処罰の巻き添えにするしね?しかも最近あんまり喧嘩しなくなったもんね?オレ本当嬉しいよ?そんな二人がオレなんかに劣るワケないよね?」
二人がやって来たことにも気付かずに、ミントが自嘲気味に呟いた。
「あぅえわわっ…長台詞」
ミントの無駄に長い台詞にたじろぐプリン。
「おっ落ち着けよミント?魔法に大切なのは想像力だぜェ?」
"の"の字を書きまくっているミントの左手を止めながらポトフが言った。
「…想像力?」
ゆっくりと顔を上げ、虚ろな目で聞き返すミント。
「おゥ♪その想像力さえあれば、ミントは俺らよりもっと凄い魔法が使えるハズだぜェ?」
にこっと笑いながら答えるポトフ。
「二人より…凄い魔法?」
虚ろな目に生気を取り戻すミント。
「うむ。ミント魔力いっぱいあるからきっと凄いのが出来る」
コクンと頷きながらプリンが言った。
「ほん…と…?」
ミントは立ち上がりながら二人に最終確認をした。
「おゥ♪」
「うむ。」
微笑みながら頷くポトフとプリン。
「…」
ミントは頷き返すと、静かに目を瞑った。
(えっと…凄い魔法…凄い武器…薔薇の鞭より凄い…凄い……植物?)
すぐにピンときたミントは
「…ありがとう二人とも」
目を開け、二人にお礼を言った。
「! ミント、何か浮かんだ?」
プリンが尋ねると
「うん」
頷くミント。
「一体どんなのが浮かんだんだァ?!」
目を輝かせながらポトフが尋ねた。
「こんなのだよ―…マッドホイップ!!」
ミントはその問いに答えるように武器名を高らかに言った。
シュッ
すると、先端と長い蔓の途中に三つの二枚貝のような葉がついた、薔薇の鞭とは異なる鞭がミントの手元に現れた。
先端の葉は一際大きくなっている。
カパ…カパカパカパっ
二枚貝のような葉は次々と口を開き
『『ジェララララ!!』』
鋭い牙と紫色の舌を見せ、毒でも含んでいそうなねっとりとした涎を垂れ流しながら笑いだした。
「なんか奇声発した?!」
あまりのおぞましさに一歩引くポトフ。
「食虫植物の蝿取り草?」
小首を傾げながら冷静にミントの新しい鞭を観察するプリン。
すると
「違う 食人植物だよ☆」
ウインクしながらミントが言った。
「ふむ。食人植物か」
プリンが納得していると
『『ジェラアアア!!』』
カプ☆
「あ。」
プリンの頭は食人植物(先端部)の口の中に入った。
「枕ァァァァァ!!!?」
「ぴわわわわわ!!!?」
「あはは この鞭には自我があるんだね〜?」
『『ジェララララ!!』』
こうして、ミントはまたひとつ強くなりましたとさ。