第79回 習得日和
学校から少し離れた草原に一人佇むミント。
彼の後ろにある切株の上からは、ひよこさん帽子が見守っています。
「いつまでもひよこさんに頼ってるワケにはいかない…!!」
と、彼は言っていますが、正味な話、彼はもうひよこさん帽子を被っていたくないのです。
「よしっ…やるぞ!」
ゆっくりと深呼吸をした後で、ミントは杖を持ちました。
一陣の風が吹き、彼の綺麗に分かれた赤と緑の髪の毛をなびかせます。
「いでよ帽子!!」
ミントが杖を振りながら叫ぶと
ポンッ
「…へ!?」
ミントの右手に帽子が現れました。
「ってひよこさんん?!」
彼を後ろから見守っていたひよこさん帽子が。
「…何故だ…オレは黒い帽子をイメージしたのに何故ひよこさんが出てきたんだ…?!」
頭を抱えるミントを嘲笑うかのように超然たる態度でミントを見据えるひよこさん帽子。
「…ええい!いでよコーラ!!」
ミントはひよこさん帽子を切株の上にそっと置くと、再び杖を振りながら叫びました。
ポンッ
「!!」
なんと!ミントの手元に一本のコーラが現れました。
「やっ…オレ…出来るようになった…?!」
ミントが目を輝かせていると
ボンッ!!
現れたコーラが爆発した。
「!!!!」
爆発によって砕け散ったビンの破片は、ミントの頬や手や服を傷付けた。
そんなことよりも
「コーラがあぁああ!!」
彼にとっては、彼がこの上なく愛しているコーラを一本無駄にしてしまったことの方が大ダメージだった。
「っ…成功したと思ったら…結局爆発するのかよ…っ!!」
がくっと膝をついて、自分の無力さを嘆くミント。
そんな彼を嘲笑うかのように、ひよこさん帽子は超然たる態度で切株の上に座している。
「…どうして…どうして…っ!!」
ミントは悔しそうに傷付いた手で草原を何度も何度も殴った。
ひよこさん帽子は、それを嘲笑うかのように超然たる態度でミントを見据えている。
「どうして―…」
パシッ
再び草原を殴ろうとしたミントの右腕が空中で止まった。
「―…!?」
ミントが振り向くと、そこには、右手に枕を、左手にミントの右手首を持ったプリンが立っていた。
「…何しに来たのさ?」
無様なところを見られてしまったことと、呼びもしないのに現れたこととが重なって、喧嘩調子でプリンに尋ねるミント。
「…ミント、目を閉じて」
そんなミントの右手から手を離すと、いつもの調子でプリンが言った。
「…は?」
ミントが不機嫌に聞き返すと
「お願い」
柔らかく微笑みながらプリンが言った。
「…」
そんな風にお願いされたので、言われた通りに目を瞑るミント。
「呼び出したい物だけ思い浮かべて」
目を瞑ったミントにプリンが続けて言った。
「…」
言われた通りに黒い帽子を思い浮かべるミント。
「深呼吸して」
「…」
「呼び出せるって思って」
「…」
ミントは、大人しくプリンに言われた通りのことをした。
「…そのまま杖を振って」
そんなミントに優しく微笑みかけながらプリンが言った。
「…」
ミントが杖を振ると
ポンッ
「!!」
ミントの右手に黒い帽子が現れた。
あまりにすんなりと現れた帽子に目を見張るミント。
「ふふふ ミント呼び出し魔法出来るようになった」
限りなく優しく微笑みながらプリンが言った。
「ど…どうして…!?」
信じられないと言うようにミントがプリンの方を見ると
「ミント魔法使うとき、ずっと失敗するって思ってたから失敗してた」
プリンはひよこさん帽子を手に取りながら答えた。
「!」
プリンの答えにハッとするミント。
「でももう大丈夫。きっと他の無属性魔法も使える」
プリンはそう言った後で、ひよこさん帽子に手をかざした。
すると
ボフッ
ひよこさん帽子が小爆発を起こし、金色の腕輪になった。
「! ロストリング!?」
その腕輪を見て、ミントは思わず声をあげた。
それは、ミントが以前付けていた金の腕輪・ロストリングによく似ていた。
「バージョン2(に)」
ミントの言葉に付け足しをするプリン。
「2(ツー)じゃないんだ?!」
透かさず突っ込みを入れるミント。
「うむ。バージョン2(に)は形状をタイプごとに変えることが出来て、バージョン1みたいに腕が吹き飛ぶこともない」
プリンの応答からすると、やはり2(ツー)では駄目なようですね。
「! それでオレが毎日身に付けてる帽子タイプに…!?」
驚いたようにミントが尋ねると
「うむ。これでミントに魔法が成功したときの感覚を覚えてもらおうと思って」
コクンと頷きながらプリンが言った。
「…っ!!」
その言葉に感動したミントは
「ありがとうプリン!!」
ガバッ!!
プリンに抱きついた。
「…照れる」
枕で顔を隠すプリン。
「それとごめんね…オレのために来てくれたのに…」
ミントが申し訳なさそうにプリンに謝ると
「大丈夫」
ふるふると首を横に振りながらプリンが言った。
「…でもなんでひよこさんに?」
ミントが尋ねると
「ふふふ ひよこさんは可愛いだろう?」
にこっと笑いながらプリンが言った。
「…うん!!そだね!!」
いい流れを崩さないために同調しておくミントくん。
「む…でもミントの誕生日プレゼントなくなった」
プリンがそう言うと
「ううんっ さっきのが最高のプレゼントだよ!!」
にこっと笑いながら応えるミント。
「…照れる」
プリンはそこまで言うと
「! ミント怪我してるっ!」
コーラのビンの破裂によって出来たミントの怪我に気が付いた。
「へ?あ。大丈夫だよ」
ミントが言うと
「ダメっ!」
と言ってプリンがバッと後ろを振り向いた。
「?」
小首を傾げるミント。
「…あ。そういえばいないんだった」
後ろを向いて思い出したようにプリンが言った。
「あ…ポトフのコト?」
そんなプリンに尋ねるミント。
「うむ。」
コクンと頷くプリン。
「ポトフは何してるの?」
ミントが何気無く質問すると
「十数人とデートしてる」
プリンはさらりと答えた。
「…十数…?」
前より状況が悪化していることを知って、なんとも言い難い気持ちに襲われるミント。
「む…ミント、あいつには"しー"ね?」
プリンはそう言いながら固まっているミントに手をかざし
「メディケーション」
「え―…」
どこかで聞いたことのある回復魔法を唱えた。
ぷわわわん
プリンの回復魔法によって見事に回復するミント。
「あ…ありがとうプリン」
ミントは取り敢えずプリンにお礼を言ってから
「…え?どういうコト?」
疑問符を大量に出しながら尋ねた。
「…僕も回復魔法使える」
プリンは右斜め下に目を逸らし、ばつが悪そうにぽつりと呟いた。
「えええええ?!それじゃポトフ形無しじゃん!?」
知られざる事実に仰天するミント。
「う…うむ…だから今まで一度も使わなかったんだ」
プリンくんは意外とキャラ設定に気を配っていたのでした。
「ふェくしっ!!」
丁度その頃くしゃみをするポトフ。
「まぁポトフくん風邪?」
「大丈夫ポトフくん?」
心配そうにポトフを見る十数人の女の子。
「あっはっはっ!大丈夫だぜェ♪」
爽やかに笑ってみせるポトフくん。
しかし、彼の今後の活躍については大丈夫ではないかもしれませんね。
「? はェ?」
知らぬが仏です。